三章・指差確認準備中!編 -不安と恐怖とあれやこれ-

三章・指差確認準備中!編

不安と恐怖とあれやこれ

※注意※
 現地での話の為ボス達の会話も視点語りも普段の表記とは異なっております。



明日は予定通りがイッシュへ戻ります。

今迄行った業務の改善部分の報告書を受け取りましたが

その仕事ぶりはスーパーブラボー!と賞賛するしかありませんね。



『私は招待してませんが、何故今日もお前は来てるのでしょうね?』



『二人の仕事ぶりを観察するため?ってか、ホント君は失礼だよね。』



はキッチンで夕食の準備に忙しく動き回っております。

私と、なぜか連日自宅に入り浸るエメットはリビングのソファーに座り

のキバゴをそれぞれに育成中のキバゴと遊ばせております。



『インゴさん、そんな事は言っちゃダメですよー。

食事は大勢で食べる方が美味しいし楽しいですからね!』



『インゴはともかく、エメットはデートの予定とかねぇのか?

ノボリ逹から聞いた話だと、乾く暇も無いらしいじゃねぇか。』



『ちょ、それいつの話を言ってるのさ!

最近はそんな相手もいないし、そういう事もご無沙汰だよ?』



『エメットさん、それって男の人として枯れてますよ?

なんて、未だにオラオラ系で暴れん坊してますからねー。』



枯れてると言われて、エメットはショックを隠せないようですね。

ですが意味の無い付き合いは虚しいだけ。

愚弟もそれがわかったのですから、進歩したと言えるでしょう。

食事をすませてから、二人共相変わらずの仕事の持ち込み分をこなします。



『エメットさん、この書類の表記なんですが…』



『あぁ、これはこの計画書に対する見解。それからこの部分はこの書類だよ。』



『成程、ゲンナイ君ってばこんなに良い見本があるのに…

これは一発ガツンとかましてやらないと駄目かもしんないなー。』



…今でも十分と思うのですが、手厳しいですね。

書類関連でとエメットはその後も色々と改善案や新規書類の見本

その他にも何やら色々な案件を出しては、検討の為に話し合っておりますが



『エメット、そろそろ切り上げなさい。』



『うわわ、もうこんな時間とかすみません。あー、でもこの部分どうしよう…』



あと少しで意見がまとまる状態なのでしょうが、既に日付が変わっています。

これ以上は明日の業務に支障をきたしてしまうので許可できませんね。



『インゴ、エメットも泊まれば良いんじゃねぇのか?

そうじゃねぇと、こいつはまた寝ないでウダウダやると思うぜ?』



…エメットを泊める?今朝はあの恐怖をなんとか乗り切れました。

確かに、の提案はもっともです。ですが私は…



『ベッドはの部屋にしかありません。』



『あー、それならと私が一緒に寝ますよ?

あのベッドのサイズってダブルじゃなくてクイーンサイズだから問題無いし?』



『ボクはと寝たいんだけ…『殴りますよ?』酷い!

ねぇ、インゴさえ良かったらボクは別にソファーで寝ても構わないよ。

正直、この時間に外を一人歩きするのは男のボクでも怖いんだよね。』



『いやいや、家主の弟さんをソファーで寝かせるとか出来ませんってば

ここは私がソファーで寝ます。今朝もリビングに居座ってましたしね。

インゴさん、それで良いですよね?それなら…大丈夫ですよね?』



『…、愚弟にその様な配慮は不要です。

仕方がありませんエメット、宿泊を許可してあげましょう。

その代わり私のベッドで寝なさい。ソファーは提供しません。』



『それは駄目。君ってば何気に熱出したりしやすいでしょ?

