3章・旅は道連れ先駆け編 -Fall down-

3章・旅は道連れ先駆け編

Fall down



全部夢なら良いのに…って思う事がボクにはよくある。

ノボリとすっごい喧嘩をした時とか、インゴとエメットが兄さんじゃないって

聞いた時とか、二人がホントのお父さんの所へ帰っちゃった時だったりだとか

後は…父さんと母さんが死んじゃった時。

悪い出来事が全部嘘なら、ボクはずっとハッピーだったのかな?


こんな事考えてる暇なんかないはずなのに、今起きてる事が現実離れしてて

一生懸命動かしてる手足とは別に、頭の中ではさっきからグルグルと昔の事が

次から次へと思い出されてる。



『クダリ、後少し、もう少しの辛抱でございます!

どうか今しばらく耐えてくださいまし、頑張ってくださいましっ!!』



ノボリの声が運転室のスピーカーから流れる。滅多にきかない焦った様な声

ボクが思ってる以上に、事態は良くないんだろうな。



「大丈夫!ボクの運転技術はシンゲンのお墨付き!!」



カーブ手前でブレーキレバーを最大限に動かす。

ホントはこのスピードでこんな事をしたら、それこそ脱線させちゃうんだけど

ブレーキシステムがやられちゃってるのかな?ききが凄く悪くなってる。

横Gに体がもってかれそうになるのを踏ん張って耐えるけど、そろそろヤバい。


あぁ、これが嘘だったら…夢だった良いのに。

どーしてボクが運転の練習をしてる時にウィルスが発症したの?

どーして完璧に隔離してたはずのウィルスが作用してるの?

どーして手動運転がうまく機能してないの?


って、今更そんな事を言ってもどーしよーもないのはわかってる。

シングルトレインで良かった。他のトレインだったら別の車輌も巻き込んでた。

走行練習の時で良かった。お客様や職員が乗ってたらもっと大変だった。

落ち着けボク、運転士時代に沢山言われてたでしょ?



『クダリ、運転士二必要ナノハ 運転技術ダケジャアリマセン。

有事ヲ乗リ切ル適応力、判断力トモ言ワレマスガ ソレハ有ッテ当然デス。

一番大事ナノハ 車輌内ノ誰ヨリモ長持チスル 勇気ト精神力ナンデスヨ。』



オッケー、シンゲン!どんな時も冷静に、それはノボリよりも上手くできる事。

きっとノボリはモニターに向かってへの字口をもっと酷くしてるんだろうな

ボクの事を泣き虫だって言うけど、ホントはノボリの方が泣き虫でしょ?

今もきっと泣きたいのを我慢してる。戻ったらハグして安心させなきゃ。

大丈夫、も来てシステムの修正にとりかかってるって言ってた。

も一緒に手伝ってくれてるみたいだし、車輌基地からはトールも来てる

もどんだけ設備を壊しても良いから、頑張れって…


グルグル廻る環状線、ボクの思考もそんな感じ

今ボクがやらなきゃいけない事を全部やって、後は待つだけ。

ホルダーに収められたボールがカタカタ揺れてるのを手で押さえる。

ボクに危険が迫ってるってわかってるこの子達は出てきたいんだろうけど駄目

もし脱線する事になったら大変だもん。怪我なんてさせたくないよ。


加速をできるだけ押さえ込める様に頑張ってるけど、スピードメーターは

確実にメモリを上げて危険なレベルにとっくに入っちゃってる。



『白ボス、ウィルスの解除コードが見つかった!

これからサクッとやっちゃうから、もーちょっと頑張ってちょ!!』



ホントに?!良かった、の口調から考えたら多分そんなにかかんない

ギリギリの所、すっごく紙一重って感じだけど間に合ってくれた!



『白ボス、エンジンが焼けてもグランパとオレ達が何とかします!

エンジンブレーキをフルに使って何とか凌いで下さいっ!!』



「それはもうやってる!安全保安課の皆は車輌火災を想定して

いつでも消火作業が出来る様に待機しておいて。

整備班、ドアが完全にクローズされてて中からは開けらんない。

停車後速やかに対応できるように準備して待機しておいて!」



エンジンブレーキをかけるのも限界があるし

外に出るためのドアが開かない今、やりすぎて火災を起こしたら大変

想定される出来事への対応と指示は全部出した。後は待てば良いだけ

大丈夫、まだ頑張れる。絶対この状況を切り抜けてみせる!!


シングルトレインは環状線、1周ごとにスピードが確実に上がってる

もう何周したのかわかんなくなって来た時、今まで静かだったスピーカーから

ノボリの、さっきよりはちょっと落ち着いたっぽい声が流れた。



『クダリ、ウィルスの影響はもうございません。

今、完全に削除したととジャッキーから報告がございました!

安全第一で停車してくださいまし。よく頑張りました、もう大丈夫ですよ。』


あぁ…何とか持ち堪えられた!

大丈夫ってわかって肩の力を抜く。やっぱり凄く緊張してたんだなー

いつもならずっと乗ってたいって思うトレインだけど今は早く降りたい。

ノボリを、皆を安心させなきゃ。それから執務室に戻ってコーヒー飲みたい!

