二章・初志貫徹編
暗中模索を続ける男達
全く、飯時にこんな話はするモンじゃねぇな。
一応俺の主義なんで、出された物は残さず完食。こいつらも同じくだ。
だが、全員が胃もたれに苦しむオヤジみたいな顔をしていた。
俺は全員分の食べ終わった食器を持って、ソファーから立ち上がる。
「俺はこの食器を食堂に戻してくる。
いいか、とが戻ってきたら、今まで通りでいろ。出来るな?」
全員が頷くのを確認してからドアの方へ歩いていたら、
ノボリが先回りをしてドアを開ける。よく気がつく奴だ。
「、と二人で今晩仕事が終わったら私の部屋に来ることは出来ますか?
さっきの話の事で少々相談したい事がございます。」
「特に予定なんざねぇからそれは構わねぇが…どうした?」
「上手くお伝えする事が出来なくて申し訳ないのですが…
あの話を聞いて、私に少々考えがあるのです。
ですが、それは今ここでお話出来る様な事ではございません。」
もう少しすれば、達も戻ってくるしな。
あいつは、ここに戻ってきた時にはその話はもう終わらせろと言ってた。
確かに、これ以上ここでその話をする事は不可能だろう。
「わかった、家に帰ったら連絡をくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
ノボリの言葉に、クダリも思い当たるフシがあるんだろう。
なんだか複雑な顔をしてノボリを見ていた。
まぁ、この話はこれ以上ここでは出来ないから、さっさと仕事にとりかかるか。
食堂に食器を下げ、厨房の連中に一言声をかけてから、執務室に戻ってみれば
の姿はなく、が書類を膝の上に置いてソファーに座っていた。
「たん、コレが例のブツだよん。
かーなーり、色々とめんどくさそうだから頑張ってちょーよ?」
「おう、サンキュー。てめぇはこれからどうするんだ?」
から書類を受け取ってみれば、かなりの厚みと重さに驚いた。
こいつは、この間の話の後にすぐ動いたんだろう。
「んー?ちょっとジャッキーたんの所に行ってくる。
例のウィルスについて、ちょーっと確認したい事があるっぽ。
今日は子供達もいないし、遅くなっても良いってギーマさんに言われたから
ちゃんの仕事が終わるのを待って、デートする予定だよん。」
そう言ってから手招きしてるんで、なんだと近づけば
小さな声でとんでもねぇ事を言い出した。
「うちらがちゃんの作業部屋にいる時に、盗聴と盗撮したでそ?
まぁ、知りたい事がわかってラッキー?でも、この見返りはデカイかんね。」
「てめぇ…」
「うちのロトムたんは超優秀っぽ。
ちゃんは気が付いてないから、せいぜい頑張ってねん?」
後は参謀に任せた!と言って部屋から出ていったが、誰が参謀だ!
それにしても、あいつの強かさにはいつも舌を巻く。
結婚して、子供を産んでから、その傾向は更に強くなったんじゃねぇか?
「…完敗だな…ったく。」
俺の言葉に両ボスが(もう仕事中なんでな、呼び方変えは基本だろ?)驚いて
こっちを見ているが仕方ねぇだろう。俺が負けを認めてるんだからな。
デスクに戻り封筒を開けて書類をみれば、団体の加入者名簿の他に
顔写真つきの経歴書みたいな物が、2つのファイルに分割されていた。
どっちも氏名から年齢住所、犯罪歴の有無まで書いてあるんだが
俺が驚いたのは片方のファイルの方だった。
そのファイルの中に入ってる名簿も内容は大体が同じなんだが
犯罪歴の項目には“元プラズマ団団員”と、全員に書かれてある。
これは、油断していると半端じゃなく痛い目に合いそうだ。
急いでこっちも臨戦態勢に入らねぇとマズイだろう。
「…課長、ちょっと今後のバトルトレインでの接待について
シンゲン課長と相談したい事があるので、一緒に来てもらえませんか?」
「あぁ、俺もこれから自分の仕事が忙しくなるんで調整したかったんだ。
丁度良いから、それも相談させてもらうかな。」
書類の束を持って立ち上がって、に声をかければ
同じ様に書類を持って、デスクから立ち上がった。
両ボスにも声をかけてから執務室を出る。
ドアを閉める時に、二人が何だか目配せをして頷きあっていたのが
妙にひっかかったが、今はこの書類を連中に見せるのが先だ。
バトルトレーナー統括部に二人で入ってから、書類をその場でコピーして
シンゲン部長に渡す。
内容を見た部長の表情が険しくなる。
俺達は、関連人物がギアステに来た時のそれぞれの連絡方法を決めて
何かあれば駆けつける事を約束して、部屋を出る。
