二章・初志貫徹編 -知らぬは上司ばかりなり-

二章・初志貫徹編

知らぬは上司ばかりなり



もうちょっとで就業時間終了になるっていう時間帯

バトルの呼び出しがないから、執務室で書類の整理をしていたら

ドアがノックされて、が書類の束を持って入ってきた。



「失礼しますー。課長、ちょっとエントランス周辺の

修繕と改善要望の書類があったら見せてもらってもいいですか?」



点検作業を終わらせて、業務報告書を作ってたのデスクに向かって

が書類の束を置いて、傍にある決済前の書類の入った棚から

いくつかのファイルを取り出して目を通し始めた。

いつも思うけど、同時にいくつもの修繕とか点検とかよくできるよね。

ボクには到底無理!なんて思いながら、を見た。



「その棚にあるので全部だと思うが、何か問題でも起きたのか?」



が、の手にした以外にもいくつかファイルを取り出す。

そう言えば、最近エントランス周辺の修繕要望が多いよね。

トレーナー部門の職員が一番行き来してるから目につくんだろうけど

彼等がインカムでを呼ぶ事が結構多いし。



「えっとですね、外気との空調バランスが崩れてるんですよ。

だから、外に繋がる出入り口のドアの開閉がスムーズじゃないんです。

さっきお年寄りのお客様が、ドアをなかなか開けられなくて困ってました。」



「それは問題でございます!エントランス周辺は一般客の方々も

数多く利用される場所でございますので、早急な対応をお願いします。」



の話を聞いてビックリした。

空調バランス?そんなのでドアが開きにくくなるなんて知らなかった。

が紅茶の入った紙コップをに手渡しながら頷いてる。



「本来なら、人通りの多い場所だから作業は就業時間外がベストだけど

そんな状況だったら、そうも言ってる余裕はなさそうだね。」



あ、ちょうど就業時間が終わった。

結局今日はあんまりバトルできなかったな。つまんないけど仕方無い。

がボクとノボリの分もコーヒーを持ってきてくれたから受け取る。



「ホントなら就業後にして欲しい。でもそういう問題が起きてるんだったら

就業中でも仕方ないと思う。許可するから、急いでお願いできる?」



が今度はエントランスの図面を見てため息をついた。

なんだろ?他にもなにか問題でもあるのかな?



「嫌ーな予感がしてたけど、バッチリ当たるとか嬉しくないぞー。

このダクト手がけた業者って、厨房のダクトやった業者でしょうが!」



図面を破り捨てそうな勢いで叫ぶが慌てて止めたよ!

物にあたっても仕方無いんだろうけど、その気持ちもわかるかも。



「つまりは、エントランスのダクトが手抜きされてると?

そう言う事なのでございますか?」



眉間に皺を寄せてノボリが聞き返せば、同じ顔してが頷く。



「つまりはそう言う事なのでございますですよー。

それもエントランス全部のダクトをこの業者が担当してたみたいです。」



「私の真似はしないでくださいまし。

就業時間内での修繕を許可します。日数的にどの位かかりますでしょうか?」



何気にノボリの口真似が似てて思わず笑っちゃった。

コーヒーを一口飲んで、今日の最後の分の書類にサインをして

決済済みのボックスに入れる。


最近はなんだかんだで、書類を溜め込んでない。

一番の理由は今までボク達がやってた事の業務改善が出来たから。

下の部署に出来る事を全部任せたら、ボク達に来る書類が凄く減った。

ちょっと前だったら、日付が変わるまで残業なんてのも多かったけど

今じゃこうやって就業時間終了までに全部終わらせる時だってある。

これは身体だけじゃなく気持ち的にも余裕が出来て助かってる。


が図面を見ながらなんだか色々メモをしてる。

頭の中では、もうどうやって仕事をするかって考えてるんだろうな。

ホワイトボードに書かれている自分のスケジュールを見ながら

腕組みしてなんだか頷いている。



「ダクトの確認をしていないので、なんとも言えないんですよね。

確認後の作業ってなると時間がかなり取られちゃうし…

ボス、ここの作業は確認なし…っていうか点検しながら随時補修

そういう形をとらせてもらってもいいですか?」



「どーせ手抜きされてるのは確定でしょ?

それだったら後はがやり易い様にすればいい。」



ボクがそう言えば、ノボリも頷いた。

保全の事はボク達じゃよくわかんないけど、三人だったら

全部任せても大丈夫だってわかってるから、それでオッケー。



「課長、このボードのスケジュールを全部変更して下さい。

メインをエントランスにするんで、急を要する物がある時は言って下さい。

後は就業時間内の作業なので、点検口周囲をポールで囲みます。

そこにうちの子…ルカリオを出して対応させてもらいます。」



「それについてはお前に任せる。

俺は授乳スペースの配管作業と設備関連で手が離せないが、大丈夫か?」



「俺がサポートに回るよ。保温板の切り出しと受け渡しだったら出来る。

授乳スペースの保温関連は殆どがゲンナイに任せているんだから

その場所の監督は課長がやれば問題はない…だよね?」



今まで事務作業しか見た事なかったけど、ってばそんな事も出来るんだ。

ホント、皆色々出来すぎだって改めて感心しちゃった。

三人のこういった連携はギアステの他の部署でも参考にしたいな。



…主任が手伝ってくれるなら助かりますー。

んじゃ、そういう方向で大至急業務計画書を作っちゃいますね。

ボス達は今日の業務はもう終了しちゃいましたか?

