三章・指差確認準備中!編 -心配性のあれやこれ-

三章・指差確認準備中!編

心配性のあれやこれ



視界が歪み、あっという間に目の前の景色が変わるのには慣れねぇな。

執務室の応接スペースに無事にテレポートが成功すれば

雁首揃えて三人が俺を凝視していた。



「只今戻りました。俺の不在中何か変わった事は無かったかな?」



「おう、ご苦労さん。こっちは特に何も無いぞ。

不在中の事務絡みのものはそのファイルに入れてあるんで頼んだぞ。」



おかえり!って、そうじゃない!!

出向中に何にも連絡が無いから、どーしたんだろうって心配してた!」



「おかえりなさいまし!えぇ、本当に心配いたしましたとも!!

今日は疲れたでしょう?にも言いましたが本日の夕食を

私が用意いたしますので、ご一緒してくださいまし。

それで?あちらの部署での業務は全て終了したのですよね?

は大丈夫ですか?ちゃんと食事や睡眠をとれておりますか?」



のマイペースっぷりはいつもの事だが

それと同じ位、二人の心配性もいつも通り過ぎて俺は笑っちまった。



「それについてはインゴに任せておけば問題ないだろうね。

エメットも書類関連についてはずっと一緒にやってたし

むしろこっちに来たばかりの時よりは負担はかかってないよ。

夕食については是非ともお願いしようかな?

なんせ向こうじゃ仕事が終わって帰ってきても持ち込み分をやっててね

酒を飲む暇すらなかったんだよ。勿論あるんだろう?」



「それはちゃんとご用意しておりますのでご安心くださいまし。

しかし、でも仕事を持ち込んだならも同様なのでしょうねぇ…」



「エメットもインゴの家に泊まってたの?」



「まぁ、その辺の話は食事の時にさせてもらうよ。

俺は一度寮に帰るから、ボス逹が家についたら連絡をくれるかな?」



荷物も持ちっぱだし、今はゆっくりしてぇってのが本音だ。

に向こうでの業務報告書を渡して、俺は寮へ戻る。

たった3日間だってぇのに、部屋に入るとホッとする。

以前には有り得ない心境に苦笑いするしかねぇだろうよ。

あいつの生まれ育った地方だからなのか、イッシュは居心地が良い。

恐らく俺はここに根をおろすことになるんだろうよ。


ボールからポケモン逹を出して、念入りに毛づくろいやらしていたら

ライブキャスターがけたたましく鳴る。

相手はクダリで、飯を食いに来いっていうから、ポケモン達をボールに戻し

そのままボーマンダに乗って目的地へ向かった。


部屋に着けば、は既に晩酌を始めていた。

すっかり寛いでる様子に、こいつもここが居心地が良いんだろう。

まずは飯だってんで、食いながら俺は向こうでの話をした。

インゴの件は勿論話さねぇ、医師免許は生きてるから守秘義務は当然だ。



ってばホント仕事には容赦無い!

ゲンナイも大変だと思うけど、その下の人逹も大変なんじゃないの?」



「その辺は問題ないと思うぞ?あれでアメとムチの使い分けをするしな

しかし契約書を変更する程の連中がいるのか…こりゃあ前途多難だろう。」



「それはケリがつきそうだぜ?ともかくやる事が多すぎるってんで

初日から派手にやらかすわ、ハイペースでかっ飛ばしやがってる。

それでも下手をすると出向延長を申請しないとダメかもって言ってたぜ?」



飯を食い終わってから、それぞれにビール片手に家飲みに突入した。

ビールなんざ水と同じなんだがな、まぁこれが飲み終わったら

が持ってきたウィスキーでも飲むか。



「できればそれは避けたいのですが…

ルームシェアはあの地方では当然でしょうが、相手はインゴでございます!」



サーモンとクリームチーズを乗せたクラッカーを手にノボリが溜息をつく。

その横で、クダリもうんうんと頷いてビールを一口飲む。



「正直そんな暇すらにはねぇよ。

滞在初日に貫徹やらかしやがる位、時間が足りねぇのが実情だ。

後、この前が話してたあいつが妊娠云々だがな

インゴはとっくに考えていたぜ?」



俺の言葉に二人が息を飲んだ。を見ればやっぱりって顔してるから

その辺は予想してたんだろう。



「二人共この世の終わりみてぇな顔するな、酒が不味くなる。

そんな事をすればマジでが壊れるって言ってたから

インゴがそれを実行する事はねぇだろうよ。

また貫徹したらベッドから起き上がれない様にするとは言ってたがな。」



「あー、自分の性別完全否定だもんね。それは絶対にできないかも…」



「…そうでございましたね。それについては一安心…じゃないでしょう!

脅しとは言え、やらないという保証がございますか?ないですよね?!」



いつの間にか全員がビールからウィスキーに変えていた。

こいつらがそこまで飲むのも珍しいな。



「ノボリ、素朴な疑問なんだがお前とインゴは仲が悪いのか?