それからこの件の報告書を書かなきゃなんないな…今日は徹夜かも……


エンジンブレーキを併用しながら、ブレーキのレバーをゆっくりと動かす。

うん、やっぱりウィルスの影響だったのかな?元に戻ってる。

だけどレバーに掛かる力を確認してたら、急に抵抗が無くなった。



『クダリ、どうしました?』



ノボリのちょっと焦った様な声がやけに耳に響く。

あぁ…これが夢だったらどんなに良いのに…何かの間違いだったら良いのに。



「ゴメン、ブレーキが完全にやられちゃった。

エンジンブレーキもこれ以上は限界、この次の最大Rをやり過ごせない。」



スピーカーから聞こえる皆の声が凄く遠くに聞こえる様な気がする。

折角皆が頑張ってくれたのに!皆でお疲れ様、大変だったねって笑いたいのに

どうやら、そんな時はこないみたいだ…どれだけ冷静になっても、もう無理。


ちょっとだけ速度を落としたトレインはまだスピードを殺せていない。

これで最大Rを曲がりきるのは不可能で脱線は避けらんない。

それはつまり全部終わりって事なのに、何でボクはこんなに冷静なんだろ?

今ボクがやらなきゃいけない事は…トレインと設備の損傷を最小限にする事。

一番安全な最後尾に移動したって、助かる保証は無いんだから

サブウェイマスターとして、被害を最小限度に食い止めなきゃ駄目だよね?


大きく深呼吸をして、前を見る。

周囲の景色はやっぱり信じらんないスピードで飛ぶように流れてる



「…ボクはこれから被害を最小限度にするように頑張る。

サブウェイマスターとして、運転士として、これがボクに出来る最後の仕事。

後の事はノボリの指示に従って、皆迅速に対応して欲しい。」



『嫌でございます!そんな事を言わないでくださいまし!!』



「ノボリはサブウェイマスターとして、ちゃんとしなきゃダメ。」



ノボリの声はいつもと違って、サブウェイマスターとしてじゃなくなってる

そんなんじゃこれからどーするの?いつもみたいにしっかりしてくれなきゃ

いつだって冷静にってボクに言ってるでしょ?



『クダリ……っ、私を置いて行かないでくださいまし…っ!

ひとりにしないで下さいましっ!お願いです、クダリ…クダリっ!!』



『ノボリ…っ!た………頼んだよ。』



違う、こんな事を言いたいんじゃない。でもホントの気持ちは言えないよ。

マイクの音声をオフにして、緊急通報のボタンもオフにする。

もう終わり、制御が効かなくなった車輌にボクの助けては通じない



「…う……っ、ノボリ、ノボリ…っ…やだよぉ…っ!!」



ここにひとりでいる事が凄く嫌だけど、ノボリがいなくて良かった

あ、ダブルのサブウェイマスターがいなくなっちゃうけど、に頼めば良いか

でもマルチはどうするんだろう…が乗物酔いしなきゃ頼めるのになぁ…

大丈夫、ボクがいなくなってもボクの代わりをしてくれる人はいる。

ノボリも凄く泣いちゃうだろうけど、その後はちゃんとやれるよね?


最後にもう一度君と一緒にバトルをしたかったな…

大好きなボクの片割れ、お兄ちゃんで相棒で一番の理解者で大切な…ノボリ

いつまでも二人、これからも二両編成でどこまでも行けるって思ってた。

泣き崩れそうになるのを我慢して立ってるのは無様な姿をみせたくないから

最後のボクの姿を…最後までサブウェイマスターとして頑張ったボクを見てね

後はその瞬間が来るまで、しっかり前を向いていれば良いだけだ。


袖で乱暴に顔を拭って前を見据えた時、ライトにゆらりと影が映った



「嘘…でしょ…っ……やめて、嫌だよぉ…っ!!」



こんな時に見間違えなんてしない、どんなに遠くてもボクにはわかる。

線路の前に両手を大きく広げて立ってる縞のコートを見間違えなんてしない


いやだ、このままじゃノボリまで巻き込んじゃう。

だけど、どれだけブレーキレバーを動かしても速度は落ちてくれない。

最期にもう一度会いたいとは思ったけど、こんなのは望んでない!!

金属同士が擦れあう嫌な音を立てながら、ノボリの姿がどんどん大きくなる







『………』



迫り来るトレインを全く気にしない素振りでノボリはゆっくりと口を動かした



「!!…ノボリ…ノボリ……ぃ…っ!!」



サブウェイマスターとしてのクダリじゃなくても、もう良いよね?

ノボリ、大好きだよ。こんな事になっちゃってゴメンネ。

こんな時に思う事じゃないけど、ノボリと双子で良かった。

ホントはずっと怖くて震えてたんだ。寂しくって悲しかったんだけど平気だよ。

でも、ノボリが轢かれるは見たくないから目を閉じさせてね。



「…ありがとう…っ……!!」



聞こえるはずないけどそれでも伝えたくて叫んだ後、ギュって目を閉じる

その後の凄い衝撃がきて、ボクの時間は止まった。









もしも生まれ変われるなら…その時はまた一緒がいいな