三章・指差確認準備中!編 -似た者同士のあれやこれ-

三章・指差確認準備中!編

似た者同士のあれやこれ

※注意※
 現地での話の為ボス達の会話も視点語りも普段の表記とは異なっております。



あの人…お父さんが残してくれた家がボクとインゴの共有名義になって

ボクは仕事が終わってから、こうやって住める状態にする様に来ている。


正直言って、一人でこの家に入るのが辛いんだよね。

だってさ、部屋のあちこちにボク達や母さんへの思いがつまった物が

溢れかえってるんだ、ここにはあの頃欲しかったものが全部ある。


床の水拭きが終わって、バケツにモップを放り込んで立てかける。

後はキッチン周りと、寝室のリネン類はクリーニングから戻ってきてるから

それをセッティングすれば、この家は人が住む事が可能になる。

ネットの回線とか、家電類の配線はが昨日全部やってくれた。

今日もインゴと一緒に食事を持ってきたら、手伝ってくれるんだろうな。

シンクで新しいクロスを濡らしてから、ダイニングテーブルを拭く。

掃除が一段落ついて、ちょっと休憩ってタバコを吸ってたら

玄関のドアをノックする音がして、インゴとが入ってきた。



『ケータリングサービスですよー、今日は私とインゴさんで作りました!

エメットさんって、肉が苦手だったんですってね。

私ってば、知らないで肉メニューばっかり作っててすみませんでした。』



大きめのバスケットに何個も容器に分けられた夕食がテーブルに並ぶ。

インゴってばそんな事まで言わなくても良いのに!



『まぁ、苦手だけど食べられないわけじゃないんだよ。

イッシュにいる時は大好きだったんだけど、こっちでダメになったんだ。

だから気にしなくて良かったのに、でもこれも美味しそうだね!』



容器の蓋を開ければ、それを考えて作ったんだろうな

以前とは全く違って魚介類や野菜がメインの食事になってるし。

取り皿やカトラリーを準備してたらが来て食器類をじっと見てる。



?』



『あぁ、すみません。全部きっちり種類別っていうか揃えられてるんで

凄いなって思ったんですよ。お父様って料理もしてたんですかね?』



『料理をしていた記憶はありませんが、以前住んでいた所でも

カトラリー類から食器に至るまでは完璧に揃えられておりました。』



『…お客様用のものまでですもんねー。おまけにどれも高そう…

うわーい、お皿洗いとか凄く緊張しちゃうかもしんない!』



それは言える!って笑いながら食事をしてから

インゴが食器を洗ってる間に、二人で細々した所の掃除とか片付けをする。

子供部屋のベッドのリネン類もクリーニングに出して今はクローゼットの中。

あちこちに飾られたものは埃を払って、そのままにしてある。



『エメットさん、クリーニングから戻ってきたぬいぐるみはどうします?』



『あー、袋から出すとまた埃かぶるからそのままにしておいて!

見た目は悪いけど、そうやって置かせてもらうつもり。』



『エメット、冷蔵庫のリサイクルの手配は済んでるのですか?』



『うん、新品同様だけどフロンガスの問題もあるしね。

全く同じってわけにはいかなかったんだけど、それでも家電量販店で

似たような外観のやつが売ってたから、即買っちゃったんだ。

配送してきたら、持って行ってもらえるようにしてあるよ。』



この家にボクが住む事が決まってから、一番気をつけたのはその部分

お父さんが用意してくれた家の雰囲気を壊さない様にする事。

インゴがリビングから見渡してるのは、その辺を心配してるからだと思う。



『ふむ、ここまでくれば問題はありませんね。いつから暮らすのですか?』



の出向が終わってからと思ってるけど…それで良い?』



一応からも頼まれてるからね、ボクに自分がもらった鍵を渡したのは

インゴとを二人っきりにしないって意味もあったんだ。

まぁ、インゴもその辺は理解してると思うけど、は…どうなんだろ?

インゴが頷くのを確認してから、ふと周囲を見ればがいない。

トイレかな?と思ったんだけど、子供部屋に人の気配がするから行けば

は何をするでもなく、その場所に立ってた。



?』



『あぁ、すみません。綺麗になったこの部屋を見てたら

なんだか子供の頃のお二人がここにいたら、どんな風にすごしてたのかなって

ごめんなさい、こんな事言うべきじゃなかったですね。』



ボク達の過去の状況をすっかり知ってしまってるから、は言ってから

しまった!って顔をして慌ててボクに頭を下げて謝った。



『ボクもこの部屋に来ると同じ事考えてるから気にしないで。

ねぇ、はこの前のボクの質問に答えてないんだけど?

ボク達のこの状況を知ってどう思った?女々しいとか思った?』



この家を初めて見た後、ボクの質問に質問で返して答えてない。

それは意識して触れたくないって思ってるのかもしれないけど

ボクはの素直な気持ちを知りたいって思ってる。



『…過去は変えられない。そう私は答えましたよ?

女々しいとかそんな事は思っていません。でも…そうですね

言わせてもらえるのなら、羨ましかったです。』



『羨ましい?って、ボク達のあの状況を知ってもそんな事を言うの?』



『…お二人の境遇を私が知ってるのに、私の事を知らないのは

フェアーじゃないですから言いますけど、私の境遇もヘビーですよ?

両親…父親は母の再婚相手なので血の繋がりはありませんでしたけど

私は実の父がどんな人か知りません。義理の父は私に無関心でした。

そして、母親にも愛されたって記憶が一切ないんですよ。』



そっか、はボク達がの過去を知らないと思ってるんだ。

どうしよう…これは本当の事を言った方が良いのかな?



