二章・初志貫徹編 -風雲急を告げる-

二章・初志貫徹編

風雲急を告げる



スーパーマルチの最終車両にて、いつもと違う運転士に私達は驚きました。



「うわー、シンゲンが運転なんてどーしたの?」



「シンゲンが以前は運転車両部の方にいらしたのは知っておりますが

今日は何故、このスーパーマルチを運転されてるのでございますか?」



待機室の更に奥にある運転席に3人が入ると少々狭いですね。

ですが、トウヤ様とトウコ様がこられるまでまだ時間がございますので

私達は一緒に運転室に入っておりました。



「ボス達ガ知ラナイダケデ ボクハ結構運転シテルンデスヨ?

今回ハトールノ依頼デ ブレーキシステムノチェックノ為二乗リマシタ。」



目の前にあるモニターでバトルの様子を見ながら、技の為の振動を

最小限にする様に運転をされる技術は流石でございますね。

次から次へと目まぐるしく状況の変わる中での運転は

自動運転の多い一般車両の運転手では到底務まらないのでございます。



「いいなー、ボクも運転したい!

そうだ!今度の車両点検の時に運転させてもらう!いいよね、ノボリ?」



「点検時でございますか?運転車両部の許可が出れば構いませんが

クダリは運転を離れてブランクが結構ありますよね?」



「最新型ノ車両ハ 無理ダト思イマスガ、旧式車両ノシングルナラ

問題ハ無イト思イマス。」



「シングルだったら、バトルトレーナー部に移るまで運転してた!

車両の癖も全部覚えてる!うん、今度運転車両部にお願いしてみる!」



元々車両が好きで運転士を目指していたクダリでございますので

この状況が嬉しくてたまらないのでしょう。

その様な事が可能ならば、今後もたまにであれば運転しても

良いのかもしれませんね。

車両を知る事も、サブウェイマスターとして重要でございますから。



「白ボスモ 車両ガ好キナノハ 変ワッテマセンネ。」



「シンゲンには負けるけど、ボクだって電車が好き。

電車とポケモンとバトルが好きだからバトルサブウェイに就職した。

大好きな事を仕事にできるのは幸せな事って教えてくれたのはシンゲンだよ?

それだけじゃない、運転士として大切な事を教えてくれたのだって

全部シンゲンだったでしょ?今でも全部、ちゃーんと覚えてる!」



「フフッ、白ボスハ 大変優秀ナ 運転士デシタヨ?」



以前の上司が今は部下として目の前にいるという状況ですが

二人共、その様な事は気にならない様で、電車の話に盛り上がっております。

それでも、シンゲンの視線は絶えずモニターや計器類をチェックしており

その運転技術は、未だ健在のご様子なのは素晴らしい事でございます。



『こちらクラウド、今構内に例の愛護団体の代表の姿を見たっちゅうて

バトルトレーナーから通報があってん。至急確認して、再度連絡しますわ。』



和やかな雰囲気の運転室でございましたが、

インカムからの通信に、状況が一転してしまいました。



『こちら総務部長、私が対応させてもらうから場所の確定が出来次第

至急連絡するように。以上。』



「今まで消息がわからなくなってたのに、急にどーして?」



「えぇ、なんでも警察が介入して代表を探してるとも聞いております。」



私とクダリは急な状況に揃って顔を見合わせてしまいました。

これは、私達に代表自らが何かを言いに来たという事なのでしょうか?



「コチラシンゲンデス。愛護団体ノ代表ハ 警察デモ捜索シテマスノデ

至急、警察ニモ連絡シテクダサイ。

場所ノ確認ガ出来次第、安全管理課ハ対応出来ル様二 待機願イマス。」



相手の出方がわからない状況なので、こちらも厳重な警戒態勢を取るべきで

その指示を電車を運転しながら、シンゲンが出しております。

私達は現在チャレンジャーを待つ身でございますが、何かしなくては…



「ボス達ハ バトルニ集中シテクダサイ。コノ状況デ オ二人ガ出来ル事ハ?

ソレハボス達ガ 一番ワカッテイル事デショウ?」



「…うん、この件は皆に取り敢えず任せる。」



「えぇ、皆様を信じております。」



シンゲンの言葉に、私達は頷くしかできませんでした。

そして、インカムからはオペレーター部より、トウヤ様とトウコ様が

まもなくこちらへ向かってこられるとの通信が入ります。



「こちらクダリだよ。あのね、ボク達今スーパーマルチ中。

だからすぐにそっちへは行けない。ボク達が行くまで皆、頑張って!」



「こちらノボリでございます。周囲のお客様の安全、施設の保全を第一に

皆様、できるだけ穏便に対応をお願いいたします。

私達も、バトルが終わり次第そちらに向かいますのでそれまでの間

どうか、その点をしっかり守って行動してくださいまし!」



それぞれにインカムで職員の皆様へ連絡を入れ終わったと同時に

目の前のドアが開いて、トウヤ様とトウコ様がいらっしゃいました。



「よっしゃー!今までで最短時間で到着っ!!

トウコ、こっからが勝負だからな、気合入れていくぞ!」



「ノボリさんもクダリさんもお待たせしました?

トウヤ、私は今すっごく燃えてるんだからね。火傷するんじゃないわよ?」



いつも以上に闘士をみなぎらせておられる、お二人を前にして

私とクダリは気持ちを切り替え、バトルに集中させていただきます。

いつもの口上を述べて、それぞれにボールを放ちバトル開始でございます!






