3章・旅は道連れ先駆け編
黒い従兄弟のかたやぶり
今の私はきっと酷い顔をしてるんだろうな。
ポケモン達が心配そうに私の周りに集まってたけど、大丈夫だよって
言ったんだけど、この子達には大丈夫じゃ無い事なんてわかってるよね。
『あのね、どーして千歳はボクに何も言わないの?悲しくないの?
辛くないの?!ボクを責めようと思わないの?そんな事もしたくないの?
千歳にとってボクもネイティオもその程度の存在なの?』
私に何を言わせたいの?クダリさんのせいにして責めれば良かった?
それはお門違い、責められるべきなのは私なんだもん。
ポケモン達をボールに戻して、ソファーに一人座って考えるけど
じゃあ、あの時どうすれば良かったのかなんてさ…
「結局私が深入りしすぎちゃったのが間違いだったんだろうな…」
大事なものを増やすのが怖かった。それでもクダリさんとノボリさん
皆のそばが凄く居心地が良くって、私はそれに甘えすぎちゃったんだ
この先どうなるかわからない不確かな私が大事なものを増やしちゃった
それがそもそもの間違いだったんだろうと思う。
知り合った事は後悔してない、友達だと…大切なんだと言われて
こんな私でもここにいても良いんだって言われて嬉しかった。
大切な人を失いたくなかったけど、その綺麗な心を深く傷つけてしまった。
『お前は生まれた時から疫病神だった』
母親の言葉が頭に響く、私はそういう存在なのかもしれないな
あの人から離れてもそれは変わらないのかな。
それなら私はもうここにいられない。仕事がどうとか言ってられない。
もう誰とも関わらない様にしなきゃいけない。また前に戻れば良いだけ
なのにどうしてこんなに苦しいの?こんなに悲しくなるんだろう?
こんな気持ちになるのは初めてでどうすれば良いのかわからない。
抱きしめてたクッションに顔をうずめて目を閉じてたらノックが聞こえた。
それも玄関からじゃなくってバルコニーから?聞き間違いかな?
カーテンを少し開けてバルコニーを見てびっくりした。
だってインゴさんがいるんだもん。どうして?っつーかどうやって?!
「話があるノデ、ここを開けなサイ。」
うわーい、こんな状況でも上から目線の命令形とか流石インゴさん!
でもね、今はそんな事に構ってる余裕なんて1ミリもないんですよ。
むしろこれからは貴方達とも距離をおいた方が良いかもしれないんだし。
「私には話す事がないんでお断りしますよー。
どうやって来たのか知りませんが、ちゃんとあっちへ帰ってください。
今しなきゃいけないのはここにいる事じゃなくてクダリさんをどうするか
それが一番でしょ?大切な従兄弟の一大事なんですからね!」
「ワタクシは自分のしたい様に動きマス。誰の指図も受けマセン。」
なるべくいつも通りに、少しおどけて言って笑ってみせたけど
真っ直ぐに私を見つめるインゴさんの瞳が怖い。
ノボリさんもだけど、自分の事を見透かされてる様でいたたまれなくなる
お願い、もう放っておいて。私に構わないで。
「それじゃあ、私も好きにします。ここを開けるつもりは無いですから。」
「……シャンデラ、オーバーヒートでここを開けてクダサイ。」
「わーっ!ちょ、そんな事したら部屋が滅茶苦茶になるでしょう!!
わかりました!開けますからシャンデラたんの指示を取り消してー!」
なんて事をしやがるんだ!って、さっき私もやったから人の事言えないか
だけどインゴさんはそんなキャラじゃないでしょう?!
慌ててベランダを開ければ、律儀に靴を脱いで玄関に置いてから戻って…
こないでキッチンに向かったんだけど、どこから突っ込もうか?
後からキッチンを借りるって言って、ゴソゴソやってると思ったら
マグカップを2つ持って戻ってきた。
差し出されたそれはミントミルクティー…これはユノーヴァに出張した時
私がインゴさんとエメットさんに作ってあげたもの
一口飲んだらふわっとミントの爽やかな香りと紅茶の香りが鼻腔をくすぐる
インゴさんとエメットさんの前で大泣きした時にインゴさんが作ってくれた
ミントミルクティーと同じ味がした。
「私になにか言いたい事があるんですよね?」
あの時、インゴさんとエメットさんの前で泣いた私を二人は受け止めてくれた
今だって私が話し出すまでこうやってインゴさんは待っててくれた。
どうしよう、凄く泣きそうかもしんない。でも、私に泣く資格なんてない。
「泣きたけレバ泣いても良いのデスヨ。」
「泣きませんよー。ってか、クダリさんの所にいなくて良いんですか?
あの状態はかなり拙いと思うんです。このままじゃクダリさんが駄目になる。
それはバトルサブウェイにとって良い事じゃないですからねー。」
うわーい、全てはお見通しってヤツ?テレパシーでも使えるのかしらねー。
でも私なんかより問題はこっちの方なんだ。
クダリさんが変わってしまう。それが私のせいなら責任をとらなきゃならない
仕事上の立場だけじゃない、友人としてもケジメは必要だと思う。
「アレの事は問題ありまセン。エメットが上手くやるデショウ。」
従兄弟大好き人間な二人が何もしないわけがなかったってか?
