二章・初志貫徹編
天を仰ぐ三人の覚悟
エレベーターを降りて、部屋に入ったとたんに
はソファーに身体を投げ出した。
今回はお前が一番大変だったと思うが、結果としては
あいつ等に全部話せた事はすごい進歩だと、俺もも思っている。
キッチンでゴソゴソやってたがピラフの入った皿をもって
リビングに戻ってきた。
そう言えば、晩飯も食わないでずっと話してたんだよな。
空腹を全く感じなかったんだから、俺もかなり緊張していたんだろう。
「、残さず全部食わねぇと寝かせないからな。
てめぇはこういう事が起きると、途端に飯も食わねぇ、眠らねぇって
なっちまうが、それはこっちじゃ俺が許さねぇ。」
ソファーに突っ伏す様に沈み込んでいるの後ろ頭を
引っ叩きながら、俺の隣に座り込んでため息を付く。
「わーってるよ。なんだかすっごく脱力感?
まさかここまで誰かに話す時が来るなんて想像もしてなかったよ。」
の隣に座ってスプーンを手に、ピラフを口に入れながら
首を振る顔は疲れも見えるが、どことなくスッキリしてる様に見える。
元々、お前は向こうの世界にいる時でさえ
他人との線引きをガッツリやってたんだからな。
それはこっちに来ても同じで、何度同じ事を繰り返せば気が済むのかと
俺とが怒鳴っても、聞こうとしなかった。
「それだけ、てめぇが進歩したって事だろ?
ポケモンの進化を少しは見習えってんだ。遅すぎるんだよ。
オマケにてめぇは俺達に黙ってる事があるとか、何様のつもりだ?」
俺様!と答えたには俺も思わず笑っちまった。
あぁ、あんな事があった後でもこうやって軽口を言えるだけには
お前も変わってくれているんだな。
俺等はの事が一番心配だった。
信じてた事全てに裏切られたような気がして、全部を否定した俺に
両親と過ごした時間まで否定をするのか?愛されてた事も否定するのかと
泣きながら言われた時は、正直かなり堪えた。
裏切られることのない過去があるのはどれだけ幸せか考えろと言われて
それからの俺は、前を見続けて進めるようになったんだ。
に人参も食えと怒鳴っているこいつ…だって
妹が死に逝く病気になって、家の中の雰囲気がおかしくなった時に
一緒になって世の中を恨んで、親父さんとお袋さんが言い合うのを
巫山戯るななんて言って、ひねくれたんだ。
妹の死を一番受け入れられなかったこいつは結局
死ぬまで病室に行く事をしなかった。
それにぶち切れたが、こいつをぶん殴って
墓の前に連れて行き、どれだけあの子がを待っていたか
自分のせいで家の中が滅茶苦茶になった事を悲しんでいたのか
愛情を受ける事は当たり前の事じゃない、それがわからないのは馬鹿だ
そうして、あの子に謝れと泣きながら言っていたな。
それからのは命を誰よりも大切にする様になった。
妹と同じ子供を減らしたいから医者になると言ってからのこいつは
まるで取り付かれたかの様に死に物狂いになって、とうとう夢を実現させた。
俺等の今の姿があるのはお前のおかげなのに、お前を救う事ができない
そんなもどかしさに俺ももかなり悩んだ。
自分の欲しかった物は、自分で作り上げれば良いと言った俺等の言葉に
甘いものを欲しいと思うのは、甘いものを知ってるからなんだと
自分は何が甘いのか、どれが甘いのか、それすら知らないんだから
それが手に入る事は絶対に無いんだと言っていた。
世の中の汚い部分を知ってるくせに、それでも信じて裏切られて
そして全てを諦め切ったお前にとってあの世界は地獄だっただろう。
だが、ここは違う。この世界は綺麗なものが沢山溢れている。
信じ合い、お互いを思いやり前に進むポケモンの世界
それはお前が望んでいた世界だろう。
ここでならお前は変わる事が出来るだろう。
「長かったな…」
思わず出ちまった俺の言葉に、二人の動きが止まった。
あぁ、本当に長かった。それだけお前の傷は深くて癒えるのに時間がかかった
今回の事は、色々とあいつ等を巻き込むようで申し訳なかったが
結果は俺等にとって、何より心強い味方が出来た事になるんだろう。
「ずっと友人だと、仲間だと言ってくれたあの連中の為にも
、お前は絶対にこの世界に残る事を選ばなきゃダメだぞ。」
俺の言っている意味がすぐにわかったんだろう。
皿の中身を綺麗に平らげて、スプーンを置いた後では目を閉じた。
「正直言って、私は誰かとこうやって深く関わりたくなかった。
この世界で、十分に私は幸せに過ごす事が出来たんだもん
これ以上を望むのはバチが当たっちゃうって思ってたんだよね。
二人には悪いと思ったけど、私はミッションを達成するつもりは
ちょっと前まではなかったんだよ。」
やっぱりな、お前はこのミッションに最初から乗り気じゃなかった。
俺等が何かを言っても、のらりくらりとかわして逃げてたしな。
「そんな事なんざ、とっくに気づいてたに決まってるだろうが。
俺達を甘く見るんじゃねぇよ。
だが、そういう風に言うってのは、気が変わったって事だよな?」
睨みつけてるに向かって、昔からの諦めたような笑い方をする。
だが、その目は昔と違って色を失ってはいなかった。
「うん、なんだかね…あの人達とうちらと一緒に並んで進みたいって
そう思えるようになったんだよね。
なんていうのかな…こっちの世界の人たちの心ってすごく綺麗じゃない?
