三章・指差確認準備中!編
原因究明とあれやこれ
※注意※
現地での話の為ボス達の会話も視点語りも普段の表記とは異なっております。
今日からが出向期間中ボクはインゴの家に泊まる。
あれだけボクを家に入れる事を嫌がった背景がアイツのせいだとか
死んでも尚ボク達を縛り付ける負の感情に嫌気がさしてきた。
自分のフラットに戻ってから、必要最低限なものをカバンに詰める
凄く嬉しいんだけど素直に喜べない状況にイライラしてきた。
カバンをソファーに放り投げて、タバコに火をつける。
大きく吸い込めば瞬間的に脱力感に見舞われ、目を閉じた。
背もたれに体重を預けてゆっくりと目を開ける。
インゴは自分が倒れた時に、ボクもパニック状態になったのを知らない。
父親の死に顔とインゴの目を閉じた顔が重なって見えてしまったんだよね。
そうしたら後はもう最悪、身体の震えは止まらないし涙も止まらない
ただインゴの手を取って名前を呼ぶしかできなかった。
《エメットさん、落ち着いて!大丈夫ですよ、インゴさんは大丈夫です。》
優しい口調とは裏腹に、インゴを抱きかかえながらボクに蹴りを入れるとか
信じられない芸当を見せたを思い出す。
まさかあの場面で蹴られるとは思わなかったから、正気に戻ったんだよねー。
凄く理不尽だけど、そこだけは感謝しなくちゃかな?
がインゴ抱きしめて、耳元で優しく声をかけ続けてたら
意識のないはずの閉じられた目尻に涙が光ったのを見てしまって
インゴの心の傷の深さを改めて思い知らされた気がする。
君を癒す事をボクは手伝えるんだろうか?逆効果にならないだろうか?
溜息をついてタバコを揉み消した後で、カバンを掴んで部屋を出る。
悩んでるだけじゃ進めない、動いてみてそれから考えても良いよね?
インゴの家について、中に入ればがなんだか本?を見てた。
何を読んでるのかと思って覗いてみたら
『これって…アルバム?なんだか凄く古い気がするんだけど…』
皮革のしっかりした装丁のソレは初めて見る物で
ボク達とよく似た顔をした青年が女性の肩を抱いて幸せそうに笑ってる。
『父さんのアルバムです。全て破棄したと思っていたのですが
これだけが私の荷物に紛れていたようで、それからずっと持っていました。
この女性が私達の母親です。私達の髪と瞳の色は彼女譲りです。
私達を引き取った後、それが似ていると言って父は一層壊れてゆきました。』
そっか、インゴはにボク達の事を説明するのにアルバムを見せてるんだ。
それにしてもよくこんな物を持っていたよね。
ボクだったら、見つけた瞬間に暖炉の焚付にしてしまってただろうな。
食事を摂ってからはまたアルバムを見始めた。
そんな彼女をを挟む形でボク達もソファーに座る。
初めて見るアルバムにはボク達の知らないあの人の思い出が詰まってる。
こんな父親の顔をボク達は見た事が無い。幸せそうなあの人なんて知らない。
『両親揃って美男美女とか、お二人がどーしてイケメンかわかりましたよ。
うわーい、遺伝子の力って半端ねぇ!ってやつですかねー。
でも、凄く幸せそうですね。お互いがお互いを大切に想ってる…そんな気持ちが
写真からも伝わってきます。とっても素敵なご両親ですね。』
の感想にボク達はどう返事をして良いのかわからなくて黙っていた。
だって、ボク達はこんな父親を知らないんだよ?
母親が死んだのはボク達のせいじゃないのに
母親と髪と瞳の色が同じなのはボク達のせいじゃないのに
だけど、そんな理由でボク達は父親に存在自体を否定されたんだよ?
そんな人をどうして素敵なんて言える?無理、ボクには絶対無理!
『これは…あぁ、お母さんがお二人を妊娠したのがわかったんでしょうね。
双子だってわかってたんですね、ふふっ…とっても良い顔をしてますね。』
ページをめくる手を止めて、が一枚の写真を指さした。
そこには小さな靴下を持って寄り添ってる二人の笑った顔が写ってた。
ページが進むにつれて大きくなる母親のお腹に手を当てて
時には耳を当てて、幸せそうにしている父親の姿がそこにはあった。
あぁ、ボク達は愛されてたんだ。生まれることを望まれていたんだ。
だけど、どこで間違ったんだろう?何がいけなかったんだろう?
『…おじ様から聞いた事があります。
妊娠が判明してそれが双子とわかって、両親はとても喜んだそうです。
どんな時でもお互いを無条件に支えあえる相手が生まれた時からいるのだと
それは嬉しそうに父さんは言っていたそうです。』
今にもはちきれそうなお腹に手を当てて笑い合う両親の写真を最後に
そのアルバムは終わっていた。
ここから先の父親の顔はボク達が一番よく知ってる。
部屋の空気が凄く重苦しくて、息をするのも辛く感じた。
は、そのままアルバムのページをめくって…最後の方で手を止めた。
『…これって、お二人の小さい時の写真じゃないですか?』
『え?』
ボクだけじゃない、インゴも凄く驚いてが指さしたページを見る。
見落としてしまっても不思議じゃない、わかりにくい場所にそれはあった。
確かにこの写真に写ってるのはボク達で
イッシュでおじ様とおば様、ノボリとクダリと過ごしていた幸せだった時の
ボクもインゴもいつも馬鹿みたいに笑ってばかりいた頃の写真だ。
『うわー、ノボリさんもクダリさんも可愛すぎる!
