二章・初志貫徹編 -課長の立ち位置と種明かし-

二章・初志貫徹編

課長の立ち位置と種明かし



執務室で、工程表を元にホワイトボードに3人分の予定を書き込んでたら

が入ってきた。周囲を見渡してるところを見ると

ボス達がいると思っていたんだろう。



「おう、ボス達は警察に行って事情聴取を受けてるぞ。」



「うわー、ちょっとやりすぎちゃったかしらねー。

でも、こっちには何の落ち度もないんだから、問題はないでしょ?」



俺から工程表を受け取り、ホワイトボードに予定を書き込むのを交代しながら

そんな事を言ってるが、全然悪びれてないってのがこいつらしい。



「まぁ、問題があるとすればマスコミ関連だろうよ。

今回はそういった規制外の事件だからな。ボス達がエキシビジョンマッチに

参加する事も話題になってるから、面白おかしくとりあげられるだろうよ。」



デスクの上の淹れたてのコーヒーを飲みながら、頬杖をついて考える。

イッシュにきて、両ボスの人気の凄さには驚かされたからな。

他のバトル施設のトップは、こんな事なかったぞ?



「まぁ、その辺もちゃんと対策は立ててるんでしょ?

が中途半端な事しないってのは、この鬼の様な工程表が実証済みだし?」



「俺は出来ねぇ計画は立ててねぇからな。

まぁ、マスコミが多少うるさくなるだろうが、それすらもこっちの予想通り。

相手の愛護団体を徹底的に叩きながら、こっちの株を上げさせてもらうさ。」



パソコンの画面を見ながら、テンキーを使って入力している

事も無げに言ってるのは別に構わない。

だが、こいつは目的の為なら手段を選ばない時があるから要注意だ。



「ここの人達はもうちょっと自分の施設を周囲にアピールした方が良いよねー

これだけ、ポケモン達への福利厚生?そんなのをしてるバトル施設なんて

どこ探しても無いよ?無い!これはもっと誇って良いと思うんだけどねー。」



工程表を俺のデスクに置いて、肩を回しながらが呟く。

ボス達はマスコミが嫌いって事で有名らしいが、それじゃあ駄目だろう。

さっさと仕事に取り掛かると言って、出て行ったを見ながら

鬼の様な工程表に目を移してため息を付けば、が睨んできた。



「この程度、できねぇとか言うなよ?

俺も定時上がりじゃなく、2時間位は残業してやる。さっさと終わらせろ。」



「お前に工程表を作らせた俺を全力で殴りたいぞ!

ボス達への説明と状況を聞く事は俺がやるから、お前は手伝って来い。」



「了解っとな。あの二人が今までで、どの位成長したのか?楽しみだな。」



作業服の上着を着込んで、道具袋を腰につけてからが部屋を出る。

後に残された俺は、明日の就業時間にやる予定作業の確認をしてから

予定の組み換えをして、変更になった分の書類作成を始めた。






俺のキーボードを叩く音だけが響いていた執務室のドアが開き

疲れきった表情をした両ボスが入ってくる。

特徴あるコートと制帽を壁にかけて、自分のデスクに座ったかと思えば

そのまま突っ伏して、グッタリしたまま動かなくなった。



「両ボスお疲れ様な所申し訳ないんですが、これがエントランスの修繕工程表

後、突貫作業をしますので届出の書類になります。

総務部長のサインはいただいてますので、ボス達のサインもお願いします。」



書類を渡すついでに、コーヒーをデスクの上に置けば

無言で頬杖をつきながら書類を見つつ、チビチビと酒のように飲みだした。

こりゃあ、相当精神的に参ってるんだろうな。



、エントランスの破損箇所の修復はどの位で出来る?

場所が場所だけに大変だとは思うけど急いで欲しい。」



書類にサインを書いて、処理済みのボックスに入れた後で白ボスが聞いてきたが

それも、いまサインした書類にしっかり書いてあるんだがな。



「書類に書いてある通り、天井部分は今日中に。

壁の部分については中の配管のチェックと保温の巻き直しをするので

明日の夜に作業に取り掛かかり、明後日の朝までには修復完了になります。」



書類の内容を指させば、あーって感じで目を瞬いて確認している。

表向きの修繕は明後日の朝で終わりだが、もう一つ問題になっている

ダクトの改修はさらに日数が必要で、それも書いてある。



、貴方達は自分達の負担がこの様に増えるのを承知で

今回あの様に対処したのですか?もっと他に方法はあったでしょうに。」



「連中がポケモンを使って、何かをやらかすのは分かってました。

だから、こっちもマルチバトルを想定してを待機させてたんです。

まさか、あそこでポケモンを使うなと言われるとはね。

流石のでも予想してなかったみたいですよ?」



これは事実だから、正直にボス達に説明した。

まぁ、多少の違いはあっても結果は同じなんだから問題なしだろう。



「予想外の事なのに、修繕予定箇所とポケモンに破損された箇所が

ピッタリ一致とかって、ホント有り得ないんだけど。

三人がリアルバトルも得意なのはわかってる。

でも、今回みたいにポケモン相手のリアルバトルは絶対やめて欲しい。」



「ナゲキとダゲキをポケモンセンターで治療いたしました。

確かに戦闘不能ではございませんでしたが、慣れない人間相手のバトルに

精神的疲労がかなり酷かったようでございます。」



まぁ、向こうも手加減してたかもしれないが、こっちもそうなんだ。

ただ、格闘タイプとしての誇りは傷つけてしまっただろう。

なんせ、同じ格闘技で格下であるはずの人間に敗北したんだからな。



「その点については、うちの連中も猛省しています。

他にやり方がなかったのか?それを言われると耳が痛いですね。

ですが、これだけは言わせていただきます。

ここは公共の施設でもありますよね?その施設破壊をする連中に

たとえ嫌々ながらだったとはいえ手を貸した連中を、俺等は許しません。

それが、人であってもポケモンであってもです。」



「ポケモンはトレーナーの指示に余程の事がないと逆らえない。

それを知ってても、達は同じ事するって言うの?」



「クダリ、それは私達の個人的な感情になっておりますよ?

