三章・旅は道連れ先駆け編 -白の上司はもがく-

三章・旅は道連れ先駆け編

白の上司はもがく



心が鉛を飲み込んだみたいに重い。

のいう事は間違ってないのかもしれない。ボクは一体どうすれば良いの?


こんな事になっちゃった今、ボクが何をやったってどーしようも無い。

独りになろうとするにずっと一緒だよって言ったのは嘘じゃない。

あんな事がなければ良かったけど、今更そんな事も言ってらんない。

堂々巡りで頭の中がグチャグチャで、皆の視線が凄く怖い。

せり上がる吐き気と同時に身体が震え出せば、自分でも止められない。

そんなボクに最初に気がついたのは意外にもエメットで、ボクの背を撫でて

小さな子に言い聞かすように大丈夫だからと繰り返し言ってくれた。



「Stop!今日はコレから仕事デショ?コノ話ッテ直ぐに結論ナンテ出ないヨ」


「確かにな…、クダリは食事が摂れないって言ってるがこれはどうだ?」



エメットとが話を変えてくれたのは有り難いと思う。

でも、こんな時にご飯とかたべらんない。今はご飯じゃなくても無理だけど


は冷蔵庫からプリンを2個出してボクの前に置いた。

皆に心配をかけたくないから何とか食べなきゃならないけど、ご飯は無理。

うん、プリンなら何とか食べる事ができる。でもどーして2個なんだろ?


目の前に出されたプリンのひとつを口にすれば、食べ慣れた味がする。

これはノボリが作ったプリン。この味をボクが間違えるはずが無い。

でもノボリには悪いけど、いつもみたいに美味しいって感じられない。

悪いと思うけど、食べるのをやめてもうひとつのプリンを口にする。

口の中に広がるのはノボリのプリンよりも甘くて、それから…それから…



「クダリ?!」



ボクが食べるのを黙って見ていたがびっくりして声をかけてくれたけど

何も言うことができない。勝手に涙が後から後から出てきて止まんない。

大人になった今では甘すぎると感じられる味だけど忘れる事なんて出来ない。


これは母さんのプリンの味だ。どこまでも甘くて、優しい味

ボクにとってのすっごく大切なものだから、ノボリはよく作ってくれる。

ずっと同じ味だと思ってたのに、すっごく違うって思うのはどーして?

気が付けばボクは夢中になってそのプリンを食べ続けた。



『クダリ、辛い時とか疲れた時には甘いものが一番!

母さんはずっと味方、頑張るクダリを応援する!大丈夫、クダリは良い子!』



そういって笑いながらボクの頭を撫でる手の暖かさを覚えてる。

ノボリやインゴ、エメットと喧嘩した時とか、ボクが落ち込んだ時とか

必ず作ってくれたこの味を覚えてる。


食べる度に母さんから勇気をもらえた様な気になって頑張れたのを覚えてる。

母さん、こんなボクだけどもう一度勇気を頂戴、ボクは…ボクは頑張りたい。


吐き気を無理やり押さえ込んで全部食べて、大きく息をひとつ



「あのね、昨日エメットが見せてくれた書類の事なんだけど確認させて。

ボクとエメットが交代するって事で良いんだよね?」


「Battleはネ!だけど仕事についてはイッシュの仕事を終わらせたらやるヨ。

クダリにインゴの相手が出来る?無理デショ?」



ちょっと待って、そんなのエメットの負担が大きすぎる。

インゴだってわかってるはずなのにどーして止めないの?

チラリとインゴを見たけど、その顔には何の感情も見えないポーカーフェイス

エメットもいつも通りの人を馬鹿にしたような感じで笑ってる。



「無理じゃナイ。やるんだヨ。だからクダリが早く元に戻ってくれないとダメ

ウジウジしてるナンテ、そんなのクダリじゃないデショ?」


「エメットに言われるとなんだかムカつくけど、その通り。」



でも二人だってサブウェイマスター。従兄弟だからって理由じゃ

本部を動かす事なんて出来ないはずなんだけど…

自分でもどうして良いかもわからなくて黙っていたらが書類を出した

内容を見てみれば本部にギアステの現状を報告する内容だったんだけど

そこにはボクの今の状態もかなり細かく書かれている。



「医者の立場での見解を付け加えて書かせてもらったぜ。

精神的にまだ不安定な状況でバトルにも支障をきたす恐れ有り…ってな。

今のクダリなら、本来は然るべきカウンセラーにでもついてもらった方が

良いのかもしれねぇが、他人に自分をさらけ出すなんざ出来ねぇだろ?」



短いけど、かなり濃いつきあいのせいなのか、ってばわかってる。

黙って頷けばインゴが別な書類をボクに突き出した。

これって昨日とは違う。書式も全部正規のものだ。



「この件を本部へ報告シマス。お前は日程調整を急ぎなサイ。

遅い仕事は馬鹿のする事でゴザイマス。」



ボクが寝てる間に作ったって事?仕事が早すぎだと思う。

軽い食事を先に終わらせたインゴはそれを鞄にしまって、コートを着込んだ

それって、今から動くって事なの?部下達にまだなにも説明してないのに…



「そろそろ時間だ。インゴは帰るがエメットは残るんだよな?

