めぐりあい --- ファントムと異国人
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めぐりあい

ファントムと異国人



チャレンジャーが部屋に入った途端一瞬フロアの照明が落ちる。
その間にテレポートを使って私がフィールドに立つ。
幽霊がいきなり目の前に現れた様なそれはファントムとしての演出だ。

『シンオウへようこそ異国の方。
このひと時、恐怖に飲まれるのか乗り越えるのか、それはお客様次第…
終焉までのこの時を共に楽しみましょう。』

「…ワタクシ、サブウェイボスのインゴと申しマス。
どんな相手ニモ自分を貫けるカ…勝利もしくは敗北どちらに向かうのか
アナタ様の実力で決めたいと考えておりマス。」

審判の声にそれぞれフィールドにポケモンをスタンバイさせる。
相手のポケモンは初めて見たけどまるでシャンデリアの様で綺麗。
タイプは炎なのかな?でも他のもありそうだ。

「シャンデラ、おにび!」

「ミカルゲ、あくのはどう」

…どうやら相手のポケモンはゴーストタイプの特性もあるみたいだ。
ミカルゲは悪タイプでもあるから相性的には問題なくやれる。
それにしても攻撃力が凄く高い、特攻振り切ってるのかもしれないな。

「…シャンデラ戻りなサイ、ドリュウズ出発進行!」

「ふふっ、ミカルゲおいうちでお見送りしておやりなさい。」

HPの残り少くてタイプ一致で弱点の技に相手が耐えられるわけがない。
取り敢えずこれで1体、残り2体のうち今出て来たポケモンは…じめんタイプ?
それなら今度は…

「ミカルゲ、催眠術…さあ、悪夢を見せてあげなさい。」

相手の放ったじしんに深手を負ってしまったけど、眠らせている間に
ゆめくいを使ったおかげでかなり回復ができた。
それでも次に同じ技を食らってしまえば倒されてしまう。
案の定、目覚めたポケモンはじしんを使いミカルゲは倒れてしまった。
ミカルゲの戻ったボールにお疲れ様のキスをして、次のポケモンを用意する。

「ゲンガー、かわらわり」

「ドリュウズ、いわなだれでございマス!」

このバトルも紙一重だったけどゲンガーの勝利で終わった。
次に出すポケモンはさっき見た。ゲンガーは攻撃に耐えられないだろう。

「オノノクス、出発進行!」

「ゲンガー少しの休憩です。ユキメノコ、行きなさい。」

ユキメノコのふぶきがはずれてしまってその間に相手がりゅうのまいを使う。
このポケモン、凄く攻撃力が高そうだ。防御、特防があまり高くないユキメノコは
最悪一撃で沈むかもしれない。

「オノノクス、ドラゴンクローでございマス!」

「ユキメノコ、冷凍ビーム」

ユキメノコは急所にこそ当たらなかったけどあと1撃食らえば倒れてしまう…。
相手のポケモンは効果が抜群なはずなのにまだ余力がある。
素早さの上がった相手のポケモンを出し抜けるほどこっちは早くない。
そしてゲンガーを出しても返り討ちになってしまうだろう。

強い…クロツグさんも強いけど、この人はそれ以上の強さだ。
このままだと負けてしまう。ファントムとしてそれだけは避けたいけど
私の実力じゃこの人に勝つ可能性なんて無い、絶対に無理だ。

負けを確信した時、不意にボールホルダーに収めたゲンガーのボールが揺れた。
まるで自分を出せと言ってるように何度も揺れるボールを持って中を見れば
胸のあたりをドンと叩いて笑っていた。

「ユキメノコ、下がりなさい。ゲンガー…ごめんね、お願いっ!」

ゲンガーは私が次に出す指示をわかってる。
使いたくない、私が消そうとしてもゲンガー自身が望んで残した技の名前は…

「ゲンガー、あなたの気持ち絶対無駄にしないから!…だいばくはつ!!」

「なっ…!」

素早さで相手より優っているゲンガーの捨て身の先制が決まる。
凄まじい光と爆風がフィールドを包んで誰も目を開けていられなかった。
爆風に飛ばされない様に屈んでいた私が目を開けるとそこには
戦闘不能の相手のポケモンと同じく戦闘不能で傷だらけのゲンガーが倒れてる。

「オノノクス戦闘不能!このバトル、ファントムの勝利!!」

「ゲンガー!!」

傷だらけで倒れているゲンガーの所に駆け寄る。
その身体にそっと触れれば、ゆっくりと目を開けたゲンガーは私を見た。

「こんな技使わせてゴメンネ!すぐジョーイさんに治療してもらうから!」

ゲンガーは弱々しく笑ってくれたけど、その後すぐにガックリと気を失った。
ボールに戻してから抱きしめていると後ろから肩を叩かれる。
ビックリして振り返ると、サファイアみたいな瞳が弧を描いて私を見ていた。

「アナタ様との闘い、Super Bravo!でございマシタ!失礼デスガ…」

「ごめんなさい、急ぐから!」

何かを言いかったんだろうけど、そんな事に構ってなんていられない。
その人を押しのけて駆け出し、フィールドを出た。
職員通路を走って、途中足に絡まって走りにくいマントを脱ぎ捨てて
そのままポケモンセンターへ直行すれば、ゲンガーはすぐ奥に連れて行かれた。








どの位の時間が経ったんだろ、連れて行かれたゲンガーの様子を聞きたくても
ジョーイさんも他の人達も忙しそうで声を掛けられる雰囲気じゃない。
視線を床に落とし足元を見て、自分の姿がファントムのままなのを思い出した
バトルが終わった後私は…思い出しただけで血の気が下がる気がした。
素の状態でしゃべっちゃった!それだけじゃない一応お客様のあの人が
何か言おうとしてるのをガン無視してきちゃった!
それに何も言わずにポケモンセンターに来ちゃったし…あぁ、どうしよう……