『愛された記憶が無い…とは?』



いつの間にかボクの隣に立ってたインゴがの言葉を受ける。

つまりは、そのまま本人から聞く形をとるって事だね。



『客観的に…一人の人間として見れば最低でしたね。

世間体ばかり気にして、自分さえよければ他人の事なんかどうでも良い。

子供は自分の立場をよく見せる為の道具としてしてしか扱わない。

…ちょっとでも気に食わなければ暴力でねじ伏せる。

それもヒステリックに手加減なしですからねー。

その時の暴力が元で、私の右耳は殆ど聴力がありません。

例の眩暈の発作も、乗り物酔いが酷いのも、全部それが原因です。』



そう言って右耳のそばで指を鳴らしてるんだけど、聞こえてないのかな?

首を傾げて、それから苦笑いをしてボク達を見つめる。



『…お前は、母親を憎んでいたのですか?』



インゴが女の人に向かってお前なんて言うのを初めて聞いて驚いた。

チャレンジャーや、他の女性には貴女様だったから

を貴女って呼ぶのだって珍しいって思ってたのに



『インゴさん、私はこの間言いましたよ?

親は子供を選べる…そうでしょう?産まないって選択ができるんですから

でも、子供は親を選べない…どんなに最低な人間でも親は親なんです。

だからなのかな?私は憎む事なんてできませんでした。

刷り込みみたいになってるんでしょうかね?私がこういう目にあうのは

母親の言う通り、自分が悪いから…ずっとそう思って自分を責めました。

私は親にも愛してもらえない様な、そんな人間なんだって。

だから愛情云々って言うけど、正直わからないんです。

仕方がないですよね、受けた事の無いものを理解なんて出来ませんよ。』



ノボリ逹から聞いてたけど、直接本人の口から聞くとすごく痛々しい。

だって笑いながら話すんだよ?その笑い方がなんて言うんだろう

全部どうでもいいやって、あきらめてヤケになってる感じなんだ。

そして、笑いながら泣くとか…駄目だ、これ以上はやめた方が良い。



『もう口を閉じなさい、お前は自分が泣いてるのに気がついてますか?』



『へ?うわわ、すみません!勝手に語って泣くとか駄目じゃん!!』



インゴもやっぱり同じ事を思ったみたい。

の腕を掴んで引き寄せて、そのまま抱きしめる。

泣いてる事すら自覚出来ないとか、それってどうなの?



、ゴメン。そんな事言わせるつもりで聞いたんじゃないんだ。

もう良いよ、がボク達に幻滅してなかったらそれで良いんだ。』



『幻滅なんてしませんってば、私こそごめんなさい。

こんな話、聞いてて楽しいものじゃないです。忘れてください。

んで、インゴさん…いい加減離して欲しいんですけど?』



『…私も告白させていただきますが

初めてあの症状が出たとき、お前は私を抱きしめて声をかけ続けてましたね?

お前が私を大切で大好きだと言った言葉、お前の鼓動、温もり

そしてエメットの存在があったからこそ、私は過去と向き合えました。

こうやって全てを乗り越える事が出来たのです。

お前も私の温もりを感じなさい。どんなお前…でも大切で大好きです。』



そう言って、この前がボク達にしてくれた様に

の背中を子供をあやす様にトントンとインゴは叩いて頭を撫でた

その瞬間、の表情が一気に崩れてそのままインゴの胸に顔を埋めた。



『ごめ…んなさいっ…でも、ちょっとだけ…もうちょっとだけ…っ』



『ちょっとと言わず、いくらでも構いません。

この前の言葉をそっくり返します。本当に困ったちゃん…ですね?』



そう言ってインゴは昔泣いてるボクを抱きしめた時みたいに

柔らかく笑うとを抱きしめ直した。

こんな感動的な場面でいう事じゃないんだろうけど、でもさー…



、インゴばっかり頼って狡い。ボクだって同じ気持ちだよ?

が大好き、大切にしたいって思ってる。

ふふっ…笑うところじゃないけどさ、なんだかこの前と立場逆転?

やっぱりボクは君を年上だなんて思えないね。』



『同感です、年齢だけ重ねても意味が無い良い見本ですね。』



『…二人共、人が感動に浸ってるのになんて事を言いやがるんですか?

でも、すみませんでした。お二人の言葉に凄く救われたような気がします。』



あぁ、ちょっとはボク達との距離が近づいたのかもしれない。

これでノボリとクダリと同じ立ち位置くらいにはなれたんじゃないかな?



『そう言ってもらえて嬉しいよ。でもさ、そこはすみませんじゃないよ

ありがとうでしょ?ほーんと、とインゴって似てる。

ねぇ、ボクはそういうのは放っておかないからね

君にもインゴにもどんどんぶつからせてもらうから覚悟してよ。』



『お前のたいあたり等、痛くも痒くもありませんが

私もへの態度を改めましょう、お前は人の温もりに慣れるべきです。

すでにこの様な場面を見られてるのですから、私になら平気でしょう?

お前が望む時はこうしてあげましょう。いつでも呼びなさい。』



インゴってば、ボクに協力しろとか言ってたけど

結局は一人でなんとかしちゃったじゃない。

最初にインゴから自分が過去を乗り越えたように

にも過去を乗り越えてもらいたいって聞かされて驚いたけど

この調子ならなんとかなるんじゃないかな?



『君にはお世話になっちゃったし、これでおあいこでしょ?

さぁ、こんな状態で外には出れないからまたテレポートで帰るからね。

蒸しタオルと冷たいタオルを用意してあげるよ。』



『では私はミントミルクティーを用意しましょう。』



『……砂糖多めでお願いします…っ』



あー、また泣き出しちゃった?

顔はインゴが抱きしめたままだからわからないけど、肩が震えてるし

インゴもそれに気がついたんだろうな、溜息をついてから

またの背中を優しく叩いて、頭を撫で始めた。