二章・初志貫徹編
動き始める影
最近、ギアステのエントランス辺りの空気がおかしい。
それは例のポケモン愛護団体のメンバーがチラホラと彷徨きだしたからだ。
今の所、奴らは特に行動を起こすこともなく、トレインに乗っては降りての
繰り返しをひたすら続けているところだ。
だが、そいつらの行動が何かを確認しているように見える。
『こちらクラウドや。保全管理課の課長か主任、
エントランス部分の修繕の確認して欲しいんで、頼んますわー。』
クラウドの声がインカムから流れて、俺はエントランスに向かったんだが
確かにそこには、顔写真付きの名簿に載っている人物がいた。
マルチで敗退した後、再チャレンジするでもなくそのまま帰るわけでもなく、
ただエントランス周囲をキョロキョロしている。
「お客様、なにかお困りでしょうか?」
偶然通りかかったフリを装って、その人物逹に声をかける。
一瞬身体を強ばらせた二人だったが、作業服姿の俺を見て
警戒心を少し和らげたみたいだな。
表面上はにこやかに、内心では警戒をとかずに
ニコニコと笑ったまま二人に向かいあう形をとらせてもらう。
「すみません、ちょっと…チャレンジをしようか迷ってて…」
「いっその事シングルとダブルに別れてチャレンジしようかって
色々と相談していたんですよ。」
当たり障りのない答えに、俺は警戒を強める。
相談?二人共一切お互い話をする事もなく、周囲を見ていたのに?
こいつは益々怪しいが、今ここで追求したって意味がないからな。
「お客様はマルチのパートナーでいらしてらっしゃるんですよね?
それでしたら、再チャレンジされる事をお勧めします。
シングル、ダブルではマルチの構成ポケモン達では苦労します。
それは、ポケモン達にとっても良い事ではありませんので。
まずは傷ついたポケモン達を回復させて、それからですが…。」
ポケモンセンター近くの出入り口を説明すれば
渋々といった感じでそっちへ向かう。
取り敢えず、お引取りいただいた?から俺の役目は終わりだ。
「こりゃ、ちょっと警戒を強めた方が良いだろうな。」
作業途中で寄りましたって感じを崩さない様に、そのまま統括部へ向かえば
クラウドとシンゲン部長がパソコン画面で一部始終を見ていたらしい。
俺の報告を待ち構えていた。
「アリガトウゴザイマス。ソレデ、ハ今ノ 二名ニツイテ
ドウ考エテイルノデショウカ?」
デスクの上に両手を組んで、シンゲン部長は俺の言葉を待つ。
クラウドが、コーヒーをそれぞれに渡しながらため息をついた。
「ここ数日、こんな感じやさかいな。
連中はエントランスで、なんぞやらかそうとしてるんちゃうか?」
「えぇ、恐らくそうだと思いますね。
しばらくの間、エントランス周辺の警備をした方が良いでしょう。」
「正直言ワセテモラエバ、ヤット人員補充ガ 終ワッタバカリナノデ
警備二 アテルダケノ 人数確保ガ 難シイデス。」
受け取ったコーヒーを飲みながら、ため息をつく気持ちもわかる。
トレイン乗車のトレーナーの補充が終わったばかりで
新しいトレーナー達はそこまで見れるような余裕もないだろう。
どうしたもんかと考えていたが、俺はある事を思い出した。
「そういえば、エントランスの天井とピットの配管、ダクトの
点検と後は修繕をまだ手をつけていなかったはずですので
保全管理課で、ついでになりますが警備をしましょうか?」
本来なら、人通りの多い場所の点検や修繕ってのは
休日や就業後にするのが筋なんだが、そうも言っていられないだろう。
俺はインカムの通話をオンにして呼び出しをかける。
「こちら保全管理課の。保全管理課の、今どこにいる?」
『保全管理課のですー。今、整備班の作業場内のダクト点検中
絶賛天井裏でゴソゴソしてますよー。どうしました?』
しばらく待てば、相変わらずの間延びした返事がきた。
その場所だったら、少し席を外しても問題はないだろう。
「天井裏に上がってる所悪いんだが、ちょっと手を止めて
バトルトレーナー統括部まで来てくれないか?
接待についての予定組み込みを色々したいんでな。
どの位まで出来るのか意見を聞かせてくれ。」
ボス達が変に思わないように、呼び出し内容をでっち上げる。
には例の団体についての協力をさせてるから
それだけで、こっちの状態を理解したようだった。
『あー、色々と打ち合わせをそこでって事ですね?
ある程度の目処がついてるんで、今から伺いまっす!』
インカムの通信を切って待つ事しばし、作業用のツナギを着たままの
がトレーナー統括部に入ってきた。
「失礼しますー。呼ばれたので来たんですけど、何をすればいいですか?」
「相変わらず察しが良くて助かるぞ?
