三章・旅は道連れ先駆け編 -課長のひいた貧乏くじ-

三章・旅は道連れ先駆け編

課長のひいた貧乏くじ



手元にある書類を前に溜息をつく俺をが苦笑いしながら見ている。

人が増えたのを良い事に、今迄先延ばしにしていた補修工事を詰め込んで

まだ仕事に慣れてない新人のあいつらの面倒をみてと色々目が回りそうだが

こういう忙しさは嫌いじゃない。

目の前のしばらく使われないデスクの上にその書類を置いてから

椅子の背もたれに寄りかかって大きく背伸びをすればがコーヒーを寄越す



「いくら今使ってねぇからって、書類置き場にしちゃヤバイだろ。

あいつが見たらげきりんからのオーバーヒート喰らうぞ。」


「空いてるスペースを有効利用して何が悪い。」



そう、このデスクはのだ。

カナワタウンの改修工事で新人を何人かつけてあいつに任せたのは俺だが

結局はあいつの思い通りになったかと思うと正直面白くないんだよ。

あっちとこっちを行き来する車両整備班の連中に聞いてみれば

新人のケツを叩きまくりながらすっかり馴染んでるぞと答えが帰ってきた。

できると思ったから任せたが、馴染み過ぎると引き抜かれそうで怖いぞ。

まぁ、あいつなら上手い事言って断るだろうけどな。


飲み干したカップをゴミ箱に放り捨て、仕事を覚え始めた連中の所へ向かう

内容的には教えた事をやれば良いだけの部分だから問題はない。

途中バトル帰りっぽいエメットとばったり会えば、あいつは手を挙げて

いつもより2割増の笑顔でこっちにやってきた。



「Hello!同じ職場だケド会うのは久しぶりダネ!」


「まぁ俺はいろんな場所に潜ったりしてるしな。調子はどうだ?」


「好きな様にしてるヨ。」



小脇に抱えてるのは書類の束で、その量から色んな部署のモンだとわかる。

今迄がやってた事をこいつは、気分転換の散歩ダヨ!と言って

その辺をふらついてはこうやって受け取りをしている。

二人の違いと言えば、それをさり気なくやるのか大げさにアピールするかで

後者のエメットは受け取った時のノボリの反応で遊んでる…いい性格だな。


体調不良のクダリの代行って名目で交代したイッシュのギアステで

バトルだけじゃなくクダリのやっていた業務全般も引き継いだエメットに

職員達は多少戸惑ってたが、性格はともかく仕事はそつなくこなす様子に

直ぐにいつもの落ち着きを取り戻している。

私生活が駄目だの色々言われてるわりに、仕事には真面目で驚いた。

今だって目を通した書類の内容をどうするかって考えてるっぽいしな。



「ソレにしても、凄く効率が良くなってるネ!書類も凄く見やすいシ

職員達の動きダッテ無駄も少なくて驚いちゃったヨ!」


「良くも悪くも気遣いのできる連中ばかりだったからな。

ちょっとした切欠…糸口なんかが見つかればうまくいかないわけがない。」


「ソレは全部キミ達の影響なんだヨ!…ネェ、本当にユノーヴァに来ない?

ココよりも良い給料出すヨ?条件だって全部飲んデモ構わないカラ…ドウ?」


「ゲンナイをどうする気だ、それに俺達自身がここを気に入ってるからな

凄ぇ魅力的な申し出だが、慎んでお断りさせてもらうぞ。」


「So…マァ、答えはわかってたんだケド。デモ残念!」



口ではそう言ってるが、そんな素振りには見えないぞ?