でも当事者の私が言う事じゃないけど、その方が良いのかもしんない。
やはともかく、私が出来る事なんて皆の前から消える事位しか
思い浮かばなかったし、それをやってもクダリさんを傷つけてしまうしね。
後悔はしてないけど、結局私のやった事は間違いだったってだけだし
誰も私を責めないのが逆に辛い。お前のせいだって言われた方がマシなのに
「意地を張るのはやめなサイ。オマエは間違っていまセン。辛い選択デシタネ。」
不意にインゴさんの顔が滲んだ。
あぁ、泣かないって決めてたのに…そんな言葉をかけてくれたらもう駄目だよ。
触れるか触れないかの力加減で私の頭を自分の肩にのせて、背中を叩く
その手が肩が暖かくて涙が止まらない。
インゴさんの優しさに縋ろうなんて虫が良すぎるんじゃないの?
そんな事が私に許されるわけなんてないでしょう。
頭の中ではそう思っていても、この温もりから離れる事が出来ない。
ネイティが電車の前にテレポートして、サイコキネシスを使った時点で
無理をさせてるのはわかってた。
だけど、ここでネイティを止めてしまえばクダリさんもノボリさんも危なくて
結末が見えてるのがわかってるのに、頑張ってと言ってしまった。
こんな形であの子の生を終わらせるつもりなんてなかった
そんな私をネイティは許してくれた。進化して、私とクダリさんを抱きしめて
満足そうに笑っている様に静かに永遠の眠りについた。
ネイティオは許してくれたけど、クダリさんは何故自分を責めないと言うけど
同じ事を繰り返さない為にも私は自分を許さない…許せないんだ。
懺悔の意味もこめて、インゴさんにそう話せば抱きしめられた。
頭の上で溜息をつかれたのがわかる。呆れられた?軽蔑された?
「ワタクシがオマエを許しマス。
イッシュに居る事が辛いナラ、ユノーヴァに来なサイ。ワタクシが受け止めマス。
今も辛いナラ、一時デモ良けレバ全てを忘れさせる事も可能でゴザイマスヨ?」
とん…と肩を押されてソファーに倒れこむとインゴさんが私を見下ろした。
あぁ、これはそういう事か…ここで私が受け入れれば、今だけでも忘れられる?
それは凄く抗い難い程魅力的な事なのかもしんない。でもね…?
「…駄目です、ここでインゴさんを受け入れちゃったら私が私でなくなる。
きっとこれから先ずーっとインゴさんを頼ってしまうし甘えて依存しちゃう。」
「ワタクシは大歓迎でゴザイマスヨ?全てを忘れさせる位簡単デス。」
うわーい、なんだかさり気なく経験豊富だって言ってるよ!
すっごくいじめっ子の顔してるし!涙もどっかに引っ込んじゃったよ!
「そのイケメンっぷりはどこかの誰かに使ってくださいー!
つーか、その気なんて全然無いのにからかうのはやめて欲しいでっす。」
「フフッ…ナラバ、誓いなサイ。自分から独りにならナイ…出来ますカ?」
くるんっと視界が回って、目にはインゴさんの胸元のシャツのボタンが見える。
狭いソファーで器用だなと変な所に感心しちゃったけど、そうじゃないよ!
それとこれは別問題でしょう?これ以上誰かと関わる事で同じ事が起きるなら
それにミッションの事もあるから誓う事なんてできっこないよ。
「……実力行使が必要デスカ?」
「いやいや、ちょっと待ったー!誓う…事は出来ないけど努力しますっ!」
黙ってたら目の前で手をワキワキしだすとかどんだけだっつーの!
経験値か?経験の差がこういう時にはっきりでちゃってるのか??!
「…今はそれで良い事にいたしマス。」
「はいはい、んで、いつになったら開放してくれるんでしょーか?」
「オマエが眠っタラ?」
「そこで疑問形ですか?!無理ったら無理!こんな状況で眠れないです!!」
「何事も挑戦しなければでゴザイマス。」
ちょ、そこで目を閉じて寝の体勢に入っちゃうとか勘弁してくださいってば!
どんなにもがいても、がっちりホールドしてる腕も足もどけられないし!
はぁ…どーしてこーなった?
溜息をついて大人しくすれば、肩を子供を寝かせる時みたいにトントンと
リズミカルに叩かれるし…私は赤ん坊じゃないってば!
すっかりインゴさんのペースに巻き込まれるなんて私も修行が足りないなぁ
母親からでさえ、こんな事をしてもらった記憶がないんだけど酷く懐かしい
インゴさんの心臓の音と包み込む様な暖かさにまた涙が出そうになる。
こんな風に誰かがそばにいてくれるってなんだかくすぐったい感じがする。
イッシュに来てからは初めての事だらけでどうすれば良いのかわからない
明日になったらクダリさんとキチンと話をしよう。
私が思ってた事をちゃんと聞いてもらって、自分を責めないでって言おう。
それでも、もし許してくれなかったら…その時はここを出よう。
そしてミッションに本腰を入れてクリアして、もう一度会いに来よう。
どっちにしろちゃんとケリをつけなきゃ前に進むことも今はできないもんね。
トクトクと聞こえる音を耳にしながらそんな事を考えてたら意識が落ちた。