二章・初志貫徹編 -急転直下に立ち向かう-

二章・初志貫徹編

急転直下に立ち向かう



ブレーキの音が車両の悲鳴の様に聞こえた。

人を傷つける為にあるんじゃない、人と共にあるべき車両が泣いてる。

そんな感じで鳴り続けていたブレーキ音がやっと止まった。



「お二人共、お怪我はございませんか?!」



ノボリの声にボクも我に返る。そうだ、今はボーッとしてらんない。

ボク達が庇ってたおかげもあってか、二人に怪我はないみたい。

まずは、お客様を安全な場所へ移動させなくちゃ!

そして…そして、ホームの状況を…逹の安否を確認しなくちゃ…!!



「シンゲン、乗員が全部降りたら車両をバックさせて!

それから、救護班は待機と、ポケモンセンターに連絡して。

こっちに転送用ポケモンとドクターを要請しておいて!」



ドアが開いてからボク逹はトウヤとトウコをホームで待機してた

安全管理の職員に託して、ここを離れるように指示する。



「ちょ、二人共待ってください!さんが…さんがっ!!」



「いやだぁあああ!さん……さ…んっ!!」







        ── パーンッ!! ──



その場に残ろうと暴れてる二人の目の前でノボリが手を叩く。

ざわついた乗車口ででも、その乾いた音は凄く響いた。

それで一瞬我に返った二人が、泣き顔のままノボリを見る。



「お二人がを心配なのは重々わかっております!

ですが、事態は一般の方の目に触れさせるべきものではございません。

これは彼女と親しくされていた貴方逹でも、譲る事ができないのです。」



「ちゃんと状況がわかったら、ライブキャスターに連絡する。

だから二人はこのまま一度ギアステを出て待ってて。」



そのまま、二人を押しやるように歩かせ始めたその時に



「何故?何故英雄ともあろう方がこの様な場所にいらっしゃるのですか?!」



愛護団体の代表の人がトウヤに気がついてこっちに歩いてきた。

その手にはサバイバルナイフ?みたいな物が見える。これって不味い!!



「あぁ、貴方様は騙されてるのですね?この様な場所を治める人物…

サブウェイマスター…どこまで私達を愚弄すれば気が済むのでしょう!!」



「何言ってやがるんだ!アンタ頭がおかしいって!!

ノボリさんもクダリさんも凄い人なんだ、オレの目標、憧れなんだからな!!」



トウヤが職員の手を振りほどいて代表に向かって叫ぶ。

駄目だ、そんな事をしちゃ興奮状態が余計に酷くなるってば!!



「貴方様…いや、貴様はすでに堕落していたのか!!

歪んだ場所の…歪んだ人間を目指す者は全て…全て粛清してくれるわ!!」



そう言って狂気に駆られたその人はトウヤに向かって走ってきた。

ボクとノボリがその前に立ったその時、人ごみの中から影が飛び出すと

今にも振りおろされそうな刃物を持った手を掴んでその体を投げ飛ばした。



、ナイスやで!」



「ったりまえだ!こんな茶番にいつまでも付き合ってられねぇんだよ!!」



そのままはボク達を庇うように前に立ちふさがった。

今度はが倒れた相手に起き上がる余裕も与えないで、

思い切りその手を踏みつけて、ナイフを取り上げる。



「はい、ちょっと通して!

危険物所持と傷害未遂の現行犯でこのまま逮捕させてもらうよ。」



今のうちにと、トウヤとトウコをホームから脱出させて

ボク達は入ってきた刑事…をみてビックリした。

今回の騒動は国際警察は関与してないはずなのにどうして?!



「刑事さん、そっちはお任せします。

こちら、応答しろ!っ!!」


インカムに向かって叫ぶの声にからの応答は無い。

ホームで騒動が起きている間に、車両はバックして乗車口から離れた。

ボクもノボリも、そしても一斉にホームに降りる。


リグレーがいた場所に、の姿は無い。

そしてトレインにもホームにも、人身事故特有の血飛沫や肉片もついてない。

これは最悪の状態じゃないって事だけど、それじゃどこにいるの?!

すっごく遠くに作業員用のヘルメットが落ちてる。

これはが…やっぱりトレインにぶつかったって事なんだろうか?



