二章・東奔西走編
問答無用の寝かしつけ
厨房に向かえばそこには既に材料が運び込まれていて
細々したものだけじゃなく、結構大きな道具も綺麗に片付けられていた。
うわー、これを手伝いたかったのになぁ…結構大変だっただろうに。
「エメットボス、これホントはうちらがやる事だったんですよ。
それをやらせてしまってすみません。」
「Ahー、気にする事無いヨ。
部下達がやるって言ったカラ、やらせたダケ。こんな感じで良かったカナ?」
普段が普段だから部下達も先を読んで動いているんだろうな。
効率、機能を重視するこの人達が上司だと気苦労も多そうだよねー。
ノボリさん達とは違う意味で、この二人も色々凄そうだもんね。
材料をチェック、特に質とかには問題はないから良かった。
養生シートを手にして、汚れやホコリの付きそうな場所全てを覆う。
その後で、最初に天井のボードから外していく。
流石にと違って腕力が無いから時間がかかるなぁ…。
「、このボードを外していけば良いのカナ?
女のコには大変だと思うカラ、ボクも手伝うよ。」
「うわわ!エメットボス、ストップです!
そんな服のままやっちゃダメです!汚れるでしょーが!!」
そう言って、私のする事を見て要領を覚えたエメットさんが
天井を外そうとしたんだけど、慌ててストップかけたよ!
大体白い衣装でこんな作業はしちゃダメだっつーの!
こういう所の汚れは落とすのに凄く大変なんだからね。
「悪ィ、遅くなった。養生は終わったのか、んじゃボードを外すぞ。
エメットボス、ここはもう任せてください。
二人はまだ仕事が残っているのでしょう?戻って良いですよ。」
「OK.それじゃ何かあったらこのインカム渡しておくカラ
ボク達に連絡してくれるカナ?それじゃあ頑張ってネ、Fight!」
エメットさんは私達にインカムを渡して、部屋を出た。
このインカムはイッシュと同じだから、操作も問題なさそうで良かった!
「さて俺はボードを外していくから、は上に上がって
作業をどんどん進ませてくれ。」
「了解、ダクトピンがしっかり固定されるまでに時間がかかるから
その時に食事と書類起こしと仮眠って感じにしたいんだけど、良いかな?」
「その辺はお前の指示に従うから、好きにすればいい。
仮眠場所は…向こうと同じ様に出来ないだろうがどうするんだ?」
「作業服のまま仮眠室は借りれないからね。
はどーせ寝ないんでしょ?でも無理しちゃ嫌だよ?
私はここにダンボール敷いて、毛布借りて寝るつもり。」
「俺は寝るとペースが落ちるから、その傍で仕事させてもらう。
中途半端に寝ても具合が悪くなるんでな、お前はちゃんと寝ろよ?
メシはが弁当をよこしたからな。それで間に合うだろう。」
の気配り上手め!
でも、こっちの食事って結構美味しくないので有名らしいから
正直助かったかもしんない。ご飯は大事だもんね!
天井裏に入って、保温板の取り外しを始めると
壁面からもボードの外す音が聞こえだした。こうやって別れてやれるのが
うちらの強みかもしんないと思いながら作業を進めていく。
「ー、天井のボードも外していくから気をつけろよ。」
から声がかかり、暫くするとバキバキ音を立てながら足元に衝撃がくる。
ライトをつけての作業だったけど、穴のあいた所から光が差し込んできて
かなり視界的にも楽になって作業もノってきたぞー。
剥がし終わった保温板をひとまとめにしておいたら、が下に運び出した。
どうやらボード類を全部はがし終わったみたい…相変わらず早いなぁ。
おかげで予定よりもかなり早くダクトピンを取り付ける事が出来てラッキー!
「この調子だったら朝一で保温に取っ掛れそうだわー。
よし、ちょっと休憩してご飯にしよう!」
「了解。」
脚立を使って下に降りれば、廃材になったボードと保温板が纏められている。
そのまま置いておくとホコリと汚れの原因になっちゃうから
一度廃棄した方がいいかもしんないなぁ。
「こちらイッシュの保全管理課です。
インゴボスかエメットボスはまだいらっしゃいますでしょうか?」
廃棄場所を聞いてなかったのを思い出して、インカムで連絡を入れれば
暫くしてからインゴさんから返信がくる。
『インゴでゴザイマス。何か問題でもありマシタカ?』
「いえ、廃材を一度片付けたいのですが廃棄場所ってどこでしょうか?」
『丁度ワタクシはバトルが終わって近くにおりますノデ
そちらへ行って説明させていただきマス。少々お待ち下サイ。』
この時間だと最終の運行なのかな?
