二章・初志貫徹編
バンシーの告白
仕事が終わり、俺等はノボリの部屋に集まる事になった。
は、先に家に帰って着替えてからって言うんで
定時に上がらせた。
俺とはそのままノボリの部屋にお邪魔している。
部屋の空気はすごく重くなっているが、それも仕方がないだろうな。
インターフォンが鳴り、ノボリが玄関のドアを開けると
もうひと組、インごとエメットがそこに立っていた。
「貴方達…どうして?」
「Good Evening!ボク逹はから話があるって言われたんダヨ。
だから、仕事を急いで終わらせてコッチに来たノサ。」
それぞれ仕事が終わってそのままこっちに来たんだろう。
仕事用のカバンを持ったままだ。
そのままリビングに入ってきた二人はソファーに座って、俺を見ている。
どうやら、出張の時にインゴに話したことはエメットも知ってるらしいな。
それだったら、説明の手間が省けるから楽だ。
「インゴ、エメット、急な呼び出しとかすまなかったな。」
「、は大丈夫なのデスカ?
話を聞きたいとは言いマシタガ、無理矢理ではありませんヨネ?」
「そんな顔するんじゃねぇよ。どっちみち話さなきゃ
あいつは動けなくなっちまうからな、まぁ良い機会だったんじゃねぇのか?」
頭の上に、クダリのバチュルを乗せてが肩を竦める。
無理矢理…じゃないと言えば嘘になるが、元はといえばが
ここを辞める云々と言ったのが原因なんだから、仕方がないだろう。
「、…ボク達のせいでは話してくれるって言ったけど。
でも、ホントは言いたくないんでしょ?無理に聞いても良い事になんない。
それだったら、別に話さなくても良いと思う。」
「…クダリ…ソレってどう言う事ナノ?
キミ達のせいって、二人トモに何をしたのカナ?」
インゴとエメットの目つきが険しくなってノボリ達を見つめた。
今は、そんな事でこっちで揉めるモンでもないから
俺から今日あった事をざっと説明する。一応、ノボリ達の名誉の為に
泣いてたってのは省略させてもらったんだが、それ以外は全部言った。
「私達が過剰な程に動揺してしまったのです。
その事で心を痛めたの様子がおかしかったのですが…」
「うん、顔がノボリみたい…ううん、そんなレベルじゃない。
感情が全く読めない顔になって、瞳も…真っ暗だった。」
「オマエ達は感情が先走りすぎでゴザイマス。
過ぎる好意は、時には負担になる事がわからない子供ではないデショウ!」
「ボク達だってそんな事わかってる!
これでもボク達抑えてる。ホントはもっと「Shut your mouth!」…っつ!」
「それは俺のセリフだインゴ。てめぇら、痴話喧嘩がしてぇんなら出て行け。」
「には、やりすぎ位が丁度いいんだ。
今まではのらりくらりと逃げ回っていたがな、いい加減腹をくくって
ケリをつけなきゃな…足踏みばかりじゃ意味がないだろう?
それは、ここでまだ来てない奴の事をぐだぐだ言うのと同じだ。」
俺等の言葉に四人ともグウの音もでないってか?
いつもならもっと言葉を選んでやれるんだが、流石に今は無理だ。
話が一段落した時にインターフォンが鳴って、クダリが出る。
やっと主役の登場か、どうせならもっと早く来てくれれば
痴話喧嘩を聞かなくて済んだんだが、あいつも時間が欲しかったんだろう。
「皆揃ってるよ…ネイティどうしたの?!って、ムウマもどうしたの?!」
リビングに入ってきたの頭にネイティがいるのはいつもだが
ムウマもボールから出ているなんてのは、珍しいな。
そして、どっちもポロポロと涙を零しているとか…驚かれても仕方がない。
「遅くなってしまってすみません。うちの子達が離れなくって…
ムウマとネイティはボールに戻しても、こうやってすぐ出てきちゃうし
だから連れてきちゃいました。」
ネイティがクダリの頭の上に移って、羽を丸めて顔をうずめる。
それでも、その目から涙が止まることは無い。
これは、特性のシンクロが発動してるんだろう。
泣く程…涙が止まらない程、の感情が溢れ伝わってるのか
そりゃ、辛すぎるだろうな。
ムウマはノボリのヒトモシに手を引かれてシャンデラに泣きついている。
こいつも、シンクロじゃないがの手持ちじゃ古株だしな。
「、ネイティは特性シンクロでしょ?
ねぇ、泣く程嫌なら、話さなくてもボク逹はそれで構わない。」
クダリが頭の上から膝の上にネイティを移して、その頭を撫でている。
他の3人もその言葉に異議は無いようで頷いた。
だが、俺とはそれには反対だ。
恐らくこの機会を逃しちまえば、こいつはまた逃げ回るだろう。
そんな事はもう無理だ。傷が浅く済む今のうちになんとかすべきだろう。
「ネイティ、私は大丈夫。にもにも言われたからね。
逃げるな、前を向け、闘えってね。
うん、覚悟は決まったから…でも、ちょっとまだ怖いってのも事実…かな?」
目を細めるだけの昔からの笑い方をして普通を装ってても
俺やの目はごまかせない。だが、ここで四人の様にも甘やかさない。
甘やかすのは全部話が終わった後…だ。
を見れば俺と同じ考えなんだろう。成り行きを黙って見ている。
「さて…、どこから話せばいいのかな?
