三章・旅は道連れ先駆け編 -黒の上司の胸の内-

三章・旅は道連れ先駆け編

黒の上司の胸の内



朝礼後、が私に自分との外出届を出してまいりました。

理由の欄にはフキヨセジム挑戦の為、の欄にはその付添…

彼等の仕事は計画書をもらっている分だけでもかなりなもので

それをおしてでも行かなければいけないという事なのでしょうか。



「コレって、勤務中に抜け出して行かなきゃいけない事ナノ?」


「エメット、彼等には彼等の予定があるのです。

イッシュのバトルサブウェイでは別に珍しい事でもございませんし?

わかりました、頑張ってくださいまし。それからにも…」



今迄の私なら、ライブキャスターで…いいえ、食事の差し入れを口実に

直接彼女の部屋に行き頑張ってと言えたでしょう。

あの時ずっとそばにいますと言っておきながらこの状態とは

ですが、正直どの様に接して良いのかわからないのです。



「黒ボスは…いえ、なんでもないです。えぇ、伝えますね。

エメットボスも言いたい事はあると思いますが、こっちも色々あるんで

遅れた分を取り返すって意味でも、こうしなきゃならないんです。」



お願いしますと言って執務室を出たを見送った後、エメットがきて

コーヒーを私に渡しながら、その書類を処理済のボックスへ入れます。



「前カラ思ってたんだケド、のmissionの基準はアレだったヨネ?」


「あれ…とは?」


「遅れを取り戻すッテが言ったデショ?ソレってscheduleが決まっテル

それを決めているのは誰かって事!前二、過去を話してくれた時を想い出シテ。

アノ時はコノ世界がGameデ主人公とシテPlayシタ…ソウ言ってたヨネ?」


「あ…」



そうでした、は自分の知ってる未来と同じ様にする為に

こちらで主人公の立場である者達を影になり日向になりフォローしていたと



「つまり、の今迄の行動はその主人公の動きに合わせていた。」


「Precisely…その通りダヨ!その主人公の動きがわかレバ、ボク達も動ケル

ノボリはソノ主人公が誰か知っテル?」



エメットに言われて思い浮かんだのはギアステの入口で私達とバトルをして

ライモンシティでプラズマ団と対峙していた、あの子供達でした。

すっかりその存在を失念していたとは、自分で自分を殴りたい!



「だからは彼等と常に接触していたのですね…」


「ヤッパリ心当たりあるンダ。話が早くなるから良いネ!

ソッチの動きを把握できレバ、ボク達が後手後手にならなくて済むヨネ。」


「えぇ、ですがあの子達は旅をしながらジム巡りをしております。

詳しい足取りなど私達が把握する事は不可能でございましょう。」



ふと思い出したのはトウヤ様とトウコ様で、あの子達も彼等のいう

主人公という立ち位置でストーリーを進めた事になるのでしょう。

その中で手助けしたいと私達も動いておりました。

きっとも同じ。子供達が色々な事に巻き込まれるのは決められた事だと

それが元々のストーリーだと口では言いながら傍観する事ができなくて

あの子達の負担を少しでも減らそうと動いていたのですね

恐らくミッションを終えたもなのでしょう。

短い付き合いとはいえ、彼等の性格を考えれば恐らくが一番

色々な事に巻き込まれ、時には介入し、そして色々失ったのでしょう

もしも私がの立場なら同じ事が出来たでしょうか……無理ですね



「貧乏くじ体質というより、自分から突っ込むなんてМ体質でしたか…」



髪が乱れるのも気にせず、頭を抱えてデスクに突っ伏す私を見ながら

困った様に肩をすくめて私の背をポンポンとエメットが叩きました。



「アハハ!ソレじゃあボクとかインゴはSっ気あるから相性は良いネ!

