二章・初志貫徹編
連携と提携は違います。
俺達のとんでもない暴露話をして次の日、3人で執務室に入れば
難しい顔をした両ボスが、封筒を持ってなにやら話し込んでいた。
「おはようございます、昨日はお疲れ様でした。
所で…その書類がどうかしたのかな?二人共難しい顔をしてるけど…」
一応ここは職場だからな、言葉使いは普段通りってわけにはいかねぇ。
これが、職人だけの職場だったらそうじゃねぇから、楽なんだがな。
「おはようございます。えぇ、不幸の書類と言った方がよろしいでしょうか…
今朝、インゴ逹が例の書類を作り直したからと渡してきた物でございます。」
「おはよー、このタイミングであの二人がくれた書類なんて
絶対ロクなもんじゃない。しょーじき、ボクはこのまま破り捨てたい。」
いや、流石にそれは不味いんじゃねぇのか?
書類の入っている封筒はギアステのマークがついているし
表の宛名だって正規の物に則って、こっちの名前が書かれてるんだ。
それにしても、白ボスじゃねぇがこのタイミングで寄越すなんざ
俺に再度喧嘩を売ってんのか?いい度胸をしてやがる。
おっと、力みすぎて持ってたボールペンを折っちまった。
「課長、今日は私…特に点検とか入ってないんで
作業部屋でALGCのエルボー作りたいんですけど、篭っていいですよね?」
「そうだな…俺も今日はちょっと接待を控えようと思ってたんだ。
一人じゃ量産できないだろう?俺も作業部屋で手伝うぞ。」
現実逃避と敵前逃亡たぁ、良い度胸してるじゃねぇか…
だが、それを俺が許すと思ってるのか?とことん甘ぇんだよ!
ホワイトボードの前でコソコソしている二人を睨みつければ
はの背中に隠れちまった。
大体これからの予想がついてるなんざ、学習できるようになったってか?
「…二人共、書類の内容を把握するまでは事務室から出ることを禁止するよ?
課長はこれから朝礼ですよね、仕方がありませんので、行っていいですよ。
書類の中身を見てから、俺とが今後の事を検討してお知らせするので
終わり次第、すぐ戻ってきて下さい。…よろしいですね?」
「…ノボリ…これってちょっと不味いかもしんない?」
「えぇ…は怒らせてはいけません…私達も気をつけましょうね。」
の態度が暖簾に腕押しなのは、今に始まった事じゃねぇが
こういう時は、すげぇムカつく。
その怒りのまま両ボスの方へ手を差し出せば、慌てて書類を差し出した。
レターオープナーを使って、封筒を開けて中身を確認すれば
案の定、ニンバサシティでの保全管理課立ち上げに関した書類だった。
内容は至極明快で向こうから熱絶縁施工技能士として、ゲンナイと
建設業経理士としては実務経験の浅いゲンナイの奥さん…ベロアさん
この二名をこっちに研修に向かわせたいという内容で、拍子抜けした。
横から両ボスが書類を覗いてみて、同じ感想を持ったんだろう。
あまりにも、こっちの要求した通りの書面を見て驚いていた。
「これは…あの二人が観念したと考えてよろしいのでしょうか?」
「有り得ない…けど、のあの提案に身動き取れないのも確かだと思う。
これは、書面通りの解釈でも別に問題は…ないよね?。」
「…今のところ、それで問題は無いと思いますね。
えっと、期間はゲンナイが2級の資格を取得するまでの間なら構わないと…
宿泊施設は、家族用の住宅に空きがあれば使用させて欲しいそうです。」
二枚目の書類に目を通せば、二人の処遇についてはこっちに一任する事と
研修の間の住居や生活面のサポートについてが細かく書かれていた。
これはゲンナイの奴があの二人に気に入られたって事か…あいつ、凄ぇな。
「家庭持ちの社員住宅につきましては空きがございますので問題ありません。
そして、研修期間についてでございますが…」
「その書面、2級の資格を取るまでって言ってるんですよね?
ちょっと待てー!次の試験までの期限は1ヶ月無いよ無い!
受験の願書とかゲンナイ君は出してるのかな?それじゃないと不味いです。」
「成程、要はゲンナイが2級に合格できるようにしろって事だろう?
それについては、的には出来るのか?」
ついに、とも傍に来て色々手帳を見ながら唸りだした。
つまり、ゲンナイの面倒をに見させて、使い物になるようにしろってか?
「ダクト関係をやってるから、板金の実務試験については問題無いと思う。
でも、筆記が…どうだろう…ゲンナイ君ってそういうの苦手だったよね?」
「あー、あいつは文章が絡む事は壊滅的だったのはお前も知ってるだろう?」
やっぱりな…結局はに貧乏くじが大当たりしやがったって事か。
まぁ、その位だったら別に気にする事じゃねぇだろう。
「、その次の書類見て。」
白ボスに言われて書類をめくれば、業務連携についての申請って文字が
書面にあって、人数的に向こうもこっちも少数な部署だから
お互いに人手不足の時には連携出来る様な体制を取りたい…だと?
