3章・旅は道連れ先駆け編 -平社員の殴り込み-

3章・旅は道連れ先駆け編

平社員の殴り込み




就業時間が終わる間際にインゴとエメットがいつものようにやってきました。

本部から各地方のバトルサブウェイに全システムの点検の指示があって

確かユノーヴァでもダブルトレインのシステムに問題があったはずでございます

それを指摘すればすべての指示を出し終えたから問題はないと即答されましたが

そういう事でもないと思うのですが、この二人には今更なのでしょうね…


そのまま家に連れてきたら、食事を達が用意して待ってるから行くですと?

相変わらずの上から目線の物言いも、できれば今はやめて欲しかったです。

の言葉が出た途端に、案の定クダリが表情を強ばらせました。



「ボクは行かない。」



「クダリ…」



「ネェ、こんな事をしてて良いノ?」



「……行けない。」



「…エメット、時間の無駄でゴザイマス。」



エメットが困った様に、インゴは不機嫌なのを隠しもせずに出て行きました。

乱暴に閉められた玄関のドアを背にして、白くなるまで手を握り締めてるクダリ

貴方は何故それほどまでにとの関わりを拒んでしまうのでしょうか…



「ボクは行けないけどノボリは違う。だから行って?」



「この様な状態の貴方を独りきりにはできません。

クダリ、このままでよろしいのですか?こんな事を続けていては貴方は…」



「あのね、ノボリはボクが誰かのせいで死んでしまったら許せる?

ボクは無理。だから、だってボクを許せないと思う。」



「そんな事はございませ…「どーしてそんな事言えるの?」…クダリ……」



ソファーに座ると、顔を覆い隠すように俯いてしまったクダリは

まるで泣いている様にも見えました。

そう言えば、貴方はネイティ…ネイティオが死んでから一度も泣いてませんね

泣く事すら許されないのだと自分を責め続けているのでしょうか?



「あのね、はポケモン達を家族だって言ってた。

ボク達以上ににとってポケモンは大切な存在なんだよ?それをさ…

知り合ってそんなに時間が経ってない奴のせいで死なせてしまったんだよ?」



「私達は、つきあいは長くはなくとも親しい友人でございましょう?

貴方はこのままで良いと思ってるのでございますか?

彼等と…との繋がりを断ち切りたいのですか?それが望みなのですか?」



「じゃあどーすれば良いの?!どんなに悔やんでも過去は変えられない!

ネイティは…ネイティオは戻っては来てくれない!!

は気にしないでって言うけど、ボクには無理。ボクを許せないっ!!」



頭を抱えて振り絞られた様な悲鳴に近い叫びに私はどうする事もできず

隣に座り、傷のまだ癒えない肩をそっと抱き抱えれば薄くなった肉を痛感します



「あの場所には私もいたのです。貴方だけが責任を感じる事は無いのです。

食事も摂れず、夜には何度もうなされてベッドから飛び起きてろくに眠れず

ねぇクダリ、その様に自分を責め続けるのはやめてくださいまし。」



あれからクダリは固形物を受け付けず、口にするとすぐ吐いてしまうのです。

こんな状況がこれからも続くのなら、専門の病院へ連れて行かねばなりませんね

私がどうにかすべきなのに出来ない…なんて自分は無力なのでしょうか!


そのまま私達は何も話さず、ただお互いの体温を感じておりましたが

不意にインターフォンが来客を告げ、誰かと思い出てみればでした。



『クダリさーん!と、ノボリさんも一緒にいるんですよね?

ふたり揃って引き篭りなんてやめて、一緒にご飯を食べましょうよ。

んで、その後ちょーっと話し合いでもしちゃいませんか?』



モニターに映るは今までと変わらず、笑顔で手を振っております。

どうしようかとクダリを見れば、固く瞳を閉じ首を横に振って誘いに乗りません



「…せっかくの誘いでございますが、今日は勘弁してくださいまし。」



『………今日が駄目ならいつなら良いんですか?ちゃんと向き合いません?

この際はっきり白黒つけた方が、今後のお互いの為になりますしー…ね?』



白黒つけると言われて、クダリの肩が大きく震えました。

あぁ、貴方は色々悩んでいてもという友人を失いたくないのですね。

だから直接会って何かを言われる…責められるのを恐れているのですね。

ですが、そのまま逃げ続けてられない事もわかっているでしょうに


部屋の中と外でしばし重苦しい沈黙が続きましたが、それを破ったのは

やはりでございました。



『ここで帰る私じゃないですからね、引いてもダメなら体当たりしますよ

チャオブ、ドアに向かって渾身のツッパリお見舞いしてぶち破ってー!』



「お待ちください!そんな事をすれば…『なら開けてくださいよー』……」



リビングに居るクダリを見れば、こちらを不安そうに見ておりますが

お互いの為にも、ここらでキッチリ話し合うべきなのです。

ドアを開けるとは本当にチャオブをボールに戻しておりました。



「…本当に貴女はとんでもない事をやらかそうとしやがりますねっ!」



「あははー、それが私ですからね。変えるつもりはないんで諦めて下さい。」



ドアを開けて中に招き入れれば、はそのままクダリの前に立ちました。

俯いたまま、決して目を合わそうとしない様子に溜息をつくとしゃがみ込こんで

膝の上で固く握られた手に自分の手を重ね合わせるとゆっくり口を開きました



「こんなにやつれてしまうまで、自分を責める意味があるんですか?