すまないがノボリと代わってをみていてくれないか?」


「OK、皆は先に行っててヨ!」


「熱は薬を飲ませたから大丈夫だろうが、何かあったら連絡をくれ。

どうせ知恵熱だ、寝てりゃあ問題ねぇだろう。」



に背中を押される様に部屋を出て、ギアステまで歩く。

沈黙が気不味くってチラチラ二人を見るんだけど、いつもと変わんない

そのままで職場に到着して、それじゃあって別れてしまった。

二人はボクをノボリみたいに甘やかさない。でも今はそれが凄く有難かった。


朝礼が始まる前にノボリが来た。その顔はいつも以上に仏頂面だった。

着替え終わって、朝礼の打ち合わせの時にボクはユノーヴァへ行く事を

ノボリに話した。きっと反対されると思ったのにオッケーだった。



「貴方にとって、環境を変える事は悪くないと思います。

本当なら私が貴方を支えて立ち直らせたかったのですが役不足でしたね…」


「役不足じゃない、これはボクが弱すぎるから。

ノボリが今迄ずーっとボクを見守ってくれてたのを知ってる。

ボクがそれに応えられなかっただけ、あっちに行ってどうなるかわかんない

それにどーしてインゴ達があんな事を言い出したかもわかんないけどね。」



ボクがユノーヴァへ行く為の書類をまとめながら、そんな風に言うと

ノボリがボクの肩に手を置いて、顔を覗き込む様に話しかけてきた。



「……クダリ、貴方はひとつのプリンを完食できたのですよね?」


「うん、あれはノボリの作ったプリンじゃないよね?あれは母さんの味だった

ノボリのプリンもそうなんだってずっと思ってたけど違った。」



ノボリのプリンも母さんのプリンも同じ味だとずっと思って食べてたのに

そうじゃないってのがわかってなんだか変な気持ちだった。

いつから変わったんだろう、どうして変わってもわかんなかったんだろう。



「成長するにつれ、味覚も嗜好も変わって当然でございましょう。

私は今のクダリが好む様にアレンジをして作っておりましたから。

私も食べてみましたが、インゴのあれは母様の味そのものでした。」


「アレって、インゴが作ったやつだったの?!」


「えぇ。……これは私の推測でしかないのですが、きっとその辺の事が

貴方を立ち直らせる何かに繋がるのではないかと思うのです。

不安がないといえば嘘になりますが、それでもクダリは行くのでしょう?」


「…うん、今のままじゃボクは変われないって思ってる。

珍しくあの二人が出した提案にそうした方が良いかもって思った。」



ノボリのそばにいるのが嫌なわけじゃない。

でもこのまま一緒にいるとボクはずっと甘え続けて駄目なままな気がする。

いつもずっと一緒にいたから離れる事がちょっとは不安だったりもする。

そんなボクの気持ちが伝わったのか、ノボリはボクを抱き寄せた。



「クダリの思うようにやってごらんなさいまし。

ですが、途中で辛くなったらいつでも戻ってきてもよろしいのですからね?

貴方の居場所はここなのでございますから。」



トントンと背中を叩く手が暖かくってそれだけで凄く安心する。

その暖かさが気持ちよくってそのままノボリに身体を預けて目を閉じる。



「ノボリ、ごめんね?」


「私は謝られる様な事はしておりませんよ?」


「ボクが言いたいだけ、後はありがとう、ノボリ。」


「ふふっ、どういたしまして!で、ございますよ。」



ボクの居場所はノボリの隣。ボク達は二両編成、それはこれからも同じ。

ちょっとメンテナンスするのに別れるだけ。

戻ってきたら今まで通りにきっと戻ってる…戻れるって信じてみよう。















急遽役職会議でボクとエメットが期間限定(日数は未定だけど)で交代する事を

話したら、全員に賛成された。揉めるかもと思ったけど杞憂だった。

会議が終わると同時にエメットがギアステにやってきて、インゴが本部から

この件の承諾をもぎ取ったって教えてくれた。

色々考えれば、ユノーヴァじゃダブルトレインが使えないんだし

こっちじゃボクが使えないんだから良案と言えばそーなるのかもしんない。

こっちの書類関係の仕事についてもやるって言ってるけど大丈夫かな?

ノボリと二人でそんな事を考えてたらお見通しだよって感じでニヤリと笑って

ここのやり方はもう頭に入ってるからオッケーとか言うし。

そりゃあ、エメットがそーいう方面が凄いのは知ってるけどムカつく!


一応粗方の引き継ぎ説明が終わった。

動くって決めたんだから、さっさと動かなきゃだよね。

今日は週末だから、週明けからの交代になる。帰ったら色々準備しなきゃ

説明に使った書類をファイルに戻してたら、ノボリがトレインから戻ってきた



「エメット、の様子は?熱は下がったのでしょうか?」


「全然!デモ、ボクとクダリが期間限定で交代するッテ話を聞いタラ

ここに居る場合じゃないでしょう!ッテ追い出されたヨ。

さっきメールしたラ、大丈夫!ッテ返信来たケド、ボクは信じてないネ!」



全くあの子は…って溜息をつくノボリはいつもの事のはずなんだけど

その目が柔らかく笑ってる様に見えた。それはエメットもだったみたいで

それに気がついたノボリは慌てた様にいつもの仏頂面に戻った。


ボクが起こした事でノボリもと距離をとってるのは気がついてた。

こんな事になってノボリとの間まで壊しちゃうかもって怖かった。

でも、今のノボリの顔からはそんな風にはなってなさそうで安心した。


今はまだ向き合うのは怖くて無理だけど、ユノーヴァに行って変わるんだ。

インゴと一緒なのが不安でもあるけど、インゴだからどーにかできるかも?

そんな気がしてならないんだ。人に頼るのは情けないかもしんないけど

それでもボクはちゃんと向き合わなきゃならないんだ。


乗り越えて、向き合って、それからボクはやらなきゃならない事があるんだ

立ち止まってちゃダメ…そーだよね?ネイティ…ううん、ネイティオ!