二章・初志貫徹編
黒の上司と考古学者の対面
前の車両からの爆音が鳴り響いた後、暫くして
扉が開き、チャレンジャーの方が最終車両に入ってまいりました。
「本日は バトルサブウェイご乗車 ありがとうござ…貴女様は…」
いつもの口上を述べようとしたのですが、意外なチャレンジャーの方に
私は途中で言葉を止めてしまいました。
「はじめまして、黒のサブウェイマスターさん。貴方の噂は聞いてるわ。
白のサブウェイマスターさんもね、思ったより若くて驚いちゃったわ。」
「はじめまして、ノボリと申します。シロナ様のお噂は私も聞いております。
トレインのご乗車は感謝致しますが、なぜこちらへ?」
シンオウのチャンピオンであると同時に有名な考古学者でもある彼女が
なぜ、この様な場所にいらしたのか…考えられるのはひとつ。
「もしや、に会いにいらしたのでございますか?」
私の問いに、シロナ様は目元を細めました。
「フフッ、頭の回転の早い人は好きよ。
えぇ、チャンピオン代理の座を蹴ってまでの仕事の様子を見に…
って言うのは冗談だけど、例の大会に向けて用があるのよ。」
「成程、そうでございましたら、直接執務室にいらして頂ければ
すぐにでもを呼びましたのに。」
「あら、私もトレーナーの端くれよ?
目の前に強いトレーナーがいるのなら、まずはバトル…そうでしょう?」
穏やかな雰囲気が一変、挑戦的な光がシロナ様の瞳に見えました。
トレーナー同士、バトルが挨拶がわりと言っても過言ではないですからね。
それでは、私もいつもどおり運行させていただきましょうか。
口上を述べた後、それぞれにポケモンを出して、いざ勝負でございます!
「ブラボー!!貴女様はその実力で、勝利という目的地に
見事到着なさいました!
ですが、人生はまだまだ終わりません!
そこに向かって、全力でひた走ってくださいまし!」
「フフッ、ありがとう。
でも、本気ではなかったでしょう?貴方のポケモン逹の実力も
トレーナーである貴方の実力も、こんなもんじゃないはずよね。」
結論から言えば、シロナ様の勝利でバトルは終わりました。
ノーマルのシングルトレインであることが非常に残念でございます。
私はシロナ様の言葉に苦笑いするしかございませんでした。
「規則により、ノーマルのシングルトレインでは仕方がないのでございます。
そうでございますね…私の本気が見たいとおっしゃられるのでしたら
是非とも、今度はスーパーシングルへ乗車してくださいまし。」
シロナ様のポケモン達はどれも大変良く育てられており
また、お互いの絆も強くていらっしゃるので
これは是非とも、スーパーで対戦したいですね。
シロナ様は、そのまま席に座り周囲を興味深そうに見ておられます。
地下鉄でのバトルに興味があったそうなので、ご満足いただければ
私としても嬉しい限りでございます。
駅に着くまでの時間、ポケモンの育成や能力についての話をしてから、
私は少々不躾な質問をさせていただきました。
えぇ、わかってはいるのですが、どうしてもシロナ様の
ポケモン博士としての知識をお借りしたかったのでございます。
「シロナ様は伝説のポケモンについて明るくいらっしゃいますが
イッシュ地方の伝説のポケモンについてはどうなのでございますか?」
「イッシュの建国伝説は有名で子供でも知っている事でしょう?
それとも、他に何か知りたい事があるのかしら?」
バトルを終えたシロナ様はとても気さくな方でらっしゃいました。
ですが、やはり女性とお話する事はどうも苦手でございます。
「例えば…例えばの話になってしまうのですが
建国伝説のポケモンは2体でございますよね?他にはいないのですか?」
「とても興味深い質問ね。
建国伝説のポケモンに関連する伝説ポケモン逹は
既にその存在が発見されているものが殆どだと思うのだけど
貴方は一体、何を知りたいのかしら?」
「そうですね…例えば、伝説の影に隠されたもうひとつの伝説…
シロナ様のご出身のシンオウ地方で例えるならギラティナ、
もしくはホウエン地方でございましたでしょうか?の、レックウザ…
その様な立場のポケモンがイッシュにもいるのでは?と…」
私の言葉にシロナ様は驚かれた様でございます。
目を見開き、しばし言葉もでない…といった感じでございましょうか。
本来なら、一介のトレーナーである私が言うべき事では無いのでしょうが
もしも、あの時私達4人がたてた仮説が当たっているのであれば
それを知っているのはこの方以外にはいらっしゃらないでしょう。
「そういうポケモンについては、論議されている事も確かよ。
伝説の2体のポケモンの生まれた経緯を考えれば、仮説は色々あるわ。」
やはり、その存在の可能性は否定されませんでしたか。
これはもっと詳細な情報が欲しいですね。
「シロナ様がお忙しい立場なのは理解しております。
不躾なお願いだというのも、重々承知してはいるのですが
その色々な仮説についての情報を、私に提供していただけないでしょうか?」
「貴方はそれを知ってどうするつもりなのかしら?
こんな話は学者の間でも一部の人間しか興味を持たない内容なのだけど。」
「知的好奇心から…という事にしておいてくださいまし。
理由は申し訳ありませんが、話す事ができないのでございます。
そして、この話は私とシロナ様の間だけの事にしていただきたいのです。」
数々の自分勝手な要求で心苦しいのですが、そうも言ってられないのです。
私は…いえ、私達は一時も早く疑問を解決しなくてはなりませんから。
私の顔をしばらくじっと見つめた後で、シロナ様は苦笑いされました。
「貴方、学者に向いてるかもしれないわね。
もし、今の仕事に飽きたら、いつでも歓迎するからいらっしゃい。
仮説については、わかっている事の資料を渡すって事でいいかしら?
勿論、誰にも言わないわ。なんだか面白そうだし?」
高名な博士でらっしゃるはずなのに、こういう所は子供っぽいのですね。
何はともあれ、協力いただけた事に感謝をして
今後、何かあればとお互いのライブキャスターのアドレスを交換しました。
トレインが到着し、先にホームに降りた私はシロナ様に一礼します。
「さて、本来の目的を果たさないとヒカリちゃんに怒られちゃうわね。
に会いたいから、案内していただけるかしら?」
「荷物は私がお持ちします。では、執務室にご案内しますので。」
イッシュの男性は優しいのねと言うシロナ様の言葉に
私はどう返答して良いのかわからず、そのまま先導させていただきます。
確かに、女性の中では気さくな方だとは思うのですが
どうしても身構えてしまうというのか、対応するのは苦手でございます。
と仕事をする様になって、幾分マシになったと思ったのですが
それはどうやら違ったみたいですね。