三章・指差確認準備中!編
不幸の書類とあれやこれ
とのポケモン達の育成も一段落した頃、不幸の書類がきた。
その場で破り捨てなかっただけ偉いって、自分を褒めても良いよね?
「それで書類の内容は?どうせあの連中の事でございます。
ロクなものでない事だけは確かでございましょうとも!」
スーパーシングルを終えて執務室に戻ってきたノボリが
コートを脱ぎもしないで乱暴に自分のデスクに座る。
「あのね、向こうで保全管理課を立ち上げて
それなりに改修とか修繕とかを進ませてるらしいんだよね。」
「…それで?」
「…ノボリ、いくら機嫌が悪いからってボクに当たらないで?
んで、ゲンナイと他の作業員とかの動きを見て指導して欲しいって
前の書類でも書いてあったでしょ?ユノーヴァに出向して欲しいんだって!」
書類の内容を聞いたノボリの眉間に、くっきりと皺が刻まれちゃってる。
その様子をみて、が苦笑いしながらコーヒーを持ってきてくれた。
「元々出向に関しては、こっちでも了承していたからね。
さっさとそれを終わらせなければ、二人共ジム巡りを始められない。
の体調も回復した事だし、ちょうど良いタイミングだと思うよ?」
の言葉にノボリの機嫌もちょっと復活?
だけど、詳しいことはとに聞かなきゃ駄目な事。
あの二人は仕事が絡むと全速前進どころかリニア並に突っ走る。
ボク達じゃブレーキ役にはならないんだろうなぁ…
ため息をつきながら、インカムのスイッチをオンにしてから
もうひとつのボタンを押して、二人に向けての通信に切り替える。
このインカムは例の大掃除の時にとが渡してくれた物なんだけど
色々便利だからってそのまま使ってる。
「こちらクダリだよ。と、話があるから執務室まで来て。
返信はいらない、作業を中断してでも来なきゃ駄目。以上!」
インカムをオフにして、コーヒーを一口飲んで
もう一度書類を最初から最後までしっかり目を通す。
「クダリ、流石に仕事を中断とはやり過ぎでは?」
「確かに二人共自分の仕事に色々されるのを嫌う。
でも、元々この話はあの二人がボク達抜きで向こうと話して決めた事
正直言って、ボクは今でもこの件については納得してない。
だからこの位意趣返ししたって良いと思う。」
ノボリが心配そうに言ってるけど、ボクだって不機嫌。
いつもならこんな事しないけど、その位イライラしてるんだからね。
そんな話をしてたらノックも無しでドアが開いた。
あー、不機嫌丸出しってこーいう事なんだろうな。
だけど、それはボク達も同じなんだから気にしてなんてらんない。
「ユノーヴァから、二人に出向依頼の書類が来た。
ジム巡りの事も視野に入れるなら、早めの方が良いと思う。」
「えぇ、それでお二人に出向期間と人選についてお聞きしたくて
こうして呼び出しさせていただきました。
貴方逹の仕事ぶりを存じておりますので、この様な理不尽な呼び出しを
私達だってしたくはありませんでしたよ?
ですが元はと言えば私達抜きで二人があちらで決めた事、でしたよね?」
リアルマルチバトル勃発って感じな位、執務室の雰囲気が悪くなる。
だけどさ、今の状態でも正直いって二人共結構無理をしてる。
ポケモンの育成と仕事の両立って大変な事。
まして、保全管理課は実質二人で切り盛りしてるんだから
他の職員たちよりその負担は計り知れないものになってる。
それを今度はユノーヴァに出向するんだから、更に負担がかかる。
上司としてだけじゃなく、友達として二人が心配、すっごく心配。
ユノーヴァからの書類を二人が見てる間、ボク逹は自分の仕事をする。
あーホントにあの二人が絡むと、どーしてこんなにイライラするんだろ!
言ってる事は正論が多いし、仕事に関しては凄いなって認めてる。
それでも、なんだか色々と神経を逆なでされてるのも事実。
「成程、状況はわかりました。ボス逹、この件は俺等が決めても?」
「えぇ、非常に不本意でございますが仕方がありません。
ですが上司として、そして友人として言わせていただきますが
決して無理はなさらないでくださいましね?」
「…課長、ユノーヴァには私が行きますね。
元々ゲンナイ君を指導してたのは私ですし、実務はともかく
おそらくは書式面で改善する必要が出てくると思うんですよ。」
「それなら俺もベロアちゃんを指導していたから、同行するよ。
そうすれば、移動後が例の発作を起こしても対応できるしね。
俺の出向期間は3日もあれば十分だと思うけど、はどうなんだ?」
そっか、愛護団体とのゴタゴタで起こした症状が落ち着いたって言っても
元々の持病?そっちもあるから注意しなくちゃならないんだった。
は同封されてた向こうの業務状態の書類を見て考え込んでる
「うーん、流石にその期間で全部見れるかっていったら無理ですね。
最低でも1週間、下手をすれば10日間とか2週間位は必要だと思います。
その位期間を設けないと、仕事の流れとか業務形態、業務計画の善し悪しとか
掴み切る事は出来ないと思うんですよ。」
「だろうな、向こうでは期間によって宿泊施設をホテルにするか
マンスリーマンションにするか、はたまたインゴ宅にするか決めるそうだ。
それなら、マンスリーマンションを借りて貰った方が良いだろう。」
え?今サラッと凄い事をが言ったと思うんだけど。
ボクは慌ててから書類を取り上げてもう一度目を通す。
ノボリもボクの横に来て一緒に書類をみれば、確かにそう書いてあった。
「…何これ、ふざけるのもいい加減にして欲しいんだけど!
