三章・指差確認準備中!編
仕事の鬼とあれやこれ
※注意※
現地での話の為ボス達の会話も視点語りも普段の表記とは異なっております。
とは出向してきてから、短期間の間で
目覚しい成果をあげておりますが、それもこの状況を見れば納得ですね。
『ちょっと聞いても良い?二人共イッシュでもこうやって仕事を
家に持ち帰ってやったりしてるのかな?』
リビングで、持ち込んだ仕事をそれぞれにこなしている二人を見て
今日も夕食を一緒に摂ったエメットが、ソファーに座った状態で
のポケモン達と遊びながら問いかけたのですが
私もその件については是非ともお聞きしたい所です。
まぁ、私自身も二人の事をどうこう言える様なものではありませんが
それにしても、これは限度を超えていると感じてしまいます。
『俺はコイツ程じゃねぇよ。大体事務仕事なんざ職場でやるモンだろう?
俺は帰ったらポケモン達の世話で忙しいからな。』
『ちょ、私だってうちの子のお世話はちゃんとしてるでしょー!
そうですねぇ、今は殆ど持ち込みの仕事はありませんけれど
ちょっと前までは山の様に持ち帰ってたのは事実ですね。
そうじゃないと、業務に影響がでちゃいますからねー。
なんせ二人であの職場の保全管理でしょ?仕方が無いですよ。』
『人を増やす事は考えていないのですか?』
これは以前から思ってた事です。あれだけの規模を実質2名で切り盛りし
尚且つ、こうやって出向までやり遂げるのですから。
『は今のところ考えてないですね。
でも、そうですねぇ…長い目でみたらになりますが、人は増えると思います。
これからジム巡りをするでしょう?そこで知り合った人に声をかけるとか?』
『確かに、前もそれぞれの地方でもそうやってたから有り得るんじゃね?
身寄りがなくて仕方なく底辺を彷徨ってる奴を放っておけねぇ性分だしな。』
簡単に想像できる!と言ってエメットが笑っておりますが
私もその意見に同意してしまいますね。自分の境遇がそうさせるのか
そういう連中を放っては置けないと、以前本人も言っておりましたし。
夜も更けたのでエメットは自宅へ戻り、私達も就寝の挨拶をしてから
それぞれの部屋に入りました。
明日も早めに起きて二人が起きるのを待つ事にしましょうか。
そうすれば、ドアを開ける瞬間に不安を感じる事もありません。
今朝はフルブレックファストでしたから、軽めにポリッジにして
後はサラダとフルーツで良いでしょう。
そんな事を考えながら、枕元のタイマーをセットして眠りにつきました。
いつも通りアラームが鳴る前に目が覚め、着替えてから部屋を出た瞬間
自分の身体が竦むのを止める事が出来ませんでした。
まだうす暗いリビングでが何やらパソコンを操作していたのです。
一瞬、倒れていた父親の姿と重なり、呼吸困難と胸が苦しくなりましたが
なんとかそれをやり過ごす事に成功し、落ち着かせる様に深呼吸をしてから
『おはようございます、朝から仕事ですか?
貴女の仕事に対する姿勢は賞賛に値しますが、無理は禁物です。』
後ろから声をかけ、そのまま腕の中に閉じ込めて頬にキスをすれば
相変わらずの色気の無い叫びがリビングに広がります。
『ぎゃー!ってインゴさん驚かさないでくださいよ!!』
大丈夫、は生きている。私の腕の中で冷たくなる事はない。
伝わるのは柔らかな温もり、死者には絶対に無い温もり…
は、私の様子がおかしい事に気がついたのでしょう。
暴れるのをやめて、顔をあげて私を観察する様に見つめてきました。
『インゴさん?』
『失礼、の抱き心地がスーパーブラボーですので。
私は朝食の仕度をします。貴女は仕事を続けなさい。』
今の私の顔は見せられたものでは無いので、頬にキスをして身体を離せば
叫ぶ事無く、そのまま私を見つめ続けます。
そう言えば貴女は他人の感情の動きにとても敏くてらっしゃいましたね。
『…テメェらは朝っぱらから騒いでナニをしてやがったんだ?』
声の方を振り返れば、眼鏡もかけず部屋着のままのがリビング入口の
壁にもたれ掛かりながらこちらを見ておりました。
『起きてきたらが仕事をしておりましたので、挨拶を?』
『…インゴさん、その言葉のままでお願いしますよ。
イケメンに朝からほっぺチューとか耐性がないんで心臓が持ちません。
大体こちらの習慣?ならにもほっぺチューとハグしなきゃでしょ?』
『キモい事言うんじゃねぇ!俺は野郎のハグもキスもゴメンだぞ!