マジで言われてもこちとら困るから良いんだけどなぁ…それよりも…だ、



「あっちでのクダリの様子はどんな感じだ?」


「凄く困っテル…違うネ、戸惑っテル感じカナ?」



どういう意味だ?とまじまじと顔を見ていたら肩をすくめて笑ってから



「インゴが何をしたいノカ理解できないんダト思うヨ。

デモ、結果はちゃんと出てるみたいダシ?問題ナシ、大丈夫ダヨ!」



何がどう大丈夫なのかはわからないが、こうまで自信たっぷりに言うんだ

これ以上は俺が口を挟むべきじゃないだろう。


現場についてからは仕事に集中して連中の仕事を見ながら指示を出して

ダメ出ししたのが何故駄目なのかなんて説明をしながら過ごす。

全くの素人だった連中もやる気だけは一人前にあるから飲み込みが早い

そういう奴は伸びるから、仲間にできた俺はラッキーかもしれないな。


今日の仕事を終わらせて業務報告書を提出しに執務室に入ると

そこにはノボリの姿しか見当たらなかった。

自分の分の仕事は終わったからとユノーヴァに行っちまったらしい。

通りで終業時間間際にを助っ人に要請してたワケだ。



「…黒ボスも大変ですね。」


「事務仕事に関しては全く口を挟む必要がないのでございますが

いえ…バトルでもよくやってくれているとは思うのですけどねぇ……。」


「そこは譲歩してあげましょう。言いたい事はエメットもあるでしょうし?

これからずっと一緒でもないんですから、お互い様って事ですかね。」


「わかっておりますとも。それに口出しされてるわけでもございませんし

あちらでも業務をこなしてるのですから、大変でしょうしね。」



俺から業務報告書を受け取り、目を通した後サインをした黒ボスを確認して

俺はお疲れ様でしたといって執務室を出た。

ずっと一緒だった白ボスが不在で結構堪えてるんだろう、疲れが見え見えだ

近いうちに酒でも飲みながら色々話を聞いてやるか…


仕事を終わらせての部屋に向かう間、俺とはエメットの事を

歩きながら色々と話していた。

実際ここの代理で業務全般引き受けてるだけでも大変だと思うんだが

更にエメットは毎日ユノーヴァに戻って業務をしている…らしい。

もっとも集計と各書類の振り分けだけらしいが、それでも大変だろう。

その事については、がクダリに任せたらと言ったんだがエメット曰く

インゴがペースを乱されるからさせてないらしい。

あいつもあいつなりにエメットを信頼して任せてたって事なんだろう。

口じゃあ愚弟だの無能だの言ってはいるがちゃんと認めてるんじゃないか。

天邪鬼な性格ってのも困ったもんだ。



「馴れ合ってるワケじゃあねぇんだろうが、大概全員が甘ちゃんてか?

それはこっちの世界だからなんだろうが、時々むず痒くなるぜ。」


「他人との線引きが曖昧なのは確かだな…でも嫌いじゃないだろ。」


「フン…てめぇもな。」



イッシュに来てから、こいつの角がかなりとれたと思うのは気のせいじゃない

現に他人事にここまで首を突っ込む様な性分じゃなかったはずのこいつは

ここでは世話好きで面倒見が良い奴だと周囲に認識されてる。

それは俺もだし、これから向かうあいつ…だってそうだ。

国際警察になりたての頃のあいつはもっと冷静っつうか冷淡だったはずだ。

今考えてる奴の部屋の前についてチャイムを鳴らせば普段着で顔を出した。



「おーっす!メシは適当に買っておいたから適当に食ってくれよ。」


「てめぇは相変わらず出来合いのモンばっか食ってやがんのか?

塩分脂肪分の摂り過ぎで早死してもしらねぇぞ。」


「ジジ臭い事言うなよ!飯を作る暇があるなら資料のひとつでも目を通す!

その方がずっと合理的だし効率も良くなるからな!」



通されたリビングのテーブルにはケータリングが山積みされている。

こいつは俺等と違って自炊をしないのを忘れてた。

が顔をしかめながらそれらを見て小言をいってるが今更だろうよ。

適当な場所に座って取り皿に好きなもんをとって食いながら話は始まった。



「ハッキングは外部から遠隔操作でされたモンだったのは言ったよな?

