二章・初志貫徹編
課長、よくある話を耳にする。
スーパーシングルでの接待を終わらせて、次の接待を入れようと
バトルトレーナーの統括部に来たんだが、様子がおかしい。
シンゲン部長のデスクにクラウド主任とラムセス主任が集まって
なんだか書類を見ながら話し込んでいる様子はいつもの事だが
その顔つきが3人揃って険しい。
「あ、さんお疲れ様です!相変わらず連勝街道まっしぐらですね。
ボクも頑張って勝ち数を増やしたいと思います!」
「カズマサもお疲れさん。部長達の様子が変だが何かあったのか?」
いつも元気一杯って言葉が似合うカズマサにしては珍しく
人差し指を口元にあてて、小声で教えてくれた。
「ボス達が、各地方のチャンピオンさん達が出る
エキシビジョンマッチに参加することが決まりましたよね?」
「あぁ、ホドモエにでっかい施設を作ったんで
そのこけら落とし的な感じでやるお祭りみたいなもんだろ?
それがどうかしたのか?」
「えぇ、一部のポケモン愛護団体がその話を聞きつけて
ボス達が参加するのはおかしいって言ってるらしいんですよ。」
なんだそれは?チャンピオンでもない二人が出場するのが
おかしいとでも言うつもりなのか?だったらそれこそおかしいだろう。
元々、ボス達が参加するのは向こうの要請があったからで
自分達から名乗り出たわけじゃないんだ。
「バトルでのエンターティメント性という意味じゃ
ボス達の参加は至極当然だと思うんだがな。馬鹿らしい。」
ですよねー、と何度も力強くカズマサが頷いた時に
シンゲン部長が持っていた書類を真っ二つに破り捨てた。
いつも物静かな部長がこんな事をするとか、どうなってるんだ?
「話二ナリマセン。 クラウド、ラムセス コノ話ハ コレデ終ワリデス。
ボス達ノ 耳二入レル必要モ アリマセン。」
そう言ってシンゲン部長は、破り捨てた書類を丸めてゴミ箱に放り込んだ。
静かな人ほど怒ると迫力があるよなと、変なところで感心しちまった。
「せやけど部長、向こうは結構過激な団体らしいで?
ほっといたら何をするかわからんとちゃうやろか?」
「部長に賛成。大体ボス達のなにがわかってるって言うのさ。
ボス達程、ポケモンを愛してるトレーナーはいない。
こんな団体の会員と比べても欲しくないのさ。」
「ラムセスノ 言ウ通リデス。
ボス達ガ ポケモン二カケル愛情ヲ 知リモシナイデ
コンナ書状ヲ 送リツケル事自体ガ 非常識デス 不愉快デス。」
「そんな事いうとるけどな…お、!丁度良い所におったわ。
自分、各地方まわっとる言うてたな?
あっちにもバトル施設はあるのは知っとるけどな、
ポケモン愛護団体との確執なんぞ、あったりするんか?」
あぁ、そういう事か。
バトルに重点を置いて、孵化作業や厳選、努力値配分をやってる事が
愛護団体的には認められないってヤツなんだろう。
「まぁ、無いわけじゃないな。
シンオウにもバトル施設はあったし、結構そこの連中と仲も良かったんでな。
色々とイチャモンつけられて、面倒くさいって愚痴ってたぞ。」
「、ソノ様ナ場合ハ ドンナ対応ヲ トッテイタカ知リマセンカ?
ボス達二 余計ナ事デ 手ヲ煩ワサセタクナイノデス。」
「愛護団体って言っても、活動内容は千差万別ですからね。
そこがどういった事をしてるのかによって、対応が変わると思いますよ。
ただ、これは俺の知ってるバトル施設の知り合いの全員が言う事ですが
自分達はポケモンが大好きだと、一緒にバトルを楽しんでいるし
普段でも大切なパートナーだと…。」
俺の言葉にここにいる全員が頷いた。
そりゃそうだ、愛情がなければいいバトルだって出来ない。
無理にバトルをさせようなんてしようモンならトレーナー失格だろう。
だが、このいざこざって言うのはお互いの考え方の違いでもあるから
手がつけられないってのも事実なんだよな。
「の言う通りなのさ。
そもそも、ボク逹はバトルが好きって以前にポケモンが好きなんだから
卵から大切に育てたパートナーと共に共有する空間は最高なのさ。」
「そう言えば、ちょっと前にも似たような団体がおっただろう?