取り敢えず今の状況を説明するためバトルフロンティアに連絡をいれた。
クロツグさんに取り次いでもらって状況を説明したら
ゲンガーが戻ってくるまで付き添っていても良いと言われて助かった。
ありがとうございますと言って通話を切った時、ふわりと何かが肩に触れた。

「見つけマシタ。ゲンガーは大丈夫でございマスカ?」

「貴方は…」

触れたものを見れば脱ぎ捨ててきたマントで、目の前の人はさっきバトルをした

「ワタクシ、インゴと申しマス。アナタ様に会う為、ユノーヴァから来まシタ。」

そう言って、無駄のない動きで一礼すると私を黙って見つめてきた。
あぁ、ファントムが私だってバレてる。いや、バレない方がおかしいか…

インゴさん…は近くの椅子に座ると私をみて隣を指差した。
そのまま素直に隣に座ると凄く背が高いんだなってのがわかった。

「バトルが終わった後、あんな状況とはいえ失礼しました。」

正体がバレたのも拙いけど、お客様を放ったらかしにした方が大問題で
謝ったって許される事じゃないけど、私には謝る事しかできない。

「パートナーが負傷したのナラ、当然でございマス。
デスガ一言、それ程嫌だったのナラ何故忘れさせなかったのデスカ?」

片言だけど、会話もバッチリでヒアリングも出来る人で良かった。
それじゃなきゃ、こうやって話す事なんてできないもんね。

「忘れさせるつもりだったんです。でもそうしようとしたら嫌がったんです。
ポケモンを傷つけてまで勝利に執着もしてなかったけど、結局私は…」

「ゲンガーがアナタ様と勝利したい為に望んだ事でございマス。
悔やむ事はゲンガーのソノ意思を無駄にする事と同じデス。
バトル職員ナラ、勝利し続ける事が当然デス。もっと自覚しなサイ。」

「私はバトル職員じゃないです!…って言葉はお客様とバトルをしてるから
言っちゃいけないですよね。そうですね、自覚…覚悟が足りなかったです。」

お客様を相手にした時点で個人的な感傷は捨てなきゃならないはずだったんだ
私は請われるままに惰性でバトルをし続けていたのかもしれない。
トレーナーとしての覚悟…そんなもの私には無かった。
ただ大好きなポケモン達とバトルをして、勝つ事が嬉しくて…調子に乗ってた。

自分のいい加減さ、不甲斐なさに情けなくて俯いた顔を上げる事が出来ない。
頭の上で大きな溜息が聞こえたから呆れられた、幻滅されたんだろうな。
そのまま重苦しい沈黙が流れる。居た堪れなさで一杯なのにどうしてこの人は
帰ろうとしないんだろう?甘ちゃんな私に聞く事なんて無いと思うのに…。

そんな事を考えていたら、ゲンガーを預けたジョーイさんがボールをもって
周囲をキョロキョロしている。私の姿をみつけると手招きをした。
飛び上がる様に立ち上がって、ジョーイさんに近づくとニッコリ笑った後で

「お待たせしました、あなたのポケモンは元気に回復しましたよ!」

そう言って差し出されたボールを震える手で受け取ってからボタンを押せば
いつものニヤニヤした笑いを浮かべながらゲンガーが出てきて抱きついてきた。

「ゲンガー!もう大丈夫?平気?何ともない?あぁ、ゴメンネ!
あんな技使わせちゃって、でもおかげでバトルは勝ったよ。ありがとうね!」

「ゲン、ゲーン!」

ギュって抱きしめ返したらなんだか泣けてきた。
ゲンガーが呆れた顔をしながら私に擦り寄って背中をポンポンと叩く
それがまるで、気にするなよ?良かったな!って、言ってる様で余計に泣けた。

「…ゲンガーは幸せデスネ。」

「え?」

後ろに立っていたその人…拙い、また置いてきぼりしちゃった…は目を細めて
ゲンガーと私達を見てゆっくりと、何度も頷いていた。

「トレーナーの中にはポケモンを道具とシテ扱う連中も存在しマス。
ソレに比べ、アナタ様は甘すぎる程彼等を大切にしているデショウ?
そんなアナタ様だからゲンガーも頑張っているのデショウ。素敵な関係デス。」

「ゲンガーは…ううん、ポケモンは道具じゃありません!
私にとってポケモンは道具なんかじゃなくて、とても大切な存在なんです。」

自分の境遇を考えた時、私は人との関わりを極端に避けた。
そんな中でポケモン達は唯一の話し相手で、私の全てを知っている相手。
友達で仲間で…この世界では家族として一緒に過ごしてる大切な存在なんだ。

目尻に残る涙をゲンガーが舌で舐めとってくれた。
一瞬背筋が寒くなるけど、ありがとうと言ってから目元を袖口で擦ろうとしたら

「赤くなってしまうノデやめなサイ。」

グレーと黒の落ち着いたチェック模様のハンカチを私に手渡してくれる。

「…ありがとうございます。」

泣き顔を晒すとか凄く恥ずかしくて、これ以上酷い顔を見られたくなくて
有り難く借りて、顔をそれで覆った。

「お気になさる必要はございマセン。
Hmm…ワタクシがアナタ様に会いに来たノハ間違いではございませんでシタ。」

「は?」

まぁ、ファントムを見たくて来たって目的は果たしたからなんだろうけど
こんなド醜態晒した状態に何か得るものがあったんだろうか?

それがどういう意味か知りたくて、この異国のお客様を見ていたんだけど
彼はチラッと私を見て、何も言わずにゲンガーの頭を撫でるだけだった。


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