三章・指差確認準備中!編 -トップの自覚とあれやこれ-

三章・指差確認準備中!編

トップの自覚とあれやこれ

※注意※
 現地での話の為ボス達の会話も視点語りも普段の表記とは異なっております。



マルチの乗車後、執務室へ戻る途中に保全管理課のドアが空いており

何気なく立ち止まって二人で中の様子を伺いました。



『はいはーい、それじゃあこっちの作業は任せるよ。

んで、ゲンナイ課長は次の作業を誰に担当させるべきだと思いますか?』



『そうっすね、この作業には足場を使うんで足場組立作業主任者の資格持ち…

そうなると俺が入らなくちゃ駄目じゃないかと思うんです。』



『…うんと、皆に聞きたいんだけど経験年数3年以上の人手を挙げてー

ほい、ありがとね。君達この資格取ってみない?難しい知識はいらない。

学科の講習を2日間受けて、それで修了証がもらえるんだ。

この人数で課長しか資格保持者がいないってのは問題だと思う。』



『ちょっと聞いて良いか?オレ等には学がねぇ。

それでもそういう資格ってのは取ることが出来たりするのか?』



『できるよー、その代わり実務経験年数?そんなのが必要になるけどね。

この仕事をして3年以上経ってるなら、どんどん取れる資格は取ろうよ。

こういうのって仕事に役に立つだけじゃない。

資格を持ってるって事で、色んな仕事が出来るようになるんだよ。

スキルアップの大チャンスだと思うんだけどな。』



どうやら作業分担の会議…といったところでしょうか。

がなにやら随分と他の連中に資格取得を勧めておりますね。



『だけどよぅ、それって金がかかったりするんだよな?』



『そうだね、講習料金もそれなりにかかるし仕事を休んで行かなきゃならない。

ゲンナイ課長、ここではその様な資格取得に対する取り決めは?』



『うっ…すんません。そう言えば決めてなかったっす。』



その言葉に、の目が一瞬細まったのが見えました。

しかしすぐに困ったように苦笑いをすると、次の話にはいります。

これ以上は私達が聞いている必要はなさそうなので

二人でドアから離れました。



『資格かぁ…そういえばも凄い数の資格を持ってるよね。』



『そうですね、履歴書欄だけじゃ足りずに別紙参照と記入されていて

その数に私も驚きました。確かに色々な仕事を手がけるなら必要でしょう。』



執務室にて未決済分の書類の確認をしながら、新部署の動向を考えます。

が来てからは職員達の素行も改善されており、他部署からの苦情や

意見は殆ど聞かれなくなりました。

本来なら目的は果たしているのでしょうが、今が行おうとしてるのは



『…エメット、お前はゲンナイをどの様に評価しておりますか?』



業務報告書を作成中の片割れに、意見を求めれば苦笑いしております。



『作業員としては申し分ないと思うよ?

時間配分、作業の手順?後は仕事の早さと丁寧さで言えば

今迄委託してきた業者の中ではダントツじゃないかな?