ソウじゃなくッテ、の存在忘れてナイ?」


「あぁ!ですが公私混同になってしまうのでは?」


「忘れタノ?自身から全面協力シテくれるッテ言ったんダヨ。

ココで無駄に考えるヨリ、本人に聞くノガ手っ取り早いと思うケド?」


「そうでございますね、仕事が終わったらに連絡してみます。」


「AHー、ソレはボクに任せてヨ。」


「わかりました、色々とこれからも大変ですが頑張りましょう。」



取り敢えずこの話はこれで終わってよろしいでしょう。

トレインからの要請もきておりませんので、未採択の書類を手に取って

業務を再開する事にいたしました。

いつもならエメットもすぐにデスクに戻り、業務をするのですが今日は違い

私のデスクの端に腰掛けて黙ってこちらを見ております。



「エメット?」


「ノボリの気持ちは変わってないんだネ、OK.ソレならボク達も動けル。」



何を言っているのかわからず首をかしげて聞き返しても

自分がそれを言う事はできないと笑いなら言うだけでございます。

気にはなりましたが、結局その件はそのままにして業務に戻りました。


本日の業務はトレインの要請はそれなりでございますが

やはり他国のサブウェイボスがこちらに来ている為でございましょうか

ダブルとマルチの集客率が上がっているとは皮肉な事でございます。

就業時間最後のトレインでの業務を終えて、執務室に戻ってみれば

デスクにはエメットのメモが



[ボクの仕事は終わったからアッチに行ってるヨ!]



エメットの負担も大きいはずでございますのに、こうやってこちらの事にも

気を配り、そして彼の性格から考えれば恐らくクダリに対しても色々な意味で

世話を焼いている事でございましょう。

制帽をデスク横に置いて椅子に深く座り直して溜息をついて考えます。


少し前ならその行為に裏があるのではと勘ぐったでしょうが今は違います

インゴも含め彼等は私達と共に生活をしていた時から何も変わっていない

確かに表面上では面倒になりましたが根本的な部分は同じなのです。

そう考えれば、私達が色々拗らせた時に言っていた言葉も心配からであって

それを素直に受け止められなかった私達の方にこそ問題があったのです。



「すぐ目の前にいた目指すべき存在に気付かなかったとは馬鹿でしたね…」



今回の事件が私達ではなくエメット達に起きていたらどうなったでしょう

きっとこの様な状態になる前に色々とやっていたでしょう。

そう考えると情けなさと後悔で胸が締め付けられます。



「それでも、前に進まねば…私は何も変えられません。」



思考の海にどっぷりと、どのくらい浸かっていたのでしょうか

執務室のドアがノックされ、が業務報告書を持ってやってきました。



「失礼します、エメットボスは…もういないんですね、お疲れ様です。」


「最近は部下に書類を持たせる事が多かったように記憶しておりますが

今日はどういたしました、何か問題でもございますのでしょうか?」



あの件があってから部署に人数が増えたは新人指導の一環として

簡単な書類を彼等に届けさせていたのです。他部署との連携も大事だと

新人の顔を覚えてもらうという点では確かに良い方法ですね。

私の質問に、仕事の顔ではなくいつもの友人の顔で苦笑いをしてから



「いえ、ずっと忙しかったでしょう、一緒に飯でも食いませんか?

エメットボスはこの前聞いたら自分で勝手に食べてるって言ってたんで

一人飯って味気ないじゃないですか、俺も今日は一人なんでどうです?」


「ふふっ、確かに私も一人でレストランに入る気にもならなかったし

自炊もなんだか味気なくて最近はケータリングばかりだったので喜んで。」


が勝手に作り置きしてったのがあるんで俺のアパートでどうです?

