二章・初志貫徹編
覚悟を決めて前を向け
「…良かった…こんな姿誰かに見られたら大変だった。」
目尻に残る涙を拭き取って笑うクダリの顔は、涙でグチャグチャでしたが
それでも、スッキリとした様に見えました。
それはきっと、私も同じなのでしょうね…泣きすぎて頭が痛いです。
「こんなに泣いたのはいつぶりでございましょうね…
ですが、とても気分がスッキリとしております。」
冷たいタオルと暖かいタオルを用意し、ソファーに座っているクダリに渡し
私も隣に座ると、それぞれを交互に目元に当てます。
こうすると、泣いた後の腫れぼったさが早く引きますからね。
「全く支離滅裂ってこーいう事を言うんだろうな。
ボク、自分で言ってて、途中でそれは違うでしょーって突っ込んでた!」
「私も、どの口でソレを言いやがる!でございました。」
今思い直しても、全く駄々っ子でございました。
お互いの顔を見合わせて、苦笑いをするしかありません。
「あーあ、ワイシャツがビショビショ。ノボリ泣きすぎ!」
「そっくりそのままお返ししますよ?
貴方は涙だけじゃなく、鼻水まで私のシャツで拭いたでしょう!
流石にこれは着替えなくてはなりませんね。」
目元のタオルを外して、そのままロッカーへ入り着替えていてふと思いました。
いくらなんでも、この時間までここに誰も来ないというのはおかしい。
これは、誰かがそうさせているのではないでしょうか?
「クダリ…私、この時間まで誰もここに来ない事はおかしいと思います。」
汚れたワイシャツをクリーニングボックスへ放り投げて
新しいシャツに袖を通しながら、思ったことを告げました。
「うん、多分誰か…とかあたりにはバレてると思う。
うわー、ワンワン泣いてるのがバレて気を使われるとか最悪…
って言っても、あの時は見られてもいいやって思ってた。」
「今思えばヤケクソでございましたねぇ…
そして、私…今ここから出るのがとても勇気がいるのですが…。」
「うん、ボクも。絶対誰かいると思う。でも、いつまでもここに居れない。
覚悟を決めて、1,2の3で出よっか?」
クダリの提案に頷いて、二人でロッカーのドアの前に立ち、
合図とともにドアを開けました。
予想に反して、部屋の中には誰もおりませんでした。拍子抜けして出ると
入口のドアが細く開いており、そこから誰かが中を覗いております。
こういう事をするのは、ひとりしかおりませんね。
それはクダリも同じだった様で、クスクス笑い出してしまっております。
「、そこにいらっしゃるのでしょう?お入りくださいまし。」
「そんな風に覗く位なら、堂々と中に入ればいい。」
私達が声をかけても返事はなく、それでも気配はございます。
どうしたのでしょうと、クダリと二人で顔を見合わせたその時に
ぎゃー!というらしい、色気も何もない叫び声が聞こえたと同時に
大きな音を立てて思い切りドアが開きました。
そして私とクダリは、目の前の光景に何も声が出ませんでした。
「お前はもっと加減しろ!ドアが壊れたら誰が修理すると思ってるんだ。
、それ以上暴れるとそのまま地面に叩きつけるからな。」
ドアの前で、を片手で担いでいるが普段とは全く違う声で
暴れているに声をかけております。
「おう、悪ぃ悪ぃ。ががモタモタしやがるからだ。
いいか、てめぇで蒔いた種だ、しっかりてめぇで刈り取りやがれってんだ。
それじゃあ、俺はスーバーダブルに乗るから、、後を頼んだぞ。」
ハイキックの体制で足を上げた状態でいる所をみると
恐らくはが足でドアを蹴り開けたのでございましょう。
「わーってる。ついでにシングルの方も行ってくれ。
俺はこいつにケリをつけさせるまで動かないから、頼むな。」
体制を立て直したとがハイタッチをして、は部屋に入らず
そのままホームへと歩き出しました。
「さてと、カイリューすまないがドアの前で待っててくれ。
以外、誰が来ても絶対に中にいれるなよ?」
がボールからカイリューを出して、廊下に待機させ中に入りました。
そして、後ろ手に鍵をかけてから、私たちの前にを下ろします。
「まずは、こいつがボス達を不安にさせて申し訳ありませんでした。
、後はお前が全部話せ。」
「待って!…「課長と呼べ」…課長、どう言えと?
ボス達を不安にさせて、余計な心労を与えたのは認めます。
ですが、今後の私の事については本当の事でしょう?」
…いきなりの展開に私もクダリもついていけません。
全部話せとは、二人は何を言おうとしているのでございましょうか?
「聞いてもよろしいでしょうか?…どこまでご存知でございますか?」
少々バツの悪い顔をして二人に聞きました。
この状況を考えると、先程の醜態を見られたと思って間違い無いでしょう。
「…両ボスが、全部ぶちまけようって所からですね。
その時点で中に入ろうと思ったのですが、ちょっと入りづらかったもんで…」
「それって、殆ど最初からって事?うわー、恥ずかしい!
