二章・初志貫徹編
上司達の覚悟と責任
事務室に入ってみれば、そこにはシンゲン部長と総務部長が揃っておりました。
成程、本当にこの件は私達以外は知っていた。と、いう事なのでしょう。
「二人共、こんな状況になった経緯をボク達にちゃんと説明して。
今回は他のお客様に被害はなかった。でも、それで良いって事じゃない。
瑣末な問題はそれぞれの部署に任せて、ボク逹は報告書を受け取ってたけど
今回の事はそれじゃ済まない。
ここまで大事になるって予測できなかった?違うよね?
予測できててもボク達に言わなかったでしょ?その理由も説明して。」
クダリが他に口を挟む事を許さない勢いで、話しております。
これはかなり怒ってる証拠。ですが、それも仕方がないと思うのです。
「ボス達…今回ノ判断ハ ボクガ 独断デ シタ事デス。
事ノ発端ハ、今身柄ヲ拘束シタ者達ガ 所属シテイル愛護団体ノ 抗議文デス。
ポケモンヲ道具トシテ、見世物ノバトルヲスル施設ガ 各地方ノ有名デ高名ナ
チャンピオン達ト 肩ヲ並ベテ 同ジ舞台二立ツ事ハ 許セナイ。
立場ヲ弁エテ、辞退スルベキダ。彼等ノ主張ハ コウデシタ。」
「なんでございますか、それは…」
シンゲン部長の話す内容に、私は憤りを抑える事が出来ませんでした。
要は、私達がエキシビジョンマッチにイッシュのチャンピオンと同様に
選抜されて、参加する事が問題だからと言う事なのですね。
「ポケモンノ個性ヲ潰シテ バトル二特化サセル 歪ンダ施設。
ソノ頂点二立ツ者モ 同様二 歪ンデイルノダソウデス。
ボクハ ソレガ許セマセンデシタ。
ドンナトレーナーヨリモ ポケモンヲ愛シテイル 大切二シテイル
ソンナ ボス達ヲ侮辱スル 団体二ナド 関ワル必要モナイ。
デスガ 万ガ一 何カガアッテモ 困ルノデ 動向ヲ注意シテマシタ。
結果、コノ様ナ事態二ナッテシマイ 申シ訳アリマセンデシタ。 」
指先が白くなる程握り締め、唇を噛んで話すシンゲン部長の内容は
非常に不愉快極まりなく、そして、以前から言われていた事でもありました。
勝利する事に重きを置いたバトルサブウェイと言う施設を
一部の方々がその様に見ている事など、とうの昔から知っていたでしょうに
それでも、普段冷静沈着なシンゲン部長をここまで怒らせたのは
全て私達への、愛護団体の偏見の為だったのですね。
「実際に問題が起きるのかわからない事をボス達に報告して
ボス達を不安にさせるのはどうかという判断だったそうだ。
最悪問題が発生しても、最小限に食い止めて全てを処理する
そのつもりでの、今回の行動…そういう事なのだろう?シンゲン部長。」
総務部長の言葉に頷くシンゲン部長を見ていると
これ以上問い詰めることも出来なくなってしまいました。
全ては私達を思っての行動なのです。
「うん、事情は飲み込んだ。
ボク達の為にシンゲン部長はその愛護団体に怒ったんだよね?
ボク達とギアステの為にと思って、黙ってたんだよね?
それはボク、すっごく嬉しい。皆、ボク達がどれだけポケモンを好きか
大切に思ってるのかって、わかってくれてる。それが嬉しい。
でもね、ここは企業。感情を優先させちゃいけない時もある。
今回のはそーいう事なんだって理解して欲しい。」
「クダリ?」
壁に寄りかかって、腕組みをしながらクダリは苦笑いをしております。
そして、私の方を見て指を振ってみせました。
「ノボリ、ボク逹は企業のトップ 企業姿勢とかならともかく
私的な感情で重大な事を見落とすようじゃ駄目。この前の件でわかったはず。
そこで黙る様だったら、ホントに学習装置持たされるよ?」
「あぁ…そういう事でございますか。
えぇ、私達が余計な事で傷つかない様にと、その気持ちは大変嬉しく思います。
ですが、私達の感情など二の次。ここは元よりバトルに特化した娯楽施設。
それを承知で皆様にご利用いただいているのでございます。
厳選、育成がバトルに特化させて、ポケモンの個性を潰しているのだと
傍から見れば、その様に受け止められても仕方のない事、今更でございます。」
全ては私達を思っての行動でも、企業としてはそれだけではいけないのです。
二人の部長から見れば、息子程の年齢の私達はさぞ頼りなく見えるのでしょう
ですが、若輩者であっても私達はサブウェイマスター、ここのトップなのです。
「職員の皆様は、私達をいつもこの様に守ろうとされます。
ですが、いつまでも守られるような上司でいるわけにはいかないのです。
企業のトップとしての決断は時に理不尽な事も多々あります。
企業であるからには利潤をあげて、皆様の生活を保証しなくてはなりません。
好きな事を仕事にする事ができた私達は、確かに幸せなのでしょう。
ですが、それだけでは企業としては成り立たないのでございます。」
「うん、それにね、周りに色々言われる事はサブウェイマスターになった時
ボク逹はちゃんと覚悟を決めてた。それは今でも変わんない。
ボク逹はポケモンを大切に思ってる。でも、バトルさせる事は
その子達が望んでやっていても、絶対無理がある事。寿命すら縮めちゃう。
それがわかっていても、ボク達もポケモン達もバトルをやめらんない。
それを歪んでいるって言われても仕方ないでしょ?」
私達の言葉に、部長逹がそれぞれに頷いております。
えぇ、その様な覚悟などとうの昔に出来ている事なのでございます。
先程まで感じでいた憤りはすでに消えてしまいました。
私達を思い、守ろうとたこの部下を、私達も守らねばならないのです。
「今回の騒動は保全管理課の機転で最小限に留まりました。
これが私達だけで対応していたら、恐らく双方に負傷者が出たでしょう。
ですが、今後この様な事を再び起こしてはならないのでございます。」
「だから、今度からはちゃんとボク達にも教えて?
