三章・指差確認準備中!編 -滞在初日のあれやこれ-

三章・指差確認準備中!編

滞在初日のあれやこれ

※注意※
 現地での話の為ボス達の会話も視点語りも普段の表記とは異なっております。



ここに住み始めて結構経ちますが、キッチンをまともに使ったのは

今日が初めてではないでしょうか…


洗い物を全て終わらせて、リビングに戻ればライブキャスターが点滅中

何かと思えば、エメットからのメールでこれから向かうとの文字

思ったよりもの仕事が手間取った様でございますね。

立ち上がり、一番奥の部屋のドアをそれぞれ開ければ

そこには買ったばかりのベッドとクローゼットがセッティングされ

主の到着を待っております。


父親が亡くなって暫くの間、私は目が覚めて部屋を出るのが怖かった

ドアを開ければ、今度は父親ではなくエメットが倒れているかもしれない

そして、私を置いていくのかもしれない

そんな恐怖は、寄宿舎に入るまでずっと続いておりました。

二人でニンバサシティのバトルサブウェイに就いても、そういう理由で

エメットと共に暮らす事はおろか、彼を自宅に泊める事すら出来ない。

過去の恐怖を引きずり、未だに克服できない私は…



「なんと脆弱で愚かなのでしょうね…」



そんな事を言っても今更、それも十分に理解してるのですがね…

行き場のない環状線の様な、堂々巡りの思考に笑うしかありません。

気を取り直し胸ポケットからタバコを取り出した瞬間、視界が塞がれました。



「うぎゃー!へぶっ…!!」



「おっと」



『危ない、危ないっと』



胸に衝撃を受けて一瞬呼吸がつまりましたが怒るつもりはありません。

その正体は、ネイティとリグレーを抱えた

顔面を私の胸にしたたかに打ち付けた様でございますね。

とエメットはなんとか体制を立て直し、ソファーの側に立っております。



、大丈夫?顔が大変な事になってるヨ!』



『エメット心配するな、こいつの面の皮はそんなもんじゃビクともしねぇよ。』



『お前逹…テレポートで来るなら来るで、そう連絡しなさい。

顔は無事ですか?あぁ…額が赤くなってます、可哀想に。』



腕の中から身体を起こして、ポケモン達をボールに戻してる彼女を見れば

涙目になりながら、額をさすっておりました。



『ねぇ、普通顔面強打したら鼻が一番ダメージ受けるんじゃないの?』



『エメットさん、黙りやがれですよー、カントー系の顔は平面なんです

そもそも、インゴさんの大胸筋が堅いのが悪い!畜生…痛いぞー。』



『筋トレは欠かしておりませんので?それよりも部屋に案内します。

エメット、お前は食事を温め直しておきなさい。』



『うわーホントに作ったんだ!久しぶりにインゴのご飯とか嬉しいね!』



それぞれを部屋に案内して着替えるように伝えてキッチンへ戻れば

エメットが嬉しそうに鍋やフライパンの中身を見ております。



『ここは私が変わりますから、お前はテーブルのセッティングをしなさい。

食器はそちらの棚に、カトラリーはその引き出しに入っております。』



『ねぇ…この食器とかも、もしかして今日の為に買い揃えたの?

前に来た時はここまで揃ってなかったよね?』



『無駄口を叩いていると食事抜きにします』



『ちょ、君の料理の腕前はボクが一番よく知ってるんだ。

お預けなんて絶対嫌だからね!でも、ブランクなんて全く無さそうだね!』



エメットがセッティングを終わらせたと同時に奥の部屋の扉が開き

それぞれに部屋着なのでしょうね、着替えた二人がでてまいりました。



『改めまして、インゴさん滞在中はお世話になります。

うわーい、どれもすっごく美味しそうなんですけど!これ全部インゴさんが?』



『ノボリといいてめぇらの家事力半端ねぇな!