ついでに酒もだしますから、どうせなら今日は泊まりにきませんか?」


「えぇ、私はこの書類が終われば今日の業務は終了しますので

一度家に戻って着替えを持ってそちらに伺わせていただきます。」



書類を受け取り、サインをして処理済のボックスに入れれば

は笑いながらそれではお待ちしていますといって執務室を後にしました


エメットは鍵を渡してあるので問題はないでしょう。

彼は普段でも遅くにこちらに戻ってくるので家でも殆ど話をしてません。

本当はクダリの事を聞きたい、インゴとの様子を聞きたいと思っていても

彼からそれを話す事は皆無で、私もどの様に聞けば良いのかわからなくて

話をする事も殆ど無い様な状態でございました。

いつも以上に誰かと会話する事がなかったのでこの誘いは嬉しいですね


本日分の書類を全て片付れば丁度終業時刻でそのまま着替えて家に行き

着替えを用意してテーブルにメモを残してからのアパートへ向かいます。

途中、彼の好きそうな良いウィスキーが売っていたので購入して着けば

ラフな格好でが出迎えてくださいました。



「用意はできてるから適当に座ってくれ。」



テーブルの上に缶ビールを置いて、キッチンへ向かうを見ながら

荷物を置いてソファーに座りました。

ここに来るのはいつぶりになるでしょう、少し前の事なのに昔に感じる

その感覚が今の私ととの距離である様な気がしてしまいます。

馬鹿げた感傷めいた感情を追いやるように首を振り、ビールを一口

独特の刺激が喉を通る感覚がやけに強く感じます。



「おーし、取り敢えず飯にしようぜ。この冷しゃぶはお勧めだぞ。」



ポークの薄切りをボイルしているのでしょうか、初めて食べるそれは

とてもさっぱりしていて、久々に美味しいと感じられました。

あぁ、クダリだけではない。私も色々参っていたのでございますね。

あれもこれもと言われるまま食べ続けていたらいつのまにかテーブル上の

料理は全てなくなっており、私も久々に満腹感を味わいました。


後片付けをやるといえば、食器を拭いてくれと言われて並んで立てば

男二人には少々窮屈ではございますが、その距離感もなんだか嬉しくて

今日のバトルや、育成中のポケモンの話をしておりました。

は、ただ黙って私の話を笑いながら聞いてくださいましたがしばらくして



「ノボリ、お前さ…こうやって誰かと最近話をしたか?」


「…いいえ、はお見通しなのでしょう。」



あの件があってから、お互いに忙しく顔を合わせるのは毎日の朝礼位だったのに

貴方はそれでも私の変化に気付いてくださったのですね。



「今のお前は初めて会った時の鉄面皮に戻っちまってる。

クダリが先に参っちまったが、お前だって相当参ってるんじゃないのか?」



そういう私を見兼ねてはこうやって食事に誘ったのでしょう。

どうやって返事をしようか迷っていたら、更に言葉を続けます。



「お前クダリの事、全然インゴやエメットに聞かないらしいじゃないか。

の事だって俺やに何も聞いてこない。それはなんでだ?」



出しっぱなしの水道の蛇口を閉めて、タオルで手を拭きながら

こちらを覗き込むようには私に話しかけます。その目が真っ直ぐ過ぎて

私は返す言葉が思い浮かばなくて俯いてしまいました。

何を言えば良いのかわからない私の背を押してリビングのソファーに座らせて

はサイドボードからウィスキーを取り出しグラスに注ぎます。

ストレートで注がれ、差し出されたそれを半分近く流し込めば

胸の奥が熱く感じられましたがそのまま残りを一気に飲み干します

矢継ぎ早に注がれるそれに苦笑いしていれば、同じような笑みを返され

どうやら、酒のせいにしても良いから白状しろと言う事なのでしょうね。



「さーて、時間はたっぷりある。もう全部言っちまえよ、聞いてやる。」


「黙秘権は…」


「そんなモンあると思うのか?」



黙ってグラスを私の目の前に差し出して、自分は2杯目を飲み始めます。

言わせる気満々なのに、こちらから切り出さねば何も聞かないのですね。




「ふふっ、にはその様な小細工は通用しませんでしたね。」



私の言葉には目を細めて私を見るだけ、その距離が、気遣いが嬉しい

その優しさがとても嬉しい、貴方に私は何度救われた事でしょう。

付き合いは短いけれど、年上のこの友人は私のなかで大きな存在で

彼の言葉に素直になる事を決め、今度はゆっくりとそれを流し込みました。