二章・強者達の夢の競演編 -仮定と想定と現実と-

二章・強者達の夢の競演編

仮定と想定と現実と



一日目のバトルが終了して、私達は二勝一敗。

明日の二戦は負ける事の無い様、一層の努力が必要でございますね。

各代表がそれぞれ三戦しており、無敗の三勝がシンオウ代表のみ。

晩餐会会場にて、代表者の方はそれぞれに今日のバトルについて

自分達の見解を話し合われておりました。



「あー、負け越しとかマジへこむんだどー!

アデクさん、すみません!俺が不甲斐ないばっかりに…」



「トウヤ君、それは嫌味にしか聞こえないんですけどね。

わたし達は全敗ですよ?流石にチャンピオンバトルとは違いますねぇ…」



トウヤ様がフォークにニンジンのグラッセを挿したまま、

今にもテーブルに突っ伏しそうな勢いでございます。

それを見たミクリ様が苦笑いをして、テーブルに頬杖をついておられます。



「ミクリ、ぼく達は悔いの無いバトルをしたよ?

勝敗は必ずついてくるけど、それだけじゃあない。問題は中身だよ。」



「持てる力を全て出し切った感は半端ないよな。

おれもレッドのフォローに精一杯で、バトルの組立とか?

そんなのが後手後手にまわっちまったし…マルチバトルは難しいな!」



「わたしもワタルの足を引っ張らない様にって必死だったわ。

そう言えば、サブウェイマスターさんはマルチが得意なのよね?

それって、やっぱり双子だから?」



「どーなんだろ?双子だからって、皆がマルチが得意ってわけじゃない。」



「えぇ、現に私達の従兄弟が他地方でサブウェイボスとして

イッシュと同様にバトルサブウェイでマルチバトルも行っておりますが

正直、得意ではないと申しております。」



「…へぇ…。」



「ですよねー、オレも双子のトウコと組んでマルチやってるけど

ぶっちゃければ、オレはシングルでトウコはダブルが好きだしなー。

でも、さんはずっとマルチが好きだって言ってましたよね?」



「へ?」



流れで話の矛先がに向いたのでございますが、当の本人は

今まさに、切り分けたリブロースに齧り付こうとしておりました。

言われてみれば、確かにはずっとマルチが得意と申してました。

それはも同様に申されておりましたねぇ。

ステーキを口に入れて、モゴモゴと噛みながらトウヤに向かって

首を傾げておりますが、それは口に入れる前にすべきでしょうに。



ってば、そんなにお腹が空いてたの?

でも、貴女は誰と組んでも必ず勝つってタワータイクーンも言ってたわね。

ねぇ、それって何か秘訣があるのかしら?」



懸命に咀嚼して肉を飲み込んだ後、ナプキンで口を拭きながら

はあーとかうーと言いながら苦笑いをしました。



「色々神経張り巡らせるんで、お腹が減るんですよー。

私のマルチが好きって言うのは消去法なんです。

シングルとダブルは、身近に絶対に勝てない凄い人がいますから。」



「そう言えば、ってチャンピオンリーグ制覇の最短記録作ったって

言ってた様な気がする…ね、ノボリ?」



「そういえば…。後、はスーパーダブルトレインにて

クダリを最短で撃破して、その記録は未だ破られておりませんし。」



の名前を出せば、皆様が何故だか納得した様に頷きました。

一体あの二人はそれぞれの地方でどの様なバトルをしたのでしょうか。



はなー、もう何ていうか力でゴリ押しかと思えば違うし。

はダブルが得意だって?あいつ、シングルでブイブイ言ってたのに」



はわかりやすいんだけどね。彼のポケモンが凄すぎるんだよ。

大体、全部6Vのパーティで挑戦するトレーナーなんていないだろう?」



「そうよねぇ、特に彼のカイリューは惚れ惚れする位凄いわよね。」



がダブルが得意っていうのは理解できるかな。

ダイゴと対戦した時なんて、あれは半分以上遊んでいましたよね?」



「ミクリ…ぼくは、あのバトルをはっきり言って思い出したくもないよ。

頭脳戦と言えば聞こえは良いけど、あれはそんなものじゃなかった。」



「…想像できる。」



…各地方で大暴れをしたことだけはわかりました。

皆様が当時を思い出したのか、どんよりしている中でトウヤ様だけが

目を輝かせておりました。



「うわー、オレさんとはバトルした事ありますけど

凄く強かったですよねー。んで、さんもそんなに凄いんだ…

今度お願いしたらバトルしてくれるかなー、して欲しいなー。」



「トウヤ君がお願いすればしてくれると思うけど…トラウマにならないでね?

