めぐりあい --- ファントムと異国人
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めぐりあい

ファントムと異国人



もうひとりの私としてファントムを演じて1年が過ぎた頃
私はクロツグさんに呼ばれてフロンティアブレーンの部屋に入った。

「視察?」

「そうだよ、ファントムの存在は非公式だけどかなり広まってる。
それを聞いて同じ問題を抱えているバトル施設からオファーが届いてね…」

フロンティアブレーンの部屋の更に奥にあるクロツグさんの個室に通されて
滅多に出ないお茶とお茶菓子に嫌な予感がした。

「クロツグさん、まさか受けたんじゃないでしょうね?」

「いや…実は…」

「…受けちゃったんですか?」

私の存在は非公式だからって好き勝手させてもらったのだけど
まさかこんな形で広まってるなんて思わなかった。
バトル施設って事は他のソフトのストーリーに介入するんじゃないだろうか?

「ユノーヴァ地方にあるバトルサブウェイという、地下鉄に乗ってバトルをする
そう言う施設があるらしいんだがね、そこではシングル、ダブル、マルチの
3タイプをノーマルとスーパーで行えるらしい。」

ユノーヴァという地名もバトルサブウェイという施設も私は知らない。
これは新しいソフトが向こうの世界で発売されたんだろうか?

「6タイプのバトルの頂点を2名で行ってる…信じられない環境なんだよ。
当然待ち時間が原因で集客率が落ちているらしくてね。
そこのTOPがファントムの話を聞いて、自分達の所でも取り入れたいそうだ。」

地下鉄の中でってのもビックリだけど6タイプのバトルを二人で?!
そんなの待ち時間が長くて当たり前でしょう!

「それで?」

「ん?…あ、あぁ!同じバトル施設としては見過ごせないっしょ?」

自業自得なその環境を改善する方がよっぽど建設的だって言えば良いのに
この人は周囲の人からすごい目で見られてるけど、中身は子供だ。
子供にダディと呼ばれるような生温い大人なのを忘れてた私も悪いか…

「なんだかなぁ…」

、人の口癖を真似しちゃ駄目っしょ?」

「クロツグさんのはんかくささ(間抜けさ)に言う言葉はこれしかないっしょや。
一体何の為うちらの職場以外の職員にすら秘密にしてると思ってんのさ!
余計な噂を撒き散らさない様にでしょ?一年頑張って守ってきた事を
トップからして破っちゃおうってのかい?ホント、馬鹿でないの!」

「したっけ(それでも)、…」

「したっけもなんも無いっしょ!受けてしまったのは仕方がないけど
私はそのお偉いさんの前に出るつもりはありませんからね!」

何故だか知らないけど、こっちも向こうも方言は同じ。
普段はなるべく標準語で通している私も、相手に方言使われると釣られてしまう
その言葉にすら前は泣きたくなっていたけど、今はもう何も感じない。

「したら(そうしたら)こっちの面目無いしょや!
清掃員の方はその間休みで良いから、その間も給料ちゃんと払うし、な?
1週間後にはそのお偉いさんが来るからさー、助けてくんないかい?」

「清掃員だって人手が足りないんだから、仕事には来ますからね。
くだらない時間に払う給料があるなら、職員さんの給料上げろってんです!」

クロツグさんの個室のドアを思い切り閉めたから、外の部屋にいた他の人達が
驚いた様に私を見てるけど、その目には同情の光が宿っていた。
クロツグさんのこういうお人好しの被害は皆さんも味わってますもんね。

「はぁ…」

職員階段の手すりを吹きながら私は何度目かの溜息をついた。
どうしよう、1週間後ってそんな急に言われても困る。
私は絶対表舞台に立っちゃいけないのに…この状況じゃそれも出来なくなる。

バトルフロンティアは私がファントムになって、待ち時間の短縮だけじゃなく
どうしても勝てない存在を倒そうと、トレーナーさん達のバトル魂に
見事に火をつけたみたいで業績アップに繋がってる。
同じバトル施設に勤めてる私個人としてなら、困ってる状況なんだから
なんとか助けてあげたいなって気持ちもないわけじゃない。

先のソフトの話なら、私の名前さえ出なかったら良いのかな?
ファントムって存在だけなら大丈夫かな?
それ以外のシステムの説明とかそういうのはクロツグさんがするだろうし
こんな感じでバトルしてますって見せるだけなら大丈夫かな?