それにてめぇは仕事してただと?ちょっとツラ貸しやがれ。』
『首が痛いってば!気がついたら朝だったんだよ、不可抗力だよ!!』
『…自分を顧みないのであれば困ります。
次に同じ様な事があれば、ベッドから起き上がれない様にしてあげましょう。
これは脅しではありません。私は本気です、頭に入れなさい。』
私が怖すぎると言っておりますが、妥当な打開策だと思いますがね。
それぞれに食事をとり、昨日と同じ様に出勤してからは
業務決済とバトルトレインの乗車に追われ、気が付けば昼近く…
トレインを下車した足で早めの昼食を摂ろうと食堂に向かえば
途中、保全管理課の部屋から大きな声が聞こえてきました。
そのままドアの前に立ち、中の様子を伺えば言い争ってる様子。
『いい加減にしてくれ!アンタはオレ等の上司じゃねぇ!!
仕事のやり方にいちいちケチを付けられちゃ、やってられねぇんだよ!』
『ケチをつけられる様な仕事をしてる貴方に問題があるんでしょう?
この仕上がりで取り付ける?冗談じゃない、絶対に許可できません。』
気づかれぬ様に入ると、中には職員が何人かいる様ですが傍観するだけ。
どうやら問題のある職員の仕事について、が注意をしている様ですが
事態を諌めるべきゲンナイは、まだ戻っていないのでしょう。
『いいですか、エアコン用のダクトの内張りは気密性が命。
それをこんな指が入る位のスカスカの状態にしてるのは誰?
ゲンナイ課長がそうやって貴方に指導したんですか?違うでしょう!』
『今迄これで問題がなかったんだ、取り付けてしまえばわからないだろう!』
職員の話にの顔色がかわりました。手にしていた書類をデスクに投げ捨て
彼の目の前に立ち睨みつける表情は初めて見るものでした。
『ふざけるな!問題が無いからそれで良い?そんなハンパな仕事をすれば
あっという間にここ全体の信用が無くなるんだよ!!
一度失った信用を取り戻すのにどれだけの時間と労力がかかると思ってる?
貴方にとっては沢山の仕事のひとつでも、そういう問題じゃないんだ。
ねぇ…自分の家の設備や内装を、こういう風にいい加減にされたらどう思う?
ふざけるな!もう二度と頼まないって思わない?』
『…それは…だが家と仕事は別だろう!すり替えるな!!』
そういうとの襟元を掴み上げました。
これはマズイですね、口は出さないと言いましたがこの状況は危険です。
しかしはその腕を振り払い、なおも言葉を続けます
『すり替えてなんていない!うちらの仕事はそういう事なんだ。
どんな時でも最高の状態にする、その為にはこういう事を疎かに出来ない
これが一番大事なんだよ?基本が出来ない奴にモノを言う資格は無い!!
逆に聞くけど、この状態を上から指摘されたらなんて言うつもり?
これが通常でどこでも同じですとか言うなよ?
