二章・東奔西走編
いつもの風景へ
「── ともかく、この書類は白紙撤回させてもらう。
改善後の書類はいつでも受け付けてあげるけど、少しでも今言った事と違うなら
何度でも白紙に戻すから、そのつもりでいて欲しい。それじゃあね。」
ドラフターの前で、製図作業をしている俺の後ろ
ユノーヴァのボス達とのやり取りに、やっと決着をつけたようで
ライブチャットの画面をオフにして、白ボスは椅子から立ち上がって叫んだ。
「勝った…勝ったー!!あの二人相手にここまで完全勝利したのは初めて!
うわー、すっごく嬉しいかもしんない。」
「ブラボー!スーバーブラボー!!やりましたね、クダリ!
私、あの二人があの様に悔しがる姿を見たのは未だかつてありません。
ざまぁみろ!で、ございます!!」
黒ボスも自分のデスクから立ち上がって、二人でハイタッチしているんだが
ここまで喜んでいる姿を見るのは、バトルでも無いんじゃないだろうか?
「も協力ありがと!が提案した件を言った時の二人ったら…
アハハ!今思い出しても胸がスーっとする。ありがとね!」
「売られた喧嘩を買ったまでですよ。
俺に勝つなんて、バチュルがオノノクスを踏み潰すくらい有り得ないって
あの連中も理解できたんだからね、いい勉強だと思えば良いんじゃないかな。」
ボス達のデスクに向かうように膝を組んで座り、笑っているは
まるで玉座に座って艶然と微笑む魔王の様に見える。
今更だが、こいつが俺等の仲間で良かったと思う反面、
血のつながりがあるのが、なんだか薄ら寒くなってきたぞ。
「いやーん、バトル以外でもサブウェイマスターはマジでイケメン!
ちゃん、いい職場に就職できたよね!
つーか、ギアステの職員さん達って何気にイケメン多いじゃん?」
「ちゃん、ギアステの職員さん達は仕事ぶりもイケメンだよー。
ホント、こんなに仕事に張り切れる職場って貴重だからねー。
部長さん、赤ちゃんのお世話が上手ですねー。慣れてます?」
「息子以来久しぶりに子供を抱いたんだが、やはり可愛いものだね。
この子達も双子だし、将来はここでサブウェイマスターでもしないかね?」
旦那のギーマさんをどんな手段を使って丸め込んだのかは知らないが
ここのシステム管理のオブザーバーという形になったが
と総務部長に子供を抱かせてココアを飲んでいる。
はともかく、部長の顔がいつもと違うんで妙に怖いし
こんな赤ん坊達を、何勧誘してるのかと突っ込みたくなった。
怖いと言えば、ユノーヴァのあの二人がこのまま黙ってるなんて事は
まず有り得ないだろう。
どんなしっぺ返しがくるのか、俺は想像したくないぞ!
ここは浮かれまくってる両ボスには申し訳ないが釘を刺しておくか。
「両ボスとも、そんな浮ついた気持ちで大丈夫ですか?
俺にはあの二人がこのまま大人しくしているとは思えません。
正直言って、さらに色々と仕掛けてくると考えるべきでしょう。」
俺の言葉に両ボスが振り返り、悪タイプも逃げ出すような笑みを見せた。
二人共、なんだかここ数日…いや、俺とが出張中の間に
なんだか雰囲気が変わってないか?
「そもそも、こんな事になったのはがなんでも首を突っ込むから。
らしいって言えばそれまでだけど、今後はもう少し考えて欲しい。
後、ボク逹はこの件について…ううん、キミ達が絡む事については
今日みたいに徹底抗戦にでるつもり。」
「えぇ、あの二人が諦めたとは私達は毛頭思っておりません。
ならば、何度でも叩きのめせばよろしいだけの事でございます。」
駄目だ…完全に目が据わってる。
俺にしてみれば、何故ここまでこいつらがあの二人を敵視するのかが
最初はわからなかったんだが、さっきのライブチャットのやり取りをみて
ようやく納得した。アレだ、根っこの部分は完璧にガキの喧嘩だ。
ぶっちゃければ、似た者同士の同族嫌悪みたいなもんだろう。
…これを言うと両方が煩そうだから、言う気はないがな。
「おそらく向こうからゲンナイの所の奴らが来るようになるんだが
、そっちの方は大丈夫なんだろうな?