だけどさ、こうして一企業に参入して色々と粗も目立ってきた。

他の業者よりはマシだけど、それで良いわけないじゃない。』



『ふむ…』



『失礼しまっす、エメットボスにちょっとお聞きしたい事があるんですが

今お時間ってもらえたりしますか?』



なにやら書類の束を抱えて、執務室にが入ってきました。



『ちょっと待ってね、今作業日報書いてるから。

その間、紅茶でも飲んで一服でもしてると良いよ。』



『んじゃお言葉に甘えてー、ついでなんでお二人の分も用意しますね。』



サーバーに向かって人数分の飲み物を用意したあとで、私達のデスクに置き

自分はエメットの隣のデスクに座って、書類をチェックし始めました。



、その書類は私達に見せるものですか?』



『いずれは?今の段階では見せられるようなモンじゃないです。

色々と資料も必要になるし、承認されるにはちょっと時間がかかりそう?』



『よし、ボクの方はOK.それで?は何を聞きたいのかな?』



『えっとですね、こちらの職員が業務に必要な資格を取得する際の

規約といいますか、そういう物があれば見せて欲しいんです。』



『ボク達の資格って全部ここで講習を受けれるものが殆どなんだよね。

もしくは本部に行って実務講習を受けるとか。

えっと…うん、この部分に書いてあるのがそうなんだけど。』



規約関係の書類の収められた戸棚から書類のファイルを取り出し

エメットは説明を始めました。

早速、動き始めるとは相変わらずのフットワークですね。



『成程、講習料金については免除額の割合が変わるんですね。

確かに必要な度合い?そんなのにも差がでちゃいますしねー。』



『保全管理課で、資格を取る場合もこちらの規約が利用できます。

ですが、その講習料金と必要度、それらを明記してもらわなくては

承認のしようがありません。この意味は理解できますね?』



『おー、太っ腹ですね!それは色々助かります。

あ、それと講習受講に関する休みの届出についてはどうなってますか?』



元々が個人で仕事をすると聞き及んでるので、破格の待遇になるのでしょう

書類の内容をメモ書きしながら、なにやら頷いております。

確かにこの件は色々と検討する必要があるのでしょうが、気に入りませんね。



エメットとが色々と話をしてるのを見ながら

私はインカムの通話をオンにします。



『こちらインゴでございます。保全管理課のゲンナイ課長、執務室へ。以上。』



私の声に二人が驚いて見ておりますが、気にするようなものでもございません。

しばらくして、ゲンナイが執務室へやってまいりました。



『失礼します。黒ボス、何でしょうか?』



『何でしょうか?ではないのでは?お前はあの部署のトップでしょう。

がやっている事になぜ同席しないのですか?』



『あ…それは』



私の言葉の意味をやっと理解したのでしょう、ゲンナイが俯きます。

ですが、それで立ち止まられても困るのです。



『本来なら、これら全てはお前が率先してやらねばならない事。

部下と同じ仕事をしていては困ります。部下を動かすために仕事をしなさい。

お前が動かなければ部下はついてこない、飾りの上司はここには不要です。』



全て言い終わってから、タバコに火をつけゲンナイの反応を見れば

おろした手を白くなるほど握り締めて、唇を噛んでおりました。



『今回の業務改善、本来はお前がやらなければならなかった事です。

お前は人を使うようになってまだ日が浅いのは知っております

ですが、現にこうやって人を使っている以上それは言い訳にしかなりません。

部下をどの様に動かすか、それは個人差がありますが

お前はその段階にすらたどり着いていないでしょう?自覚が足りません。

何か言いたい事があるのなら許可します、言ってみなさい。』



『何もありません。黒ボスのおっしゃる通りです。

自分でどうすれば良いかわからなくて、姐さん…さんに頼ってました。』



『わからない?わからなければどうすれば良いのです?

お前逹職人は仕事を見て覚えると聞いておりますが、それをしましたか?』



『いえ…』



自分の今迄の行動を振り返ってるのでしょう。

いかにに頼りきっていたのか、甘えていたのか理解したようですね。



『ゲンナイ、明日から一般の作業をする事を禁止します。

資格等が必要な部分を除いて、その他全ての就業時間を使って

からトップに立つものの仕事を盗み覚えなさい。

、明日からお前が暫く保全管理課を動かしなさい。

ゲンナイが口を出す事を禁止します。お前がしたい事をやりなさい。』



『ちょっと待ってください、インゴボスそれは…『わかりました。』って

ゲンナイ課長、わかったじゃないでしょう?君だってちゃんと動いてる。

それをちゃんと理解してもらう必要があるんだよ?』



やはりが反論してきましたが、ゲンナイが止めるとは思いませんでした。



『黒ボスの言うとおりです。オレの動いてる事なんて全然足りてない

経験不足は言い訳にもならないっす。わからない事は聞けば良い。でしょう?

オレはその努力すらしてなかったんですから、当然の処置です。』



の出向期間は残り少ない、お前のこれからに期待します。

、お前が持ち帰っている書類と同じものをゲンナイに渡しなさい。

お前がどれだけの努力をしているか教えなさい。私の話は終わりです。』



『黒ボス、ハッキリ言っていただいてありがとうございました。

黒ボスの期待を裏切るような真似はしません。では失礼します。』



『ボクもちょっと書類の事で話があるから、一緒に行こうか。

ちょっと待ってて、すぐ戻るから!』



ゲンナイが部屋を出た後、エメットも書類を持って出て行きました。

恐らく、私の言葉の補足をするつもりなのでしょうね。

こうやって部下を叱責すると、いつもそうするのですから。

執務室に残されたは溜息をつくと、書類を見始めました。



、なにか言いたい事があるなら許可します。』



『何もないですよー。インゴボス、ありがとうございます。

本当なら、私が言うべきだった事なんですよね。

でも、努力はしてたから…頑張ってるのは見てたんで言えなかったんです。』



『そうだろうと思っておりました。ですが努力が足りません。

お前はこっちに出向してからずっと家に仕事を持ち込んでるでしょう?

それら全てをゲンナイは知るべきです。見て盗むべきです。』



『私なんかを見て盗んでもって思ってたんですよ。

だからずっと悩んでて…いっその事と出向を交代しようかって

そんな事も考えていたんですよね。

ならもっと上手にゲンナイ課長を指導できたと思うんです。

ホント、私の力不足なんで申し訳ないです、すみませんでした。』



前にも思いましたが、は自分の力量を低く評価しすぎです。

トップとしての自覚、仕事ぶり、どれをとってもと同等で

卑下する事など何ひとつないのに……

すっかり落ち込んでしまっているを見て、私は自分の席を立ち

エメットのデスクに座りました。



『インゴボス?』



『お前は十分にやっております。お前の頑張りを見ていたからこそ

本来口を出さないといった部分に介入したのです。

私をこうやって動かせる人間は貴重ですよ?それを誇りなさい。』



『あ、ありがとうございます…っ』



の頭を撫でてやれば、私の行動が意外だったのでしょう。

視線を合わせずに照れた様にぶっきらぼうに返事をしておりますが

耳の赤いのは隠せておりませんよ?