二章・初志貫徹編
頼もしい協力者達
スーパーダブルの接待だったが、チャレンジャーが途中下車しちまったらしい。
駅に着くまでの間、暇だと思っていたら前の車両に乗っている人物が
ドア越しに俺を手招いているんで、ドアを開ける。
「どうも、確か…ポケモン大好きクラブの支部長のトツカさん…でしたよね?」
以前、シンゲン部長から見せてもらったバトルトレーナーの名簿を思い出し
顔と名前を頭の中で照らし合わせた。こりゃあ、丁度いい機会じゃねぇか。
「はじめまして、私をご存知でしたか。ですがその件は内緒でお願いしますよ?
支部の仕事の合間に来てるんですが、そうは思わない人も多くてね。」
「その辺は心得てますので安心してください。
そう言えば一度お聞きしたかったんですよ。だいすきクラブでは
バトル施設に対してどの様に皆さん考えてらっしゃいますか?」
「どの様に…とは?」
俺の隣に座って、質問に片眉をあげて聞き返した。
これは、バトル施設をだいすきクラブ的には容認してるって事か?
「一部のポケモン愛護団体ではバトル施設は愛護精神に反するとして
結構ゴタゴタと双方で言い合ったりして揉めてるでしょう?
そちらのクラブではどうなのかって、ずっと思っていたんですよ。」
俺の質問の意味を理解したみたいで、トツカさんは笑いながら
ホルダーに装着したボールを撫でる。
「それについては、その様に言う会員の方もいますがねぇ…
ですが、バトルはポケモンの本能の一部と言っても良いでしょう?
それを人間が取り上げる事も間違いだと思うんですけどねぇ。
無理矢理、バトルをさせているのでなければ
それはその子にとっても意義のある事ですから。
ですから私もこちらに来て、バトルの好きな子達を楽しませてるんです。」
確かに、ポケモンによっては…いや性格もあるんだろうが
バトルを好きな子、嫌いな子は存在する。
それは人間だって同じ事だ、バトルが嫌いなトレーナーだっている。
そういう連中はブリーダーになったり、育て屋になったりしているし
バトルが好きな連中はこういうバトル施設の職員になったりする。
それはポケモン達にも言える事だし、トツカさんは理解している。
「それに、こちらの職員の皆さんはポケモンを愛していますからね。
批判されるのは、むしろチャレンジャー側だと思いませんか?
厳選した後、選ばれなかった子をそのまま捨てる。
配分に失敗したからといって、そのまま捨てる。全く嘆かわしい限りです。
こちらの職員さん、サブウェイマスターさん達が悲しんでますでしょう?」
あぁ、この人はわかってるんだな。
ここのボス、サブウェイマスターを筆頭にバトルトレーナーの職員は
全員ポケモンへの愛情が半端じゃねぇと思ってる。
それが、きちんと伝わって理解者がいる事にホッと胸をなで下ろした。
「イッシュのだいすきクラブでここを悪く言う会員はいません。
むしろ心配なのは他の愛護団体なんですよねぇ…」
首を振りながら俯くトツカさんを思わずガン見しちまった。
これは、例の愛護団体についてなにか情報を持ってるんだろうか?
この人にだったら話しても問題はねぇだろう。
俺は思い切って、今起きている事を聞いてみた。
「その一部の愛護団体がボス達…ここのサブウェイマスター達に
色々言ってる事を、トツカさんはご存知ですか?」
「えぇ、なんでもホドモエで大会があって参加されるのでしょう?
それに意義を唱えた団体がある事は知ってます。
現に、私はその団体に抗議を取り下げる様にと進言したんですがねぇ…
頑として聞き入れてはいただけませんでした。」
団体名を聞けば、トツカさんは簡単に教えてくれた。
これはに連絡してその団体の名簿を手に入れた方が良さそうだな。
「さん、その団体はプラズマ団のポケモン解放の主張に感化されて
出来た、まだまだ若い団体なんですよ。
プラズマ団は結局主義と内容が一致しませんでしたが、この団体は
それを一致させようと理想だけを目指して、他を見ようとしてません。
私達の団体もご協力します。ここを…バトルサブウェイを守ってください。」
「俺にはそんな大それた事は出来な…「出来ますでしょう?」…トツカさん?」
それは買いかぶり過ぎだと、一応謙遜するつもりで言った言葉を
トツカさんは途中でブチ切ったし…この人は何を知ってやがる?
俺が訝しんでいるのを、話途中で切ったのを怒ったと勘違いした
トツカさんは頭をかいて謝りながら言葉を続けた。
「あぁ、話を途中で切ってすみませんねぇ…。
ですが、さん達…さんとさんもここにいらっしゃるなら
ここを守る事は簡単に出来るでしょう?
