二章・初志貫徹編
手を差し伸べる男達
「ネェ、はDVも受けてたカナ?」
エメットが口元に手を当てて、俺等を見てる。
なぜそんな事を聞くのかと見れば、インゴがため息をついて口を開いた。
「瀕死の娘を見捨てるような母親ナラ、十分に考えられマス。
初めて会った時に彼女は例の件で、顔を殴られていたのデスガ…
ワタクシが怖い思いをしたデショウ?と聞いた時、
彼女は殴られるのには慣れて…そう言いかけたのでゴザイマス。
続きは慣れてイル…デショウ?」
「後、BPPVも調べたヨ。頭に強い衝撃を受けるとなりやすいんデショ?
ストレスも関連あるみたいダネ。」
例の大掃除で襲われた時か…そして、出張の時の発作も調べていたのか…
の方を見れば、苦笑いをして頷いている。
これはもう、話しちまった方が良いだろう。
「が顔にアザを作ってるのは結構あった。
うちの親が驚いて聞いても、転んだとか誤魔化してたな。
だが、転んで目の周りにアザがつくか?有り得ないだろう。
俺等があいつの母親のあまりの仕打ちに怒りまくったって
それは自分が悪かったから殴られても仕方がないんだとよ。」
「怪我をしても、病院に連れて行かれない事も多かったんじゃねぇか?
どこの世界に、手の爪が2枚剥がれていてもそのままにする親が居るか?
それをあいつは大した事じゃねぇと笑うんだぞ?」
俺等の話に4人とも痛々しい顔をした。
クダリはとうとう顔を歪ませて、下を向いちまった。
「何それ…信じらんないっ…家って、親って自分を守ってくれる場所なのに
そんな場所にいるなんて…耐えらんない…っ!」
「公の場所に逃げ込まなかったのですか?
それ程の内容であれば、保護されて当然では…ないのですか?」
「幼少期から暴力を振るわれてたナラ、逃げるという選択も起こらないト
以前、なにかの書物で見たことがありマス。」
「がそれを望まなかった…デショ?
きっと、色々頑張ったんだヨネ?周囲から変だと思われテモ
それが、自分と母親を繋ぐモノで手放せなかったんじゃないカナ?」
遣る瀬無い思いをそれぞれに抱いたまま、沈黙の時間が流れていたが
不意に、俺のライブキャスターがメールの着信を告げた。
誰だと思って開いてみれば、それはからで、
(どーせ、悩んでるんでそ?お母さんも参加させなさい!ヽ(`Д´)ノプンプン)
文面と顔文字に思わず笑っちまった。
そうだな、を大切に思ってるのはあいつもなんだ
ここはひとつ、あいつの意見も聞いておきたい。
「ノボリ、ライブチャットでもう一人呼んでもいいか?
もしかしたら、俺等じゃ想像もつかない様な解決法が出てくるかも…だぞ?」
俺の言葉にがかと呟いた。
インゴとエメットが首を傾げる。そう言えば二人は知らないんだったな。
ノボリが説明をすると、なんだか頷いて納得しているみたいだった。
クダリが目を擦って、パソコンの準備をする。
俺がライブチャットの招待を送ると、画像がすぐに切り替わった。
『やほーい、やっぱり二人共困ったちゃんしてるっぽ?
さすがのたんでも、この件はお手上げとかやだよん。
折角、二人が知りたがってたから、ちゃんにあの話をさせたのにー。』
口調は相変わらずだったが、の顔には笑顔は無かった。
それより、俺等が作業部屋での話を聞いてたって気がついてたのに驚いた。
「ちょっと待って!、ボク達が盗聴してたの知ってたの?」
『おやぁ、サブウェイマスターさん達もお揃いっぽ?
イケメンの悩む顔ってハァハァしたくなるけど、それは置いといてー。
うちのロトムたんは超優秀なんですよん。最初から知ってたっぽ。
それで?どうしたら良いのかってホントにわかんない?』
指をピッピの様に振りながら、ニヤリとしていたが
すぐに真顔に戻って俺等の言葉を待つ。
「ハジメマシテ、インゴと申しマス。様でよろしいでしょうか?