インゴさんもエメットさんも別人!なにこの美人さんな微笑み!!』
『確かに、イッシュにいた頃の私達はいつもこの様な感じでしたね。
幼い頃はおじとおばが本当の両親だと思っておりました。
ごく普通の家庭の風景…なのではありませんか?』
『ってば、さらっと凄く失礼な事言ってるって自覚してる?
小さい時なんて何をしてても楽しくて、毎日が幸せなんて当然でしょ?』
ボクとインゴの言葉に、一瞬目を見開いてからはそうですねと呟いた。
そして、一枚の…ボク達とノボリ逹が一緒に写ってる写真を
とても大切な宝物にでも触るみたいにそっと指でなぞってから
アルバムを閉じると、そのまま胸に抱きしめた。
『…私は、お父様はやっぱりお二人を好きだったんだと思います。
それじゃなきゃ、こんなに大事にアルバムに保存してませんよ。』
確かにとても几帳面に等間隔で貼られた写真からは
それを無碍に扱ってた印象は無い。むしろ凄く大切にしてた様に見えた。
イッシュから届くこの写真を見て、あの人は何を思ったんだろう。
『どこかで何かが間違った…まるでボタンを掛け違えた様な…そんな感じ?
本当なら、お二人ともお父様はこうやって笑い合いたかったのかもですね
だからお二人を引き取ったんじゃないでしょうか?』
『現実は悲惨なものでしたけれどもね。』
『うん、目の前にボク達がいるのにあの人の目には写ってなかったね。』
は知らないから、そんな簡単に言えるんだよ。
あの状況は、今思い出しても胸が痛くなる。
思うように息ができない様に苦しくなって喉を掻きむしりたくなる。
『…ちょっとお聞きしたいんですけど、お父様はお二人を責めましたか?』
『どういう事ですか?』
の言葉にボク達は首を傾げた。
『えっとですね、これだけお母様を愛していたお父様なら
たとえ理不尽だと言われても、お二人が生まれたからお母様が亡くなった…
その事を責めると思うんです。お前逹さえ生まれてこなければ!ってね。』
『…その様な言葉は父さんから聞いた事はありません。』
そんな風にあの人から責められた事は一度も無い。
いつも何かを言いたそうにボク達を見て、それから母親の名前を呼んで
そうしていつもすみません、すみませんって言って目を閉じるんだ。
そう考えて、ボクはなんだか話の流れに違和感を感じた。
ちょっと待って、もしも…もしもあの人がボク達を本当に愛してたなら
あの状況に一番心を痛めていたのもあの人自身なんじゃないの?
すみませんって言葉は母親に向けてだと思ってたけど
それがボク達に向けられていたのだとしたら…
『だから自分が死ぬ前にちゃんと言いたくなった…とか?』
『エメット?』
『ねぇ、あの人はボク達を引き取って、やり直したいって思ってたのかも
でも生まれたばかりのボク達を見捨てたのに今更そんな事言えないって…
だから、自分の最期の時にどうしても伝えたくなったんじゃないのかな?
ボク達を愛してる…例えそれが母親の次であっても愛してる…ってさ。』
『…そうなの…でしょうか?父さんはずっと私達を…?』
『うん、だからボク達にバトルを教えてくれた時とかは
普通に話をしていたよね?そしてちょっとだけど笑ってたよね?
君はあの人のそんな顔をもっと見たくて凄く頑張ってたじゃないか。』
インゴはその時だけ正気に戻るあの人にすがっていた。
少しでも親子らしくあろうとしてたのをボクは知ってる。
『あの人はそれをきっかけにして、ボク達との距離を近づけたかった
そしていつかは、さっきの写真で見た時の様に笑いあえたら…
そうやって思ってたのかもしれないね。
だけど凄く不器用っていうか、わかりにくすぎでしょう!
そんな遠回しな事されたって、あの状況でボク達にわかるわけないよ。』
『その辺のお父様とのすれ違い?が原因かもですねー。』
『自己満足、自分勝手な解釈なのかもしれませんよ?
都合よく事実を捻じ曲げて、自分の良い方にしか考えてないのかも
そうは思わないのですか?』
『インゴ、それって考えすぎ!
あのさ、自分の死ぬ直前に嘘なんて言える?言えないよね?
あの言葉が何よりの真実なら、ずっと不思議に思ってたあの人の言動…
ボク達を見て謝り続けてた意味だって君だったらわかるんじゃないのかな?』
ボクの言葉にインゴは何も言わずに俯いてしまった。
自分でもそうじゃないかって思ってるんだろうけど、信じきるには
決定打が無い…そんな感じなのかもしれない。
ボク達を黙って見てたは時計を見てから溜息をついて
大切に抱えていたアルバムをインゴに手渡した。
『もうこんな時間なんで、そろそろ寝ちゃいましょう。
このアルバムを何度でもいいから、しっかりとじっくりと見て下さい
貴方の求めてるもの…答えはこの中に沢山散りばめられてると思いますよ?』
それじゃあおやすみなさいと言っては部屋に戻った。
アルバムの表紙を黙って見ているインゴに何を言えば良いかわからなくて
ボクもおやすみとだけ言ってが使っていた部屋に入って戸を閉める。
そのままベッドに倒れ込んで目を閉じれば、浮かんでくるのはあの人笑顔
ねぇ、本当にボク達を愛してたって思って良いのかな?
もしそれが本当だったなら、ボクは貴方を父親だと認めてあげるよ。
だからインゴを助けてよ、ボク達を開放してよ。