似て非なる異邦人達の邂逅

似て非なる異邦人達の邂逅

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で、光が止んでもまだ地面はなかった。

「え」「おや」「うそ」

一瞬の対空の後、落ちた。
ひゅっと胆が縮んだが、教え込まれた通りに身体が受け身を取ったくらいのタイミングで地面に着く。
3人まとめて落っこちて、お互い少しずつダメージを受けた。
特にあんまり鍛えてないクダリがしたたか背中を打ったらしく、情けない悲鳴を上げてのたうつ。

「いいったああ!」
「おい、大丈夫かよ?」
「ええ、わたくしは。クダリ、骨は折れておりませんね?」
「ううう。大丈夫……」

顔をしかめながらクダリが起き上がった所で、
同じく落ちかけたがなんとか羽ばたいて軟着陸したセンセイから降りて、親父が駆け寄ってきた。

「大丈夫か、三人とも?」
「背中痛いけど平気ー」「問題ない」「無事でございます」

口々に返事をすると、親父がほっと微笑んだ。

「よかった。それにしても、ここは……? あん? サブウェイの途中駅のどこかだな」
「え? あ、ほんとだ。ここ多分スーパーマルチのサザナミ近くの駅だよ」

さすがというべきか、少し周りを見まわしただけで、サブウェイマスターは現在位置を把握したらしい。
クダリの隣でノボリも頷いている。

「さっきの光といい、多分ハイリンクしちまったんだろうな。
でも、普通は別世界のハイリンク島に出るはずなのに。なんで急にバトルサブウェイ?」
「サブウェイマスターが三人もいたので、関連の深い場所へ引っ張られたのでございましょうか……」
「どうだかな」

急に地下に潜ったせいでちょっと混乱しているセンセイの肩を撫でて落ち着かせる。
何がどうなったのかはわからねえが、原因がハイリンクだとわかっていればそう焦る事もねえ。

「この世界にもノボリとクダリがいるはずだよな」
「ああ、そうか。二人はこっちの二人に接触しさえすれば帰れるよな。
問題は俺たちか……。どうなんだ、戻れる心当たりはあるか?」
「さあ? まあ最悪ミッションの時間切れを待てばいいんじゃねえのか? 長くないといいな」
「向こうであんまり時間が経たねえといいんだが」

ため息交じりの親父が言った、その後ろで、突然天井から足が生えた。

「!」

驚いて俺がとっさに親父たちの前に出て、センセイが警戒してうなり、他の三人も振り返った所で、
その足の主が天井に開いた配線整備用の穴から飛び降りてきた。

「失礼」

危なげなく着地して、その人が立ち上がってこっちに向き直る。

「お客様? ここは点検中で、今はトレインも走ってないはずですが……どこから入って来たんです?」

長身の、肩までの癖のある黒髪に、イッシュと言うよりはカントー系の、象牙色の肌の男。
表面上はにこやかに、ただし細めた黒い目は警戒を露わに、油断なくこっちの動きを見つめている。
バトルサブウェイのさぎょういんの制服姿だ。
なんか微妙に細部のデザインは違うが、世界を跨いでいることを考えれば、誤差範囲内だろう。
ってことはここの職員だろうが……。
知ってるか、と職員全員の顔を記憶しているはずの親父に視線を向けるが、
親父は男を見たまま首を振り、センセイをボールに戻した。
それから、相手を刺激しないよう微笑んで弁解する。

「すまねえな、仕事の邪魔をするつもりはなかったんだが。
ここに来たのは俺たちにも想定外の事故だ。悪さをするつもりはねえよ」
「うん、大丈夫! 世界が違ってもぼくたちサブウェイマスター!」
「はい! バトルサブウェイに仇なすなどあり得ません!」

兄貴たちが叫んだら、訝しげに寄っていたその人の眉が開いた。

「なんだ、黒ボスと白ボスもいるのか……って、いや、『世界が違っても』?」

わずかな間、その人は考え込んだ。そして俺たちが説明するより早く答えをはじき出す。

「もしかして、ハイリンクの向こうの世界のサブウェイマスターか」
「ブラボー、その通りでございます!」
「よかったー、やっぱりぼくたち、こっちにもいるんだ!」
「ノボリとクダリはいいとして。そちらのお二人は?」
「あ、ぼくたちのお父さんと弟!」

黒い目が丸くなる。

「お父さんと弟? 兄弟なんかいたのか。いや、こっちと同じとは限らないのか?
というか、いや、嘘をつかないで下さい。若すぎるでしょう。それにさっきのドラゴンポケモンは……」
「いろいろあって若返っちゃったけど、ホントだよ。怪しくない。大丈夫」

クダリの必死の説明の効果か、その人はちょっと考え込んだ後、二ヤッと面白そうに微笑んだ。
それからインカムに向かって何やら連絡を入れて、改めて俺たちに向き合う。

「ともあれ、うちのボス達の所へ連れていきます。お父さんと、弟さんも。
詳しい説明はそこでまとめての方がいいでしょう。二度話すのも手間ですし」
「ありがとうございます! 助かります! あの、あなた様のお名前は?」

