3章・旅は道連れ先駆け編
夢の途中、旅の途中
とのライモンシティジムでのバトルが終了しました。
日を空けて、それぞれ昼休憩と午後休憩を使ってのチャレンジなど
前代未聞で通常であれば考えられないのでございますが
流石はマスターランク、見事にやり遂げてしまわれました。
他の職員の皆様も二人の意気込みに刺激を受けておられる様で
バトルへの取り組みが一層熱心になられたのは喜ばしい事でございます。
スーパーマルチの待機中、その様な事を考えながら控え室にて待てば
インカムがチャレンジャーのやってくる事を告げます。
今は目の前のバトルに集中しましょうか。
「本日はご乗車ありが…おや、トウヤ様とトウコ様でございましたか。」
「うわー、二人共すっごい久しぶり!」
最終車両のドアが開き、現れたのはトウヤ様とトウコ様でございました。
二人のお顔を見て、私とクダリはおや?と顔を見合わせてしまいました。
それ程、今日のお二人の様子がいつもと違ったのでございます。
「ノボリさんもクダリさんもお久しぶりでっす!
今日は…今日こそは絶対、何が何でも勝ちますからっ!ねぇ、トウヤ?」
「おう、この日の為にフルアタパーティを一から準備したもんな!
いつもでしたが、今日はそれ以上に本気も本気、超ド本気でいきまっす!」
「……ボク達いつも本気、だって本気じゃなくちゃつまらない。」
お二人の瞳が、表情が、その全てが私達を倒すという気迫に満ちており
それを受け、クダリがニヤリと音が聞こえそうな笑みを浮かべます。
バトルに関して私より貪欲なこの片割れはこれから始まるバトルが
今迄以上に心躍るものになるのがわかっているのでございましょう。
その予感は間違いではないと私も感じております。
「それじゃいつもの前口上は省略して、早速始めちゃいましょう!」
お互いがボールからポケモンを出してバトルスタートでございますっ!
「オノノクス戦闘不能!このバトル、カノコタウンのトウヤ、トウコの勝利!」
どれだけの時間をこの一戦に費やしたのでしょう。時間の感覚がなくなる程
私達はバトルに集中しておりました。フィールドの子達をボールへ戻しても
未だバトル中の高揚感、興奮が収まらず続いております。
「凄い…凄い凄いすっっっっごいっ!
負けちゃったけど納得、トウヤもトウコも凄く強かった、強すぎる!
二人の強さ、ポケモンへの信頼、つきぬ応援!うん!最高に面白かった!」
「ブラボー!!本気でブラボーですっ!!
お二人とポケモンの最高のコンビネーション、非常に素晴らしいですっ!」
「…勝った?ホントのホントに勝てたのか?」
「そうだよ、勝ったんだよ!私達やっとサブウェイマスターに勝ったよ!!
トウヤ、凄かった!凄い本気が私にも伝染してすっごいパワーになった!」
トウコ様がしゃがみこんだトウヤ様にしがみつき泣きながら笑っております。
あぁ、初めて私達に挑戦されたのはいつだったでしょうか。
当初はバトル自体が楽しいと、さほど勝ち負けを気にしてはおられませんでした。
いつからか私達に勝利したい、その気持ちが伝わるバトルになりつつも
やはりバトル自体を楽しんでおられるようでございましたが、今回は違いました
何が何でも勝利したい、形振り構わぬその気迫で挑まれた結果でございます。
「二人とのバトルはいつだってスマイルになれるから大好き!
今日のバトルもいっぱいスマイルになれてハッピーになった!」
「えぇ、よろしければまた新しい組み合わせで私どもに挑んで下さる様
是非ともお願いします!トウヤ様、トウコ様、勝利おめでとうございます!」
ホームに戻るまでの間、いつもの様にお話をと話しかければ
お二人が顔を合わせてからなんだか寂しそうに笑いました。
「実は、オレ達ライモンシティを離れる事になったんです。」
「え?二人共カノコタウンに帰っちゃうの?」
「家には帰りません。私達、自分のやりたい事を見つけたんです。」
「だから最初からフルアタメンバーを作り直して、技構成も考えまくって
これ以上はもうないって位まで鍛え上げて今回チャレンジしたんです。」
お二人は肩に下げたバッグから書類を出して私達に差し出します。
クダリと二人でそれぞれを受け取り拝見して私達は驚いてしまいました。
「これ…ポケモンレンジャー養成所の入所案内……トウコ、もしかして
やりたい事って前に言ってたポケモンレンジャーになるって事?」
「これは鉄道学校の入学案内書…ではトウヤ様はてつどういんに?」
「「はいっ!」」
まだまだいたいけな少年少女だと思っておりました彼等が夢を見つけ
その夢への第一歩を踏み出そうとするまで成長されていたのですね。
お二人の顔を見れば、出会った当初に比べ確かに大人びております。
心根が変わっていないせいか、私もクダリもすっかり失念しておりました。
「そっか、二人が別々なレールを選んだんだからそれは仕方ない。
目的地を見つけた事はすっごく素敵な事、うん、そーいう事なら喜ばなきゃ!」
「えぇ、後は全速前進でひた走るだけ、頑張ってくださいまし!