てめぇがしっかりしねぇと、こっちが一気に不利になるんだからな。」
「えー、は誰にモノを言ってるの?
私は仕事を教える事で、手加減とか妥協とか一切しないってば。
2級の資格を取るって言ってたからね、テキストも用意してあるし
後、整備班の人達に頼み込んで板金の実技も出来る様にしてるから。
徹底的に頭と身体に叩き込むつもりでいるよ。
私は1級まで持ってるから、その辺の指導もできるから任せて!」
いつの間にと聞いたら、試験自体はこっちに来る前に受けてたらしい。
こっちに来てから合格通知が来たから、未報告だったとか勘弁して欲しい。
だが、その資格があれば色々動きがとりやすくなるから助かる。
資格所持の一覧を更新しないとと思っている時に、ライブキャスターの
着信音が部屋中に響いて、慌ててが出る。
「あー、ビックリした!って、エメットさんどうしたんですか?
え、ライブチャットですか?うわわ、すみません!今出ます。」
エメットが直接こいつに連絡をよこしてるって時点で嫌な予感しかしない。
それは、ここにいる全員が思った様で部屋の空気が一気に変わった。
「、そのライブチャットは大変危険でございます!」
「!ボクが許可する、のパソコン壊して!」
「クダリさんなんて事を言うんですか?!
このパソコンの中には重要データーも入ってるんですからね!
って、お待たせしましたー。何か御用ですか?」
両ボスの制止を振り切って、ライブチャットに繋いだに
が頭を抱えてしまった。俺も両ボスもその気持ちが痛いほどわかる。
『、酷いヨ!クダリに何を吹き込んだノ?
インゴがすっごく不機嫌ダヨ、ボクの手に負えないカラ助けに来てヨ!』
「どーして、私のせいになってるんですか?!私は知りませんからね。
そこは全力でエメットさん頑張れ、超頑張れ!です。」
『無理っタラ無理!ソレとに伝えて、この借りは返す、倍返しだ!ッテ
アノ提案はが考えたモノデショ?クダリになんか考えられないモン。」
チャットのやり取りをしてるの後ろに音も立てずに
とクダリが立った、二人共何をする気かって…聞くまでもないな。
「エメット、随分な口を叩いてくれるね?
二人が束になってかかって来ても、俺には痛くも痒くもないからね。
むしろ更に痛い目に遭うのが目に見えるようだよ。」
「エメット、インゴにも伝えて。
いつまでもキミ達の優勢になんかしてやんない。
後、は今は仕事中。そんな事もわかんないの?馬鹿なの?
仕事の話はボク達に通すのが常識。あ、キミには常識がわかんないか。」
『、ボクはこんな屈辱を受けたのは初めてダヨ!
キミには痛くも痒くも無いかもしれないケド、こっちには切り札がアル。』
『黙って聞いてイレバ、随分な減らず口でゴザイマスネ。
オマエ達がワタクシに勝つナド、分不相応な夢を見るのはヤメナサイ。
、エメットと約束したと聞いてオリマス。
ワタクシがエメットの手に負えなくなった場合、助けると言ったトカ。
今がソノ時だと思いマスガ?』
エメットとインゴの話を聞いて二人の視線が下を向く。
「ちょ、エメットさん!アレは言葉の綾ってヤツでしょう?
何を真面目に受け取って、オマケにインゴさんに言うとかマジですか?!」
『マジダヨ!インゴのネクタイ掴んで引っ張り回シテ仮眠室に入れて
ベッドに投げ飛ばシテ熟睡させるナンテ、ダケ。
子供扱いシテ、ソレを許されてるノモダケなんだからネ!』
「ぎゃー!それは言っちゃダメですってば!!
ともかく、私はしばらくそっちには行けません。白ボスが怖いんです!
