めぐりあい --- ファントムと異国人
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めぐりあい

ファントムと異国人



噴水のある公園は私とポケモン達のお気に入りの場所。
近くのベンチに座ってから、思い出してバッグからハンカチを取り出す。
グレーと黒のチェックのハンカチは私が泣いた時に貸してもらった物で
次に会った時に返そうと思って洗濯をしてずっと入れておいたんだ。

「これ、ありがとうございました。お返しするのが遅れてすみません。」

「ソノまま持っていても宜しかったのデスヨ?」

「いえいえ、こんな高そうなハンカチもったいないです!
あの時はありがとうございました。泣いちゃうとか醜態見せてすみません。」

「パートナーを思って、涙を流した貴女様は美しかったデス。」

「…はぁ……まぁ、取り敢えずお返しします。ありがとうございました。」

無理矢理その手にハンカチを持たせると、ちょっと目を細めてポケットに入れた
こういう仕草ひとつをとっても凄く絵になる位、この人は綺麗だと思う。

自分の目的が終わったからボールを出せばインゴ様も同じようにボールを出して
ポケモン達を出す。それぞれのポケモン達を改めてじっくりと見たんだけど
やっぱり初めて見るポケモンで思わず見とれてしまった。

「シャン、シャシャーン!」

「うわぁ、貴女とっても綺麗だねぇ!タイプは炎とゴーストかな?」

「ユノーヴァ…イッシュのですが図鑑を見ますカ?」

ポケモン図鑑を受け取って形も機能も全然違うからびっくりした。
やっぱりこれは私がいなくなってから新作がでたんだろう。
ここと同じ時間が向こうで流れているのだとしたらそれも当然だろうな。
操作方法を教わって、綺麗なこの子の場所を見れば…シャンデラ?
確かにシャンデリアみたいだもんね。やっぱり炎とゴーストなんだ。

「魂が吸い取られ燃やされる…抜け殻の体だけが残る……か。
でもそうなっても構わないって位、貴女の炎は綺麗だよね。」

そういってシャンデラを撫でると掌に炎とは違う暖かさが伝わってくる。
もしこの子が私の命を吸い取って燃やしてもこんな綺麗な炎になるのかな?

「……慣れない方があまり近づくと危険でゴザイマス。
Chandelure、(シャンデラ)貴女も気を付けなサイ。わかってますネ?」

「シャン……」

撫で続けてた手を掴まれて我に返った。
もしかして、魂を吸われてた?ちょっと身体が重だるい感じがする。

「インゴ様、シャンデラを怒らないで下さい。
私もゴーストタイプが好きで育ててるからこういう事には慣れてます。
シャンデラ、貴女も悪気があったわけじゃないものね?」

「シャン…!シャーン!!」

「あはは、可愛いねぇ!美人さんに甘えられるなんて嬉しいよ。」

シャンデラが済まなそうに近づいて来たから、もう一度優しく撫でてあげれば
凄く嬉しそうに私に擦り寄って甘える仕草を見せてくれた。
それを見て、インゴ様がちょっと驚く。

「……Chandelure (シャンデラ)がワタクシ以外に懐くのは珍しいデス。
そう言えば、貴女様の使用ポケモンは全てゴーストタイプでしたネ。」

「その時によって私は手持ちを変えてますけど、ファントムの時は
やはりイメージも大事ですからゴーストタイプが多いんです。」

「Phantomは役職名デショウ?ワタクシは貴女様を何と呼べば良いデス?
大変遅くなってしまいマシタガ、お名前を教えてくだサイ。」

「ファントムで良いです。私はあの場所ではそういう立場なんですから。」

「…今は違いマス。
どうか、お名前を教えていただけないでしょうか…Please……」

私にとっては別にどっちでも良いのに。
まぁ普通に考えれば名前を聞くってのは当たり前、拘ってるのは私か…

「……です。この名前で私はバトルフロンティアの清掃員をしてます。」

……」

「…!!」

誰からも呼ばれる事のなかった『』をどうして貴方が呼ぶの?

やめて、誰からも言ってもらえない名前を捨ててずっと生きてきたのに
やめて、その言葉の響きがこの世界の私を飲み込んでしまう。
やめて、やめて、やめて……もっと呼んで欲しくなってしまう…!!