「はぁ…なんだかなぁ……」

どうせクロツグさんは視察を受け入れちゃってるし
一介の清掃員がどうこう言ったってそれを取り消すだけの権限なんてないんだし
こうなったら相手との接触を避けるしか選択肢がないんだろうなぁ…。









1週間後、ユノーヴァって所のバトル施設から来たお偉いさんが若くて驚いた。
金髪碧眼って事は外人さん?舞台は外国って事なのかな?
クロツグさんが説明してるのを廊下をモップがけしながら私は見ていた。

それにしてもイケメンってこういう人を言うんだと思う。
仕草や視線にすら色気が溢れてて、女子職員の皆さんの目の色が変わってる。
熱い視線を浴びてるにも関わらず平然としてるってのは慣れてるから?
まぁ、私には関係ないから別に良いや。
モップ片手に私は職員玄関前の掃除をするのにその場を離れた。

次の日、ゴミの回収にフロンティアブレーンの部屋に入るとその人はいた。
書類を手に、ブレーンの人となんだか話をしている横を一礼しながら通り過ぎ
そのまま奥のクロツグさんの部屋に入る。

「失礼します、ゴミの回収に来ましたー。」

「あぁ、ちょっと…」

ゴミ箱の中身を回収して、そのまま部屋を出ようとした所を呼び止められ
振り返る私にクロツグさんは近づいて耳元で

「視察の彼、インゴ君って言うんだけど、ファントムのバトルを見たいって…」

「全力で断って下さいね?私はブレーンの皆さんがお忙しい時だけって
このお話を受けた時にくどい程言いましたよね?」

「それじゃ視察に来た意味が無いっしょ?手ぶらで返すのも悪いしね。」

「そんなのはそっちの都合ってヤツでしょ?私は知りません。」

「なんだかなー…要は俺が忙しくて君の出番があれば良いのかい?」

差し出されたミント(シンオウ産)キャンディをもらってポケットにいれて
私はクロツグさんの顔を見た。
駄目だ、伊達にタワータイクーンなんて言われてブレーンをまとめてない。
その顔はいつも通りニコニコしているだけで、本意が読み取れない。

「ファントムはお客様を待たせないために存在してるんです。
一応無敗って事で通ってますからね、その辺は好きにさせてもらいます。」

「うんうん、そうだったね。
彼、インゴ君は凄く強いよ。勉強不足だった俺も悪いけど、負けたし。」

「え?」

もガチメンバーなら俺に負けないっしょ?
だからね、トレーナーとして二人のバトルを見てみたいって思ったんだ。
でも無理やりバトルしても意味がないからなぁ…残念だよ。」

クロツグさんが負けたなんて信じられない。
私はフロンティアルールなんて関係ないから勝ってるけど
同じルールでバトルをすれば多分クロツグさんには勝てないと思う。
その位の実力の人が負けるなんて、あの人はどんなバトルをするんだろう。

話は終わったとばかりに、書類を見始めたクロツグさんに一礼してから
私は部屋を出た。話題に登ったその人はまだブレーンの人と話をしている。
その手に折りたたまれた紙があったので、声をかけた。

「お客様、手にされてるのがゴミでしたらお預かりしますが?」

「…お願いしマス。」

顔だけじゃなく良い声してるなー、高すぎず低すぎず、ちょっとハスキーな声は
もっと聞きたくなる位耳に心地良かった。
でも一介の清掃員が長居出来る場所じゃないから、頭を下げて受け取ってから
全員に一礼をして、失礼しますと言ってから部屋をでた。

休憩時間が来て、清掃員のおばさま達とのんびりお茶をしていたら
インカムにファントム要請の通話が入った。
事情を知ってる皆さんに一応ごめんなさいといってバトルタワーに向かう。

一通りの少ない資料置き場の更に奥にある個室に鍵をかけて着替え始める。
身体の線がわからない大きめのチュニックに細身の黒のパンツ。
膝下までのサバイバルブーツを履いて黒のグローブをつけてから
膝まで隠れるフード付きのマントを羽織ってファントムは出来上がる。
胸元にはピンマイクが付いていて、中性的な音声に変換出来るようにしてある

性別不明、正体不明それがファントム。
バトルが終わった後もお客様とは一切口をきかない。そのまま闇に消えるだけ。
今日のトレーナーさんはどんなタイプのポケモンを使うんだろう…

「嘘でしょう?」

モニターには視察に来ている人物が見た事がないポケモンを使ってバトル中。
ルール度外視のこのやり方にインカムの通話をオンにして文句を言えば
トレーナーさんたちが他地方のポケモンを見たいからってお願いしたとか…
そしてクロツグさんは所用があって不在って…やられた!

「こちらファントム、どんなタイプのポケモンかわからないので
所持ポケモンはゲンガーとユキメノコとミカルゲで行きますから。」

ここまで来たらもうやるしかない。さっさと終わらせてやる。
クロツグさんに強いと言わしめたその実力を見せてもらおうじゃないの。


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