それに続けてのテレポートは、発作は起きないんですが調子悪いんです。
だからインゴさん、ちゃんと身体を休めなきゃ駄目ですよ?
あんなインゴさん見たくないですからね、心配させないでください。」
そういう事ですので失礼しますと言って、相手の返事を待たずに
ライブチャットから落ちただが、そのまま固まっている。
正確に言うなら、後ろからと白ボスに肩を押さえつけられて
立てないように…逃げられないようにされてると言った方が良いだろう。
そして、更にその場に近づく影がひとつ…眉間に皺を寄せまくった黒ボスだ。
「、先程頂いた出張中の業務報告書です。
これには、今あちらの二人のいった内容が書かれておりませんね?
不十分でございますので、全て洗いざらいぶちまけて再提出して下さいまし。」
「えー、仕事としての報告はあれで全てです。他に何も書く事は──」
「無いとは言わせねぇぞ?てめぇ、向こうで何をやらかしやがったんだ?
それがわからねぇと、こっちが身動き取れなくなるから白状しやがれ。」
が問答無用でパソコンを操作して書式の欄を開く
そのまま、の両肩をガッシリ掴んだまま満面の笑顔を見せている。
「ボク達、さっきのエメットとの約束事とかすっごく知りたい。
後、インゴをどうしたの?子供扱いしたって聞いて驚いた。
インゴもそれを許してるとか一体どういう事なのかな?ねぇ、教えて?」
「えぇ、人を頼る事を私達以上に嫌う二人が貴女を頼りにしているのです。
何もなかったとは言わせませんよ?」
三人に詰め寄られ、首が壊れるんじゃないかと思うくらいに頷いて
は凄ぇ勢いで、書類を作り始めた。
この件については、仕方がないと思う反面やり方が不味かったとも思うから
助け舟は出せないな…俺もこの三人相手とか、したくはないぞ。
「うほー、ちゃんモテモテ!ユノーヴァのボス達ってイケメン?
こっちのマスターさん達とだったら誰がちゃんにお似合いなんだろ?
ぶちょーさん、ちゃんは超優良物件ですよん。絶賛早い者勝ちで
予約受付中ですけど、どーでしょ?」
「向こうのボス達は、ここのボス達と従兄弟同士だから似ているね。
ただ、並みの女性ではボス達には釣り合わないし、ついて行けないだろう。
の予約は…私がもう少し若ければ立候補する所だがね、残念だよ。」
応接スペースで傍観者宜しく和やかに会話する二人の話の内容に
全身から力が抜けてったのは仕方がないだろう。
のぶっ飛んだ会話についていけるとか、部長は何者なんだ?
「、それ以上何か言うと余計に話が拗れそうだから黙っててくれ…
部長、にイケメンだと言われて何を照れてるんですか!
それよりも、この状況を何とかしてください。」
「えー、確かにちゃんは涙目だけどー、たんとマスターさん達?
なんだか凄く楽しそうにしてるっぽ。そこは仲良しさんでおkでしょ。」
「君達がギアステに来てからなんだが、この状況はいつもの事だろう?
今更私が出ていく必要など、どこにもないと思うんだがね。」
「あぁ…確かにそうかもしれませんね。
下手に口を挟むと、色々面倒事に巻き込まれそうだから黙っておきますか。」
こっちはこっちで、すっかり悟りの心境になったように頷きあっていれば
インカムから通信が入る。
『こちらクラウド、課長は暇やろか?』
「こちら、です。クラウド主任、接待だろう?暇じゃなくても行くぞ!
絶対俺が行くまで負けさせないでくれ、すぐ行くからな。以上!』
下手をすると俺にまで被害が及びそうだから、ここは呼び出しに大感謝だ。
ドラフターから席を立ち、作業服の上着を片手に逃げるようにして出る。
四人の声は廊下にも聞こえるが、外からだと楽しそうにしか聞こえない。
そう言えば、こっちに来てからはずっとこんな感じだと思い出した。
いつも、誰かが誰かに振り回されてる日常なんてどうかと思うが、
それすらも日々の醍醐味かと、俺は無理矢理だが納得することにした。