貴女に少々お聞きしたいのデスガ、よろしいデスカ?」
「Hello!エメットダヨ。ボク達ノボリの従兄弟でのFriendナンダ。」
『おー、噂のサブウェイボスさん達ですね!で良いですよん?
いやーん、二人共マスターさん達に負けない位のイケメンさんとか。
ちゃんってば、こんなに愛されてるのに勿体無いっぽ!
んで、インゴさん?私に何を聞きたいん?』
のテンションに少々たじろいでるこいつらの気持ちもわかる。
だが、ホントのこいつはこんなもんじゃないんだからな。
インゴが苦笑いをしながら、少し躊躇って…それでも口を開いた。
「の母親はなぜ、そこまで不安になったのデスカ?
親子でのその様な愛情は、普通ナラ有り得マセン。
は父親ニモ性的虐待を受けていたのデスカ?」
性的虐待、その言葉に部屋にいる全員の顔色が変わった。
ちょっと待て、俺等はその話は知らない。いや、聞いてないだけなのか?
だが、あいつの母親の異常な行動はそれが原因なら頷けてしまう。
『ちゃんの名誉にかけて無いから!そんな風に見ないで!!
大体、物心着いた時から自分は人を好きになっちゃ駄目って
そうやって言い続けてるんだかんね。
ぶっちゃけて暴露っちゃうけど、あんだけエッチな身体してんのに
ちゃんってばそういう経験値はゼロだお、勿体無いよー!』
「Oh…ゴメンネ?デモ、それならどうしてナノ?」
「申し訳アリマセン…デハ、なぜそこまで母親が…?」
の剣幕に二人だけじゃない、俺等も驚いた。
それと同時に、最悪な状態じゃなかった事に安堵する。
それにしても…そこまでぶっちゃけなくても良いんじゃないのか?
一瞬だが、4人の目が見開いたのを俺は見逃さなかったんだからな。
『…あのね、ちゃんはお母さんの連れ子なの。
ちゃんのお母さんは自分より10歳以上若い人と再婚したんだ。
新しいお父さんとの年の差は15もなくってさ…それが原因…かな?』
この話は俺…いやもだろう、初めて聞いた。
だが、それなら話がわかる。だんだん容姿の衰える自分とは反対に
娘はどんどん女性として成長するんだ。不安になったって事なのか?
それだからといって娘にする仕打ちじゃないのは変わらないがな。
「自分に自信が無いカラ、その様に考えるのデショウ。
その為に娘すら疎ましく思うナド、非常に不愉快デスネ。」
『その通りなんだよねん。でも笑っちゃうよ?
再婚した理由を子供には父親が必要だろうから、仕方なくだってさ
本音は連れ子が邪魔なくせに、平気な顔してよく言うよねーって感じだお?
あのお母さんってそういう人、大事なのは世間体、自分の評価。
だから、仲良し親子っぽく周囲には見せてたっぽ。
ちゃんは、仲良しを演技しながら、それが現実になればって
そうやってずーっと頑張ってたんだよ。いっつも裏切られてたけどねん。』
飄々とした口調とは真逆の、余りの辛辣な言葉と内容に何も言えなかった。
が両手をあげて、首を振る。
「あいつの気持ちを救ってやりたいって、そう思う事すら偽善ぽくて
嘘くさくてかなわねぇ…、どうすれば良いと思う?
あいつを過去の呪縛から解放する手段はあるのか?
比べても幸せすぎる過去しかない俺には見当もつかねぇ、お手上げ状態だ。」
「、は本当に愛情をいらないと拒んでいるのでしょうか?
私は、むしろ全身で欲しいのだと叫んでいる様に思うのですが…
愛情深く、他人の心の動きに敏い彼女はもっと愛情を受けるべきです。」
ノボリが聞きたかった事ってのはこれか…
こいつは前から、にずっと手を伸ばし続けているからな。
そして、それはあいつにもちゃんと伝わっているはずだ。
「ノボリの考えは正しいデショウ。彼女は愛情を与える事が出来るのデス。
ポケモンに出来るなら人間にも愛情を与える事は出来るハズ…
必要なのはを愛して、そして愛される事ではゴザイマセンカ?