私のシングルとダブルはあの二人が先生だけど、ぶっちゃけ反面教師?

オマケに色々やらかしてくれるから、そのフォローしてるうちに

気がついたら、自分にはマルチが一番あってるかもって思ったんだ。

ホント、あの当時は皆さんに色々とご迷惑かけましたよねー。」



「若さって怖いもの知らずだよな!

だけど、別におれはあの二人とのバトルは嫌いじゃなかったぜ?」



「…あぁ。」



グリーン様の言葉に皆様が同時に頷かれました。

彼等とのバトルは、圧倒的な力の差を見せ付けられると聞いておりますが

それだけではなく、何かしら得るものがあるのだと

対戦するトレーナー全員が口を揃えておっしゃっておりました。

それを皆様も感じておられたのでございましょう。


晩餐会は和やかな雰囲気で終わり、それぞれに部屋に戻りました。

私も自室に入ってから、のんびりしようと制帽とコートを脱ぎ

ネクタイを緩めた時にドアがノックされました。

クダリが来たのかと思いドアを開ければ、シロナ様でございました。



「いきなり来てしまってごめんなさいね。

前に、隠れた伝説のポケモンについて聞いていたわよね?

その文献を色々と集めて、持ってきたのよ。

それと、この件についてちょっと気になる事もあったりするし…

話が長くなりそうだから、中に入っても良いかしら?」



シロナ様を中に招き、椅子に座っていただきました。

冷蔵庫からおいしい水とサイコソーダを出して、テーブルに置いてから

私はシロナ様の向かいの椅子に座ります。



「これが、隠れた…っていうか伝説のドラゴンポケモンの影になった

伝説とそのポケモンについてまとめた文献よ。

伝説のポケモンが発見された時に、存在が明らかになっていたはずなのに

なぜか、学会でも重要視される事なく埋もれてしまっていたの。」



「伝説のポケモン達は元は一体だったとは聞いた事がありました。

ですが、これは…この見解は信憑性があるのでしょうか?」



「正直言って、はっきりした事はわかっていないのよ。

だけど、伝説のポケモンが別れて残った抜け殻が存在すると言う場所…

その近くでは最近ある異変が起きていて、それが深刻化しているの。」



そう言って、シロナ様は私からレポートの束を取り上げると

あるページを探し出して、テーブルの上に置きました。



「この場所では異常気象が発生していると報告を受けてるわ。

周囲がだんだんと氷で覆い尽くされてしまって、町が孤立…いいえ

氷漬けになろうとしているらしいの。それと、…この部分を読んで?」



「…災いが降りかかる…その異常気象は伝説のポケモンのせいだと?」



「はっきりした裏付けが取れてるわけではないのよ?

そもそも、災いがどういったものかも不明だし、直結させるのは

強引すぎるんじゃないかって思うんだけど…完全否定もできないわ。」



「ですが、現実として伝説のある地方で異常気象が発生していると…

それも、そのポケモンについて表記されている文献を見れば

その異常気象はポケモンが起こしているかもしれない…

この状況について、学者の皆様方はどの様にお考えなのでしょうか?」



「異常気象についてはアララギ博士他、こっちにいる学者達が

調査を始めるところらしいわね。いつからかはまだ決まってないわ。

少なくとも、わたし達学者は可能性のある事例については徹底的に調べる。

だけど、今時点では本当に仮定と想定でしか話が出来ないのよね。」



そう言うとシロナ様は椅子に深く腰掛け直してため息をつかれました。

私は受け取った文献をもう一度読み直します。

のミッションが近づいていると言う事…

そして、この埋もれてしまった伝説のポケモンが由来するかもしれない

現象が発生した事…タイミングが合いすぎではないでしょうか。

ですが、はこの現象にどの様に関わりをもつのでしょう?

あぁ、漠然としすぎていて非常にもどかしい!



「…ねぇ、黒のサブウェイマスターさんはどうしてこの伝説を知ったの?

