三章・指差確認準備中!編 -今と真実とあれやこれ-

三章・指差確認準備中!編

今と真実とあれやこれ

※注意※
 現地での話の為ボス達の会話も視点語りも普段の表記とは異なっております。



あの人がジェイクに宛てた手紙、これを読んでしまったら

ボク達はあの人の亡霊から解き放たれるんだろうか?



『二人共、心配をかけましたね。私はもう大丈夫です。

それでは、次の手紙…父さんからの手紙を読みましょう。よろしいですね?』



心配げにインゴの手に添えられていたの手を握って

その甲にキスするとか…さり気なくアピールしてるのは笑えるけど

便箋を開くインゴの指先が震えている。

顔だけ見てたら、全然普段と変わらない様に見えるんだけど

やっぱり怖いのかな?そうだよね、ボクも怖い。

今迄あの人に対して持っていた気持ちが変わるかもしれなくて怖いよ。


開かれた便箋に書かれている筆跡は神経質な程に几帳面で

なんとなくだけど、インゴの筆跡に似てる様な気がする。

あの人の書いた文字を見るのは初めてなのに、どこか懐かしい様な

そんな感じがするのは、そのせいなんだろうか?










──── 親愛なるジェイクへ




いきなりこんな物を手渡されて、君は戸惑ってるのではないでしょうか?

ですが私を助けると思って、どうかこれを預かって欲しいのです。


妻のお腹の子が双子とわかってから、私は家を探し始めました。

今のフラットでも十分な広さではあるのですが、私はどうしても…

どうしても自分の家で新しい家族を迎えたくなったのでございます。

色々な不動産を渡り歩き、勧められた物件を妻に内緒で見に行くのは

正直言って、とても苦労いたしました。

彼女の察しの良さは君も存じておりますでしょう?


そうして、苦労いたしましたがやっと私達が住むに相応しい物件を見つけ

先日購入した次第でございます。勿論、彼女には気づかれておりませんよ?

彼女にサプライズとは言え、隠し事をするのは非常に心苦しいのですが

子供逹と共に病院を退院したその足で、私は連れて行きたいのです。

産みの苦しみを分かち合う事の出来ない私にできるのはこんな事位です。


本来、私の口から説明すればよろしいのでしょうが

どうしても気恥ずかしくて、このように手紙を書かせていただきました。


既に部屋の内装も整えて、子供逹の為の家具や玩具も揃えております。

妻の為、子供逹の為にも、一層仕事に邁進しなくてはですね。

そして、先日君と話していた様に子供逹がギアステに就職して

共にバトルトレインに乗車するのを、私は今から楽しみにしております。

もっとも、子供の意志は尊重いたしますよ?

彼等が他の職を望む事も当然、彼等の人生でございますからね。


この手紙を書いている今でも子供逹の事を考えると、心が暖かくなります。

父親として、私の持てるもの全てで守り、共に成長しとうございます。

予定日まで後数日、君もこの様に心を躍らせて待っていたのでしょうか?

早く…早くその時が来て欲しいものでございます。


ねぇジェイク、今手紙を書いているこの時でさえ

私はこの様に浮き足立ってしまってるのでございます。

敏い彼女がそんな私の変化に気づかぬはずはありませんでしょう?

ですから、どうか私のサプライズの共犯者になってくださいまし。

お礼は、…そうでございますねぇ……

貴方の欲しがっていたゾロアの6Vを用意させていただきます。

悪い話ではございませんでしょう?

君の事だから、水臭いと言われるかもしれませんが

それとこれは別問題でございます。親しき仲にも礼儀有り、でしょう?

近日中にお渡しいたしますので、楽しみにしていてくださいまし。



追伸:

この封筒を取りに君の元に行く時は、からかわないでくださいましね?

この様な事をするタイプでないのは、私が一番理解しております。

新居に遊びに来るのは歓迎しますが、すぐにというのは控えてくださいまし。

暫くの間は私達家族だけで過ごす時が欲しいのです。

新米パパとママは、きっと子供達にメロメロになってしまう事でしょうね。

それでも構わない、親馬鹿だ?私にとってそれは褒め言葉ですよ?