今のクダリさんを見たら、ネイティオはきっと悲しむと思うんですけど。」



「……っ!」



「クダリさん、ネイティオは貴方が大好きだったんです。

だから貴方を助けたんです。その気持ちをちゃんと受け取ってくれませんか?」



「……どーしてはそんな事が言えるの?」



「私もネイティオと同じ、クダリさんが大好きだからです。

あの子の気持ちは私の気持ちでもあったから、だから止めませんでした。」



「でもがあの時止めてさえいれば、ネイティオは死ななかった!

ネイティオを家族って言ってたのに、どーして止めなかったの?

の気持ちってその程度なの?そんな簡単に割り切れちゃうモノなの?!」



堰を切ったように話し始めたクダリに、は何も言わず黙って聞くだけ

ですがその瞳がとても悲しげに、それでも懸命に微笑もうとしてる様でした。

玄関の方を見るとの後と追いかけてきたのでしょう、4人が揃っており

クダリとの成り行きをただ黙って見守っておりました。



「あのね、どーしてはボクに何も言わないの?悲しくないの?

辛くないの?!ボクを責めようと思わないの?そんな事もしたくないの?

にとってボクもネイティオもその程度の存在なの?」



「クダリ、言い過ぎでございますっ!、申し訳ございません…」



「どーしてそこでノボリが謝るの?!悪いのはボクでしょ!

誰もボクに何も言わない、何もなかったみたいに接してくるのが信じらんない!

ホントはボクが…ボクがあの時死んじゃえば──!!………」



パンっ!と乾いた音がして、クダリはソレを言い切る事ができませんでした。

頬を抑え、呆然としたように見ているのはで、彼女は目の前に翳した掌を

握り締め、ゆっくりと一度瞬きをした後にクダリの胸ぐらを掴み上げました。



「それは…それだけは言わせない!あの子の死を無駄にするな。

あれだけ人を嫌ってたあの子があんなにも慕っていた貴方がそれを言うな!」



「だけど事実そう思うんだっ!ボクだってネイティオが大好きだった!

こんな事なるなら、放っておいて欲しかった!犠牲にして欲しくなかった!!

ボクの為に誰かが犠牲になって欲しくなかったって思うのは間違いなのっ?!」



胸元を掴んでいたの手を振り払い、今度は逆にに詰め寄ります

あぁ、こんな事をしてどうなるというのですか!

私が間に入っても二人は言い合いを止めません。



「私があの子でも同じ事をしてましたよ?クダリさんを失いたくないから!

大切な友人がいなくなってしまうなんてもう二度と味わいたくなんかないっ!

貴方は今生きてるでしょう?生きたくても生きれない事だってあるのに

その状況がどれだけ幸せな事なのか、もっとしっかり受け止めやがれっ!!

あの子の死を無駄にするな、あの子の思いを踏みにじるなっ!!」



「ボクだって…ボクだってネイティオが大切だった!失いたくなかった!!」



「それは私だって同じですっ!あの子に生きてて欲しかった!!

でも、クダリさんを助けたかった!だからわかってても頼んでしまった!」



「……、どーいう事…なの……?」



視線を逸らしたにクダリは詰め寄ります。

ネイティオがこうなるとわかってたのに止めなかった…という事でしょうか



「わかってたって言ったら、クダリさんはどうするんですか?

あの子の寿命をこんな形で終わらせる様に仕向けた私を軽蔑しますか?」



「そんな事をない!ネイティオはホントにが好きだった。

すっごく強い絆で結ばれたパートナーだった!それは間違いじゃない!!」



「でも事実ですよ。誰も犠牲にしたくないとか綺麗事を言ってたって

結局このザマですからね。大切なものを抱えすぎた私の罪なんでしょうねー。」



「どーしてそういう風に考えるの?論点をすり替えないで!」



「すり替えてませんよー。私にとっては根っこの部分は同じ事なんです。」



嵐の様な感情の応酬はナリを潜めた様でございますが、これは拙いのでは?

このままに話を続けさせてはいけないと私の中で警鐘が響いておりますが

どう言えば良いのかわかりません。

はあの好きになれない笑いを貼り付けました



「だからクダリさんは自分を責める必要なんかこれっぽっちもないんです。

責めるなら、あの子を死なせる様な指示を出した私を責めて下さいね。

あの子を想ってくれるなら、クダリさんはクダリさんでいてください。

んじゃ、私が言いたい事はこれだけなんで帰ります。それではっ!」



言う事はそれだけと、そのまま私達の横を通り抜けて玄関に向かいます。

クダリは違うそうじゃない、と尚も話を続けようとするのですが

聞く耳は持たないとでもいう風にそのまま部屋を出て行きました。