本当に学会ですら埋もれてしまったものなのに、一般人の貴方が

普通なら、そこまで興味を持つ様な内容とは思えないんだけど?」



「…私はが伝説のポケモンの影に隠れたポケモン…

ギラティナを持っている事を存じております。

各地方でも、同じ様な位置づけをされたポケモンが存在しておりますよね?

ではイッシュにその様な位置づけのポケモンが存在しないのはおかしい…

そう考えて、色々と調べておりました。すぐに壁にぶち当たりましたがね。」



「ふぅん…その壁が、わたしのあげた文献で無くなったって事かしら?

それならどうして貴方はそんな深刻な顔をしているの?

この件について、何か…重要な鍵になる様なものでも知っているの?」



流石は学者をやっておられるお方だけあって、簡単に誤魔化されては

いただけない様でございますね。

ですが、この件については絶対に悟られてはならないのでございます。



「鍵と申すものであれば、トウヤ様が持っている伝説のドラゴン…

レシラムでございましょうね、私も拝見した事がございます。

そして、今は行方不明になっている対なるポケモン…ゼクロム?

それも鍵になるのではないでしょうか?

そちらの方は私の知るところではございませんが

トウヤ様は私どもバトルサブウェイをご利用になってるお客様

それだけでなく、個人的にも親しくさせていただいております。

ですから助力になればと思い、個人的に動いてるだけでございます。」



トウヤ様には申し訳ないと思いましたが、この件については

格好の隠れ蓑になる存在でございますのでお許し下さいまし。

もっとも、今の言葉も嘘ではございません。

トウヤ様に何かあれば、私達は個人的にでも協力したいと思います。



「成程ね、あの子ってすっごく純粋で真っ直ぐだものね。

なんだか助けてあげたいって思う気持ちはわかるわ。」



…どうやら、納得していただけた様で助かりました。

正直申し上げれば、私はこの様な嘘…方便を言うのは苦手でございます。



「えぇ、何か起きてからでは何事も遅かったりいたしますよね?

何もなければそれで良し、ですが、何か起きた場合にすぐ動きたい。

では、身構える必要があるのか?何かが起きる可能性はあるのか?

そう考えて、シロナ様に無理なお願いをしたのでございます。」



「…貴方の考えって本当に学者向きよね。

ひとつの仮定をシミュレーションして、それに基づいて事例を拾い上げる。

それって普通の学者でもなかなか出来ないのよ?」



「私のこの考え方はバトルを組み立てる時のものでございます。

相手のポケモンと技、能力や特性を想定してシミュレーションを行い

自分が勝利する為にはどうすれば良いのかを見つける。

今までに何度も繰り返しておりますので、他の事であっても

ついつい同じ様に考えてしまうのでございます。」



「バトルと一緒とか…流石は廃人施設の頂点にいるだけの事はあるわね。

そっか、そういう風にバトルを考えるのも面白そうだわ。」



「この度はシロナ様の貴重な時間を使わせてしまって申し訳ございません。

ですが、もし宜しければ引き続き何かわかればお知らせ願えないでしょうか?

それと、以前にも申し上げましたが、この件に関しましては…」



「誰にも内緒って事でしょ?わかってるわよ。

わたしもなんだかこの件に関して非常に興味を持っちゃったし

貴方に協力ってわけじゃなくって、調べるつもりでいるから

ついでで良いなら、わかり次第また連絡するわね。」



それじゃあと言って、シロナ様は部屋を出て行きました。

部屋の外まで見送り、戻ってからテーブルの上に広げられた文献を

私は手に取りため息をついてしまいました。


この事例がのミッションに関わりがある。

私にはその様に思えて仕方がないのです。そしてもう一つ…



「近づけば災いが降りかかる…でございますか…。」



それが今起きている異常気象をさすのか、これからが関わり

彼女に災いとして降りかかるのか、それすらもわかりません。


椅子に座り、グラスの中のおいしい水を一気に飲み干して

私は目を閉じて、今後について色々と考えました。

ですが、これは私だけの胸に納めるべきではないでしょうね。


エキシビジョンマッチが終わってから、この文献をクダリと

あの従兄弟達に見せて、今後どうするかを考えるとしましょう。

全ては未だ仮定と想定でしかないのが現実でございます。