それから終業時間になる迄、は執務室には戻ってこなかった。
がシステムチェックを終わらせて戻ってきてから暫くして
書類を抱えたが執務室に戻ってきた。
「ただ今戻りましたー。白ボス、これは総務部からです。
黒ボス、これは人事と経理から預かってます。」
いつもと変わらない顔をしてボス達に接してるつもりだが
伊達に長い付き合いじゃねぇんでな、妙に構えてるのがバレバレだ。
自分のデスクに戻って作業日報を書き上げると、に提出して
はデートなので失礼しまっす!と言ってと出ていった。
「3歩進んで2歩下がる…ってか、ったくめんどくせぇ奴だ。」
「それでも1歩分は進んでるんだ、以前に比べれば進歩してるだろう。
あまり急がせすぎると、反転世界に行ったままになるぞ?」
「それは勘弁してくれってんだ。俺はギラティナには頭が上がらねぇ。
こんな事を続けてたら、あいつに何を言われるかわかったもんじゃねぇ。
さて、俺達は仕事は終わったけどボス達は?」
と二人愚痴りながらでも書類をやっつけて、今日の分の仕事を終わらせる。
ボス達の方を見れば、同じ様に書類を完成書類用のボックスに入れて
立ち上がっているところだった。
「うん、ボク達も終わった。
先に行ってご飯とか用意しておくから、二人はお酒とか買ってくればいい。」
「えぇ、少々長丁場になると思われますので…よろしいですか?」
じっくり腰を据えての相談ってのが気になるが
こいつらがをなんとかしたいって考えてるのは間違いねぇからな。
俺もも頷いてから部屋を出る。
途中のスーパーで色々と酒とちょっとしたツマミを買って
マンションのインターフォンを押す。
ドアが開いて、俺達を迎えてくれたのは家主じゃなくてエメットだった。
「Good Evening!待ってたヨ。」
部屋に通されればインゴもソファーに座っていて、俺達をみて頷いた。
これはノボリ達が急遽呼んだんだろう。
「達の了承を得ませんでしたが、昼の話は二人にも伝えております。
色々と言いたい事もございましょうが、まずは食事を摂ってから…
それから、色々と確認したい事と相談したい事があります。」
テーブルの前にはすでに食事がセッティングされてたから
俺達はまず食事をご馳走になった。
その間は特に例の話をする事もなく、それぞれに食べ終わった。
ノボリとクダリが、食器を洗っている間に
俺達とインゴ逹はタバコを吸うためにバルコニーに出た。
「ボク達がいて、ビックリしたヨネ?でも、情報交換するッテ
ノボリ達と約束してたカラ、話は聞かせてもらったヨ。Heavyダネ。」
「ノボリから助けて欲しいと連絡を受けマシタ。
アレがその様な事を言うトハ…デスガ、話を聞いて納得シマシタ。
アレ等には手に負えないデショウ。」
随分知ったような口を聞くじゃねぇかと、俺達は二人を見る。
エメットがそんな様子に気がついて肩をすくめた。
「アノネ、ボク達もと同じダッタ。
ボク達を産んで死んじゃった母親の死を父親が受け入れられなくて
ボク達を拒絶したんダヨ。それで暫くはノボリ達の親に引き取られテタ。
暫くシテ父親に引き取らレテ、ユノーヴァに移ったんだケド
やっぱり、父はボク達を最期の最後まで拒絶して死んだんだヨネ。」
「父との生活は、ワタクシ達から誰かを愛すると言う事を取り上げマシタ。
精神を病む程の愛情ナド、考えただけでも恐ろしくナリマス。
それでも、憎む事は不可能デス。その葛藤は今もゴザイマス。」
それもまたヘビーな話だ。エメットはともかくインゴはそういえば
と同じ様に恋愛を除外していた気があった。
その原因がこれってか?なんとも遣る瀬ねぇ。
ベランダのガラスを叩く音がして振り返れば
ノボリとクダリが食器を洗い終わったらしく、リビングに戻っていた。
俺達もリビングに戻って、それぞれにソファーに座る。
さて、相談したい事ってのを聞かせてもらおうか。
それぞれの前に、ビールやらウィスキーやらが出されて
ノボリがまずビールを一口のんでから口火を切った。
「正直申し上げますと…のあまりの傷の深さに
私に何が出来るのだろうと思っております。
何をするにしても、彼女は拒んでしまうのでは?…と思うのです。
勿論、大切な友人には変わりはありません。
ですが、いくら私がそう言ってハグをして伝えても
彼女はずっと戸惑っていたでしょう?私の思いは届いていない…
そう考えれば、その態度に納得してしまったのです。」
「ちょっと待って!ノボリそんな風に思っちゃったの?