こんな仕事をしていたら舐められるんだ、他人に付け入る隙を与えるな!』
一触即発状態ですが、下手に介入すれば拗れるでしょうし…困りましたね。
そのままドアの横にもたれ掛かっていれば、ゲンナイがドアを開けて
私を見て驚いております。
『黒ボス、何か用事ですか?ってか、この騒ぎはどうしたんだ?』
私とゲンナイの姿をみて、職員が舌打ちして部屋を出ようとしました。
『待ちなさい、話は終わってない。逃げるな!!』
『うるせぇ!』
『テメェ!良い加減に…『ゲンナイ君は引っ込んでろ!』…って姐さん?!』
回り込んだの顔に、振り払った手が当たり華奢な身体がよろめきました。
ゲンナイが出ていかなければ私が出るところでしたが、それを押しとどめて
今度はが職員の胸元を掴みかかります。
『そうやって虚勢を張って、役にも立たない楽な道に逃げてどうするのさ
ずっとそうやっている気なの?それならどうしてここにいるの?
堂々巡りの暗闇を抜け出したいって、少しでも思ったからじゃないの?
甘えるのもいい加減にしやがれ、自分が変わらなきゃ周囲は変えられない。
それこそ悔しい思いもする、理不尽な事をやらなきゃならない時もある。
だけどそうやって初めて、この世界でやっていけるんだよ!』
その言葉に部屋が水を打ったように静まり返りました。
胸元を掴まれた職員も言い返す事が出来ずに、その瞳が揺らめきます。
『この仕事は経験がモノを言うけど、いい加減な仕事の奴もいるよ?
だからってそれで良い訳ないじゃない、もっと上を目指そうよ。
せっかく得た、まっとうな道を進むチャンスを潰しちゃダメでしょう。』
『だけどよぅ、オレはもうあちこちから文句を言われてるし…』
どうやら話の終わりが見えてきましたね、それにしてもあの状態から
ここまでよく我慢しましたね、私には到底無理です。
『失敗は繰り返さなければ良いんだよ。ここは実力でちゃんと見てくれる
性根を入れ替えて必死にやっていけば、汚名挽回のチャンスは絶対に来る。
そうですよね?インゴボス。』
『ここは使える人間しか存在しません。』
『それ、言葉が足りないですってば。使える人間なら過去も問わないし
待遇だって区別される様な事はない…ですよね?』
『仕事に貴賎も性差もありません。私は正当な評価しかしませんが?』
この様子からすると、かなり前から私がいる事はわかっていたのですね
ここでの見解と待遇を確認する為に、トップの私まで手段に使うとは
一体貴女は、どこまで先を見通してるのでしょう。
はその職員の胸元から手を離して、服装を直すと
『うし、言質はガッツリとった!取り消しなんてさせないからさ
貴方は現場全体を見て動ける能力を持ってるんだ、勿体無いってば
それを活かして、これからは基礎をもう一度やり直して頑張ろうよ。
わからない事はどんどん聞いて?ちゃんと答えるからさ!
あ、でもスリーサイズとかは秘密だよ。
ベロア主任と一緒に並ぶのだって凄く勇気がいるんだからね!』
最後の一言をおどけて言えば、緊迫した空気が一気に和らぎました。
それを確認したはお昼に行ってくると言って部屋を出ます。
『、執務室に来なさい。頬が少々赤くなってますので、手当を。』
『あー、こんなの全然平気ですから!
それよりインゴボス、口出しせず見守ってくれてありがとうございました。』
呼び止めて、手袋を外した手で頬に触れれば少し熱を持ってます。
こんな華奢な体で大男を相手にして、恐怖心は無いのでしょうか?
あぁ、仕事に性差はありませんから愚問でしたね。
『私はこの件には一切口出ししないと言っておりましたでしょう?
ですが、今の状態には口出しします。執務室へ来なさい。』
そのまま手を取って執務室へ行けば、エメットと、彼と話していたが
の状態に驚き状況を説明しろと問い詰めます。
私が簡単に説明すればエメットは怒り出し、は呆れる始末、当然です。
『なんだかんだで、うまくいきそうなんで問題なしですよ?
うん、雨降って地固まる?これでこれからの仕事がやりやすくなるぞー!』
冷たいタオルを私から受け取り赤みの残る頬にあてながら、タバコに火を点け
が笑いながら頷きます。彼女らしい…そういう事なんでしょうね。
私もデスクに座り、タバコに火をつけます。
エメット達に怒られるを見て、ノボリが異常に過保護になる
その気持ちが、今なら理解できる様な気がしました。