ボクはそんな事ないからソファーで寝るからね。

インゴ、君の代わりは誰もできない。それをちゃんと自覚してよ

これはボクのワガママだからソファーで寝かせてもらうよ、わかった?』



正論を言ってるのは愚弟で、私はそれ以上何も言えなくなりました。

渋々了承すると、時間が勿体無いと言って二人は話し合いを再開しました。

溜息をついて寝室に入り、クローゼットからブランケットを2枚取り出します

今の季節ならこれで充分でしょう。

後は、着替えも必要でしょうか…パジャマは私ので問題ありませんね。


エメットを泊める事など、以前の私からは想像も出来ませんでした。

彼を拒絶し、一人で生きていく。彼の手もいらないのだと拒み

彼に手を差し伸べる事もせず、ひたすら今という時間をすごしていた。

そんな変わらない日常で私は十分満足していたはずなのに

何故、どうしてこんなにも心が躍るのでしょうね…


堂々巡りの思考を振り切るようにリビングに戻ってみれば

は部屋に戻ったようで、リビングにはエメットだけでした。

エメットにブランケットとパジャマを渡せば、目元を和らげ受け取り



『ありがと!インゴは怒るかもしれないけどさ、ボクは嬉しいんだ。

本当はずっとこうやって、お互いに行き来出来る様になればって思ってたけど

ボク一人じゃ出来なかったんだよね…ふふっ、達に感謝しなくちゃ!』



その笑顔は私には眩しすぎます。お前は彼等に出会って変わりました。

以前なら口が裂けても、この様な事は言わなかったでしょう?

人を小馬鹿にして徹底的に相手をやり込め、楽しむという悪趣味な笑い顔は

今ではユノーヴァに来る前のお前本来の笑い方に戻っておりますね。



『…お前は子供ですか?私達は成人済みで、その様な交流など今更でしょう。』



『君ならそう言うと思ったよ!だけどボクはそうは思ってないよ。

幾つになっても君はボクの兄なんだ、それは変わらない事でしょ?

あー、いい加減寝ないと不味いね、おやすみインゴ。良い夢を!』



照れ隠しなのでしょう、乱暴にパジャマに着替えた後で

おやすみ!と言って、エメットはソファーに横になりました。

私もそれ以上は何も言えずにリビングの灯りを消して、寝室に戻ります。



『良い夢…ですか、その様なものを見たのはどの位前でしょうね。』



パジャマに着替えて、アラームのセットをいつもより少し早めて

ベッドに潜り込めばすぐに眠気が訪れました。

今ならもしかすると良い夢?が見れるかもしれませんね

明日はエメットの好きだったエッグベネディクトでも作りましょう。







いつもの様にアラームが鳴る前に目が覚めました。

カーテンを開ければ、外は朝日が差し始めたばかり…

きっとリビングではまだ愚弟が惰眠を貪ってる事でしょう。


ベッドメイクをして、身支度を整えてから寝室を出ます。

カーテンを閉めたリビングはまだ暗く

ソファーにエメットの姿を探せば、見当たりません。



『エメット?』



トイレかと思いそのまま進んだ私は、目の前の光景に目を見開きました。

ソファーの下、床の上にエメットがうずくまっています。



『エメット!!』



そのまま駆け寄れば、エメットはゆっくりと目を開けました。



『んー…インゴもう朝?うわー、やっぱりソファーから落ちたのか

てっきり夢だと思って、そのまま寝てたんだけど違ったんだ。』



『インゴさん、どうしたんですか?!』



『どうした、何かあったのか?!』



私の叫びに、が部屋から飛び出してきました。

エメットが事態を説明して、寝相の悪さを指摘されて笑っておりますが…

私は…私の目にはその姿がよく見えませんでした。



『ホント、朝からインゴの怒鳴り声とか勘弁し…インゴ?

ちょ、どうしたの?インゴ、インゴ!』



視界が揺らぎ、暗くなるのがわかりました。

胸を押しつぶされる様な圧迫感、息苦しくて何度も大きく息を吸おうと

試みるのですが、それでも自分の肺に満足に空気が入りません。

あぁ…手足が冷たく痺れて、思うように動かすこともできません。


身体が大きく傾くのがわかりましたが、その後の感覚がはっきりしません。

朦朧とする意識の中で、目を閉じる前に微かに見えたのは

私の手を取って名を必死で呼び、泣きそうな顔をした片割れ…

そんな顔をする必要はないのに…、そんな顔をさせたくないのに…


目を閉じた感覚もないのに、目の前には写真でしか見た事のない母さんと

その隣には幸せそうに笑っている父さんの姿が見えます。

二人共、そちらで共にあるのですね。貴方逹は幸せなのですね。

父さん、母さんと会えた今の貴方ならば

今度こそ、私を見てくれますか?愛してくれますか?


視界が真っ暗になる瞬間、二人が大きく頷いた様な気がしましたが

確かめる事も出来ず、私はそのまま考えるのをやめました。