出来れば明日から取り掛かりたいので、今日の仕事が終わってるんでしたら

明日朝イチで許可のサインをもらいたいんですよね。」



恐らく、書類を作るのに必要なのかな?

手にした書類に何箇所も付箋をつけてがボク達に聞いてきた。

大事な事なんだから、待って欲しいって言えば済む事なのに

そういう気を使うところがらしくて笑える。



「あのね、そこは今から書類を作るから待って、って言えば良い。」



「えぇ、今日の分が終わったと言っても、就業時間終了したばかりで

が書類作成をしている間に、他の仕事をしても問題はございません。

むしろ、時間ができましたのでデスク周りの整理でもしましょうか。」



ボク達整理整頓ってちょっと苦手だから、今現在デスクの上が

結構散らかってたりしてる。

何があるかってのはわかってるから問題はないんだけど

前にに言われたから、それからはなるべく気をつけるようにしてる。



「…まぁ確かに、私がお二人の上司だったら仕事の前に片付けろ!って

怒鳴ってるレベルにとっ散らかしてますよねー。

うん、そう言う事でしたらこれから書類を作っちゃいますんで

しっかり完璧に片付けて下さいね?」



は整理整頓が上手でらっしゃいますから、耳が痛いですね。

書類を作るのでしたら、必要な物はこちらにございますのでしょう?

作業部屋に戻らずに、こちらでされてはいかがですか?」



あ、それはいい考えかもしんない。

どーせ、ボク達がすぐに承認のサインもするんだから

久しぶりにと一緒に仕事がしたいな。

ノボリの言うとおり、向こうで作るほうが二度手間になるってわかってるから

はうーんと唸ってから、仕方無いって感じでを見る。



「んじゃ、作業場にいるゲンナイ君達に帰ってもらうんで一度戻ります。

それから着替えてからこっちで書類を作って

終わったらそのまま直帰って形をとっても大丈夫でしょうか?」



「問題はないと思うぞ?俺ももう少し書類をやっつけたいんで

お前に付き合ってやるから、一度向こうに行ってこい。」



「必要になる材料はメモして俺のデスクの上に置いてくれれば

明日の朝イチで材料屋に頼んでおくからね。

俺の仕事は終わったから、先に帰らせてもらうよ。

は俺のデスクとパソコンを使って書類を作っていいからね。」



はデスクの上を片付けて、席から立ち上がると

ボク達にお疲れ様でしたと言って、と一緒に部屋を出た。



「…こういう場合もあるのですから、もゲンナイ達の研修後

また戻ってくればよろしいのですが…、それは難しいのでしょうか?」



ノボリはやっぱりまだ諦めてなかったんだ。うん、ボクも同じ気持ち。

だけが作業場に行くっていうのは、なんとなく不自然な気がする。



「正直に言えば、俺等保全管理課の部署を作業場に移動するべきでしょうね。

ですが、ここでやるメリットも捨てがたいのは確かなんですよ。

俺だけの事で言えば、作業終了後書類を一括して総務に渡して折り返し

戻ってきた時に、直接ボス達に渡せますからね。その分ロスが無いんです。」



課長としてはそれが助かるって事なんだろうな。

でもの立場で言うんだったらそうじゃないって事なのかな。

ボクもノボリもその違いがよくわかんないんだよね。

ボク達の顔を見て、それがわかったのかが苦笑いしてる。



「あいつは役職がありませんからね。

必要な書類って言っても、俺の様に毎日あるわけじゃないですし

業務報告書や作業日報は違いますが、それは仕事帰りに渡せるでしょう?

あいつはそれよりも材料加工の時間を確保する事を優先させてるんです。

以前でしたら、残業して加工していた材料が今では在庫が確保出来てますし

その点を考えれば、別れて正解でもあるんです。」



そっか、仕事が絡んでるからは絶対に譲らないよね。

どう考えたって、今のやり方のほうが効率的だってのはボクでも納得。

むしろ今までそうしなかったってのは、が言う深入りしてたから?

ボク達と一緒に仕事をするのが楽しかったからって事なのかな?



「残業が減れば身体の負担も減るので、仕事では利点しかございません。

そう言う事でしたら、上司としては認めなければならないのでしょうね。」



ノボリも渋々だけど納得したみたい。うん、仕事なんだから仕方がない。

それはボクもも納得するのに十分な理由だし。


この前一緒にご飯を食べた時は様子が変だったけど

その理由もちゃんと教えてくれたし、戸惑ってる気持ちもよくわかった。

時間はかかるけど頑張るから待ってて欲しいって言ってくれたんだもん

だからボク逹は仕事と同じで、を信じて待てば良いんだよね?