んで、がその送信先にウィルス付きで反撃かましたのも言ったっけ?」


「あぁ、それは聞いてる。」



例の事故の元凶のウィルスを発症させたのはそれが原因だったってのは

ジャッキーとから経由で聞いていた。

連中はあのウィルスが発症するなら時間的なものじゃなくキーワードが必要で

それは恐らく外部から入り込んでくるって、とっくに感づいてたからな。

はその時の発信元を特定できるシステムを作ってただけじゃなく

その発信元にインプットされてるアドレスなんかをイッシュ警察の情報機関に

流れるようにプログラミングしたらしい…その辺は俺には専門外でさっぱりだ。

あどけない顔しているがやる事がえげつなさすぎだと思うのは俺だけか?



「んで、その反撃ウィルスのおかげで連中の隠れ家が複数判明してな

今の今迄俺はあちこち飛び回ってそれらを検挙してたってーワケよ。」



取り皿にのった料理を口に運びながらが得意げに話しているが

それがお前の役目だろう、短期間にしてはよくやった方だと思うがな。

水割りからロックに変えてウィスキーを飲みながら聞いていたら

妙に引っかかる事を言い出した。



「だけどよー、どーしても一箇所っつーかある場所っつーか?

そこだけが検挙できねーんだよ。こっちの見解じゃそこがアジトっぽい。

場所があちこちに変わるわ、わかったから駆けつけてもすでに何もなしだわ

無駄足ばっかりでお手上げ状態なんだよなー。」


「どういう事だ?」


「つまり、そのアジトっつーのが移動してるって事。

が新人のジムリーダー…なんつったかな…「チェレン君か?」…そう!

彼から聞いた話らしんだけどよー、ホドモエでプラズマ団のでっかい船で

ひと悶着あったらしいんだわ、かなり大掛かりな構造だったらしいぜ。」



船と聞いて俺の頭の中で何かが騒ぎ出す。俺はそれを知っていたのか?

それじゃなきゃこんなにも胸騒ぎなんぞしないだろう。

だがどんなに記憶を辿ろうとしたってそれは徒労に終わるのも知ってる。

急降下する気分に顔を顰めてたらが俺の顔を覗き込んでいた。



「てめぇは何か覚えているのか?」


「…覚えていたんだと思う。どうもその船ってフレーズが引っかかる。」


のカンは外れ無いからなー、多分これから先その船が関わってくる

現にはその船で袋叩きにあったらしいぜ?」


「「 はぁ?!」」



俺とがハモっても仕方がない、腕力はなくてもあいつは強い。

それが袋叩きにあったなんざ想像もつかないんだが…



「はぁ…次の日ちょっと動きが変だと思ってたらそういう事だったのか…

しかし逆に考えればよく無事で戻ってきやがったとでも言うべきか?」


「ぶっちゃけさー、あいつに勝てるようなプラズマ団なんざ多くねーよ。

それだけの実力があるとすればかなり上の方だと俺は思ってる。

例えばダークトリニティとか?あいつらは未だに捕まってないしなー。

で、話を戻すけどとっ捕まらないのが船なら納得がいくんだよなー

ちょっと前までは場所の把握ができてたんだけど、流石に何回も何回も

警察が周囲をウロウロしてたから感づいちまったらしい。」



それでも快挙だと思うんだがな。こいつは納得してないんだろう。

悔しそうにビールをあおってから胸ポケットを探って俺の前に出す。

その手の中には小さな機械がのっていた。



「…これは最新式の発信機だ。防水性にも対衝撃性にも優れてる。

と一緒にジム周りを続けるんなら出くわす機会もあるだろ

そん時、こいつをどこでも良い…あー、できれば船内の方が良いんだけど

そう簡単に乗り込めるモンでもねーだろーから船体だったらいいや!

