二章・初志貫徹編
絶望世界からの脱却
膝の上にネイティを置いて、その頭をゆっくりと撫でながら
私はどう説明しようか考えていた。
脚色するつもりは全くないんだけど、それでも小説とかそんな感じの話の様で
現実的に受け止めてもらえるかどうかは難しいと思うんだよね。
「私は仕事中で、終わった後でに連絡する事になってたんです。
だけど、いざ仕事が終わって携帯…ライブキャスターみたいな物ですね。
を持ったんだけど…私は何をしようとしたんだっけ?ってなったんですよ。
そこにはの…ううん、、っち、ちゃんの
アドレスも登録されてはいませんでした。
それは、達が日本での自分達の記憶を消すようにと
アルセウスに頼んだからなんだって、こっちに来てわかったんですけどね。」
あの時の妙な感覚を私は忘れてはいない。
いつも通りの日常のはずなのに、心のどこかで違う、おかしいって
ずっと思い続けながら毎日を過ごしていたんだから。
仕事をして、家に帰ってきて…それからいつも私は何をしてた?
どうして、こんなにモヤモヤした気持ちになってるの?ってね。
「私は、向こうの世界…日本では色々と人間関係を拗らせちゃってて
他人と関わり合う事をしてなかったんですよ。
仕事はしてましたからね、表面上ではスマイルの仮面を張り付けて
仕事が終わったら、たちとご飯に行ったり、チャットで皆と話したり
そんな毎日を送ってたんですけど、それが出来なくなって
日々をボーッと過ごしていました。
でも、ある日全部思い出したんですよ。達の事をね。」
ムウマが傍にきて、私の手に擦り寄る。
うん、あなたが…あなた達がいたから私は記憶を取り戻したんだよね。
ムウマのほっぺたを指で軽くつつけば、くすぐったそうにして身をよじる。
可愛い、可愛い私の宝物、大切な記憶への糸口になった子。
「さっき、がこっちの世界はゲームデータだと言ってましたよね?
私もそのゲームを大好きでやっていたんですよ。
仲間達の記憶が消されて以来やってなかったそのゲームを起動して
バトルサブウェイにチャレンジしようって手持ちを入れ直していたら…
ムウマと家にいるリザードンのデーターを見て、気がついたんです。」
ノボリさん達の視線が一斉にムウマに注がれたから、ムウマは驚いて
私の背に隠れてしまった。うん、その気持ちわかるよ。
とはあー!って顔してるし。
二人共、完璧そうな癖して、そういう所が結構抜けてるんだよね。
「ムウマはが私にくれたポケモンです。
そして、あの色違いのリザードンはがくれたポケモン。
だから、ポケモン図鑑には元の持ち主の名前が残ってるんですよ。
そこから記憶を取り戻すのに、そんなに時間なんてかかりませんでした。」
ムウマとリザードンをもらった時の事を思い出せばあとは簡単。
目を閉じた今でも、あの時のこの子達との出会いははっきりと思い出せる。
『、俺の厳選余りの子だがコイツは結構いい感じだからやるよ。
どうせ、てめぇは厳選もしねぇで、またサブウェイに行くんだろうが。
そんなんじゃ、いつまでたってもサブウェイマスターに勝てねぇぞ?』
『、こいつ色違いで珍しいのもあるが、更に6Vなんだ。
なんだかお前に似てるなって思ってな。よかったらもらってくれ。』
私達は元々初代のポケモンからプレイしたんだよね。
やり込み要素が色々出てきて、もも厳選だ孵化作業だって
そっちの方にのめり込んでたけど、私は色違いとか夢特性に夢中だったっけ。
二人はしなかったけど、アルセウスが配信されるからっていうんで
一人で映画館に行って、子供達に紛れてゲットしてたとか懐かしいわー。
「その後、私は4人の形跡を探し回りました。
の実家に行ってみれば、そこにはおじさまとおばさましかいないし。
そして、自分達には息子はいない。娘は死んでしまったの知ってるでしょって
『ちゃん、どうしてそんな変な事を言うの?』って言われました。
あの子の記憶はあるのに、どうしての記憶はないんだろうって」
元々、私はの妹と仲良しだったんだよね。
そこから、一緒に遊んでたとも加わって、仲良くなって
それからあの子が死んじゃっても、その付き合いは変わる事がなかった。
いや、むしろ濃くなったんじゃないかな?