ボク、ちょっと立ち直れないかもしんない…」
が頭をかきながら視線を彷徨わせ、クダリはガックリと肩を落としました。
えぇ、私も目の前のの顔を見ていなければ同じ様にしていたでしょう。
「ホントにごめんなさい…。関わりすぎちゃったんです。
そんな資格なんてないのに、お二人の優しさに甘えすぎてました。
今後はこんな事はもう起こしません。身の程を弁えます。」
初めてみるの表情でございました。まるで、仮面をつけているような。
いつものクルクルと変わる表情はなんだったのかと思う程
今の彼女の表情からは何も読み取る事ができません。
「そうじゃないだろう、お前は何度同じ事を俺等に言わせる気だ?
腹を括れ、現実を見ろ!そんなやり方を二人が望んでいると思うのか?!」
「落ち着いて!どうしちゃったの?ボク達、意味がわかんない。」
いつものと様子が違い、とても怒っていらっしゃるのがわかります。
クダリが慌ててとの間に入って、諌めました。
「私の言葉がお二人を戸惑わせてしまいました。
ここはバトル施設で、お二人はサブウェイマスター、そのトップです
余計な感情はバトルにも決して良い影響は与えません。」
あぁ、先程の事が自分の言った言葉のせいだと…
戸惑いは確かにございましたが、その後の事は違いますのに。
その様に自分を責めるのはお門違いでございます。
「貴女の言葉に動揺したのは私達の勝手でございます。
それに余計な感情とおっしゃいますが、それは違います。
お恥ずかしい話ですが、思い切り泣いて喚いてしまった後は
なんだかスッキリしてしまったのでございますよ?」
「うん、ボクも今迄色々と詰まってたものが全部取れた感じ。
今はスッキリして気分がいい。そのきっかけを作ってくれたのは。
ボク達が、今迄気づけなかった事を気づかせてくれたから感謝してる。」
「黒ボス、白ボス…」
「関わり過ぎたとおっしゃいますが、友人であれば当たり前でございます。
本音で向き合えば衝突してしまう事もございます。ですがそれはお互いを
知る為に、知り合って絆を強めるためには必要な事でございましょう?」
今のの表情には見覚えがございます。
泣き出して、泣いても仕方がないのだと…泣く資格すらないと言った時と同じで
その瞳が揺れ動いておりました。
「友達に何かを言うのって資格とかいらない。
あとね、は甘えすぎたって言うけど、どこがなの?」
そう言ってクダリはの身体を抱き寄せました。
一瞬、の目が見開き身体が強ばっていくのがはっきりとわかりました。
それでも、クダリはを離す事はしません。
「そんなに不安にならないで、って先に勝手に不安になっちゃった
ボクが言うのもおかしいと思う。けど、ボク逹はもう不安なんて無くなった。
あのね、今の、さっきのボクと同じ。
終わりの見えない環状線をグルグル回っちゃってる。
そんなんじゃ、おかしくなっちゃう。だからボク達を頼って欲しい。」
クダリの腕の中、何も答えずにひたすらに首を横に振るを見て
今迄何も言わずに、黙って成り行きを見ていたが二人に近づきました。
そして、の頭に手を置いて視線を合わせる様に少し屈みます。
「今回はボス達がこうやって言ってくれてるんだ。戻ってこい。
お前はもう一人じゃないだろう?今までとは違うんだ。
自分から暗い道を歩こうとするな。逃げるな、前を見ろ、闘え。」
「課長…「今はでいいぞ?」……ゴメン。
私…どうしていいか、わかんない。誰も巻き込みたくないのに…」
は途方にくれた表情でに手を差し伸べました。
その手を引いて、今度はがをしっかりと抱きしめます。
「今迄散々そうやって人を寄せ付けなかっただろうが、限界だろう?
そんな事してたって、どうなるモンでもないんだ。
悩んで苦しんで、泣いて毎日を過ごすよりも、笑っていたいだろう?
もう覚悟を決めて、お前もボス達と同じ様に全部ぶちまけちまえ。」
「いや、だって…それは私だけの話じゃすまなくなっちゃう。
やの事も話さなくちゃなんなくなっちゃう。
駄目だよ、私なら大丈夫…「それでいいんだ」…?」
「俺もも覚悟はとっくに出来てるから、問題はない。
どういう風に転がっても心配するな、俺等が全部受け止める。」
の目がまるで妹を見る様に慈しみに満ちて細まりました。
私とクダリは、二人のその様子をただ見守る事しか出来ません。
これは、私達が立ち入る事を許されていない部分の話でしょう。
不意に、のライブキャスターが着信を告げました。
慌てて、目元を擦って音声だけで受けたようでございますね。
「映像付きじゃなくてゴメンネ?うん、ちょっと汚れてる所での仕事で
顔が大変な事になっちゃってるから、このままでお願いね。
…うん?そっか、全然オッケーだよ。いやいや気にしないで。
トウコちゃんにもよろしくって言ってね、じゃあね。」
どうやら相手はトウヤ様だった様でございますね。
そして、が本日デートだとおっしゃっていたお相手は
トウヤ様とトウコ様だったのでしょう。この様子では中止でございましょうか?
「このタイミングで予定が白紙になるとか、もう逃げれないじゃない…
両ボス、今晩仕事が終わった後にお時間っていただけますか?」
覚悟を決めたのでございましょうか?表情が戻ってまいりました。
ずっと知りたいと思っていた、その話をしていただけるのでしょう。
私達が頷くのをみて、はため息をついて肩を竦めます。
「ホント…神様ってドSだと思うわ…」
その気持ち、私も良くわかります。
ですが、それでも前を向いて進むしかないのです。