短い間だが世話になるぜ、明日は俺が夕食作ってやるよ。』



今回のメニューはユノーヴァの家庭料理をアレンジした物

テーブルに座って食事を始めれば、珍しいのか二人が色々聞いてきます。



『うわーい、スモークサーモンのテリーヌですか?

クリームチーズとレモンの風味がすっごく美味しいです!』



『この牛肉のパイ包みもうめぇな!中の牛肉が熱が通ってるのに

綺麗な色のまんまとか、火加減が完璧じゃねぇとこうはならねぇし。

ユノーヴァの料理は不味いって聞いてたが、あれはデマだったんだな。』



、これは全部インゴがアレンジしてるから美味しいんだよ!

それはね元々はビーフウェリントンって言うんだよ

達って米が主食なんでしょ?これ、ケジャリーって言うんだけど

ユノーヴァ風のカレーピラフなんだ。食べてみてよ!

インゴ、料理の腕は落ちてないね!全部すっごく美味しいよ!!』



三者三様に手放しで褒められると悪い気分にはなりませんね。

ユノーヴァに来たばかりの頃は食事が口にあわず苦労しました。

エメットに至っては状況も状況でしたのでストレスから

一切の食事を受け付けなくなる始末で…

これでは駄目だと、私は父親とエメットに少しでも食べてもらおうと

必死になって色々と工夫を重ねて食事を作っておりました。

それが役に立つとは、あの頃の私には想像もできなかったでしょう。


食後のデザートのプディングも、はレシピを希望するし

残りの二人は私が食べないと知ると、争奪戦を始める程…

大勢の食事にやや気後れしながら、後片付けをしようとすれば

が隣に立ち、洗い物を代わってくれる始末。

おいしい料理のお返しと言われれば断れませんでした。


それぞれにシャワーを浴びて、リビングにて持ち込んだ仕事を始めれば

途端に二人の顔つきが変わります。



『エメットさん、書式の統一にパターンがあるみたいなんですが

これは保全管理課でもそうした方が良いですか?』



『んー、ボクはこのやり方が一番効率的だと思ってるんだけど

が他のやり方をしたいっていう理由を説明してよ。』



『あのですね、事務関係の部署でならこれでも良いんですが

技術方面…保全管理課もそうですけど、車両整備の方とかになると

この部分…そうそれです、そこがちょっと不便なんですよ。

これ、うちの同じ関係書類なんですけど…この部分を変更してるんです。』



『ちょっと待ってね、この部分は必要項目…あぁ、そうか!

だから部署で書く場所が違うのか。うん、これは変更した方が良いね。』



『それじゃあ、こっちの書類もそれに則って提案してみます。

インゴさん、業務をする時の上への確認とか指示待ちってどうなんです?』



『…どうとは?』



『えーっと…何か変更事項が起きた場合、現場の判断でできるのか

全て上に意見書を入れた報告書を通さないとできないのか

もしくはある程度は現場に任せる…その場合はどの程度なのか?』



私のやり方を知りながら敢えて聞こうとするのですか…

隠していても意味が無いので、この際はっきりとさせておきましょう。



『私は全職員に対しての対応を全て統一しております。

最初は全ての事項を任せ、問題がある様ならその問題部分を指示して

それ以外を任せ、それでも更に問題があるなら全てを指示します。

そして、それでも問題がある場合は…役立たずに払う経費はございません。』



『ですよねー、でもいきなり切り捨ててると思ったら違ったんですね。』



『…貴女は私をなんだと思っているのですか?

失敗は繰り返さなければ良い、繰り返すのは馬鹿のする事…でしょう?』



恐らく向こうで従兄弟達に色々と聞いてるのでしょう

あの連中はわたくしのやり方を嫌っておりますが、それはそれで構いません。

テーブルに頬杖をついてが苦笑いしておりますので

彼女もこのやり方を受け入れる事が出来ないのかと思ったのですが…



『それ、企業のトップとしては十分に甘いですよ?