そうだ、ノボリさんとクダリさんが聞いた、私達のルーツ辺りから?」
「「Roots?」」
「うん、私達はシンオウ出身と言っているけれど
そこに親もいない、親戚も、祖先は誰もいないんですよ。」
「天涯孤独…と、いう事でございますか?
それであれば、私達も似た様なもの。従兄弟以外の親戚はおりません。」
「それはそれで大変でしたね。それでも、ご両親はいらっしゃったでしょう?
でも私達にはいないんです。だってハイリンカーなんですから。」
いきなり結論から言うのはにしては珍しい。
普段なら理路整然と言葉を並べて、そして結論を言うはずなんだがな。
「待ちナサイ。ハイリンカーは滞在期限がゴザイマス。
貴女達はそれに当てはまらないデショウ?」
「インゴの言う通りだと思う。ボク達だってその位知ってる。」
「…そうですね、確かに普通のハイリンカーじゃありません。
むしろ異世界トリップ?でも、それとも少し違うんです。
全部が全部、こちらの世界での…ううん、どこの世界もでしょうね
全ての常識が当てはまらないし、通じません。
私達と同じ境遇の人達は、これから先はもう現れる事もないと思います。」
「キミ達がハイリンカーって…ハイリンクって言うのナラ
Missionがあるデショ?それが終わったらキミ達は元の場所へ帰るのカナ?」
「貴女達はずっと、絶対に勝たねばならぬ勝負をすると言っておりました。
それが貴女達のハイリンクミッションなのでございますか?
そして、終わってしまえばイッシュから…いえ、この世界から消えると?」
ノボリが口に出した疑問は四人が全員思っている事なんだろう。
クダリはすっかり顔色を無くしてネイティを抱きしめている。
エメットも組んだ両手を握りすぎて指先が白くなっている。
インゴはずっと、を見続けたまま視線を逸らさない。
「だから、貴女はギアステでの仕事が片付いたら辞めるのだと?
そうして、私達の前から消えてしまうのですか?
そうやって消えてしまうから、貴女は誰の手も取ろうとしないのですか!」
ノボリの語気が段々荒くなって、最後の方は叫びに変わった。
どんな時でも、の手を取ると言っていたこいつにとって
その宣告は自分が必要ないんだと言われている様なもんだ。
「ノボリさん、それは半分正解で半分間違ってます。
私が誰の手も取ろうとしないのは…元々の性分、なんでしょうね。
そして、この世界から消える可能性があるのは私だけです。」
「…」
ノボリの呼びかけにも答えず、目を閉じて上を向いたまま
は黙ってしまった。
ここから先の話をするのは辛いかもしれない。
だが、頑張れ…もう少しお前が曝け出したら、その後は俺等が引き受ける。
「ハイリンクはミッションクリアか時間切れになれば元の世界に戻されます。
でも言ったでしょう?私達は違うと、常識も通じないのだと。
私達はミッションをクリアすることで、こちらの世界に残れるんです。」
呼吸2つ分位の沈黙の後でゆっくりと目を開け、俺等全員を見渡す。
それぞれの顔を自分の心に刻み込むように、忘れないようにと。
ゆっくりと見つめるその目から一粒涙がこぼれた。
「私達はこちらの世界に来た時に、向こうの世界で私達に関わっていた
全ての人の記憶を消してしまう様に望みました。戻る事は無理ですからね。
そして、その願いは聞き届けられたんです。」
「どうして…どうして、そんな酷い事をしたの?
向こうには達の大切な人達がいたのに、全部記憶を消しちゃうとか
記憶とか思い出とかって、凄く大切なもの。
そんな事をしては何とも思わなかったの?!」
「…クダリさんはご両親を亡くしているんですよね?
それじゃ、残された者の悲しみ慟哭が何程かって知ってるんじゃないですか?
たとえ悲しくなくても、関わっていた人はなんらかの気持ちが残るでしょう。」
声が震えて、涙がいく筋も頬を伝うその様を見ているのは辛い。
そろそろ、自身も限界になってきたか…。
俺が声をかけようとした時、横でが俺の肩を掴んだ。
そのまま首を横に振って、目の前の光景を見続けている。
まだ駄目だと言うんだろうか?俺はこれ以上見ていられないんだがな。
「どっちみち、同じなんです。
私達は向こうの世界に戻れません。戻っても消えるしかないんです。
仕方が無かったんです、私達はもういない事になってるんですよ。
こっちに来る前に…もう…もう、死んでいるんですっ。」
座っていたソファーから崩れ落ちるように座り込んで、両手で顔を覆う。
後に言葉は続かずに、しゃくり上げるような嗚咽が聞こえる。
向こうの世界と別れる時の気持ちがぶり返しちまったんだろう。
もう限界だ、これ以上はが壊れちまう。
俺…正確には俺とは向かいのソファーから立ち上がり
の両脇にしゃがみこんだ。
両側からそのまま頭を撫でてやれば、嗚咽が一層大きくなる。
他の四人はと言えば、の口から出た言葉に驚いている。
その目は見開いて、何かを言おうとしてるんだがうまく出てこない様だ。
重い空気に支配された部屋の中は、と、ネイティ、ムウマの
それぞれの泣き声だけが妙に響き渡っていった。