それにしても、やっぱりインゴさんってフットワークが軽いと思う。
恐らくは、今の作業の進み具合を見るつもりでもいるんだろうな。
まぁ、見られて困るような仕事はしてないから良いんだけどねっ!
廃材の入ったダンボールを台車に乗せてしばらくすると
インゴさんだけじゃなくて、エメットさんも一緒に入ってきた。
「Wow!壁とか天井の中を見るナンテ初めてダヨ。面白いネ。」
「お疲れ様でございマス。廃棄場所はここから少し距離があるノデ
ワタクシが案内しますカラ、着いてきて下サイ。」
インゴさんが周囲をざっと見渡してから入口に向かう。
うーん、やっぱり顔色が良くない。さっき執務室でも思ったんだけど
更に悪くなってるかもしんない。
「インゴボス、ちょっとストップですよー。」
作業用のグローブを脱いで、タオルで一応拭いてから近づく。
最初に額に手をやってから、首筋を触ってみたら結構熱いんですけど?
私の行動に最初は驚いていたインゴさんだったけど、慌てて身体を離した。
いや、もう遅いですよ。離れた距離を縮めて頬に手を伸ばすと
綺麗なアイスブルーの瞳が大きく見開かれた。
「インゴボス、この熱は今々のものじゃないでしょう?
水分とか余り摂れてませんね、唇とか肌が乾燥してます。
この分だと食事もキチンと食べてないんじゃないですか?
後、眠れてますか?目の下に結構隈がはっきり出てますよ。
帽子で隠れてるからお客様は誤魔化せるけど、私は無理です。」
フッフッフ、ネタはあがってんだから白状しやがれって感じ?
「…この位は大丈夫でゴザイマス。が心配する必要はアリマセン。」
あ、ちょっとカチンときたよ?
余計なお節介だって事?病気の友達見て、黙ってられないんだけど?
そっちがそういう態度に出るなら、宜しい…ならば戦争だ。
「…エメットボス、インゴボスのお仕事ってまだ急ぎのとかあるんですか?」
「今日の仕事はもう終わりダヨ。後は食事して休憩する位カナ。
達が仕事をしてるカラ、ボク達もここに残る予定なダケ。
インゴ、キミは帰って良いヨ。泊まり込みはボクだけでも平気。
昨日だって倒れちゃったんダカラ、ちゃんと休んで治してヨネ。」
「オマエは黙りなサイ。この位問題ゴザイマセン。」
「なんだ、インゴボスは具合が悪かったんですか?
そう言う時はまともに仕事なんか無理です、帰って休んだ方が良いですよ?」
二人の言葉を聞いてもインゴさんは眉間に皺を寄せるだけで動かない。
責任感が強いのは良いけど、だからって具合の悪い時はダメじゃん。
つーか、昨日も倒れたですと?そして今日はこの状態ってダメダメじゃん!
インゴさんのこういう態度って、昔のグレてたに似てるかもしんない。
そういう相手に向かってとる態度はアレだ、ひとつしかない。
「言ってもダメなら、実力行使ですよねー。よいしょっと!」
几帳面にしめられたネクタイを掴んで、そのまま歩き出す。
突然の事でバランスを崩したインゴさんはそのまま私の後を歩き出した。
「Oh!、何をするつもりナノ?!」
エメットさんが驚いてるけど、知った事か!って感じだね。
「執務室って仮眠室もついてましたよね?
どうしても帰らないと駄々をこねやがるのなら、こっちも考えがあります。
インゴボス、暴れると一層ネクタイが絞まって呼吸困難になりますよ?
私はこの手を離す気は更々無いんで諦めて下さい。」
そのままの体制で厨房を出て、執務室まで直行する。
途中で何度かインゴさんが抵抗したり、すれ違ったここの職員さん達が
凄く驚いた顔をしてたけど、そんなの関係無いね!
執務室についてドアを開けて、更に奥にある仮眠室のドアを開ける。
電気を点ければ、そこには簡易ベッドが2個並んでいた。
ネクタイを掴んでいた手を離して、インゴさんの帽子を取り上げる。
やっぱり顔色が良くない。あ、軽く首絞まったのかな?
「首は無事ですか?今日の仕事が無いけど帰りたくはないのでしょう?
それなら、ここででも良いから休んで下さい。つーか、寝ろ。」
「自分の身体の事はわかってオリマス。
に迷惑をかけるものでも無いノデ、気にする必要はアリマセン。」
そう言って、私の横を通り抜けて部屋から出ようとするインゴさんを
そのまま襟元ひっ掴んで、ベッドに向かって投げ飛ばした。
「いいから、黙って、寝てろっつーんだよ!!」
「Oh!、やめなサイ!」
ネクタイを緩めてから毛布を上からかける。
あー、やっぱりちょっと絞まってたっぽい。ゴメンネ、インゴさん。
「インゴボスがちゃんと寝てくれるまでやめませんよ。
こんな事してたら、どれだけ身体に負担がかかると思ってるんですか?!」
「…デスガ…」
「ですがだろうが、なんだろうが心配なんです!