失敗をした時点で責任を取らせる、世間体を気にして即解雇なんてザラです。

そっかー、それだとまだ望みはあるのかなぁ…

インゴさん、正直に教えてくださいね?あの部署は今どの段階ですか?』



『あの感じだとギリギリセーフ、首の皮一枚なんじゃねぇのか?

だから、てめぇらは雇用時の個人での契約書を後から修正してるんだろ?』



『あはは!二人共すぐに気が付いちゃうとか流石だね。

それはボクがやったよ。契約期間中使えない奴の面倒を見る気は無いし

それを盾にして居続けられても時間と経費の無駄だしね。

インゴ、これは何時ものキミらしくハッキリ言った方が良いと思うよ?』



『私はいつも事実をあるがままにしか伝えませんが?

ゲンナイの仕事ぶりには何ら問題はありません。ですが管理者としては失格

部下を使いこなせない様では困ります。

そして、その部下も一部ではありますが問題がありすぎです。

部下については次は存在しておりません。それはゲンナイも承諾済みです。』



私の言葉には当然だろうと言う顔をしておりますが

はなにか考え込んでしまわれました。

救済処置を考えているのでしょうが、この件で譲歩する気はありません。



『インゴさん、出向する時にそちらからいただいた書類ですが

職員の指導だけではなく、職員に対する処分も出来る様に訂正して下さい。』



『自己犠牲に意味などありませんよ?』



『そんな事しませんよ、あの場所のトップはゲンナイ君ですし?

私はグダグダ文句を言われたくないからそうするだけです。

この問題は私が解決しても意味が無いでしょう?

これはゲンナイ君が乗り越えなくちゃならない事なんですから

ここで躓く様なら、を目指すなんて言うなって感じですね。』



らしくない、随分厳しいんじゃないの?』



タバコを吸っても良いかと聞かれたので、構わないと伝えれば

ポケットから取り出して、火をつけます。

紫煙を吐き出した表情はどこか苛立たしげにも見えますね。



『エメット、こいつは仕事に関しては一切の妥協も温情も無しだ。

そのやり方はハッキリ言って俺達以上にキツイぜ?

は懐に入れた奴にはどうしても甘くなるからな。』



『ホント、が悪いわけじゃないのにさー。

やけ酒かっ食らってグダグダしてるのなんて見たくないもん

凄い覚悟と決断をして、それで自分の意思を貫いてるんだ。

目先だけの憧れで真似するんだったら、ふざけんなって感じだよ。』



『ゲンナイはそんなつもりじゃねぇだろう?』



『だから余計にタチが悪いんだよ!一生懸命でも結果が残らなきゃ

信用なんてされない、信用を得るためにはそれなりの仕事をしなきゃ

そして人を使ってるなら、それを徹底的に教え込まなきゃでしょうが!』



タバコを乱暴にもみ消し、テーブルに突っ伏した

は頑張れとしか言わず、自分の分の仕事を再開させました。



『ホント、って貧乏くじ引いちゃうんだね。

それでもキミはこの状況をなんとかしたいって考えてるんでしょ?』



『ですよー、こうなる事はぶっちゃけ、私もも予想してたんです。

ゲンナイ君は上に立って日が浅いですから余計にですー。

私はこんがらがってる筋道を通すだけ、決めるのはゲンナイ君です。

どっちに転ぶかわかりませんが、最後まで責任は持ちますんでー』



『貴女がそのつもりなら、私はこの件には一切口出ししません。

何か質問があれば全て答えてあげますから、存分におやりなさい。』



未だテーブルにつけたままの頭を撫でれば、ゆっくりと顔をあげて

ガッツポーズをとって立ち上がりました。



『うし!お偉いさんの許可も出たから徹底的にやってやる!

元の経歴がなんだろうが、そんなものここじゃ役にたたないんだ。

それをまずキッチリわからせてやろうじゃないの。

女だからってニヤニヤして甘く見やがって…畜生、見てろよーっ!!』



その顔が少々赤いのは気のせいでは無いでしょう。

なんにせよ、業務改善と効率アップに繋がるならば大歓迎です。

これからの二人の活躍に期待できそうでございますね。