あの一件でがグレたのを、ぶん殴ってふざけんなって啖呵切ったり
あの子の墓の前に連れてって、あの子に謝れって言ったりしたしね。
「、っち、ちゃんの家も空家になってるし
これは変だ。いや、私が変なのかもしれないって思いました。
皆が知らない人達を私は知っている。
それは私が変だから、自分でその人達を作り上げていたんじゃないかって。
でも、それにしては記憶が鮮明すぎる。じゃあなんなのって…
消失感、悲しみ、孤独、仕事中はともかく、家にいる時はそれからは
ずっと泣き続けてました。あの時、私はすでに狂ってたのかもしれません。」
それからはもう、なにをするのも面倒になった。
私にとって、仲間の居ない世界なんて生きてる価値もないものだった。
四人がいて、始めて私が存在する事が出来ていた世界に
独りで残されても、存在意義なんか見つけられなかったんだもん。
「食べる事も、寝る事も自分ではできなくなって、それでも生きていたのは
病気で死んでしまった親友に、自分の分も生きていてねって言われてたから。
その言葉がかろうじて、私をあの世界に繋ぎ止めていただけなんです。
だから補助食品やサプリメントで栄養を補って、睡眠薬を使って眠って
ひたすら仕事を詰め込んで、没頭して…。
そんな感じの毎日を送るようになってたんですよ。」
今思えば、よくあんな生活してたよね。
その姿を想像したのか、ノボリさん達の眉間に皺がよっている。
痛々しいものを見る目で私を見つめている。
大切な人を亡くしたって言っている彼等だから、私のその気持ちは
多分、ここまでじゃないかもしれないけれど理解できるのかな?
グラスの水を飲んでから、が私の頭を小突いた。
ビックリしてそっちをみれば、テーブルに頬杖をついて苦笑いをしている。
「俺等がこっちに来て、一番心配だったのはお前の事だったよ。
記憶を消したその後、どうしているんだろう…ってな。
だから、お前の様子をアルセウスに頼み込んで
ディアルガとパルキア、そしてギラティナに協力してもらって
ずっと見ていたんだ。だが、ポケモンがきっかけとは盲点だったな。」
「俺達がてめぇの様子を見る事ができたのは、丁度その位からか…
最初の方はディアルガの協力が、なかなかもらえねぇってんで
時間を食ったから知らなかった…。そっか、そう言う事だったか。
なんでに…一番消して欲しかった奴に、記憶が残ってるんだって
あん時は、こいつに殴る蹴ると八つ当たりしちまったんだよな。」
がパルキアの入ったボールを拳で叩きながら呟く。
それ以上力をいれるとボールが壊れちゃうからやめようね。
中のパルキアが焦ってるみたいで、ボールが忙しなく点滅してるし。
「その様な生活を送れば、ゆっくりと自殺をしている様なものでしょう!
自分を大切にしないのは、その時からとか…いい加減になさいまし!
だから…だからは死んでしまったのですか?
そして、その為にこちらに来たのですか?」
「ノボリ、オマエはもう少し落ち着きなサイ。
…貴女はその様な事をしてマシタガ、誰も止めなかったのデスカ?」
確かに、私は死ぬ為にあんな生活を送ってたのかもしれない。
まぁ、それも今思えば無茶苦茶だったとは思うけど
もう一度やれるかって言ったら…多分同じ状況なら繰り返すでしょうね。
誰か止める人って、それって何?そんな人は私にいるわけないってば。
「ノボリさんの言葉は耳が痛いです。でも、その為じゃありません。
確かに、きっかけにはなったかもしれないですけどね。
それと、私を止める人なんていませんよ。
私はその時一人暮らしをしてましたし、仕事の付き合い以外で他人とは
一切付き合うような事はしてなかったですからね。
後は…私が死んでしまった原因は、私の持病のせいです。」
さて…ここからは結構しんどいかもしれない。
あの時の気持ちがフラッシュバックをして蘇ってくる。
今はなんともないはずなのに、息苦しくなってきたかもしれない。
両手を胸にあてていたら、が肩に手を置いた。
「こいつはな、究極の引き籠もりだったんだよ。
俺達が引っ張り回さねぇと、自分からは出かけようとすらしねぇ。
人には色々偉そうな事言ってやがったが、自分はこのザマだ。
ふざけるなっていっつもと怒鳴ってたのは今と同じだ。」
「やみたいに他人に噛み付かないだけマシでしょうが。