余計なお節介だってわかってますよ?それでも黙って見てられません。」
私を黙って見ているアイスブルーの瞳の前に手をかざす。
そして、そのままの体制で今度は静かにインゴさんに話してみる。
「今は仕事中ですけど、友人として言わせてもらいます。
立場上、無理をしなきゃならない時もあるでしょうけど、今じゃないはずです。
だから休める時は少しでも休んで下さい。
インゴさんのフォローはエメットさんが出来るかもしれないですけど
インゴさんの代わりには誰もなれないんですよ?
こんなインゴさん見て、仕事なんてまともにできませんよ。
そうなったら責任とらせますからね!」
後半おどけて言えば、インゴさんの口元が少し上がった。
そして大きく溜息を一つつくと、身体の力を抜いたみたい。
「…全く貴女にはかないませんネ、ワタクシの負けでゴザイマス。
休みマスガ、眠りにつくマデこのままでいて下サイ。」
「その位お安い御用ですよ。起きたら水分をしっかり摂って
が作ってくれたお弁当があるので、私の分を残しておきますから
後で一緒に食べましょう。それまで、ゆっくり眠ってください。」
目元に置いた手をそのままにして、反対の手で肩のあたりを
赤ちゃんを寝かしつけるように一定のリズムで優しく叩いていれば
それ程しないうちに、穏やかな寝息が聞こえてきた。
それから暫くして、エメットさんとが私達を心配して様子を見に来た。
その時にはもうインゴさんも熟睡してるみたいだったから
ベッドから離れて仮眠室を出る。
そして、中途半端になっていた廃棄物を捨てて一度厨房に戻って
周りを少し掃除して、エメットさんに言われてたから執務室に戻ってきた。
中では、エメットさんが何かのデーター入力をしてるだけで
インゴさんはまだ眠ってるみたいだった。
「インゴぐっすり眠ってるケド、、何をしたのカナ?」
「仮眠室に押し込んだけど、それでも強引に出ていこうとしたんで
ベッドに向かって投げ飛ばして、押さえつけて、寝かしつけましたよ?」
最初はニヤニヤしてたエメットさんだったけど、私の言葉を聞いてから
なんだがガックリと肩を落としちゃった。
え?事実しか言ってないんだけど、その態度は何?
「…エメットボスが想像してた様な事では無いって事は確かだ。
大体、にソレを期待するのは間違いだと思うぞ?」
「Ahー、らしいって感じなのカナ?
デモ助かったヨ!インゴはあんな感じになると手がつけられないんだヨネ。」
「なんとなくだけど、わかる気がしますねー。
インゴボスって、人を頼る事を絶対的に嫌うでしょ?
そんなんじゃ身体だけじゃなくて、心だって悲鳴をあげますよ。」
勝手にサーバーを借りて、それぞれにコーヒーとかを作って渡す。
うわーい、この紅茶インゴさんの好みなのかな?すっごく美味しい!
「わかってるケド、ボクの声はインゴには届かないんだヨ。」
紙コップを持ったまま、うつむいたエメットさんが力なく笑った。
インゴさんの態度があんな感じだから、そう思っても仕方無いけどさ
そうじゃないってのは、身近にいると気付きにくいのかな?
「それは無いですよ。ちゃんと届いてますよ。
そうじゃなかったら、インゴボスの性格とかを考えたら
こうやって、エメットボスと一緒に仕事なんてしてないと思いますよ?
ホント、言う事を聞かない困ったちゃんですよねー。」
私の言葉にインゴさんと同じアイスブルーの瞳を丸く見開いた後に
なんだか凄く柔らかく、そして泣きそうな顔をしながらエメットさんは笑った。
「インゴを子供扱いするナンテ、が初めてダヨ…。
アノネ、またインゴが同じ感じになったら頼んでも良いカナ?」
「…こうなったらトコトンお節介しちゃいましょうかねー。
良いですよ、何度でもベッドにぶん投げて寝かしてあげましょう!」
の呆れたような顔が見えたけど、この際無視しちゃうもんね。
どーせ、また貧乏くじ引いたと思ってるんでしょ?
こーなったら、たとえ火の中、水の中、草の中だって突進してやろうじゃない。
だって、何事も中途半端ってのが一番嫌いなんだから仕方ないじゃん!