この前のハグの時、はノボリの背中に手を回した。
それはちゃんとノボリの気持ちが伝わったからじゃないの?」
「その時は私もそう思っておりました。
ですが、今日ののあの消えてしまいそうな笑い方を見て
伝わっていても理解をしていないのだと思ったのです。」
あいつのあの笑い方は全部を諦め切った笑いだ。
ノボリの言いたい事もわかる。だが、それじゃあどうすれば良いんだ?
俯いたノボリの肩を叩いて、がため息をつく。
「ノボリの気持ちは伝わっていないわけじゃないんだ。
が前に言っていたんだがな…
愛情を甘いものに例えて、
甘いものを欲しいと思うのは、甘いものを知ってるからで
自分は甘いものを知らないからそれが手に入る事は絶対に無いってな。」
「待なサイ、はポケモン達に愛情を持ってるではアリマセンカ。
それすら違うと否定しているのでゴザイマスカ?」
インゴの疑問も最もだろう。
だが、それは別な意味も持ってるんだと説明した方が早いだろうな。
「はポケモン達に恩があるんだよ。
こっちに来て、ボロボロになって手が付けられなくなった時
このままじゃ、そんなにしないうちに死んじまうって所までいった時
ギラティナがあいつを反転世界に連れ去ったんだ。
そして、どうやったんだか知らねぇがあいつの手持ちを呼び寄せ
その子達と一緒に説得を続けたんだ。効果は抜群だったぜ?」
「前にが言ってただろう?
あいつの子達はなつき度がほぼ全員マックス状態なんだ。
その子達が、の状態を見て放って置くはずがない。
ただひたすらに、自分を好きだと伝える子を前にしてやっと落ち着いた。」
だから、俺達はの手持ちになる事を望んでそうした
ギラティナには一目置いている。いや、頭があがらねぇんだ。
「ポケモン達はにとっては一番の信頼できる存在なんだ。
だから、あいつはポケモンを救う為なら自分を顧みねぇ。
いい例がネイティの件だろうな…あの時も出血多量で
何日か生死の境を彷徨った。だが、あいつはそれで良いと思ってるんだ。
ポケモン達の為なら、あいつは簡単に命すら差し出すだろうよ。」
現にあいつはこれからもその姿勢を貫き通すつもりでいやがる。
「それって愛情なのにはわかんないのかな…
でも、そっか…納得したかもしんない。
大好きな仲間がいて、自分を好きって言うポケモン達がいる事で
の中で幸せな世界が完成しちゃってるんだ。
これじゃあ、ボク達が何をいっても聞いてくれないかもしんない。」
「そこでもうこの件はCheckmate?ふざけないで欲しいナ。
謙虚にも程があるデショ?はもっと欲張って良いノニ。」
「ある意味ではオマエもそうなのデスヨ?
その程度で満足シテしまう位、の心が乾いているのでしょうネ…」
「ポケモン達には感謝します。ですが、はもっと幸せになるべきです。
それこそ、彼等も望んでいる事でございましょうに…」
全員がお手上げ状態で、部屋の中に重苦しい沈黙が広がる。
だが、このままになんてさせねぇ。
それだけはここにいる全員が思っているんだ。
霧の中を彷徨ってるみてぇな、出口すらわからねぇ状態だが
それでも、俺達はなんとかしてぇんだよ。