三章・指差確認準備中!編
証言と仮定とあれやこれ
※注意※
現地での話の為ボス達の会話も視点語りも普段の表記とは異なっております。
エメットが家に泊まる事で、自分自身に何か変化があるとすれば
私がこの状況をありのままに受け入れてる事でしょうか?
『ぎゃー!どうしてこんなの録画してるんですか?!
これはアレですか?羞恥プレイですか?!本人の前で再生するとか
マジで勘弁して下さいってば!!』
『えー、ボクに色々聞きたかったし?
ねぇ、この時ノボリと何話してたの?すっごく良い雰囲気なんだけど!』
テレビ画面には先日の参加したエキシビジョンマッチの映像。
これは、その前のパーティのものでしょう。
周囲から離れた場所で、ノボリとがなにやら話をしてる様子で
黒のサブウェイマスターが笑ってるのを初めて見た!
と、指摘を受けてる場面が映し出されておりました。
『これはですねー、このパーティが終わった後にホントは
達の部屋に遊びに行く予定だったんですよ。
それが、なんだか大人数で押しかけるっぽくなってたんで
ちょっと仮病使いーの、ばっくれーの?そんな話をしてたんです。
ホント、あーいった場所が苦手で誰も近寄るなオーラ出しつつ
背後に年季の入ったチョロネコとレパルダス仕込んでたのに
ノボリさんってば、すっごいあっさりと見破っちゃったんですよー。』
『ふーん、でもさ化粧をするとって凄く変わるよね!
仕事中でもこうしてれば良いのに、どうしてしないの?』
『元々化粧は嫌いなんです。皮膚呼吸できない様な気がするんですよ。
それに仕事中は結構汚れますからねー、すぐに顔を洗えないとか無理!』
…なんとも賑やかですね。ですがこの様な光景はイッシュでは当たり前で
エメットはノボリやクダリと一緒にいつも騒いでおりましたね。
何よりこの状況はエメットに良い影響を与えている様で
表情も柔らかく、そして人当たりも同様に柔らかくなっております。
部下に対し辛辣な言葉を吐かなくなっただけでもマシですね。
一方の私と言えば、例の症状はあれ以来起こしてはおりませんが
が言っていたあの恐怖を克服する方法を見つけられず
少々…いえ、かなり足踏み状態で膠着している始末で情けないです。
今も手元に置いてある父親のアルバムをめくれば
結婚式の時の一枚の写真に目が止まりました。
両親を祝福している方々はギアステの職員なのでしょう。
前任のサブウェイマスター以外にも、現在も勤務されてる方々も数名
皆笑顔で写っておられます。
その中で、非常に見覚えのあるシニカルな笑いをした青年に
私の目は釘付けになってしまいました。
私達がギアステーションに就職した時、全員の研修と新人教育を一手に引き受け
企業のなんたるか、バトル施設のあるべき姿を徹底的に叩き込んだ指導員。
サブウェイボスに就任した後も頭の上がらない唯一の人物
彼は父親の隣で肩を組んで写っておりました。
親しい間柄だったのでしょうか?彼は私達が息子と知っていたのでしょうか?
もし知っていたのなら…確かめねば、彼に確かめなくては───。
『インゴ、どうかしたの?顔色が悪いよ?あの症状が起きそう?』
私の異変に気がついたエメットが、とふざけあうのをやめて
気遣うようにこちらを見ております。いい加減この状況から抜け出さねば。
腫れ物に触るかのようなこの愚弟の態度には、もううんざりです。
『暫く自室にいます。戻ってくるまで近づかない様に、待っていなさい。』
自室にてライブキャスターでその人物を呼び出せば、少々驚いておりました。
『インゴボスがこんな時間に私に連絡をくれるなんて初めてだね。
どうしたのかね?なにかうちのボス逹の事で心配事でも?』
『寛いでる所申し訳ありませんが、質問があります。
ジェイク単刀直入に聞きます、貴方は私達の父親と親しかったのですか?』
私の突然の質問に、普段表情を変える事が私以上に無い彼の瞳が見開きます。
その後、ゆっくりと目を閉じてからジェイクは頷きました。
『君達の父親と私は同期で、そして個人的にもとても親しくしていたよ。
私の方が先に子供がいたから、彼女…君達の母親は妊娠中に
私の妻に妊娠中の注意事項を教えてくれと自宅にもよく来ていた。
君達の父親と私はそんな妻達のやり取りを見ながら
お互いの子供逹をギアステに就かせて、どちらかをサブウェイボスにしよう…
そんな事を話して笑っていたものだ。
それで?インゴボスは他に私に聞きたい事があるのだろう?』
『では、彼が退職した理由もご存知…なのですか?』
身内の恥部を他人に曝け出すのは非常に苦痛でしたが
今の私はその様な状況を顧みる余裕など無いのです。
私まで父親の様に心を壊してしまったならエメットも同じになってしまう
