3章・旅は道連れ先駆け編
抱え込まれたもの
悪夢の様な事件のあった後からギアステは職員全員が走り回っております。
事件の翌日に本部へ報告を済ませ、クダリに手術を受けさせる為に病院へ
本人はこの件が片付くまではと散々駄々をこねましたが実力行使でございます。
トレイン関係の方々はシステムと路線全般の総チェックを
システム関係の方々はセキュリティの強化と各端末の総チェックを
事務職の方々は警察やバトルトレインを運休させたために各方面への連絡や
その事後処理へと、それは忙しく立ち回られておりました。
達の部署も一般施設のチェックの他に路線保全管理の方々へのサポートで
それはそれは休憩時間も削って職務をしております。
元プラズマ団だったウイキョウの他に今回協力していただいた方々の保護という
目的も兼ねて何名かが彼の元にやってきて、慣れぬ作業に励んでおります。
全ては状況回復に向けて、順調に進んでいるのでございますけどねぇ……。
溜息をついて、各部署から届いた書類に目を通しているとノックがして
が書類を手に執務室へとやってまいりました。
「黒ボス、保全管理課の担当分の工程表ができたんでサインをお願いするよ。
総務や関連部署からのサインはあるし、決定事項だから急がなくて良いので」
「ありがとうございます、ウイキョウの仲間達はどうですか?
が全責任をみると言っておりますが、やっていけそうでしょうか?」
「うん、仕事の飲み込みが早いって課長もも喜んでるよ。
人数的に大所帯になったけど、ここの施設の規模でいえば多くはないしね。
…そういえば黒ボスは午前中白ボスの見舞いに行ったんでしょう?」
「術後の経過は良好ですので、2,3日中には退院できそうだと。
ただ、トレインの乗車は骨がつくまでは無理だそうでございます。」
「まぁ、若いから仮骨形成も早いだろうしね。そっちは心配してないよ。」
「本部からは施設とトレインのセキュリティを含めたシステム強化の指導と
注意勧告のみでしたので、本人は早く復帰したいと言っております。」
事件が起こるまで、私達がとった対策全てを本部に報告して返事を待てば
やるだけの事はやっていたと受け止められたのが幸いでございます。
被害も、最小限度ですんだ事が一番の理由でしょうが、その報告書の作成を
が全て行っていたからだと、私達職員一同思っております。
溜息をついてそちらを見れば、同じ様に溜息をつき、決済の終わった書類を取り
それぞれのボックスへ分別するが何を聞きたいのか等わかっております。
「…目に見える傷は癒えても、見えない傷は癒えるのは難しいですね。」
「今回の事は俺達に非はない、責められるべき相手はプラズマ団…でしょう?」
そうやって割り切って日々を過ごしていかなくてはいけないのはわかってます。
だからこそ、私もこうやって日々の業務に追われているのですけどね…
時間は誰にでも平等に、無慈悲に流れるものですから。
何も言わず、ただ頷くだけしかできない私をみて、が目を細めます。
「まぁは次の日から通常運転で、逆に他の連中に心配されてたけどね。」
「彼女は…無理をしているのではありませんか?」
これはずっと気になっていたのです。
ネイティオが亡くなった次の日、は普通に出勤してまいりました。
あの状況を見ていた職員達にあの子の死を告げた時も淡々としており。
逆に皆がそんなと、ネイティの代わりに仕事を手伝うリグレーを見て
どう接して良いものか悩んだのですから。
『あの子が自分の意思で守ったものを、私も守るだけですよ。』
そう言って笑った顔は嘘や誤魔化しなどはなく、本心からそう思ってるのだと
誰が見てもわかる程で、私達も同じ決意を改めてしたのです。
でも、公私の区別をキッチリする彼女は家に帰ってもそうなのでしょうか?
ネイティを家族だと言っていたのに、そう簡単に割り切れるのでしょうか?
「黒ボス、生きていればどうしようもない事だってあるでしょう?
胸をかきむしり、叫びたくなる事だって一度や二度じゃきかない位ある。
だからってそのまま立ち止まって膝をついてしまって良いのかな?」
「わかっておりますが、その感情は溜め込んで良いものではないでしょう?