ボク達はサブウェイマスターになった時に、皆に言ったはず。
ボク達は偉くない。ただ、皆の意見を纏めてギアステを良くする為
すっごいバトルをして、お客様に喜んでもらう為、イッシュの足として
ギアステを利用してくれるお客様に快適な空間を作る為にいるんだって。
だから、皆で力を合わせて頑張ろうねって…そう言ったよね?」
私もクダリも若輩の身でありながら、バトルサブウェイの頂点に立った時に
その様に皆様の前で宣言させていただきました。
理想論と申される方もいらっしゃいましたが、理想なくして行動もありません。
少しずつでも良いのです、この理念を持ちこれから先も変わらず進み続け
そして、理想と現実がいつか重なる様にしたいのです。
それは、企業運営だけでなくバトルでも同じ事であって
就任時も今も変わりなく私達の心に刻み込まれているのでございます。
「ギアステの平和を乱す様な連中を、サブウェイマスターは許しません。
相当の処置を、あちらにはとらせていただきます。
向こうは愛護を主張する団体であって、営利団体ではございません。
ですが、ここは企業なのです。それは当然の処置でございましょう?」
「最悪、訴訟する事も有り得るかもしんない。
でも、これだけの事をされた。ノボリの言う通り当然だと思う。
シンゲン部長、ジュンサーさんに連絡して。
事件として立件させてでも、これ以上被害が無い様にしなくちゃなんない。
総務部長、愛護団体に連絡をして。
そっちの会員がギアステにすっごい被害を与えた。
それは個人レベルでは到底背負いきれるものじゃない。
然るべき補償を要求して、今後、こっちに一切の関与もさせちゃ駄目。」
「了解シマシタ。コノ件ハ ボクガ原因デス。
ダカラ 最後マデ 責任ヲ持ッテ終ワラセマス。スミマセンデシタ。」
「シンゲン部長、謝罪は全て終わってからにした方が良いだろう。
さて、この件について任されたからね。徹底的にやらせてもらうよ。」
私達に非はございません、その位当然でございましょう。
トラブルの処理に関して、私達よりも遥かに上の二人でございます
この件は任せても、なんら問題はないでしょうね。
「うん、どっちに先に連絡するかも任せる。
少しでもこっちに有利になるようにしてね?後、経過報告もちゃんとしてね?」
「えぇ、また私達だけ仲間はずれにはしないでくださいましね?」
ちょっと表情の固くなっていた部下達におどける様に言えば
眩しいものを見るような目で見つめられてしまいました。
「ソレハ 勿論デス。ボス達、ボクハ二人ノ部下デ 本当二嬉シク思イマス。
守ロウナンテ 必要ナカッタ。オカシナ事ヲシテ スミマセンデシタ。」
「君達は私達が誇れる立派なボスだよ。
私達は君達の下で仕事ができることを誇らしく思う。では、失礼するよ。」
事務室に二人きりになって、私もクダリも肩から力を抜きました。
企業のトップとしての処置はこれで問題ないはずでございます。
残るは、この奥にいらっしゃる方々への対応でしょう。
「きっと色々とポケモン虐待だとかって言われるんだと思う。」
クダリの言葉は予想というよりも、確定でございましょうね。
愛護団体の方々は、以前から口々にそうおっしゃり続けておりました。
ですが、バトルを生業にしているトレーナーであれば仕方がありません。
ましてここは廃人施設と呼ばれ、バトルで勝つことを突き詰めた者が集う場所
「そのような事は、私達がこの仕事を選んだ時にすでに覚悟しておりましょう?
厳選育成をそう言うのなら仕方がありません。
ですが、ポケモンを愛する気持ちも変わらず有り続けているのです。」
「うん、ボク逹はバトルとポケモン好きの廃人になるって
こうしてひた走って、サブウェイマスターになった。
他の人にどう言われたって、それはこれからも変わんないんだもん。」
えぇ、周囲の声など瑣末な問題。肝心なのは私達の心の有り様なのです。
バトル施設も、元はといえば望まれてできた施設なのです。
それを認めるのも自由であり、否定するのも同じでございます。
私逹のバトルとポケモンへの愛情が少しでも伝わって欲しい。
私達とバトルをする事で、ポケモン達との愛情、絆を深めて欲しいのです。
それが私達、サブウェイマスターとしての使命なのではないでしょうか?