これをつけてくれねーかな?危険だってのは十分わかってる。

ホントは俺がやれれば良いんだろーけど、それは難しいだろーし。」



頼む!と言って頭を下げるのをやめさせてそれを受け取る。

もしそれがプラズマ団のアジトだとしたら…これから先何度か出会う機会も

あるかもしれない…ただし、がいないと駄目だろうけど。



「チッ…今の状況だと拙いな。現場が離れちまったから

あいつとてめぇの休みが重なる事はほぼねぇんだろ?どうするつもりだ?」



そうなんだ、現場が離れているだけじゃなくあっちは交代制での休みで

不定期だし、今の段階じゃ下のモンに任せきりには出来ないから

あいつは休みをとる事をしないだろうが、落ち着いてきてからが問題だ。

あんな事故があって、こっちが動けなくてもお構いなしに時間は進んでる

つまり主人公のあの子等はどんどん先に進んじまってるって事になる。

俺等…がたどり着く前に終わってしまったらその時点でアウトだ。

それじゃあ駄目なんだ。だけどどうすれば良い?

仕事をしながらってのは以前も同じだが、どうも勝手が違いすぎて困る。



「…おい、下の連中はある程度仕事を覚えてきてるんだよな?」


「ん?あぁ、最終チェックを俺がすれば良い位には使えるようになってるぞ。」


「うおー、相変わらずは教えるのがうまいよなー!

んで、そんな事を聞くって位なんだからは良い案でもあるんだよな?」



俺との視線を受けたは胸元からライブキャスターを取り出した。

それは一度見た事がある。以前大掃除の時にマフィアのボスへ連絡したやつだ。

アドレス帳を開いて俺等に見せてくれた画面にはジムリーダーの連絡先が

びっしりと書かれてある。



「成人済のチャレンジャーが珍しいってのもあるんだろうが

近くに来た時は是非またバトルしたいから連絡をしてくれって言われてな。

何かあった時の役に立つかと思って保存していたんだよ。」



どうせの事だ、満面の笑みで叩きのめしたに決まってる。

強い奴と対戦したいってのはポケモントレーナーなら当然の事で

それが例えジムリーダーでも変わらないだろう。



「休みが取れないなら外出でも問題はねぇだろう?

場所は俺のゴチルゼルが全部覚えてるから貸してやる。テレポートで行きやがれ

行く前に連絡を入れて時間を空けてもらえるように頼んでやる。」


「いや、それはまずいだろう。」



ふたり揃って職場を長時間離れられないから、それは好都合だが

先方だって予定もあるだろう。こっちの都合ばかりじゃ筋が通らなくなる。



、それしか方法が無いと思うぜー。

ともかくこれ以上を野放しにもしておけねーし、あいつを見張るなら

多少の無理はしなくちゃダメじゃねーのかな?」


「しかしそんな事今迄やった事ないしな?」


「前例がなきゃ作れば良いっていつもてめぇ自身で言ってるだろ。

そもそも成人済でジムにチャレンジするトレーナーが珍しいからな。

俺達以外にも大人になって仕事を持っていてもジムにチャレンジしたいって

考えてる奴がいるかもしれねぇ、そういう連中の指針を作るのも有りだろ。」



確かにこっちじゃ10代でジム巡りの旅に出るのが殆どだ。

でも志し半ばでやめてしまい、大人になってから再チャレンジしたいと考えて

悩んでるトレーナーがいたって全然不思議じゃない。

そんな人達の手助けになるならそれも有り…になるんだろうか?



「どうも二人に丸め込まれてる様な気がしまくってるんだが、確かにな。

そういう事なら、こっちでカナワの進み具合を見ながら提示できると思う。」


「あいつが何か言ってゴネたら職長権限使ってやれば良いんだよ。

てめぇはキッチリあいつにへばりついて見張ってろ。」


「だな!んでチャンスがあればこっちの件もやってくれよな!」


「他人事だと思って簡単に言いやがって……。」



どっちもやらなきゃならない事だがな、面倒事なのは間違いないんだぞ!



「「他人事だし!」」


「お前等、後で覚えておけよ!」



貧乏くじを引くのはの専売特許のはずなんだが

最近じゃ俺も巻き込まれて引きまくってると思うのは気のせいにしたいぞ!