二章・東奔西走編 -白ボス、静かに激昂する。-

二章・東奔西走編

白ボス、静かに激昂する。



バトルトレインの最終運行を終わらせてから、執務室で書類整理中に

のライブキャスターの着信音が鳴り響きました。



「おう、お疲れ。そっちは終わったのか?」



の口調からして、相手はでございましょう。

予定時刻より遅れておりますが、なにかトラブルでもあったのでしょうか?



「あぁ、成程な。そういう事なら仕方がない…なんて言うと思ったのか?

そもそも、てめぇは少しは仕事を選びやがれ!あぁ?煩ぇよ。」



…どうやらトラブルのようでございますね。

なんでしょうか、私…嫌な予感しかいたしません。

それはクダリも同じ様で、の方を見て溜息をついております。



「それで?結局の所どうするつもりか決めたんだろうが。

…それならまだなんとかなるが、ゲンナイとは話がついたのか?

へぇ、奥さんが経理士の資格取ったのか。それで?

…やっぱりそうきたか、その辺の話は今すぐは無理じゃねぇか?

そこまで話を進めたのか…ったく、そういう仕事はマジで早いよな。」



ゲンナイ様とは、確かのお弟子様でございましたね。

その名前が出ると言う事は、保全に関する問題でございましょうか?



「わかった…だがそう簡単には了承出来るわけねぇだろう?

最悪、その部門だけを外すなりなんなりしねぇと無理だ。

話し合いは済んだんだろう?なら、さっさと戻ってきやがれ。」



通話ボタンを切った後で、珍しくがデスクに突っ伏してしまわれました。

これは相当の難問が発生したと考えた方がよろしいのでしょうね。



「何事もなく戻ってはこれないって感じ?

、あんまり聞きたくないけど、聞かないとダメな話でしょ?」



無表情で書類にサインをし続けるクダリが逆に恐ろしゅうございます。

が、顔を上げてパソコンの電源を落としました。

確か彼は仕事を全て終わらせて、お二人の戻るのを待っていたのでしたね。



「ユノーヴァでも保全管理課を立ち上げたいそうですよ?

向こうでも、補修や改善の要望書が結構あって検討していたらしいですね。

それで、の弟子のゲンナイに白羽の矢がたったらしいんです。」



おや、それは喜ばしい事なのではないでしょうか?

ですが、の表情は相変わらず苦虫を噛み潰した様でございます。



「さっきの話の内容からしたら、部署として成立させるには

まだ足りない、だからこっちにも協力して欲しいって言ってる…でしょ?

あの二人なら、やりそうな事かもしんない。」



「その通りですよ白ボス。が担当している熱絶縁施工技能士だけが

資格保持者がいないそうです。尤も、近々試験を受けるそうですがね。

ですから、その間だけでも熱絶縁が絡む場所の保全を担当して欲しい…

あちらの言い分はそんな感じらしいですよ。」



「それで、その部分を外してとおっしゃったのですね。

この問題は、そう簡単に了承する事はこちらとしても困難でございます。」



三人揃ってなんだか疲れきってしまい、デスクに突っ伏してしまいました。

こちらとしては、何としても了承したくはないのですが

現場の状況を見て、あの二人が判断を急いだと言うのなら

状況は切羽詰まったものもございますのでしょうね。



、もしこれがが出張に行ってたら状況は変わった?

ううん、の方が良かったかも、で、状況は変わってた?」



「いえ、変わっていない…変えられないと思いますよ。

あの二人、何気に策士ですからね。こっちがどう動くかなんて

とっくにわかっていると思います。

ふふっ…俺に喧嘩を売るなんざ、良い度胸してやがるじゃねぇか…」



「だから私はあの二人が何を言っても聞いては駄目だと言ったのに…

だけではなく、にも学習装置を持たせるべきでしょうか…。」



其々がデスクに突っ伏したまま話している光景は異様に見えるでしょうね。

ですが、私たちのHPはすでに赤く点滅してしまいました。


誰からともなく溜息がこぼれた時に、応接スペースに人の気配がしました。

顔を上げてそちらを見れば、渦中の二人が戻ってきたようでございます。



「ただ今戻りましたー!ネイティお疲れ様、ゆっくり休んでね。

留守番ありがとね。両ボスもお仕事は終わりましたか?

あちらでの業務報告書は明日仕上げて提出しますが、それでいいですか?」



「遅くなってしまってすみません、ただ今戻りました。

、何か変わった事はなかったか?

それと両ボス、近日中にユノーヴァから書類が来ます。

それをお二人で確認した後にすみませんが俺にまわして下さい。」



まるで何事もなく無事に帰ってきた風にしている二人に釣られて



「おう、こっちは特に変わった事はなかったぞ。」



「二人共お疲れ!うん、書類は明日でもオッケー。」



「お帰りなさいまし、私達が目を通した後でよろしいのですか?」



こちらも普通にかえしてしまいました。

ですがそれぞれに我に返ってからの行動はブラボーに早かったですね。



「「「そうじゃ(ねぇだろう)(なくて)(ございません)!!!」」」



私達の揃った声には目を閉じて肩を竦めておりますが

は、困った様な顔をして苦笑いをしているだけでございます。



、てめぇがついていながらこのザマか?

こっちの状況がわかってんなら、全力で断るのが筋じゃねぇのか!」



「二人共、あの従兄弟達をナメすぎてる!

あの二人は自分達の目的の為だったら手段なんて選ばない。」



も、あちらに行く前に私が言った言葉を覚えてますか?