!どこでございますか?!」



薄暗いホーム下を見渡せば、オレンジ色のツナギを着た

ホームの真下、車両が通過するすぐ横の奥まった所にうずくまって倒れている。



「「「「 !!」」」」



ボク達は一斉に駆け寄る。ノボリがを抱き起こそうとしたんだけど

それをが慌てて止めた。



「黒ボス動かさないで!これは…頭部から出血してます!

最悪脳に問題が起きてるかもしれませんので、そのままにして下さい!」



の横たわってる床には血だまりが出来てる。

その目は固く閉じられていて、身動きする様子はなかった。

震える手、震える身体を、ボクは自分では止められなくなってた。



「リグレーは?あぁ、生体反応が微かですがあります!

救護班!!ポケモンセンターからのドクターは?

いえ、こちらに来なくても、私が抱えて行きます!!

クダリ、貴方はを二人と共に頼みましたよ!」



の腕の中でグッタリしているリグレーを抱き抱えると

ノボリはそのままホームを上がって、待機しているポケモンセンターの

ドクターの元へ走っていった。

そうだ、ボクが…ボクがこんな事じゃ駄目なんだ。

ボクはサブウェイマスター、ここのトップで皆を守らなくちゃならないんだ。

目の前の光景に滲んだ涙を袖で拭って、ボクは立ち上がる。



の状態は?救護班、救急セットを持ってきて!

後、試験段階って言ってたけどライモンシティ総合病院に連絡をとって

そのまま急を要するんだったら、連携して搬送出来る様にして!

他の皆は、ここの立ち入り禁止と負傷者の搬送ルートを確保して!

整備班、トレインにかなり無茶させた。至急点検をお願い。

そして、故障箇所とか破損箇所があったら至急対応して!」



緊急時の出来る事全てを頭に浮かべて、指示出来る事は全部言った。

それぞれの職員がそれに倣って直ぐに対処を始める。

の状態を見ながらライブキャスターで病院と連絡してる。



「こちらバトルサブウェイです。人身事故が発生、応援を要します。

怪我人は26歳女性で職員です。えぇ、意識レベルは300ですが

脈拍呼吸に問題はありません。対光反射も左右差無く平常です。

外傷は頭部の裂傷のみ、骨折は無しです。

はい、場所はスーパーマルチトレインの乗車口ホーム下です。

えぇ、ではこちらでルート確保を行って待機しておきます。

白ボス、向こうの受け入れ態勢はオッケーです!

今こちらにテレポート用のポケモンとドクターが向かってます。」



連絡を終えると救護班から救急セットを受け取って、応急処置を始めた。

その間も、は意識を取り戻す事なく、グッタリしたまんまだった。



「こちら保全管理課のです。環境整備課の方

お手隙でしたら血液洗浄用の洗剤とクロスを持ってスーパーマルチ乗車口へ

清掃作業についてはこちらでやりますので、道具だけお願いします。」



あぁ、この状況でそっちの方をすっかり忘れてた。

綺麗にしなきゃ、運転を再開させる事は出来ない。しっかりしろ、ボク!



「ボス、ライモンシティ総合病院からドクターが来ました!

すみません、ドクターこっちです!急いでください!!」



カズマサが病院からのドクターを誘導して連れてくる。

ドクターはの傍に近づくとちょっと顔をしかめてから直ぐに

搬送する事をボクに伝えた。



「白ボス、取り敢えず俺が付き添っていきます。」



身体に余計な振動を与えないように移動用の担架に乗せられたの横で

がボクを見て頷いてから、病院に向かってテレポートした。


それから後は凄くバタバタした。

事故現場周囲を立ち入り禁止にして、マスコミには後日記者会見をするって

伝えてから引き取ってもらって、警察の現場検証を受けて。

ポケモンセンターから戻ってきたノボリと合流して現在警察に状況説明中。



、今回は国際警察の関与する事件じゃないよね?」



警察署に行くまでにマスコミが煩そうだって理由で

執務室の応接スペースでボク逹はに今回の件を話していた。

元々はバトルサブウェイと愛護団体の問題だったんだもん

が…国際警察が介入するとは思わなかった。



「あー、なんだかイッシュの警察から直接連絡があったんだよ。

が事情聴取受けたんだろ?