例の愛護団体が最近やたらとエントランス付近を彷徨いているんでな
ダクトと配管のチェックと修繕をしながらで良いから
ちょっとその周囲を警戒して欲しいんだ。」
シンゲン部長のパソコンを借りて、さっきの映像を見せる。
腕を組んだままでは何か考え始めた。
「この状態って、最近結構多いですよね。
んで、ボス達にはまだ報告はしていないんですよね?」
「あぁ、特にまだ何も問題は起きてないからな。
事前に報告しちまうと、ボス達は色々と考え込んでしまうだろう?
この程度のトラブル処理はトップに任せる必要もないだろうしな。」
「まぁ、何か起きてしもうて報告したらしたでボス達は
なんでもっと早う報告せんかったって言うと思うんやけどな。
せやかて、今の段階やったら言うてもしゃあないやろ?」
クラウドがコーヒーをに渡しながら
パソコンの画面を見て説明を始める。
「確かにそうですよねー。
ホントはエントランスってお客様が多いんで修繕とか点検なんかは
就業時間内にやるべきじゃあないんですけどねぇ…
目的が目的ですし、今回は仕方無いですよねー。
わかりました、今日中に業務計画書を作ってボスに提出して
明日から…いや、明後日になるかな?その位からとっかかります。
その前に、シンゲン部長さん、例の団体さんの顔写真名簿を
ちょっとお借りしてもよろしいでしょうか?」
「エェ、構イマセン。前回同様、今回モ ノ負担ガ大キイノデスガ
ギアステノ為二 オ願イシマス。」
シンゲン部長はデスクの引き出しから顔写真付きの名簿を取り出し
の前に出した。
それを受け取ると、はボールホルダーに手を伸ばすと
ルカリオを出して、その書類を渡す。
「ルカリオ、この名簿の顔を全部覚えてね。
んで、この人達を見つけたらすぐに私に教える事、出来るよね?」
渡された書類を受け取って、ルカリオはの指示に頷く。
その様子にシンゲン部長他、ここにいる皆が驚いていた。
「ちょ、!ルカリオにそないな事ができるんか?」
「クラウド主任ってば、それはルカリオに失礼ですよー。
うちの子マジで優秀なんですからね?その位超簡単に出来るんです!」
クラウドに言い返すの隣で、ルカリオが名簿を覚える様に
次々と書類に目を通し始めた。
途中で、上を向きながら特徴を頭に入れている様子に全員が感心する。
「課長、確かエントランスのダクトも例の超絶手抜きの業者でしたよね?」
「あ?あぁ、そうだな。アノ業者の担当した場所だったはずだ。」
厨房のダクトからあちこちのダクトの手抜きをして
挙句の果てに倒産しちまってたどうしようもない業者の尻拭いなんざ
正直言って気が重い以外の何物でもないんだが
今回は良い口実として使う事ができそうだ。
「んじゃ、ルカリオをちょっとここに預けます。
私は戻って作業を終わらせてから、プレスブレーキを使って
ダクトクリップを多めに作っておきますね。
ルカリオ、その書類を覚え終わったら迎えに来るまで待っててね?」
頷くルカリオの頭をひと撫でしてから、は持ち場へ戻っていった。
クラウドが空いているデスクにルカリオを手招きして椅子に座らせれば
礼を言う様に小さく吠えたルカリオは、そのままそこで書類を捲り始める。
「…しっかし、の手持ちはバトルだけやなく、他でも優秀やな。
うかうかしとったら、わし等の仕事もとられそうや!」
「ソレダケ オ互イ二信頼シアッテイルノデショウ。素晴ラシイ事デス。」
シンゲン部長の言葉に、この場にいる全員が頷く。
いつも思う事だが、の手持ちのポケモンは
全員がこんな感じであいつを信頼して、手助けしようと必死になる。
それはトレーナーとポケモンって関係じゃなく
まるでお互いがポケモン同士であるかの様に錯覚する事があるくらいだ。
「それじゃ、がエントランスで仕事を始めるまでは
今までと同じ様に、注意しておいていただけますか?」
「ワカリマシタ。ソノ程度デアレバ 対応スル事ハ出来マス。」
よろしくお願いしますと言って、俺は統括部を出た。
この件をの耳にも入れて、今後の対策を練り直すべきだろう。
どうせ粗方の予想もついているんだろうから
後はあいつの指示を聞いて動けば良いんだ。
本来なら相手の動きを待つってのは好きじゃないんだが
どうせやる事はいつもと同じになるんだ。
その時が来るまで爪とぎでもしていようじゃないか。