二章・初志貫徹編 -白い上司、ひとりについて考える-

二章・初志貫徹編

白い上司、ひとりについて考える



ダブルバトルを終わらせて、執務室に戻る途中

前の方から大きな荷物が歩いてきているのにビックリしてよく見たら

それは、が台車を使って、材料を運んでる途中だった。



すっごい荷物だけど、これ一人で運んでるの?」



ボクが声をかければ、荷物の影から顔を出してキョトンとしてる。

なんでそんな事聞くのって顔だけど、おかしいでしょう。

だって、一抱えもあるようなダンボールを台車に4つと背中にひとつだよ?

ってば、なにげに力持ち?



「バトルお疲れ様です白ボス。そーですよ、大した重さじゃないんで

この位の数のダンボールなら余裕で運べますからね。」



立ち止まって、笑う顔はいつもと同じだけど久しぶりに見た気がする。

ユノーヴァからゲンナイと奥さんがこっちに来る事が確定して

は自分のデスクを仕事場に置くって、ボク達に提案したんだ。

勿論、ボクもノボリも大反対したんだけど、

流石に、部外者を最高責任者の執務室に入れれないって事を言われたら

許可するしかなかった。


ゲンナイ達がイッシュに来て、がその指導にあたる様になって

執務室にが来る事はほとんど無くなっちゃったんだ。

最初はすごく違和感があったけど、今は少し慣れた。

でも、やっぱり寂しいなって気持ちはずっとある。



「ゲンナイ達はどう?さっき奥さんの方がの所に来てたけど

ゲンナイとは初日に会ったきり。うまくやれてる?」



の弟子とその奥さんはすっごく仲の良い夫婦で

だけど、仕事の時はきっちりしてる感じが良いなって思ってる。



「ベロアちゃんは実務経験が浅いって言ってたけど、頑張り屋さんです。

ゲンナイ君は私が教える事は特に無いです。既に独立してるんですからねー。

だから聞かれた事には答えるって形をとってます。

自分のやり方と私のやり方でどう変わるのかとか?飲み込みは早いですよ。」



こういう職人さん逹の繋がりって良いなと思う。

それぞれを尊重しながら、助け合うって感じ?それは見習わないとって思う。



「あ、姐さん!探したっすよ。この書類、アニキから預かったっす。

うわわ、姐さんにそんな荷物持たせられないっすよ。自分が持ちます!」



噂をすれば、通りかかったゲンナイがこの荷物を見て驚いて、近づいてきた。

うん、やっぱり他の人が見てもこの荷物は凄いんだと思うよ。



「んじゃ、そろそろ午後休憩だからゲンナイ君はこの材料を部屋にいれたら

ベロアちゃんと一緒に休憩してて良いよ。」



「姐さんは休憩しないんすか?」



「ちょっと車両整備班の作業部屋に行って、板金実技用の材料取って来る。」



「それも自分がやっておきますよ。

板金鋏のキレが悪いって言ったら、研いでくれるって言ってたんで

そのついでにもらってきますんで、姐さんは休憩してて下さい。」



「そっか、んじゃそれもお願いするね。

私は課長に用事があるんで、そっちに行ってから戻るから。」



「了解っす!」



の荷物を取り上げて、ボク達に一礼すると、ゲンナイは歩き出した。

その姿を見守るようにして笑ってるの顔は、職人さんって感じで

いつも達といる時とはちょっと違って見えた。


そう言えば、は自分より立場的に言えばが上って言ってたっけ

その意味に今更なんだけど納得する。そっか、こういう事なんだ。

が凄すぎてわかんなかったけど、も凄い職人さんなんだ。



「?白ボス、どうかしましたか?」



「んー?あのね、がすっごくお姉さんっぽく見えるなって。

ゲンナイの面倒見たりしてるからなのかな?」



「何気にサラッと失礼な事を言いやがりましたね?私は元々こうなんですよ?

今は課長の下で働いてますけど、それ以外では大抵が一人でしたしね。

この仕事の良い所は、一人でやっても食いっぱぐれないんですよね。」



だけじゃなく、もまずは生きる為にって感じでこう言う。

ボクはポケモンとバトルが大好きだったから、バトルサブウェイに入った。

あ、ボクはもう一つ理由がある。電車も大好きだったんだよね。

だから、最初はボクはバトルトレーナーじゃなくって運転士だったんだ。

だけど、バトルの腕を見込まれてトレーナーになって

気がついたらノボリと二人でサブウェイマスターになってたんだ。

経営とかはすごく大変だけど、好きな事をしてるんだから頑張れる。

じゃあ、はどうなんだろ?



