二章・東奔西走編
怒涛の勧誘と課長の予感
具合が悪かったインゴを、が問答無用で仮眠室に放り込んで
無理矢理寝かせたらしいんだが、そのやり方は少々問題があると思うぞ?
厨房での作業が落ち着いて、今日は書類整理と朝一で作業する為の
段取りが残っているだけだと告げれば、エメットからここで仕事をする様に
提案されて、応接スペースを借りて報告書の書式を作っているんだが…
「、この男子トイレ内のオムツ換えスペース設置に関する書類ダケド
ココをグラフ化したんダヨネ?」
「そーですよー。」
「ソレと、この色分けッテ、時間帯とそれからコッチは?」
「これはですねー。」
「後ネ、コノ部分の表記方法を変えた理由ってナニ?」
「…エメットボス、いろいろ聞きたい事があるみたいですが、
わかりやすく、15文字以内で言ってみましょうか?」
矢継ぎ早にに質問をしているのはエメットで
その内容はこっちの書類を参考にして、別物と言えるような書類を作って
俺のレセプション用の資料に変えた事が原因だったりする。
「Ahー、書類変更の理由と結果を教えて。」
「漢字込み15文字以内ですか!エメットボス…恐ろしい子っ!!
って冗談は置いといて、イチから説明した方がいいですかねー?
えっと、この部分については資料として見てもらいたかったんですよ。
だからグラフ化して、その下にその時間帯とか使用頻度とか──」
の説明を聞きながら、メモをとるエメットは真剣で
イッシュで見た時とは違う、仕事の顔をしていた。
「Oh、ヤッパリの書類って見やすいヨネ!
目的別、使用別にしてカラ、作成するやり方は参考にするヨ。」
「話す事も、書類にしても、言いたい事を伝える手段ですから。
言いたい事を中心にして、装飾する物を付け足すんですよ。
それは長すぎても、短すぎても駄目なんで考えながらですけどねー。
要は、自分の意見や希望を如何に相手に通すかって感じ?」
そう言いながら、書類を例に説明を加えるを見て
俺は溜息をつくしかなかった。これからどうなっても知らないぞ。
「…ネェ、ボク思ってたんだケド、出向でもいいからコッチに来ない?
三人が無理ナラ、だけでも来てヨ。
インゴが実質上ココのTopなんだケド、決済以外は殆どする暇が無いンダ。
他の部下への指示出しトカ、書類は全部ボクがやってるンダ。
だから効率化とか機能重視とか頑張ってるケド、限界があるんだヨネ。」
「エメットボス…今迄よくそんな事をしてましたね?
普通有り得ないでしょう!ノボリさん達でさえ大変だと思ったけど
そんな事してたら体がいくつあっても足りないでしょうが!
インゴボスに気を取られてたけど、エメットボスも顔色悪いですよ?
今日はここに残るって言うんでしたら、もう仕事をやめて
仮眠室に出発進行して、二両編成で寝ちゃって下さい。」
言われて気がついたが、確かにエメットの顔色も良くないな。
元々の人種違いってのもあるんだろうが、それだけじゃなく
地下での仕事という事を抜いても、他の連中に比べて白すぎだろう。
「ボクはインゴと違って、仕事を時間内で全部済ます事はしないヨ。
仕事が忙しくない時はちゃんと休んでるから大丈夫ダヨ。」
「エメットボス、俺も言わせてもらいますよ。
今は無理をするような状況じゃ無い、休める時に休むのも仕事でしょう。
俺達はこの後、ダクトピンがしっかり固定されるまで空き時間があります。
仕事を再開する時に声をかけますから、仮眠をとって下さい。」
「Hmm…の言う通りにさせてもらうカナ?
あ、!に聞いたけど厨房デノ仮眠は許可しないからネ!
仮眠用の毛布を用意したカラ、寝るナラソファーでダヨ。
ソレトモ…ボクと一緒にベッドに入る?」
エメット、それは死亡フラグを立てる様なモンだと思うぞ?
言わんこっちゃない、が半目になって睨みつけてる。
「寝言は寝てから言いやがれですよ?
くだらない事を言う暇があるんでしたら、さっさと寝やがれってんです。
それとも、インゴボスと同じ様にベッドに投げつけるをかましますか?」
「Ohー、ソレは遠慮するヨ。
それじゃあ、ナニかあったら起こしてくれて良いからネ!」
そう言ってエメットは帽子とコートと、イッシュのボス達は着用してない
ベストを脱いで椅子の座面に一纏めにしてから、俺等に手を振った後で
仮眠室へと入っていった。
「いやー、やっぱりインゴさん達も大変そうだよねー。」
仮眠室にいる二人に聞こえないように小声でが話す。
話しながらも手は書類を作る事を止めないのは、流石だな。
「どっちみち、こんだけの企業を二人で切り盛りしてるんだ。
どこかに皺寄せが来ると考えるのが普通じゃないのか?
お前も、大体の書類は出来上がってるなら寝ろよ。
俺はここのオムツ換えスペースをさっき見てきたから
その件についての書類を作っておくんで、あとで見てくれ。」
「んー、明日向こうに戻ってからもちょっと仕事をしちゃいたいから
その為にも寝させてもらうかな?