当事者じゃねぇが、前回の件でこっちの規約を知ってた刑事が

気をきかせてっつーか、そんな感じでどうしますかってな。

んで、ハンサムさんの命令で遥々カロス地方から来たってワケ。」



「成程、そういう事でございましたか。

お手数をかけてしまって、誠に申し訳ございません。

ところで、今回の件はマスコミに箝口令を取るのでございますか?」



そうだ、逹が絡む事件はマスコミに箝口令が出されるんだった。

ノボリの質問に、が困ったように頭をかいて首を振る。



「ここまで既にマスコミに騒がれてるだろ?やれと言われたら

できねー事じゃないんだけどさ、逆に色々探られそうだからなー。

ぶっちゃけ、そっちの方がめんどくさくなるんだよ。で、どーする?」



ボクとノボリは顔を見合わせた。

うん、ノボリの言いたい事はわかってる。ボクも同じ気持ち。



、今回はそのままで構わない。

ボク達、マスコミの人逹に記者会見するって約束もしてる。

それに、今回の事で一般の人にも色々と言いたい事ができた。」



「えぇ、私もクダリと同じ意見でございます。

今回はマスコミへの箝口令はおやめくださいまし。

今後のバトルサブウェイの有り様の為に、ハッキリとさせたいのです。」



ボク達の答えに、は頷いてからソファーから立ち上がった。

その時執務室に、現場の清掃をしていたが入ってくる。



「お疲れ様です。ボス達、ホーム下の清掃は完了しました。

車両の点検が終わり次第、いつでも運行を再開できますよ。

それで、リグレーの容態はどうなんですか?後、から連絡は?」



の報告を受けてすぐ、インカムから車両整備班の

トレインの点検が終わって、特に問題がなかったって通話が入った。

うん、取り敢えずこれでギアステの方は落ち着いたかもしんない。



「リグレーは衰弱が酷くて、意識もほとんどありませんでした。

ドクターの話では最善をつくす…だそうでございます。」



からはまだ連絡が来てない。

状況がはっきりするまで付き添うからって言ってた。」



「…そうですか、わかりました。

俺はこれから例のダクトの改修に入ります。何かあったら連絡をください。」



一瞬遣る瀬無いって顔をしてから直ぐに、はいつもの様子に戻ると

そのまま、執務室を出ていった。



「毎度毎度こんな事してたら命がいくつあっても足りねーって!

まぁそれがらしいって言えばそれまでなんだけどなー。

あいつはポケモンに対して、思い入れが半端じゃなく激しいんだよ。

オレ等がいくら止めても、自分はポケモンに命を救われたからって

そう言って耳を貸そうとしねーんだよなー。

さてと、それじゃ今日はこれでオレも戻らせてもらうかな。」



そう言ってはボク達に手を上げて部屋を出ていった。

残されたボク達は、そのままソファーに身体を預けて目を閉じる。


がポケモンにすっごい愛情を持ってるのは、見ればわかる。

それはこっちに来た時の事に関係があるんだろうな。

でも、だからといって自分の命を顧みないのは駄目だと思う。



「まずはからの連絡を待ちながら、私達も仕事に戻りましょう。」



ノボリが溜息をつきながら自分のデスクに戻った。

ボクもその後をついて、自分のデスクに戻る。



「ノボリは今回の事件の全部を書類にまとめてくれる?

ボクは記者会見の設定と、今回の事を本部に報告するから。

ボク達は出来る事は全部やった。最善を尽くした…よね?」



「えぇ…私、自分で自分を褒めたくなりましたよ。

本当ならあの場で、あの方をどうにかしてやろうと思いましたからね。」



ボクだってあの代表者をどうにかしてやりたかった!

リグレーを、そしてを危険な目に合わせた張本人を許せなかった。

だけど、ボク達はサブウェイマスター。

あの状況で個人的な感情に流される事は許されない。

自分の置かれてる状況、立場を弁えて動かなきゃならない。


ちょっと前のボク達なら、すっごく取り乱してたのかもしれないけど

こういう事を、ちゃんと理解して動ける様になったのは凄く良い事なんだけど

それでも自分達が成長したんだって、素直には喜べなかった。