全部一気にとは言いませんが小出しにでも吐き出さねばと思うのです。」
「そんな事、黒ボスに言われるまでもなく理解してますが?」
バンっ!と音を立てた方を見れば、が書類を叩きつけこちらを見ております
この顔は以前大掃除をしてる最中が複数のポケモン達を相手にした時に
自分の爪で掌を傷つけた彼女を巡って言い争った時と同じですね。
例によって、いくら手を差し伸べようと掴んではくれないのでしょう。
の性格を考えれば、私が思ってる事等とうに実行済に決まってました。
こんな顔をさせたくて言ったわけじゃないのです、やはり私は言葉が足りない。
正論と言ったとしても、それが全てに当てはまる訳ではないのに…
「はぁ……彼女の性格にも困ったものでございますね」
私の言葉にがすみませんと謝罪をしますが、彼が謝る事ではないので
わかってますよと笑えば、肩を下げてそうだったなと苦笑いをしてから
「あまりにも相変わらずだから俺もちょっと感情的になりやすくなっててね
課長…はあいつ自身が乗りこなきゃ意味がねぇから放っておけって言うし
流石にこの状況で倒れるわけにはいかねぇのがわかってるから食事も睡眠も
とってはいるみてぇだが、それだからって良いってモンじゃねぇだろ?」
頭をガリガリとかいて舌打ちをし、仕事モードをオフにする程疲れてる様です
確かに今この状況でその様な無責任な行動を彼女がとるわけがないとわかっても
それは乗り越えねばならない事を後回しにしてしまう事になるのですから
の言う通りで良いはずなどないのです。
「手持ちとの死に別れってのは何度体験しても慣れるモンじゃねぇ。
それでも俺達はちゃんとあいつらの死を受け止める事ができるから良いがな。」
「それは私達も同じでございます。クダリもきっと乗り越えてくれますとも。」
私達とて何度も手持ちの死に向き合っております。
彼等は最期まで高潔で心優しく素晴らしいパートナーでございました。
私もクダリも彼等に恥ずかしくないトレーナーである様その都度心に誓います。
今は自責の念に囚われるのは仕方がありませんが、きっと思い出してくれるはず
私の自慢の片割れで相棒であるクダリならきっと、と信じております!
「今は黙って見てる時期なんだろうが、俺はそういうのが苦手で、つい…な。」
「ふふっ、それは私もでございます。今はこらえる、がまんで耐えましょう。」
お互いの拳をコツンと合わせると、は笑いながら部屋を出て行きました。
話してスッキリした気がいたしますから、私も相当溜め込んでたのでしょう
気を取り直して書類の山に目を通せば、見慣れない書式の書類の束があります。
どうやらが忘れていったのでしょう、見た目ではわからないけれども
連日の上層部とのディスカッションという名の立て直しで疲れてるのでしょう
ずっとデスクワークで座りっぱなしだったので少し歩くのも気分転換です。
いつもならトレインに乗車するお客様で賑わうエントランスも閑散としており
私の靴音だけが響いております。早くいつもの業務に戻りたいですね。
クダリがしばらくはバトル業務が出来ないので、そちらもどうにかしなくては
あぁ、まだまだやらねばならない事が山積みでございます!
「黒ボス?」
耳慣れた声に振り返れば脚立を肩に担いだが作業服を着た数名を連れて
後ろに立っておりました。彼等はウイキョウの仲間だった方達でございますね。
は彼等に先に行く様に指示を出すと、目の前に書類を差し出しました。
「後からついでに執務室へ寄ろうと思ってたけど丁度良いんで渡しますね。
ここから先は個人的な話になっちゃうんですけど、クダリさんの具合は?
お見舞いに行きたくても面会時間には行けそうもないんで気になって…。」
「手術は無事に終わりましてキズの状態も問題ない様でして
多分2,3日中には退院できるそうでございます。」
「早っ!って、イッシュじゃ長期入院ってよっぽど重傷じゃなきゃしないって
も言ってたっけ…、退院してきたらお祝いしなきゃですね!」
「ふふっ、ありがとうございます。きっとクダリも喜ぶでしょう。」
「クダリさんの好きなものづくししちゃいますよー!それじゃ行きますね。」
手を振りながら行ってしまうに小さくてを振って見送ってから溜息ひとつ
本当は辛くないですか?無理をしてないですか?と、聞きたかった。
それを聞いてもはきっと笑って大丈夫ですよ!と笑うのでしょうね…
思い浮かべたのは病室でのクダリで、彼はあれからずっと塞ぎ込んでいるのです
黙ったまま何処か遠くを見て、苦悶の表情を浮かべる様子は傍で見ていても
その辛さがわかる程で、かといって私は何も言う事ができません。
何を言って困った様に笑うだけで、そんな顔をさせたいわけじゃないのです。
私達との違いはなんなのでしょうね、無理をしてるとわかっているのは
恐らく私ととと…あとはとでございましょう。
はの代わりだと言って泣いて、を困らせておりましたね
は何も言わず、の肩を叩いて傍におりましたっけ…
私もクダリの前での様に泣けば良いのでしょうか?
それともの様に傍にいれば良いのでしょうか?