お二人ならきっと夢が叶えられる、そう私達は信じておりますよ?」
「ありがとうございます、チャレンジ前にさん達の所にお邪魔したら
お二人と同じ事を言ってくださって、それもすっごいパワーになったんです。
立派な…ってのは変だけど、私は自分が目指したいレンジャーになりまっす!」
「まずはちゃんと社会人として一人前にならなきゃ何も始められない。
そしてあいつを…レシラムを迎えに行きます。あいつはきっと待ってるから…」
私達が書類をそれぞれにお返しすると、大切そうにバッグにしまいました。
人生の分岐点に夢膨らませ、煌き輝く笑顔を見せて話されるお二人が
とても頼もしく、そして眩しく見えて、私達は目を細めるしかありません。
「オレがトウコと組むのはこれからはもうありません。
最後の最後に勝てたって以外に、心に残るバトルをお二人とできて良かった。」
「勝てたのも確かに嬉しいけど、自分がやった事が無駄になってないって
そう思えるバトルが出来てとても嬉しかったです!」
いつもならホームにてお見送りをするのですが、今日は地上まで
彼等の新たな旅立ちなのですから、これ位しても問題はないでしょう。
私達の隣にはダンゴロとドテッコツが寄り添い見送りに花を添えます。
「絶対バトルサブウェイに就職しますから、その時はよろしくでっす!」
「ライモンシティに立ち寄った時はダブルとシングルで暴れますから!
その時はまたすっごいバトルをしてくださいね!」
「トウヤ様が職員として戻ってこられるのを心待ちにしております。
トウコ様、レンジャーの任務は危険を伴うものも多いです。
どうか決して無理はせずに、お身体には充分気をつけてくださいまし。」
「トウヤと一緒に仕事ができるのを今から楽しみに待ってる!
トウコ、ボク達の両親もポケモンレンジャーだった。
キミならきっと良いポケモンレンジャーになれる!ポケモン達を守ってね?」
「「はいっ!」」
ストリートを曲がり、姿が見えなくなるまで私達は手を振り続けた後
ギアステへ戻ろうと後ろを向いて歩き始めると
隣でクダリが溜息をついてからとても穏やかな表情をして笑いました。
「お別れってすっごく悲しいって思ってたけど、こーいうのなら平気。
トウヤもトウコもまたきっと会いに来てくれるよね?」
「えぇ、今は再会の時を楽しみに待つ事にいたしましょう。」
喜びと、そしてほんの少々の寂しさを胸に階段を降りようとしたその時
「あのっ、すみません!もしかしてサブウェイマスターのお二人ですか?」
声の主を確認すべく振り返ればトウヤ様とトウコ様が向かわれた通りから
やってきたとみられる少年と少女がその瞳を輝かせておりました。
ここは地下鉄内ではございませんが、誰かと聞かれたら答えねばなりませんね。
「えぇ。私、サブウェイマスターのノボリと申します!
いつもはギアステーションから出発します地下鉄にて
ポケモン勝負をしております。」
「ボク、クダリ。サブウェイマスターしてる。
ダブルバトルが好き、2匹のコンビネーションが好き!」
恐らく彼等は旅の途中のトレーナーなのでしょう。
ここまでこられたという事は最低でも3個のバッジをゲットされてるはず
これは是非ともバトルサブウェイにも挑戦していただきたいですね。
名乗りあげると一層表情が煌いて、出会った頃のトウヤ様トウコ様を思い出します
「あのっ、凄く突然なんですがバトルをしてもらえませんか?」
「ボクと?」
「私と、でございますか?」
突然のバトルの申し込みに私もクダリも驚いてしまいましたが
どんな時もトレーナーであれば、目と目が合えばポケモン勝負でございました。
ですが規約では私達が地下鉄外でバトルをするのは禁じられているわけで…
「うーん、ボク達トレイン以外でのバトルはできないんだけど…
そうだ!あのね、バトルトレインでのポケモンを使ってのバトルはできないけど
この子達…ボク達個人のポケモンならオッケーかもしんない。ね、ノボリ?」
「ふむ……2VS2のマルチバトルでしたら特別にお相手いたしましょう。」
私達がバトルを受けたのを見て、少年の瞳が一層輝きを増しました。
興奮気味に隣の少女の手を取って喜んでおります。
「やった!ねぇメイちゃんこれは大チャンスだよ?
だってギアステーションで最強のポケモントレーナーなんだぜ!
すっごいチャンスだろ!だから一緒に戦ってよ!」
「えぇ?!私そんなに強くないもん。でも、こんなチャンスは確かにないし…
うん、私で良いなら。一緒に頑張ろうね!」
「ありがとう!
ポケモン好き同士が見せるのは、ベストすぎるコンビネーションだね!」
「この様な場所での勝負はイレギュラーですがこれも何かの縁
戦う事で見える景色、わかる事もあるでしょう。
ではクダリ、何かございましたらどうぞ!」
「ルールを守って安全運転!目指すは勝利!出発進行!」
バトルを始めてすぐ感じたのですが、この二人は初めて私達とバトルをした
トウヤ様とトウコ様に非常によく似ておりますね。
横でドテッコツに指示を出してるクダリも同じように感じているのでしょうか
その瞳が先程のバトルの時と同じように細められております。
「ノボリ、この子達最初の頃のトウヤとトウコにすっごく似てる!
なんだろう、ボクすっごくワクワクしてる。嬉しいって気持ちがとめらんない!」
「えぇ、私も同感でございますっ!」
技の構成も指示の出し方もまだまだではございますが、それでも随所に
荒削りではございますがきらめくものがあり、私の感情をも昂ぶらせます。
彼等なら、素晴らしいトレーナーへと変貌する事でございましょう。
この様な出会いがあるのなら、たまには地上に出るのも良いかもしれません。