時間通りに起きれないようだったら、問答無用で起こしてね。」
がソファーに横になったのを確認してから
応接スペースの照明のスイッチを消す。
スクリーンが置かれているから、どんな状況かわからないが
どこでも直ぐに眠る特技をもってるから、問題ないだろう。
執務室側に椅子を置いて、膝の上にノートパソコンを乗せて書類を作る。
技術屋の俺としては苦手な分野だが、そうも言ってられないしな。
室内が喫煙OKだった事を思い出して、胸ポケットから煙草を取り出し
愛用のライターで火を点ければ、紫煙が部屋の中に広がる。
待ち時間が長いと眠くなるのが問題だと考えていたら、仮眠室のドアが開き
インゴが首を回しながら出てきた。
「さっきよりは顔色が良くなりましたね。具合の方は大丈夫ですか?」
くわえ煙草じゃ流石に失礼だから手に持ち直して聞けば、インゴは頷いた。
「エェ、久しぶりに熟睡出来た気がシマス。はドコに?」
俺が応接スペースを指させば、仮眠中だとわかったんだろう。
スクリーンに仕切られた部分を見つめて目を細める。
一旦ノートパソコンを閉じて、応接セットのテーブルの上にあった袋を取り
インゴの執務用のデスクの上に置く。
「から、インゴボスにと伝言を受けてますんで伝えます。
『このゴハンは特性の弁当で栄養満点だし、味も保証しますから
残さず食べてくださいね、お残しは許しまへんでー!』…だ、そうですよ?」
「、の口調を真似て話すノハ止めなサイ…微妙に似すぎデス。
確かに良く出来ておりマスネ。コレ全部をが作ったのデスカ?」
「俺等の中で一番料理の上手いのはでしょうね。
が家庭料理だとすれば、あいつはレストランの料理ですかね。」
俺も料理はするが、二人には及ばない。所詮男の料理ってヤツだ。
それなりの量があった弁当を完食して、インゴは煙草に火をつける。
「…、オマエ達三人全員とは言いマセン。
デスガ、誰かユノーヴァに出向させる事は可能デショウカ?」
エメットの次はインゴ、お前もか!
黒ボスは心配しすぎだと言っていたが、これはちょっと洒落にならないぞ。
「こちらには保全管理課は無いでしょう?それなら答えはNOです。
これだけの企業を請け負うのならば、一人では無理です。
そして向こうでもそうなんですが、誰ひとり欠けても部署が成立しません。
俺等はイッシュでやらなきゃならない事があるから動けないですしね。
仕事云々よりも、むしろこっちの方が一番の理由です。」
「も同じ事を言ってマシタ。ソレは三人共なのデスカ?
何をするノカ聞いてもよろしいデスカ?」
こいつらとノボリ達の違いはこういう所だろうな。
ノボリ達は俺たちが話すまで待つと言ってる。
インゴは…いやエメットもだろうが、話させようとする。
「…ここから先は仕事モードをやめさせてもらうぞ。
俺は別に話しても良いと思ってるんだがな、が嫌がるんだよ。
あいつが誰かを巻き込むのを、すげぇ嫌がるのはわかってるだろう?
正直、この一件は俺とよりも、あいつに一番関わることなんでな
どうしても聞きたいって言うんだったら、直接本人に聞いてくれ。」
俺もも、話す事には覚悟ができてるが…は出来ていない。
あいつが一番触れて欲しくない部分をさらけ出さなきゃならなくなる。
「今の段階デハ、は答えてくれないデショウ?
無理矢理聞き出しテモ、良い結果ニハなりませんノデ今は聞きマセン。
、はとても危ういデス。ソノ事にも関係するのデショウ?
ソレは彼女自身の過去に関係するのではないデスカ?」
「あいつの過去は簡単に口に出せるような生易しいモンじゃない。
万が一話す気になった時は、お前等や全てと決別する時だと思え。
その位の覚悟じゃないと、話せない様な事が絡むんでな。
興味本位で聞こうとするんだったら、俺等は絶対に許さない。」
脅しなんかじゃなく、本気だって事がわかってインゴが考え込む。
だけど、俺の予感が告げているんだ。
こいつらも、イッシュにいるあいつらも、この件に絡んでくる。
そして、俺達は全てを話さなくてはならなくなるだろう。
そうなった時に、がどうするのかが想像できないんだ。
今迄一度も外れた事のない感だが、今回だけは外れて欲しい。
「…ワタクシは決して興味本位ではアリマセン。
ここから先はワタクシの感デスガ、ソノ件の全てを知るデショウ。
デスガ、それで彼女と決別する事は無理でゴザイマス。
その様な態度を取るのならば、鎖で縛りつけてデモ逃がしマセン。
手段は違いマスガ、エメットも従兄弟達も同様な行動をするデショウ。
言ってオキマスガ、ワタクシの感は外れた事がゴザイマセン。」
その光景が簡単に想像できて、俺は思わず笑ってしまった。
あぁ、確かにには効果は抜群だ。
マスターボール並な威力を持つこいつらを前にして、いくら足掻いても
逃げ出す事は不可能だと思うのは間違ってないだろう。
「どっちにしても、もうこれ以上話す事は出来ない…今は、な。」
ポケモンをゲットしようとするトレーナー目をしたインゴを見てから、
スクリーンの向こう、ソファーで眠り続けてるの方を見て、
俺は、諦めて覚悟を決めろよと心の中で呟いた。