            

                君の友人の新米パパ候補生より────












手紙を全部読んで、ボクはどうしようもなく腹が立ってきた。


どうして?ここまでボク達が産まれてくる事を望んでくれていたのに

どうしてボク達を否定してしまったの?見てくれなかったのさ!



『ふざけるなよ、ボク達がどんな思いでアンタを見ていたと思うんだ。

こんなに…こんなにボク達を待ってくれてたなんて、あの時のアンタを見て

誰が想像つくっていうの?誰が理解できるっていうんだよっ!!』



『エメット冷静になりなさい。これは事実でございます。

彼は…父さんは私達を確かに愛していた。それがこの手紙の全てでしょう?』



便箋を元通りに折りたたんだ後、インゴはそれを宝物の様に抱きしめた。

そっか、君は愛されていたっていう事実だけで満足できるんだ。

ボクは無理だよ?愛されていたけどその後は?あれで愛してたなんて言わせない

あの状況のどこに愛情を感じられるっていうんだよ!!



『そんな愛情が何になるって?ボク達は母親を死なせてしまった。

それだって事実でしょう?だからアイツはボク達を捨てたんだろう!!』



『エメット!!』



ボクの肩を強く掴んだインゴの手を振り払った。

君にはボクの気持ちがわかんないのかな?君はこんな事で全てを許せるの?

大切な人、物、気持ち、全部を捨ててしまう位荒んでしまった君は

こんなちょっとした事でも満足出来る程、心が乾ききって今も傷を負ってる。

ボクは許せないよ?満足できないよ?君をすっかり変えてしまったアイツを

君の心を闇に落として閉じ込めて、傷つけたアイツをボクは許さない。



『うわーい、こっちの部屋も凄い事になってますよ!

インゴさん、エメットさん、こっちこっち!ここは子ども部屋ですかね?』



この緊迫した雰囲気を思いっきり無視したようなのんびりした声に

ボク達はちょっと拍子抜けしてから、声のした方を見た。

リビングのそばのドアを開けて、がボク達を手招きしてるから行けば

そこにはクイーンサイズのベッドとふたり分の寝具、周囲の棚には

沢山の絵本や積み木、ぬいぐるみなんかで溢れていた。


二つ並べられた机の上にはリボンのかけられた本が置いてあって

ボクはそれを手に取ってみた。



『この本って…』



『これはおじ様が私達に初めてプレゼントしてくださった絵本と同じ…。

あぁ、そういえばおじ様も小さい頃初めてこの本を読んでもらってから

ずっと好きだったのだと…そう言っていましたよね?』



『うん、ボク達もおじ様に読んでもらって凄く好きになったよね。

この本は名作だから、ボク達に子供が出来た時に贈ると良いよなんて言ってさ

その後、ノボリ逹が生まれてボク達が読んであげたら喜んでさー

何度も読まされて、ちょっとうんざりしちゃったよね。

でもさ、この本ってあまり有名じゃないってか、マイナーだよね?』



『そうでしたね、兄弟だから父さんも知っていて不思議はないのでは?』



『お二人共、想像はそこで終わっちゃうんですか?

二人がノボリさん達に読んであげた様に、お父様がノボリさん逹のお父様にも

読んであげててそれで好きになって覚えていたんじゃないですかね?』



『あ…』



そうだ、おじ様は読んでもらったって言ってた。

それは両親じゃなくて、もしかしての言う通りアイツの可能性もある。


本に溜まった埃を払えば、懐かしい表紙が現れる。

ボク達を膝の上に乗せて、おじ様はよくこれを読んでくれたんだ。

アイツとおじ様は双子じゃなかったけど、凄く似ていたと思う。

姿だけじゃない、声も、話し方まで凄く似ていた。

おじ様と同じ姿、同じ声と口調でボク達を拒絶して、存在を否定する

だから余計にボクは悲しくなった、辛くなった…憎んでしまったんだ。


目を閉じれば簡単にあの頃が目に浮かぶ



── インゴ、エメット、本を読んであげますからいらっしゃいまし

おやおや、二人共甘えん坊さんでございますねぇ…… ──



いつの間にかおじ様の姿が写真で見たアイツの姿に変わる。

もし…母さんが生きていたのなら、アイツがおじ様の代わりに

ボク達を膝の上に乗せてこの本を読んでいたのかもしれない。

イッシュにいた頃の光景が、ここでも繰り広げられてたのかもしれない。


どうして…何がいけなかったんだろう?どこで間違ったんだろう?