あの人達はさらに綺麗なんだよね。いい年ぶっこいてる癖に
擦れた感じが無いわけじゃないんだろうけど
そんな事すら気にならない位純粋っていうのか。
ポケモンが人になったらこんな感じなのかなって、そういう感じ?」
「それは俺も思ったな。
あんな大企業を動かしてる癖に、根っこの部分は子供みたいだろう?
そんなんでも成り立つていうのは、こっちの世界が向こうと違う
そう言う事なんだと思うぞ?」
俺の言葉に、二人が頷く。
子供向けのゲームの世界だからなのか、こっちの世界はマジで綺麗だ。
だから、俺はここで人生をやり直せる事に正直感謝したもんだ。
胸ポケットからタバコを取り出し、バルコニーへ向かえば
他の二人も後をついてきたんで、そのまま一緒に外に出る。
それぞれにタバコに火をつけて上を向いてゆっくりと紫煙を吐き出す。
最上階の、あいつ等の部屋のあるバルコニーを見れば
影が四つ、モゾモゾと動いてるのが見えて笑っちまった。
「恐らく、俺達がまだあの連中に言っていない事があるって
感づいてはいるんだろうな…。」
「アイツ等だって馬鹿じゃねぇ、そんな事はとっくに思ってただろうよ。
こっちが巻き込みたくないってのを知りながら、首を突っ込むんじゃね?」
「うん、簡単に想像できるのが笑っちゃうかもしんない。
きっとうちらが話すのをずっと待つんだろうな。待てを続けるワンコ?
うわーい、それはバッくれ続けられる自信はないかもしんない。」
の言葉が言い得て妙で俺等は思わず笑っちまった。
確かにあいつらだったやりそうだな。
「どっちみち首を突っ込んでくるんだったら
時期が来たら話すのもアリだと思うぞ?
変に周りをうろつかれるよりずっとこっちだって動きやすくなるだろう?
何かあれば、俺等が守ればいいだけの話だしな。」
「ちょっとやそっとじゃ、どうこうなる様な連中じゃねぇだろうよ。
まぁ、その点だけを取り上げるんだったら心強い味方ってヤツだ。
、てめぇはそん時が来たら逃げねぇでサッサと諦めろよ?」
「あの人達から逃げ切れる自信なんて私には無いよ!
うん、その時がきたらちゃんと説明するから安心していいよ?」
どうだかなと言うに俺も頷けば、酷いと言って拗ねちまった。
「まぁ、俺等は出来る事をやるだけだ。
覚悟はも出来ただろう?後は時期がきたら動けばいいんだ。
それは別に難しい事じゃないと、俺は思うんだがな。」
そう言って上を見て目を閉じる俺に、二人が頷いたのが気配でわかった。
今はそう言う覚悟が出來たって事でも十分だろう。
ウダウダ悩むのは症に合わない。それだったら開き直って
全力でブチ当たった方がずっとマシだと思う。
視線を二人に向ければ、俺と同じ様に上を向いて目を閉じていた。
大丈夫だ、俺等は間違った選択をしていない。
どうすれば良いかはわかっているし、覚悟も出来たんだ。
後はこの世界に恥じない様に、進めば良いんだから簡単だろう。