そこまで毛嫌いする様な奴じゃないと思うんだが、何かあったのか?」



の疑問は俺も常々思っていた。

人当たりは決して悪くないコイツがここまで拒絶反応を示す理由が

俺もよくわからねぇんだよな。


俺達の視線を浴びて、ノボリはちょっとバツの悪そうな顔をしてから

覚悟を決めたって感じで俺たちに向き合った。



「…お二人に隠しても仕方が無いですね。

私はインゴが苦手なのです。全てにおいて完璧に出来るあの従兄弟は

昔と違い余りにも人に厳しすぎます。私はそれを認められません。」



「同族嫌悪って奴じゃねぇのか?お前とインゴはどことなく似てる。

まぁあっちの方が色々と面倒な性格だとは思うがな。」



「職員を簡単に切り捨てるやり方はボクも好きじゃない。

あのね、昔のインゴはあんなんじゃなかった。すごく優しかった。」



グラスを見つめて、そうですねと言うノボリの肩に手を置いて

クダリは自分の部屋に行って一冊のアルバムを持ってきた。



「インゴ逹を産んでお母さんが死んじゃったのは知ってるよね?

んで、お父さんも二人を引き取ろうとはしなかったのも。」



俺とが頷いたのを見てから、クダリはアルバムを開く

両親の写ったのもあるが、それ以上に二人と一緒に笑うあの二人の姿

それは幸せいっぱいで、未来は輝いてるんだと疑いもしていない笑顔だ



「過去に戻る事なんて出来ない。それでもボク達はあの二人に

こんなふうに笑って欲しいって思う。何が原因か…なんとなくわかってる。

それはボクもノボリも口を出して良い事じゃないのもわかってる。」



「えぇ、私達ですら色々と拗れておかしくなったのです。

実の父親の死に直面したインゴであれば、それ以上と予想はつきます。

ですがやり方が気に入りません。何故全てを拒絶するのか?

自分自身の存在すら拒絶するかの様な姿は余りにも痛々しすぎます。

もっともあの上から目線の物言いですので、そんな事を忘れてますがね。」



グラスの底に残っていたウィスキーを一気に飲み干してノボリは溜息をつく。

つまり、こいつはインゴに何度も手を差し伸べたんだろう。

そしてそれを完膚無き迄に振り払われたのかもしれねぇな。



「詳しい事は別に必要ない。二人共インゴ逹に変わって欲しいんだろう?

今の状態じゃなく、昔の様になればって思ってるんだろう?

それを本人達も望んでるんだったら、俺等も協力するぞ。」



「あのね、インゴはわかんないけどエメットは変わりたいって思ってる。

エメットは昔からインゴが凄く好きだった。

今の状況を一番悲しんでるのはエメットかもしんない。」



インゴの荒療治と思ってたが、どうやらエメットにも荒療治になりそうだな

あっちはがいるから、そういったメンタルケアは任せても良いだろう。

自分の事だってケアしやがれと思うんだが、難しいもんだな。



「まぁ、向こうにが行ってる間に何か変化があれば良いんだがな。

インゴは前にの境遇を自分と同じだと言いやがった。

この出向、そういう意味も考えればアイツが行って正解だろうよ。」



話はここまでって事で俺とは寮へ戻った。

そのままが俺の後をついてくるから、まだ話があるんだろう。

こいつがこういう事をする時はろくでもねぇから勘弁してくれ。


部屋に入れば案の定、向こうでの様子を更に聞いてきやがった

コイツになら話しても構わねぇから、俺はインゴの状況も含めて

仕事の様子もあいつらに説明したよりも更に細かく話した。



「成程な、仕事の方で心配だったんだがそっちはなんとかなりそうだな。

それで?インゴの方はお前はどう診てるんだ?」



「どうもこうもねぇよ、後はインゴとアイツ等次第じゃねぇのか?

俺はやる事はやった、後はどうなるかは蓋を開けるまではわからねぇ。」



正直、俺もも飲み足りなかったんで家飲みを再開した。

グラスを傾けながら、が頬杖をついて苦笑いする。



「インゴなら死ぬ気で這い上がるだろうよ。

しかしそういう状態ならの暴走が一番心配だな…」



「それは言えるかもしれねぇな…俺達の時みたいに

ぶん殴るわ、蹴り飛ばすわしなきゃ良いんだが…一応ストッパーとして

エメットを泊まり込ませる様にしてあるから大丈夫だとは思うぜ?」



「こっちの双子も色々拗れてたが、あっちの双子もか…

どっちも擦れきれてない分、色々と悩んじまうんだろうな。」



「なんとかしてぇってツラに書いてあるがな、俺達の出番はねぇだろう。

ここは大人の余裕ぶちかまして見守るのが一番だと思うぜ?」



グラスの中身を飲み干せば、横から追加の酌が入る。

空気清浄機のスイッチを入れてやれば、タバコに火をつけて

溜息をつきながら笑っていやがる…コイツがこういう顔をしてる時は

人の意見を聞いてねぇ時だ、つまり色々と動くつもりなんだろうよ。



「ノボリ逹といい、テメェといい、揃いも揃って心配しすぎなんだよ。」



「あいつ等はわからないが、俺はやっぱり年をとったんだろうよ。

最近は見て見ぬふりってのが、どーも出来なくて困ってる。」



ちっとも困ったツラじゃねぇぞ、むしろ凄ぇやる気じゃねぇのか?

頼むから俺まで巻き込まねぇでくれよ?

テメェ等のお守りなんざマジで洒落にもならねぇんだからな!