「ゲンナイ様達の研修が終了し二人が戻った後、こちらから最低でも1名は
あちらに出向して、業務の流れや作業工程、それらの指導を再度して欲しい…
成程、確かにこちらで指導してきた事があちらで活かされているのか
キチンと責任を持つ事は、当然といえば当然でございましょう…ね。」
「向こうとこっちの保全管理課の形態が同じなら、業務で連携もしやすい。
正直、ボク逹は今の人数じゃ三人に負担がかかり過ぎてると思ってる。
この提案は、それを改善できるもの。それに意義有りって言うのは難しい。」
両ボスが苦虫を噛み潰した様な顔をして眉間に皺を寄せる気もわかる。
今の状況は、要請をしているのは向こうなんだが、どうにもこっちに分が悪い。
下手に出ている様だが、全部向こうの思う通りに事を運ぼうとしてるしな。
理路整然と、こっちのウィークポイントをついての提案は見上げたもんだ。
それに…確かに、この規模をこいつら二人でやるのは負担が大きい。
だがな、そんな事ぁ元から承知って事を忘れてはいやしねぇか?
との顔を伺えば、すっかり顔つきが変わっていた。
「…随分と舐められたもんだよなぁ?。」
「おうよ、こちとらこの位の規模の現場を掛け持ちしたって余裕だってばさ。
連携?ふざけんじゃないよって感じだよねー。
頭数がいくらあったって、動けないんだったら話になんないんだからね。
人手不足で向こうの協力を要請する事なんざ、百年経とうが無いね!」
久々に職人魂に火が付いたって顔をしてやがる。
それに両ボスが驚いているが、こいつらの本気はこんなモンじゃねぇんだよ。
俺が書類を両ボスに渡してから二人を見れば、いい笑顔がかえってきた。
「、あいつらに返事を出すときは連携はしないとはっきり伝えろ。
俺等が協力を求める事は、今後有り得ないから意味が無いってな。
あぁ、向こうから要請があれば協力は惜しまないとも伝えろ。
そうすればあいつらも連携を、とは言わないだろう?」
「うんうん、筋を通したいんだったら、そこは提携を要請します。でしょー」
「全くだ、あいつらは勘違いしてやがる。
この場合の立場は同等じゃねぇんだ、俺達の方が上…そうだろう?」
俺達の会話を聞いてとうとう白ボスが大笑いしだした。
隣の黒ボスも口元を押さえて肩を震わせている。
そうなんだよ、この勝負は俺達は絶対負けないんだ。
とを本気にさせただけは褒めてやるがな。
「あはは…っ、すっごく楽しいかもしんない!
結局はボク達の勝利は確定してる。もう朝礼だからボク逹は行くけど
戻ってきたら早速、あっちとライブチャットして言う。」
「フッ…クク…ッ!えぇ、どんな顔をするのか見ものでございますね。
ですが今は時間がございませんので、この話は朝礼後にいたしましょうか。」
両ボスが俺にハイタッチをして、身支度を整え始める。
それに続いて、も朝礼に出るために同じ様に作業服の上着を着込んだ。
「さて、私は三人が朝礼に行っている間に色々と調整しておきます。
ゲンナイ君には申し訳ないけど、徹底的にしごかせてもらうかな?
課長、例のおむつ替えスペースと授乳室の新設に彼を入れるよ。
実地訓練じゃないけど、実技に基づいてやった方が良いと思う。
後、保温の材料の一部変更もさせてもらう。
この現場で、ある程度必要な事を全部教えてあげようじゃない。」
「ウレタン吹付も追加で入れておくか…その辺は戻ってくるまでに出来るな?
後は、こっちにいる間に覚えて貰う事をオリエンテーションから抜粋してくれ。
それらを持って、総務部長とも相談しなくちゃならないだろう?」
とが拳を突き合わせて不敵に笑う。
それじゃあ俺も、色々と協力してやるとするか。
「そう言う事だったら、経理も実技指導といくかな?
材料請求とその他の売掛なんて、わかっているだろうから問題ないだろうし
後は経験を積ませれば良い…うん、それだけの話だね。」
そんじゃ、本気出してやってやろうぜと言う俺達を見て。
両ボス達は眩しそうな顔をして笑っていた。
「やっぱり三人は凄いかもしんない。
ボク逹は優秀な部下を持って幸せ者だよね、ノボリ!」
「えぇ、先程の言葉を訂正いたします。
だけではなく、もも怒らせてはいけませんね。
三人の仕事に対する情熱は、スーパーブラボーでございます!」
伊達に歳はくってねぇんだよ。
そもそも、俺に勝とうなんて思う事が間違いだってぇのが
まだあいつらには理解できねぇらしいな。
何度挑戦しても答えなんざわかりきってる。
俺は負けるつもりはないし、負けてやるつもりもないんだからな。