、そういう事でございましょう?」



ポケモンを好きすぎる二人には、俺等の行動は許せないんだろうが

どうやら黒ボスは俺の言いたい事がわかったらしい。

俺は二人のデスクの傍にある椅子に座って頷いた。



「えぇ、俺等だって好きでポケモンを傷つけたいと思ってません。

ですが、ここは俺等の職場であって、俺等の受け持ちは設備の保全管理です。

今回は取り壊すべき場所を壊されたって事で、こうやっていますけどね

そうじゃないなら、俺が前線に出てぶっ潰してますよ?

お遊びや慈善事業で、ここの委託を受けたわけじゃありませんから。」



「あー、そうだよね。三人だってボク達と同じ。ポケモンを大切にしてる。

こんな事になって何も思ってないはずがなかった。うん、ごめんね?」



短い付き合いだが、色々な事があったから俺等の考えもわかってきたらしい

全部説明しなくても、俺等の意図をちゃんと理解出来る様になった事は

二人が成長してるって事になるんだろうな。



「ですが、私達にも一言事前に報告をしていただきたかったですね。

それが出来ない貴方達ではないでしょう?その意図は何でございますか?」



の話だと、シンゲン部長と総務部長は俺等の意図を

ちゃんと理解してくれたらしい。

だが、二人がそれを理解するにはまだまだ経験が足りないんだろう。



「今回は敢えて、シンゲン部長の指示に従いました。

もっとも本当は時期を見て報告するつもりだったんですけどね。

それを俺等がするのもどうかと考え直して、黙ってたんですよ。」



「各方面に連絡をとって、事務室に戻ってきたシンゲンは

なんだかすっきりした顔をしてたんだよね。

それって、その事と関係があったりするんでしょ?」



コーヒーを飲み終わって、苦笑いしながら白ボスが俺の方を向いて聞いてきた。

まぁ、なにか理由があるってわかっただけでも今回は及第点って所か?



「えぇ、今回はシンゲン部長には申し訳ない事をしたと思ってます。

ここの職員達の、ボス達への信頼や尊敬は素晴らしいものだと

外部から来た俺等はいつも感じていました。

ですが、同時にそれがこの施設の弱点ということも感じてたんです。」



弱点と言う俺の言葉に、ボス達の瞳が揺らいだ。

お互いを信頼し合ってる連中には、正直納得できない事かもしれないが

敢えて委託業者としての立場での俺等の見解を言わせてもらおうか。



「ボス達は以前、が業務改善をした時に何と言われましたか?」



「えっと、その前からも言われてた事。もっと部下を頼れ。

自分達だけで抱え込むな…うん、そう言われてた。」



「では、その前の大掃除の後で二人は今後どうしようと思いましたか?」



「優しさと甘えは違うのだと、信念を貫く事とエゴは違うのだと

企業のトップとしてどう動くべきなのかという事を学びました。

ですから、それを活かしてバトルサブウェイをより良い職場へ導ける様な

そういう立場になりたいと思いました。それは今も変わりはございません。」



まぁ、時々は以前の様に感情が先走る事も無いわけじゃないが

それも、この二人の人間臭さというか優しさなんだから仕方がないだろう。



「えぇ、俺等の目から見てもお二人の成長は凄まじいものがあると思います。

では、部下達はどうなんでしょうか?今のお二人の状況を理解してましたか?」



二人が顔を見合わせてる所を見れば、言いたい事がわかったらしい。

白ボスが苦笑いをしながら、肩をすくめた。



「そっか、他の皆は昔のボク達のつもりで色々と自分達で動いてたんだ。

今考えるとちょっと前の事だけど、ボク達ってすっごい迷惑かけてた!」



「えぇ…なんともお恥ずかしい限りでございます。

私達が至らない部分を、こうやってフォローしていただいていたのですから。

ですが、もうその様な事は無いのだとしっかり理解していただかねば。」



「どっちもどっちだったという事なんでしょうね。

ですが、それが全部悪いわけじゃない。方向性を変えるべきだという事です。

馴れ合いと、手助けは違う。そうでしょう?

ここの職員の皆さんは個人的にもボス達が好きなんでしょうね

だから、なにかフォローをする時に、どうしても感情が入ってしまう。」



まぁ、これが今回俺等がボスに報告しなかった理由だ。

ボス達の為にと聞こえは良いが、結果としては良いものにならなかった。

その辺を、今一度部下逹も自覚してもらわなければならないだろうからな。


今回の件で、それが露見したんだ。

今後どうするのかってのは、それぞれに任せればいい事だから

俺はこれ以上何も言うつもりは無い。


企業としては甘すぎて温すぎる面も多々あるが、

それも特徴なんだと言えば、それまでになるんだろう。

なんにせよ、これだけ居心地の良い職場は滅多に無いってのは事実だしな。