?ワタクシは何か貴女様の気に障る事をいたしましたカ?」

「え?」

何を言われてるのかわからなくて首をかしげたら、頬に手を添えられた。
指先が滑り目元で止まる。あぁ、私は泣いていたんだ。
慌てて拭おうとした手を握られて、ハンカチを持たされる。
これってさっき返したばかりなのに…

「何故泣いているノカ理由を教えていただいテモ?」

「……イントネーションが違うんです。ですよ?」

「ソレが泣く程の理由なのでゴザイマスカ?」

若くても企業のお偉いさんだけあるな、それじゃ誤魔化されてくれないか…
借りたハンカチで涙を拭ってから、ゆっくりと首を横に振って

「私をと呼んでいたのは肉親だけなんです。
皆事故で亡くなってしまって…もう誰もそう呼ぶ人はいなくって…」

「失礼、辛い事を思い出させてしまいましたネ…」

そう言って初めて会った時と同じ様に頭を撫でられた。
その手がとても暖かくて、優しくて、また涙が溢れてきた。

「インゴ様は何も悪くありません!いつまでたってもこんな事位で泣いてしまう
現実を受け入れられない私が駄目なんで、気にしないでください。」

「インゴ…ソノ様に呼んで結構でございマス。」

「それは駄目です。お客様にその様な不遜な態度をとれません。
後、やっぱりその呼ばれ方は辛いのでファントムと呼んでください。」

お客様相手に凄く失礼なのはわかってる。でも駄目なものは駄目。
名前と一緒にこんな気持ちはもう一度しっかりと封印しなきゃいけない。
そうじゃなきゃ、忘れなければこの世界で一人ってのは辛すぎる。

私の申し出にインゴ様はちょっと眉根を寄せてから大きく溜息をついた。

「では、ワタクシが貴女様の名を他の方同様に呼ぶ事が出来たナラ
その時はインゴと呼んでいただけるでしょうカ?
…ハッキリ言いマス。ワタクシは個人的に貴女様をもっと知りたいのデス。」

「は?」

個人的にって、後何日かで帰るのに意味があるのかな?
あ、もしかして異国の友達が欲しかったとか?
それだったら、私よりもっと他に適役がいると思うんだけどなぁ…
冗談言ってるのかとも思ったんだけど、そんな事言う様な人じゃなさそうだし
これは茶化しちゃいけないな、ちゃんと答えた方が良いよね…。

「その時には様じゃなく、さん付けでも良いですか?
敬称なしで人の名前を呼んだ事がないので、それで許してください。」

「……譲歩いたしマス。」

「そうしてもらえると助かります。ところで、折角シンオウに来たんです
どこか行きたい場所や見たいものってありますか?」

「……」

私の提案にインゴ様は腕を組んで考え込まれてしまった。
クロツグさんからも言われてるから、こうなったら徹底的に付き合うよ

「デハ、シンオウ地方の…貴女様の持っているポケモン達を見たいデス。
ゲットする事はできませんガ、野生のポケモン達も見たいデスネ。」

「それじゃあポケトレを使って探せば良いかなぁ…」

「ポケトレ?」

「草むらに隠れているポケモンを探し出せる道具なんです。
これでしか探せないポケモンもいるし、色違いとの遭遇も多くなります。」

どうやらポケトレを知らなかったらしい。
現物を出して説明すれば、それは素晴らしいと興味を持ったみたいだ。
その顔が子供みたいでなんだかおかしくなる。

「見れるかどうかはわからないですけど、クレセリアとか珍しいポケモンや
神様と呼ばれるポケモン達のいると言われてる場所なんかも行ってみます?」

「Bravo!是非お願いいたしマス。」

ほら、食いついた。インゴ様の目が綺麗な弧を描いて細まる。
この人は気難しくなんかない。本当にポケモン達が好きなんだ。
そんなんだったら普通の接待を受けたってつまらなくて当たり前だわ。

「これからよろしくお願いいたしマス。」

そう言って右手を目の前に差し出された。
握手なんてこっちに来てから初めて求められたんじゃないだろうか。
でもなんだろう、凄く照れくさいだけじゃなくくすぐったい様な気持ちかも

「こちらこそ、インゴ様にご満足いただける様に頑張ります。」

握った手はやっぱり男の人だから大きくて、そしてとても暖かかった。


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