そもそも、覚えていたらこの様な事にはなっておりませんよね?

これからは、二人共学習装置をお持ちくださいまし!」



私達の矢次早な突っ込みにもは動じる事なく笑っております。

は私達がこういう反応する事を予想していたのでしょうね

の後ろに隠れて、出てこようといたしません。



「そんな事を言っても、今更だろう?

現に俺達は出向依頼は断ったんだ。こっちの事情も汲み取ってもらって

尚且、ゲンナイ達の体制が整うまでって期間限定で頼んできたんだ。

あの状況なら、受けなければ筋が通らないだろう?」



はわかってたけど、も頼まれたら断らないってどーいう事?

こっちの仕事だって結構忙しいのに、自分達でもっと忙しくするとか

ワーカーホリックなの?過労死したいの?」



殆ど怒る事の無いクダリですが、一度怒り出しますと手がつけられません。

弁の立つこの弟は、相手に口を挟む隙を与えることすら許さずに

連続攻撃をし続けるのでございます。



は自分の仕事の他にバトルトレインの手伝いもしてる。

その間の仕事はがやってるけど、それは部下に負担かけすぎ。

今のこの状況だからすっごく助かってるけど、いつまでもさせらんない。」



「白ボス、私は別に大丈夫…「は黙っててね?」…ハイ…」



「そもそも、ここの保全管理課だってギリギリの人数。

これだけの規模の施設を実質2人で切り盛りしてるのが有り得ない。

二人がすっごく優秀だからなんだろうけど、そんな事を続けてたら

どこかに絶対皺寄せがくる。そんな事は許されることじゃない。」



書類から目を離さずにひたすらに話し続ける様子は鬼気迫るもので

途中で反論しようとしたでさえ黙らせてしまいました。



「それに、だけをユノーヴァに行かせる事はボク逹は許可しない。

前にも言ったよね?エメットは色々問題があるって。

ボク逹はエメットが沢山女のコの事で揉め事起こしてるの知ってる。

二人は友達で、が相手にしないのはわかってる。

でも、エメットは女のコにだらしがない。それは事実。

そういう所に大切な友達で部下のを行かせらんない。」



ここまで言い切ってから初めて、クダリは書類から目を離し

出張帰りの二人を黙って見つめました。

も言い分は理解している様ですが、納得してはおりませんね。



「…それでも向こうの為に動きたい…そんな顔をしてるけど

キミ達の上司はボク達で、契約をしたのはイッシュのギアステーション。

各地方のバトルサブウェイは連携も可能だけど、上司の許可が必要。

そして、ボクはその許可をするつもりは無い。」



「では、部下としてお伺いします。

数日後にはこちらへ正式な依頼書が送られてくると思いますが

それについての処理はどうするつもりですか?

今言った内容では向こうも納得できないのではないでしょうか?」



がクダリのデスクに近づいて聞きにきました。

これは初めて総務部長と対決した時に画面に映し出された表情でございます。

一切の妥協も馴れ合いも許さないその言葉と態度の相手に

クダリも負けずに視線を外さすに見つめ返しております。

あぁ、このままでは言い争いになるかもしれません。

それだけは何としても止めさせなければなりませんが、私では役不足です。



「あのね、聞いてもいいかな?

ユノーヴァの修繕依頼で今回の出張した場所と同じ様に急ぐ場所はあるの?

もし、時間に余裕があるのなら新部署は向こうはまだ立ち上がってない。

のお弟子さんが契約するみたいだけど、まだだよね?

それだったら、少しの間こっちに来ての下で働けば良いと思う。」



「成程、新部署を立ち上げるために先に立ち上げたこちらに来ていただいて

仕事の流れなどを把握していただく…そう言う事でございますね?

それでしたなら、私達は反対する理由がございません。

、その様にする事は可能でございましょうか?」



交渉術に関してはエメットもかなりのものでございますが、

正直クダリの方に軍配があがるでしょう。

この提案を聞いて、も多少ですが表情を和らげました。



「書類上資格保持者を入れて、実質業務をするのは他の人ってのも

確かにない話ではありませんからね。向こうも試験は受けるっていってるんで

その様にするのでしたら、特に問題はないと思います。…だよな、?」



「あぁ、その代わり何かあった時の責任は全部が取るんだが

ゲンナイなら、馬鹿な仕事をしないだろうからそれで良いんじゃねぇか?

、てめぇは忘れてるようだがテレポートでも身体に負担はかかるんだ。

が一人で向こうに行った時に、例の発作が起きたらどうするんだ?」



そうでございました、は持病があるとおっしゃってましたので

尚更、今回のことは許可することは出来ません。

この件は向こうもわかっているはずですから、無理は言わないでしょう。



「ともかく、この件はボク達が預からせてもらう。

これ以上あの二人に振り回されるとか冗談じゃない。今回だけは絶対譲らない。

今迄散々好き勝手言ってくれてたけど、いつまでもさせるとか有り得ないから。

すっごいバトルをして、二人から完全勝利をもぎ取ってみせる。

ノボリ、、勿論手伝ってくれるよね?」



クダリが私達を見て微笑んでおりますが、その表情はいつも言われている

天使と言うよりは堕天使の様で、本気の程が伺い知れます。

思えば、たとえ従兄弟と言えど誰かにこの様に攻撃的になる弟は

初めて見たかもしれません。


普段であれば自分の感情を出しているようで実は殺している弟の変化に

嬉しくもあり、頼もしくもあるのは兄としての欲目でございましょうか?