っと、話がズレちゃいましたね。私が死んだのは私の持病でした。
今、こっちに来てからはその持病はなくなりましたけど、向こうでは
私は肺…っていうか、気管支に持病を抱えていたんですよ。
あの時は信じられない位の大発作を起こしたんです。
あんな生活送ってたら当たり前だったとは思いますけどね。」
「Asthma(喘息)…」
エメットさんの口から病名が出てきて、私はそれに頷いた。
全く、持病がそれなのに、煙草を吸い続けてたんですからねー。
いう事を聞かない典型的なダメ患者で、自業自得だったと思う。
「吸入が効かなくて、息を吸うのも吐くのも出来なくなって
声も出せないから救急車も呼べない。そんな状態で、意識が遠くなりました。
でも、全然怖いとか悔しいとか思わなかったですね。
むしろやっと今の状況から解放される、楽になれるんだって嬉しかったです。
死んだ後の事はわかりませんけれど、きっと第一発見者は私の顔みたら
笑ってたんじゃないかって思いますよ。」
もっとも、その笑いは自嘲的なモノだったと思うけどね。
最後の最期であの状況とか、ホントに神様はドSだと思うしかないよ。
ノボリさんとクダリさんは両手を握り締めてこっちを見てる。
そんな同情するような目で見て欲しくないなー。
私にしてみれば、むしろそれで良かったんだって今でも思ってるんだから。
エメットさんも、やるせない顔してるけど仕方ないんですってば。
んで、なんでインゴさんはそんな怒った顔で私を見てるかな?
「俺等はその瞬間をこっちで見てたんだよ。
どうしてばかりが、こんな思いをしなきゃなんないんだ、
なんでこうなっちまったんだって思ったが、後の祭りだ。」
「だから、俺達はアルセウスに言ったんだ。
元々はてめぇが生み出したやつのせいでこうなったんだ、責任とれってな。
てめぇらのくだらない諍いに巻き込まれて、俺達だけじゃなくこいつまで
人生を狂わされちまったんだからな、その辺は容赦なんかしねぇよ。」
流石にその辺は私は知らなかったんだよね。
つーか、こんな事になってるなんて欠片も思ってなかったし。
ホルダーからアルセウスの入ったボールを取り出して見れば
パルキア、ディアルガのボールと同じ様にゆっくりと点滅していた。
うん、この二人に迫られたとか大変だったね、お疲れ様。
そんな意味を込めてボールをひと撫でする。
「その後で気がついたときはびっくりですよ。
だって、目の前に小さい時のとがいるんですからね。
そして、私も小さい時に戻ってたんで二度びっくりです。」
「なんとかこっちに連れてくる事ができて、俺もも皆もホッとしたな。
あんな状況のまま、お前の人生を終わらせたくない、それだけだったんだ。
そしてこの世界にきたお前に、俺等の状況を説明したんだよ。」
がディアルガのボールをホルダーに戻した。
なんとかここまで全部話したけど、その後の事はまだまだだよね。
さて、どうしたもんかな。
「そうして今日の俺達がいるって話だ。
ガキの時代はキツかったなんてもんじゃねぇ、
なんてったって、外見はチビでも中身は成人済のいい年した大人なんだ。
周りにあわせるのにすげぇ苦労したのなんのってな。」
がパルキアのボールを鷲掴みしてホルダーに戻す。
手持ちだけど一応神様ポケモンなんだからさ、もっと大事に扱おうよ。
私も、未だに淡く点滅を続けるアルセウスのボールをホルダーに戻して
それから、向かい側のソファーに座って黙り込んでしまっている四人を見た。
「私がお話したかった事はこれで全部です。
まるで小説とか作り話みたいだって思うかもしれません。
それでもこれが私達に起こった、紛れもない事実なんですよ。」
全部吐き出しちゃえってに言われたから、言っちゃった。
ホントにこれで良かったのかなんて、私にはわからない。
だけど、ずっと抱えていた事をぶちまけちゃったら
なんだか気持ちだけはスッキリしたかもしんない。
信じる、信じないは別として、こうやって話せる人が出来たって事には
神様に感謝してあげてもいいのかもしれないな。
話を聞かれても、どうせやる事はやらないといけないんだし
むしろ動きやすくなったからラッキーって思う事にしましょうかね。
ひとつの真実を話せば、もうひとつの事もいずれは言わなくちゃならない
でも大丈夫。開き直った私に、怖いものなんて今は無いんだからね。