「ボクは自分がポケモンとバトルと電車が好きだから、ここに入ったけど

は他になにかなりたかったものってあるの?」



「…そんな事考えなかったですねー。

まずは一人で生きていくにはどうするか?それが私の中で最重要項目で

その中からって感じで食いっぱぐれなさそうな資格を色々とって

やりがいのある仕事を更に選んでって感じでした。」



そう言って笑う顔は、前にも見た事がある。

なんていうか色々諦めたような、そんな感じの消えそうな笑い方。

の笑った顔は好きなんだけど、これだけは別で好きになれない。


歩きながら話してたら、執務室に着いたんでこの話はなんとなく終わった。

ドアを開けて入ったら、ベロアがまだと色々と話していた。



「失礼しまっす。課長、授乳室の配管の墨出しを早くやってくださいよー。

予定よりも遅れ気味なんで、色々こっちも大変になりそうです。」



「おう、墨出しなー…ちょうど午後休憩が終わったらやる予定だ。

そん時にゲンナイを貸してもらってもいいか?」



「良いですよ。ゲンナイ君の今日の仕事は終わってます。

後は、試験勉強をやらせる予定なんで、むしろ喜んでやると思いますよ?」



ドアの前で一礼してから中に入ると、はまっすぐのデスクに向かう。

ちょっと前までは、ここで皆で仕事をしてたのが嘘みたいに思っちゃう。



「──じゃあ、ベロアにはこの部分を任せるからやってみようか。

なにかわからない事があれば、自己判断しないで欲しい。大丈夫だね?」



「Yes, I'll do that.…Ahー…ワカリマシタ。」



「主任とベロアちゃんの話は終わったかな?

ゲンナイ君が先に作業場で午後休憩してるから、一緒に休憩しててね。」



「ハイ、デハ失礼シマス。」



「ただ今戻りました。おや、もいらしていたのですね。」



ベロアと入れ違いになる様に、ノボリがバトルから戻ってきた。

コートと制帽をハンガーに掛けると、コーヒーサーバの方へ行く。



「黒ボスお疲れ様です。ちょっとお邪魔してますよー。」



「ちょうど午後休憩の時間になりますので、ご一緒しませんか?

私、今日はクレームブリュレを作ってきたのですけれど、食べますよね?」



「うわーい、黒ボスのお菓子は美味しいですからね。喜んで!」



全員が仕事の手を休めて、応接スペースのソファーへ移動する。

ノボリが備え付けの冷蔵庫から人数分のお菓子を出して来る。



「んー、この焦がした部分の香ばしさが最高です!」



ホントってば、美味しいものを食べてる時は幸せそうだよね。

そんな様子をノボリが満足そうにして見てる。



、男子トイレのオムツ換えスペースの使用頻度と

使用者からもらったアンケートの集計はどうなってる?」



「あぁ、後はプリントアウトするだけだから持ってくるね。

後、授乳室用のウォーターサーバーのパンフがこっちにきてるから

それも一緒に後から持ってきます。」



今までだったら、が近くにいたからこういう事は事前に

やってもらってたみたいだけど、離れてしまって色々大変そう。

それはノボリも思ったみたいで、コーヒーを飲みながら

に話しかけた。



「やはり離れていると、色々と報告などが滞り気味でございますねぇ…

、ゲンナイ達がユノーヴァに帰ったら戻ってきてくださいまし。」



はここを出る時に、これからは自分はあっちで仕事をするって

そうやってボク達に言った。

理由は作業部屋で色々材料加工する事が多いからだって…

でも、ホントの理由は別にあるんじゃないかって疑っちゃう。



「いやいや、滞ってないですよ?むしろこれが普通ですよ。

今の状態は私にとっては結構助かってるんですよねー。

私の仕事は材料の加工が結構あるので、事務作業の片手間に

ちょいちょいって出来ますし、作業効率はこっちの方が上なんです。」



じゃあ、どうして例の大掃除が終わった後でそうしなかったの?

その言葉が喉まで出かかるけど、グッと我慢する。

ホントにそうだったら、仕事には妥協をしないはそうしてるはず。

食い下がるノボリに、やんわりと断ってるけど、またあの笑い方をしてる。



「ごちそうさまでした!とっても美味しかったです。

それじゃ、私はゲンナイ君に墨出しの話をしておきますね。」



そう言ってソファーから立ち上がると、ボク達にお辞儀をして部屋を出る。

口調とかは前と変わんない、でもやっぱり前のじゃない。



「3歩進んで2歩下がる…2歩どころかもっと下がっちゃった。」



ボクがため息をついて首を振ると、ノボリもため息をついた。

も遣る瀬無い顔をして、下を向いちゃった。



「言ってることが正論だから、つけいる隙が無いんだよね。

最近のあいつは仕事に打ち込んでるって言えば聞こえは良いけど

詰め込みまくって、俺達と距離を置こうとしてるしね。」



「仕事の時は仕方がないだろう。元々、あいつはそうだったしな。

必要以上に他と関わる必要が無いって理由で、今の仕事を選んだんだし。

以前の、両ボスに会う前のに戻っただけの話だ。」



そっか、今までボク達が見ていたが違ってたんだ。

でもボクは前のの方が良いから、戻って欲しいって思う。

それとそんな理由で仕事を選ぶとか、はどれだけ

一人にこだわれば気が済むんだろう。



「周りを拒絶して、もういいやって気持ちはボクにもわかる。

達と知り合う前のボク達がそうだったから。

でも、それは自分が望んでじゃない。諦めてたからなんだよね。

だからは最近あの諦めちゃったみたいな笑い方をするのかな?」



ボクはもう諦める事はしてない。その必要がなくなったから。

達と知り合って、誰かと一緒にいる居心地の良さを知ったから。

それを自分から手放す事は、考えられないし無理。

でも、は手放そうとしてる。それでいいの?

ホントにそれはが望んでる事なのかな?


僕の言葉に誰も答える事はなかった。

だけど、それじゃ駄目だって事は皆思ってるんだ。

人は一人で生きていはいけないって言うでしょ?ボクもその通りだと思う。