貴方達の事はカントー、ジョウト、ホウエン、シンオウの支部より聞いてます。
ポケモン達を守るために、暗躍されていた…違いますか?」
どこからそんな話がそういう風に伝わったんだか…
まぁ、間違いではねぇから俺は何も返事をしないって形で答えた。
「まぁ、お答えしていただかなくても構いません。
ですが、私達ポケモンだいすきクラブはこちらに全面協力を約束します。
なにかお困り事があればいつでも言ってくださいね?」
「…ありがとうございます。」
流石は支部長をやってるだけあって、中々食えない人物だ。
だが、こういう人が味方についてくれるなら大助かりじゃねぇだろうか。
駅についたから、話はここまでと言ってトツカさんはホームを歩いて行った。
さて、これでどうやって動くかが決まりそうだな。
向こうの出待ちには変わりねぇが、その後の策が練りやすくなった。
トレインから降りて、俺はそのままバトルトレーナーの統括部へ向かう。
ノックしてからドアを開ければ、そこには部長の他に
シングルとダブルの主任も揃っていた。
「、接待お疲れ様なのさ。
この後は暫くはトレーナー不足はないから、ゆっくりして欲しいのさ。」
「お疲れさん、しっかしと良い連勝記録はどこまで伸びんねん!
で?こっちが要請する以外でここに来るっちゅうのは、何かあったんか?」
シングルの主任、クラウドが俺にコーヒーを手渡しながら聞いてきた。
確かに、インカムでの要請以外では接待に参加してねぇから
ここに俺が来る事が不思議に思うのも仕方ねぇか。
「えぇ、うちの課長からバトルトレインにイチャモンをつけている
困ったちゃんがいるって聞いたんでね。その後何か動きはあったのかな?」
俺の言葉に、部長と主任達は首を振ったから、動きはねぇのか…。
それもなんだか不気味な話だな。
「…実は今、ポケモンだいすきクラブのトツカさんとお話する機会があってね。
彼が言うには、ここバトルサブウェイに抗議をしている団体がいるらしい。
だいすきクラブの好意でその団体に働きかけてくれたみたいだけど
頑として聞き入れてはもらえなかったらしいよ?」
「だいすきクラブの支部長さんの言葉にも耳を貸さへんちゅうんは
どないな団体やっちゅうねん。で、はどう思っとるんや?」
肩から下げたステートをポケットにしまってから、呑気な顔をしている
三人をみたんだが、この様子だと油断しすぎなんじゃねぇのか?
バトルでもなんでも油断は禁物、それは初歩の初歩なんだが
どうもこっちの世界の人間はその辺が緩くてかなわねぇ。
「トツカさんの話を聞いて絶対に何か行動を起こすと思ってるよ。
なんでも、歴史の浅い若い団体っていうからね血気盛んなんじゃないかな?
今迄なにも動きがなかったのは、おそらくはトツカさんの忠告が
多少でも効果あったんでしょうが、そうそう続くものでもないですしね。」
「早まった真似だけはして欲しくないのさ。
ところで、この事は両ボスの耳に入れてるのかな?」
「、僕達ハ コノ件ヲボス達ニハ報告シテイマセン。」
まだ、あの二人の耳に入れる必要は無いんじゃねぇか?
その前にやる事は腐る程あるんだしな。
「俺もまだボス達に報告するつもりはありませんよ?
それは、こちらが迎え撃つ体制を整えてからでも遅くはありませんしね。
そこで、お聞きしたいのですが。
近日中にその団体の名簿と顔写真を入手します。
こちらにその人物が来た場合に、気をつけて監視する事はできますか?
ただし、表立っての行動はまずいので水面下で動かなきゃならない。」
「それは簡単な事や、わしらは普段から指名手配犯や不審人物なんかの
顔写真をみて全部記憶しとるからな。
今更その人数が増えたかて、どうっちゅう事あらへん。」
「地下鉄、ギアステの安全管理の初歩なのさ。
鉄道員なら、それが出来なきゃ話にならないから問題ないさ。」
「エェ、職員トシテノ基本デス。
ソレ以外ノ トレーナーノ方ニモ、ソノ辺ハ徹底サセテイマス。」
流石はギアステ職員、会社愛…つーかボス達へか、半端ねぇな。
だが、それを聞いて安心したぜ。無理って言われたんじゃ
そこで、一手詰み状態になっちまうからな。
「頼もしい限りですね。では近いうちに名簿と顔写真を持ってきます。
その後の事はまだ色々考えたいので、その時に話をさせていただこうかな。」
「に任せたったら、安心やな!勿論、わしらもやらせてもらうで?」
「きみの手腕は、例の大掃除でわかってるから信用できるのさ。」
「ボス達ト地下鉄ノ為二、大変トハ思イマスガオ願イシマス。」
…なんとも、すげぇ信用されてるってか?
まぁ、全部おんぶにだっこさせる気は更々ねぇんだろうし
こういう部分が、ここの連中のいいところなんだろうよ。
人任せにしねぇ、自分の出来る事は率先して、探してでもやろうってな。
そういうのは、俺も嫌いじゃねぇ。
「フフッ…そこまで信頼されてるなら、是非とも応えなくちゃね。
期待外れな事にはならないと思うから、もう少し待ってて欲しいですね。
それでは、俺はお暇させてもらうかな。失礼しました。」
空になった紙コップをゴミ箱に入れて、一礼してから部屋を出る。
さて、どういうふうに料理してやろうか。
こっちに来て以来、ずっと頭を使っているから本音を言えば身体を動かしてぇ。
だが、策を練るのは嫌いじゃねぇし、気に入った連中の為になるってぇなら
そこは我慢して、やってやろうじゃねぇか。