プラズマ団やったか。まぁあっちは犯罪組織じみとってたけどな。
ポケモンの開放とかもっともらしい事いうたかて、やることは…なぁ?」
「僕達ガ ポケモンヲ選ブノデハアリマセン。ポケモンガ選ブノデス。
ソノ違イヲ理解出来ナイナラ 歩ミ寄ル事ハ 難シイデショウネ。」
シンゲン部長の言う通りだと思う、これは堂々巡りするパターンだ。
こういう時にとる態度は相手を刺激しない事だが、それだけじゃ駄目だろう。
別に言なりになる必要もないんだからな。
「この件は俺がボス達の耳にそれとなく入れておきますよ。
いざとなったらにも相談して、いい知恵をもらっておきます。」
「うん、ならなんとかしてくれるかもしれないのさ。
それじゃに任せるって事で良いですよね?シンゲン部長。」
「ハイ、ボス逹ハ優シイノデ キット心ヲ痛メルト思ウノデス。
ソンナ事ガ無イ様二 オ願イシマス。」
なんだかんだで話し込んでしまって、次の接待の時間になったんで
俺はそのままシングルトレインに乗り込む。
最近は新しいバトルトレーナも増えたから、出番がなくて少々寂しい。
いや、自分の仕事もそろそろオムツ換えスペースの増設と
授乳室の新設が一度に重なりそうだから、そうも言ってられないか。
チャレンジャーを待つ間に、メモ帳を取り出して今後の予定を確認する。
今回の工事は外部業者無しでやる予定だから、色々忙しい。
仕事の流れをシミュレーションしつつ、計画表の草案を作っていれば
インカムから連絡が入って、チャレンジャーの途中下車を告げる。
いつも思う事なんだが、この状況を両ボス達はよく続けていると思う。
尤も、俺が待つ事が苦手だっていうのもあるだろうが、それでもだ。
以前黒ボスはここでのバトルは、他所からの刺激と交流を受ける方法だと
そんな感じの事を言っていたが、この二人ならもっと別な方法だって
あると思うのは俺だけなんだろうか?
「まぁ、これは個人の自由だから俺がどうこう言うモンでもないか。」
「何をおっしゃろうとしていたのでございますか?」
最終車両のドアが開いてラスボスこと黒ボスが入ってきた。
その腕の中には小さな薄汚れた袋があって…って、なんだが動いてるぞ?!
「黒ボス、その袋が動いているみたいなんですがって、ヤブクロンか。」
「おや、ご存知でしたか。えぇ、この子はヤブクロン。
ダストダスの進化前の姿でございます。今朝生まれたばかりなのですよ。
ヤブクロン、私の友人のです。ご挨拶してくださいまし。」
黒ボスの腕の中からニッコリと笑いながら顔を出した様子は可愛いな。
確か、ゴミ袋ポケモンだったか…相変わらず6Vとか凄ぇし。
「おーっす、はじめまして 俺はだ。仲良くしような。」
頭の部分を撫でてやればちょっと照れたのか、また顔を引っ込めちまった。
今朝生まれたばかりでこの懷きっぷりとは驚いた。
「フフッ、恥ずかしがり屋さんでございますね。
もう少しでホームに着くのでボールに戻りますよ。
今の貴方には周囲の反応はまだ、辛いものになってしまいますからね。」
黒ボスの顔がドロドロだ…こんな顔、ファンが見たら確1で落ちるだろう。
ヤブクロンが入ったボールを優しく撫でて、ポケットに入れる。
周囲の反応っていうのは…あぁ、確かにこいつにはまだ早いだろう。
「こんなに可愛いのになぁ。」
思わず出てしまった言葉に、黒ボスが遣る瀬無さそうに頷く。
「この子に罪はございません。世間一般の評価がおかしいのです。
全てのポケモンは愛すべき対象でございますのにね。」
その後、車両がホームにつくまでの間黒ボスはずっとヤブクロンや
その進化後のダストダスについて熱く語っていた。
どんなに素晴らしいのか、どんなに可愛いのかと力説する姿は
それこそ世間一般で評価されている、黒のサブウェイマスターとは
かけ離れているが、トレーナーとしては好ましい。
その姿を見て、さっきシンゲン部長と話していた事を思い出す。
確かにこいつらの仕事上、厳選なんかは必要な事だ。
だけど、そこに何も感情が入ってないなんて大間違いだろう。
現に、ヤブクロンへの周囲の不当な評価にここまで怒るんだ。
「世間の評価は当てにならないもんだな。」
「えぇ!ならそう言っていただけると思っておりました。
その通りでございます!ポケモンは全て愛おしいのです!」
駅に到着して、二人で並んで執務室に向かう間も
拳を握り締めて言っている黒ボスの愛が半端ないよな。
だから育てらるポケモンは幸せだと断言できる。
例のポケモン愛護団体だって、この様子をみれば考え直すだろう。
百聞は一見にしかず…昔の人は全くうまい事言ったもんだ。