いい加減この負の連鎖を断ち切らねば、その為ならこの位は問題ありません。
『いつか、君かエメットボスのどちらかがそう聞いてくると思ったよ。
辞職を勧めたのは私だ。君達の母親を失ってからの彼は
職場でも見ていられぬ程憔悴しきっていたからね。』
父親とジェイクがそれ程親しかったとは知りませんでした。
この男はその様な事を感じさせる事なく、私達に接していたのです。
ジェイクは恐らく書斎にいるのでしょう、デスクに頬杖をつき
尚も言葉を続けます。
『彼女の葬儀には私と妻も参列したよ。
彼の嘆きは見ているこちらまで胸がつぶれるくらい大きかったから
暫くはそっとしておこう、子供逹を育てるのは…双子ならば尚更大変だから
私も妻もできる限り協力しよう、そう思っていたんだよ。』
古い部下の言葉に私は何も返せませんでした。
私達の出生以前からの父母を知っていた、突きつけられた事実は
一瞬眩暈がする程の衝撃だったのです。
『その後、君達は彼の弟の元へ引き取られたというじゃないか。
何をしてるんだ、彼女がそんな事を望んでいるのかと私は彼を責めた。
そうしたら、彼は私にすがって泣き崩れてしまったよ。
彼女を失った事実に子供逹を憎みそうになる自分が許せないのだと
生まれてきた子供逹に罪は無い、彼女との愛の証の彼等を愛している。
だが自分は彼女のいない世界に耐えられない、こんな状態じゃ
子供逹まで不幸にしてしまう。それだけは絶対にしたくないのだと…ね。
その後、子供達を…君達を引き取ったと聞いた時は安堵したが
君達にとっては散々たるものだったろう?彼は結局立ち直れなかった。』
『えぇ、私達が知っている父はいつも母の名を呼び続けておりました。
正気に戻るのは、私とエメットにバトルの指導をしている時だけ…
私達にサブウェイボスになりなさいと口癖の様に言っておりました。』
私の言葉に、一瞬眉を寄せてやりきれない表情をしてから
ジェイクは普段からは想像もつかぬ優しげな笑みを見せました。
『彼は私との約束を果たそうとしていたのか…そうだったね
彼は口約束であっても破る事は絶対にしない、律儀で不器用な男だった。
そんな彼のそばにいる事は大変だっただろう?
彼は早々に彼女の元へ行ってしまった…その間の君達と彼の関係も
決して良好ではなかったはずだ。勿論君達に何の否もない。
わかってはいるが、君の父親の友人としての立場で言わせてもらうよ
どうか彼を許してはもらえないだろうか?』
なぜそんな事を想像できたのか不思議でしたが
父の葬儀の時の私達の様子を見ていたからと、事も無げに言ってのけました。
『仮定で話をするのは好みませんが、
ジェイク…父があの時死んでいなければ、私達との関係はどうなっていたか
お前にはそれが想像がつきますか?』
『私も仮定で話をするのは嫌いだよ。
だがそうだね…私と息子の関係位までには修復できていた。
少なくとも私はそう考えているよ。
彼が生きていたのなら、君達の成長を喜んで
ジェイク、私の息子逹は素晴らしいだろう!と自慢していただろう。』
この男はどんな時でも嘘を言いません。
利になる事もその逆も、ありのままに私達に報告をしていた彼だからこそ
その言葉は素直に私の胸に入り込みました。
『お前がそう言うのなら…そうなのでしょうね。』
『そうとも、私と彼のつきあいは君達よりも長かったのだからね。
仕事だけじゃない、誰かに向ける愛情も好意も全てが不器用で
そしてとても誠実な男で、私はそんな彼が大好きだった。
インゴボス、君はとても彼に似ているから言わせてもらおう
もう少し肩の力を抜きなさい。もっと周囲に視野を広げなさい。』
『…私に命令するのはお前くらいですね、ジェイク。』
『そういう人間が一人位いても良いだろう?
特に君逹の様に年若くして上に立つ人間には尚更必要だと思うがね。』
そう言って、肩を竦めて笑う顔は見慣れた職場での顔ではなく
もっと親しみの持てる温かみを持って私の目に映りました。
用件は終わったのでライブキャスターを切ろうとした時
ジェイクは私に不思議な事を言いました。
『君が…君達が彼と真摯に向き合おうとするのなら
私からささやかなプレゼントを贈らせてもらうよ。その後は好きにしなさい。』
その後本当に通信を切っても、私は暫く部屋から出ることができませんでした。
この事実を、リビングで私の身を案じて待っている二人に向かって
どう説明すればよいのでしょう、そしてどの様に受け止めるのでしょうか…
父さん、貴方には素晴らしい友人がいたのですね。
彼は貴方の息子というだけで、私達を影から貴方の代わりに見守ってました
それに気がつかなかった私を、貴方は笑うのでしょうか?怒るのでしょうか?