バトル中でも、次々とインカムから情報が入ってまいります。



『こちらラムセスなのさ。代表さんはエントランスからスーパーマルチの

乗車口に向かってるらしいけど、周囲をマスコミに取り囲まれてるのさ。』



「こちらクダリだよ!あのね、なるべく一般のお客様と離してね、以上」



『こちら保全管理課の、今スーパーマルチのホーム下のピットで作業中

俺とも何かあれば対応させていただきます。以上』



『こちら総務部長、直ちに現場に向かう。

課長、頼むからこの前の様な事はしないでくれたまえ、以上。』



「こちらノボリでございます。

くれぐれも穏便に、それぞれの安全が第一なのをお忘れなく!以上。」



それぞれのポケモン達へ指示を出しながら、必要があればインカムへ

指示を飛ばしていたのを、目の前の二人に指摘されてしまいました。



「お二人共、何かあったんですか?

バトル中にインカムで通話なんて今までした事ないですよね?」



「ちょっと色々?でもバトルに問題はない。

ってかトウコ、そんな事に気を取られてるから指示が遅れてるよ?」



「ちょ、トウコ!今はこっちに集中しろ!!」



「えぇ、ご心配かけて申し訳ございません。

ですがこの位で私達二両編成がどうこうなりはいたしませんので、ご安心を。

トウヤ様の言う通り、今はバトルに集中してくださいまし!」



私達はサブウェイマスターでございます。

お客様にこの様に心配されるとは、前代未聞で恥ずかしい限りでございますね。

ですがこの勝負、全力を出し切って勝たせていただきましょうか。



「ウルガモス戦闘不能!この勝負、サブウェイマスターの勝利!!」



「うわー、またここでサブウェイクオリティーとか勘弁してくれぇええ!」



「トウヤ、それでも今回は一番追い詰めたよ!

この調子で行けば、勝利も近い。うん、頑張ろう!!」



バトルが終了して、私達は二人をいつもの様にシートに座るように促します。

二人が座ったところで、クダリがいつもの様にポケットから

…今度はバチュル型のキャンディでしょうか?を手渡しております。


いつもでしたら、ここで色々と話をするつもりでしたが

今回はそういうわけにいかなくなりました。



『こちら総務部長、例の代表がスーパーマルチの乗車口付近で演説を始めた。

なんだか顔つきがおかしいから、各自警戒する様に。』



車両内のモニターにその映像が映し出されました。

やせ細った長身の男を取り囲むように人だかりが出来ておりますので

この方が代表なのでしょうか?



『コチラシンゲン スーパーマルチ車両二 警戒Lv5ヲ発動シマス。

乗員全員、ソレゾレ二体勢ヲ取リ オ客様ノ安全ヲ確保シテクダサイ。』



警戒Lv5とは急停車や脱線の恐れがある、最悪の場合の対応でございます。

これは、シンゲンの判断ですが万が一を想定されてるのでございましょう。



「二人共、電車が止まるまでちょっと手元のバーをしっかり掴んでて。」



「お二人の安全は私達が保障いたしますが、できるだけ身体を低くして

そのまま動かないでくださいまし。」



「わかりました。でも、何が起きてるんですか?」



「トウヤ、この人なんだか変な事言い出したよ!」



モニターからは映像と共に、音声も流れてきました。

これは…やはりこの施設に対しての抗議なのでしょう。

ですが、内容が支離滅裂もいい所で、それこそお話になりません。

周囲のマスコミの方々や、お客様が遠巻きに囲んでおり

彼等が口々に、その代表の方に向かって野次を飛ばしておられます。



『皆さんは騙されてる!何故それがわからないのですか?!

これを見なさい、このポケモンは厳選外で捨てられたものですよ?

この状況を続けている施設など優良であるはずが無い!』



「ちょ、あの子すっごい傷だらけ!」



「リグレーってあんなに小さかったか?って、瀕死状態だろーが!」



代表がボールから出したのは平均の半分位の体格しかないリグレーで

それも大変危険な瀕死状態でございました。

彼はそのリグレーをまるでゴミに触るかの様に摘み上げて、尚叫びます。

何でしょう…嫌な予感がいたします。

まもなく電車はホームに到着するのでございますが

早く、一刻も早く電車が停まって欲しい。あの方を止めなければ!



『歪みきった施設!歪みきったトレーナー!それらを糾弾した我々が

何故逆に追い詰められねばならない?!全てはこんな施設があるからだ!!

これを見せしめに、我々はさらなる糾弾をする!!』



そう言うと、あろう事か代表は動く事すらできないリグレーを

ボールと共にホームへと投げ落としたではありませんか!

そして、無情にも電車は刻一刻とその場へ向かっているのです!



「クッ…!間二合ワナイ!!」



既に、状況を警戒して徐行運転をしていたシンゲンが急ブレーキをかけ、

私とクダリはトウヤ様とトウコ様が怪我をしないようにと

覆いかぶさるようにして、その身体が衝撃で飛ばされるのを防ぎます。

それでも視線は、前方のグッタリして動かないリグレーから逸らせません。


このままでは、あの子の命を奪う事になってしまいます。

それは、それだけはなんとしても避けたいのに!!



「嘘っ?!ちょっと待って!!」



「なっ!?お待ちくださいましっ!!」



その時でございます、リグレーの傍にオレンジ色の人影が近づき

その傷ついた身体を抱えるのを見て、私達は叫ぶ事しかできませんでした。



「「っ!!」」



なおも続く急ブレーキの音は、

私とクダリの叫びをかき消すかの様に、車両内に響き渡りました。