男は少し苦笑した。

「ノボリに名前を聞かれるのも変な気分だな……。
俺は。施設設備保全管理課の、一応課長です」

施設設備保全管理課? そんなのバトルサブウェイにあったっけか。
サブウェイマスター達にも聞き覚えのない部署だったらしく、ノボリとクダリは顔を見合わせた。
先に立って歩き始めた課長に、親父が興味津々の様子で話しかける。

「施設保全専門の課とは驚いたな。
こっちじゃ内部の設備管理は総務部の環境整備課がやってるが、
建物自体の手入れは年に数度、業者に見てもらってるくらいだからなあ。
専門の課を置くにはちょっとコストがもったいねえ気がしてよ」
「確かに小規模な建物でしたら外部委託にした方が安く上がるかもしれませんが、
これだけ大規模なら、信頼できる少数精鋭を内部に置いてしまった方が問題は少なくなるかもしれませんよ。
実際、俺の課も、課長の俺を含めてたった三人です。一人は経理なんで、実働は二人になりますか」
「……まあな。問題は、少数精鋭にできる人材が見つかるかどうかだ。
ここの駅長は運がいい。少数精鋭にしても任せられるって人材に巡り会えたんだから。
たった二人でこの規模を? 冗談みてえな腕前だな」

微笑む親父を振り返って、課長は楽しそうに微笑んだ。

「できる仕事をしているだけです」

あ、見たことある笑みだ、と思って俺は課長を見つめた。
カナワ車両基地がメイングラウンドの、整備に命をかけている職人気質の整備士たち。
あの人たちと同じ、自分の仕事に心からの誇りと自信を持った人の、堂々たる笑みだ。
親父もそう思ったのか、にっと楽しげに口角を吊り上げた。

「敬語はやめてくれ、
俺たちはサブウェイのお客様でも、お前さんの上司でもねえんだから」
「あっそれさんせー! 今ぼくたち、ただのハイリンカー! ねっノボリ」
「ええ、そうでございますね」

課長はちょっと黙ったあと、くすりと笑った。

「わかった。そうする」
「色々話を聞いていいか? 内部にそういう部署がねえから、建物自体の手入れの現場ってのを、
恥ずかしい話、俺はよく知らねえんだ。いい機会だから聞いてみたい」
「そうなのか?」

駅長なんだから、自分の勤めてる建物のことくらい把握してるのかと思ってた。
意外に思って問い返した俺に、兄貴たちがため息を吐く。

「いくらお父さんがスーパーやり手の経営者だっていっても、できることとできないことがあるよ」
「わたくし達にしても、管理しているのはバトル部門だけでございます。
この上経理や総務のことまで全て把握していろと言われては、身体がいくつあっても足りませんよ」
「……そりゃそうか」

考えてみりゃそりゃそうだよな……。
お父さんはなんでもできると思ってた、なんて、それこそ幼稚園児の父親像だ。
ちょっと恥ずかしくなって半眼になる俺の視線の先で、親父はなんでもなさそうに微笑んでいる。

「一人の人間にできることなんてたかが知れてるぜ。だからこそ、皆で頑張んなきゃいけねえんだ。
俺も帳簿周りと人事関係には結構はあるが、建物の、しかもソフトじゃなくてハードの方となると門外漢もいいとこだ。
だから、詳しい人がいるなら聞いておきたい」

とはいえ、偉い奴が、自分の力不足を自覚して、素直に他人に、
しかも会ったばかりの自分より若い人に教えを乞えるのは、結構すごい事だと思う。
ひっそり親父を見直していると、クダリが笑った。

「お父さん、ぼくお父さんのそういうとこ好きだよ。
弱味を弱味とわかってて、それでもさらしちゃうところ」
「あん? なんか褒められてる気がしねえぞ?」
「うん。褒めるの半分、心配半分。
だってお父さんさあ、そういう隙を見せちゃうから、危ないひとにも目をつけられちゃうんだよ?
そこ自覚してくれるんなら、手放しでほめたげる」
「危ない人?」

親父はきょとんとしたが、俺とノボリはクダリの言わんとしていることにピンときて、同時に半眼になった。

「「インゴとエメットとか」にでございます」

途端に渋面になった親父を、さんが不思議そうに振り返る。

「そっちにもインゴとエメットはいるのか」
「えっこっちにも?! 嘘ヤダちょっと、あの二人じゃないよね?!
ところかまわず女の子でも男の子でもひっかけるようなケーハクな遊び人と、
相手踏みにじってヒドイことして傷つけるのが生きがいの変態ドSじゃないよね?!」
「大丈夫だ、その評価聞いただけで、こっちのインゴ達とは別と分かった」
「よかったー!」
「いえ、それではこちらのインゴとエメットは、一体どういう方なのでございますか?
それ以前に、こちらのサブウェイマスターはノボリとクダリ、と。ではインゴとエメットは?」
「ああ、こっちのノボリクダリの従兄弟だよ」
「従兄弟?! アレが?!」
「わたくしポッポ肌が。想像もしたくないので聞かなかった事にいたします」
「なんでそんなに嫌そうなんだよ。そっちのインゴとエメットは、何やらかしたんだ」

以下、会話は迎えのトレインに乗っても途切れなかった。


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