人とシテ、を大切に思い…女性とシテ彼女を愛するのデス。
そしてニモ同じ様に思ワレ、愛されるのデス。
恋愛Gameではゴザイマセン。真剣勝負…バトルでゴザイマス。」
「インゴ?」
隣のエメットが驚いてインゴを見つめる。
こいつも同様恋愛はいらないと言っていたはずだが
どういうつもりなんだろうか?
『ノボリさん、私言ったよね?急な変化は駄目っぽ。
ちゃんは自分自信を完全否定してるんだかんね?
すっごい女の子なのに、自分を卑下しちゃってるんだお?
後、インゴさんはちゃんが好きなの?
言っとくけど、同情だったら返り討ちで1確で乙るっぽ。
ずっと一人で生きていくんだって、頑張ってた人にそれは逆効果でそ?』
の言葉に二人は考え込むように黙ってしまった。
そうなんだ、あいつはそういう意味ではマジで一筋縄じゃいかないんだ。
「ねぇ、ボク思ったんだけど…がボロボロになってたのを
ポケモン達が助けたんだよね?それと同じ事をしても効果はあるのかな?」
「Ahー…ポケモンに出来る事を、ボク達が出来ないノハ変デショ。
時間は凄くかかるかもしれないケド、には時間も必要カモ?」
クダリの提案に、エメットが同意する形でに聞いた。
確かに、それだったらあいつは受け止めてくれるかもしれないだろう。
『ホントなら、私みたいに素敵なダーリンをゲットするのが良いけどー
それはインゴさんも言ってるけど、超ハイレベルなバトルになるっぽ。
それに、ちゃんはミッションがあるからねん?
そっちを言い訳にされて逃げられまくるに決まってるしー
それだったら、クダリさんの考えてる事の方が効果はありそう…かなぁ…』
「どっちみち、今の状況だったら身動きが取れねぇのは事実だしな。
それなら、可能性のあるモンを手当たり次第やるしかねぇだろうよ。」
グラスに入ったウィスキーを一気に流し込んで、ヤケ気味で
が言っているが、その位しか俺等には出来ないのかもしれない。
だが、今まで散々他人を遠ざけていたが
今はこうやって身近に信頼できる仲間を作ったんだ。
それだけでも格段の進歩だと褒めてやるべきなんだろう。
『大体、ちゃんが自分のテリトリーに誰かを入れるのが奇跡っぽ。
だから皆はそれに自信を持ってちょ?
今のちゃんに必要なのはそういう人達との日常でもあると思うんだ。
んで、少しずつレベルアップすれば良いんでないの?』
の言葉に、この場にいる全員が頷くしかなかった。
八方塞がりだと思っていたが、そうじゃない。
今までと同じ様に見守って、手を指し伸べ続ける事が
を相手にした場合は、遠回りの様で実は近道なんだろう。
私も頑張るから皆も超頑張れ!そう言ってはチャットを落ちた。
頑張るも何も、やる事は前と同じなんだよ。すげぇ不本意だがな。
「ともかく、いつもどおりにってのがあいつには必要ってか?
それじゃあ物足りねぇ気もするが、焦りは禁物だろうしな。」
「うん、ボク逹はが大切だよ、大好きだよって言い続ける。」
「えぇ、私達の気持ちをに伝え続けるつもりでございます。」
「焦れったいケド、そうするしかなさそうダヨネ。」
「長いバトルになりそうデスガ、ワタクシは負けるつもりはゴザイマセン。」
の言葉に、全員が頷く。
俺等に出来る事は少ないかもしれないが、塵も積もればなんとやら
そうやって、少しずつあいつの傷が癒えるのを待つしかないんだろう。
大丈夫だ、あいつを傷つけるものはこの世界にはもう存在しないんだ。
後は見守りながら、傷が癒えるのを待ってやれば良いんだ。
こいつらと知り合って、差し伸べられている手がこれだけ増えたんだ
必ずお前を、底なし沼の今の状態から救い出すからな、待ってろよ。