ホテルとマンスリーマンションはわかる。でもインゴ宅って何さ!!」
「クダリ、それ以外にもが出向するとなればエメットも問題でしょう。
あぁ、やはりこの書類はそのままダストダスの餌にすれば良かった!!
ふざけるなこの野郎!いい加減にしやがれ!!…コホン…で、ございます。」
ボク達の剣幕にはびっくりしてるんだけど
その理由を知ってるとは、あーって感じで苦笑いをしてる。
が、どーしてボク達がここまで怒ってるかを説明したんだけど
ってば、それがどーしたの?って感じだった。
「あー、貞操の危機ってやつですか?まさか無いと思うんですけどねー
まぁそんな事になれば全力で戦いますが、なんせ体格差もあるし
以前あの二人のリアルバトルを見た限りでは、私に勝ち目はないですし?
まぁ、そん時はとんぼ返りで戻ってきてアフターピル使うしかないでしょう。」
「ちょ、!それって、そんな簡単に考えちゃって良い事じゃないっ!!」
「貴女はっ!自分を大切にしろと言ってるのがわからないのですか!!」
あんまりな発言にボクもノボリも我を忘れて大声を出したんだけど
の次の言葉にボク逹は何も言えなくなった。
「男性が殆どの職場で生意気だとか言われたり、そういう目で見られたり?
シンオウでもチャンピオン代理ってだけじゃなく、神ポケモンを持ってるから…
そんな理由で似た様な事がなかったワケじゃないんです。
私が女だからって事で、常にそういうリスクは背負ってきたわけですよ。
まぁ全部未遂で済んでるので、ギリギリセーフでしたけどね。
なのでそういう覚悟?はとっくにできているんです。」
ボク達を見て、またあの嫌いな笑い方をする。
全部を諦めちゃって、どーしようもない、どーでも良いやって笑い方…
「こんな事冗談なんかじゃ言えませんってば
私自身が女性である事をどれだけ否定したって、周囲はそうは思わない。
それなら最悪そういう状況になっても、妊娠さえしなければ良いんです。
だからと言って、自分からそういう事を進んでしようとかは考えませんよ?
極力女性としての部分を出さない様にしてるつもりですし
髪を伸ばしてるのだって短いとくせっ毛が酷いからで、坊主でも良いんです。
でも流石にそれだと余計に目立ちますからやりませんけどねー。」
はボク達がお母さんとの確執?そんなのを聞いてたのを知らない。
あの時も、胸も子宮もいらないって言って自分の性別を否定してた。
ボクは男だから、の苦労なんて完全には理解できないけど…だけど…
「クダリ?!」
気がついたら席を立って、思わずを抱きしめてた。
突然の行動に、皆が驚いてるのがわかったけど気にしてらんない。
「うわわ白ボス?!今の話からこの状況とか、どういうつもりですかっ!」
「…ビックリしちゃったよね?ごめん。だけど、だけど…
今迄たくさん怖い思いもして、悲しくなったり辛かったり大変だったよね?
だけどは頑張ったんだね、ううん…頑張ってるんだね。」
ボクの腕の中にスッポリ収まる位に華奢な身体で、今迄たくさん頑張ってきた
そんなを思ったら、なんだか急にこーしたくなった。
そんなボクを見て、ノボリが近づいてきての肩に手をかけた。
「今迄その様に辛い思いをして、さぞや大変だったでしょう。
ですが、これだけは言わせてくださいまし。その様な輩だけではありません。
私もクダリも、そしてここの職員全てはを男女の性差など関係なく
一人の人間として見ております。皆が貴女という人間を尊重しております。」
「ボク逹はが大好き、大切。だからも自分を大事にして?」
もう一度だけギュってしてから身体を離せば、ボク達を見ては笑った。
その笑い方はさっきとは違ってすっごく綺麗だなって思う笑顔。
ボクの好きな、裏表のないホントの笑顔だった。
「勿論、わかってくれる人がいる事だってちゃんと知ってます。
だから私はこうやって仕事をしてるし、色々と頑張れるんです。
なので今回の出向もどーんと任せてください。良いですね?」
「うんわかった。この件はにお願いするね。」
「えぇ、向こうの連中がなにかやらかした場合は遠慮はいりませんよ?
急所のひとつやふたつ、ぶっ潰して差し上げてくださいまし!」
「あはは!それって男の人が言うセリフじゃないですよ?
んじゃ私は仕事に戻ります。主任、出向関連の書類作成をお願いします。
課長、向こうへその様に連絡してください。では失礼しました!」
が部屋を出て行った後でとが同時にため息をついた。
「二人共、俺等がついてるって事を忘れてないか?」
「そうそう、あいつに色々しでかそうとした奴らの末路を教えようか?」
「「あ…」」
そうだった!ももをすっごく大切にしてるんだもん
二人がそんなのを黙って見てるわけが無い!
「あのね、今度そーいう事があった時はボクも仲間に入れて?」
「私も全力でお相手しとうございますので、よろしいですよね?」
ボク達のお願いに二人共が笑いながら頷いた。
が大事で大切なのは同じなんだもん。ここは協力しあわなくちゃ!
ボク達も自分に出来る事で守らなくちゃならない。守ってあげたい。