母さんが死んだから?ボク達が生まれてきたから?

過去を変える事なんて出来ない。それでも…それでもボクは……



『エメットさん…』



『エメット…』



ボクの肩にインゴの手が、ボクの背中にの手が、それぞれに当てられる。

あぁ、ボクはいつの間にか泣いていたんだ。でも、止める事なんて出来ないよ



『何が…何がいけなかったんだろう?ボク達はここで幸せに暮らせたのに

両親とボクとインゴ…一緒に…笑…って…暮らせたはずなのにっ!!』



何を言いたいのか、伝えたいのか、それさえ考えられない、立ってられない

そのまま埃まみれの床に膝をついて、ボクはうずくまるしかできなかった。

ボク達が、ボクが望んでいたものはこんな近くにあったのに

ちょっと手を伸ばせば届く様な近くにあったのに!



『…運命とは皮肉なものですね。

なぜ私達がこんな目にあわねばならなかったのでしょう?

普通に、当たり前に暮らしたかった…それだけなのですけどね。』



『ほんのちょっとの綻びで、幸せなんてあっという間に消えてしまう。

今日笑えても明日は泣き崩れてるかもしれない。でも…逆もあります。

過去は変えられないけど、未来は変える事ができる。そうでしょう?』



…』



『インゴさん、私がよく言うじゃないですか、神様はどSだって。

ホント、目の前にもし神様がいたなら間違いなくぶっ飛ばしてますよ。』



言ってる事は凄く物騒だけど、その言葉はとても暖かく聞こえる。

はインゴを抱きしめて、その背中を子供をあやすように叩いてた。



、インゴばっかり狡い…』



どうしてだかわからないけど、インゴが凄く羨ましくなって

ボクは膝をついたまま二人を見上げた。

今のボクはきっと捨てポケモンみたいな顔をしてるんだろうな。



『あー、二人共困ったちゃんですねー。

エメットさんも床と仲良くするくらいなら、私で我慢しましょうよ。』



両肩にボク達の頭をのせて、ボク達の背中をトントンと叩くリズムが

凄く気持ちよくて、安心できて、ボクはまた泣けてきた。

反対側のインゴも泣いてるんだと思う。だって肩が震えてるんだもん。



『私達にこの様な真似が出来るのは、貴女くらいでしょうね。』



『ホント、ボク達より年下のくせにさ…君って不思議だよね。』



『…お二人共忘れてませんか?見た目はこうでも実際は違うんですよ?

実年齢で言えば、私はお二人のご両親との方が近いと思うんですよ。

うわーい、言ってて自分でちょっと驚いたかもしんない。』



『あぁ…そうでございましたね。普段が普段なので失念しておりました。』



『うん、でもさ…そう言う事ならもうちょっとこのままでいさせてくれる?

なんだか、ちょっとまだ泣きそうでさー。

どうせさっき泣き顔見られたんだし、の前なら別にいいよね?』



『どーぞどーぞ、こんなんで良ければ使ってください。』



年上ぶった口調に思わず笑ったけど、また涙が溢れてきた

ボクはこの感情をなんて言えば良いのかわからない。

だけど、昨日までの様にアイツ…お父さんを憎む事も出来ない。


これからどうすれが良いのかわからないけど、今はまだ泣いても良いよね?

そうする事で、ボクの中に詰まっていた憎しみなんかも流されてる気がする。

嫌なもの全部綺麗さっぱり流してしまった後には何が残ってるんだろう?

その後ボク達は…ボクはどうなるんだろう?どうすれば良いんだろう?