二章・東奔西走編
継がれていくもの
こっちのギアステでの仕事を終わらせて、ユノーヴァへ出張する時に
黒ボスがを捕まえて、色々言い始めたんだが…
「よろしいですか、彼等に何を言われても聞く必要はございません。
ひたすら業務に集中してくださいまし。
そして、終わりましたら直ぐにこちらに戻る事、それと──」
これは、どこの過保護な母親だ?
この間のインゴとのライブチャットのせいか、かなり神経質になってるな。
そんな事を知らないは口をあんぐりと開けたままだ。
「えっと、黒ボス…私一泊二日の出張に行くだけなんですけど
なんだか長期出張に予定変更されちゃったとかですか?」
「冗談じゃございません!その様な事、絶対に許しません!!
あぁ…いっその事、私もあちらに同行したほうが…」
…これはかなり重症だろう、駄目だこりゃ。
いたって本気の黒ボスの後ろで、白ボスとが声をたてずに
指を差して爆笑している。お前等、この状況を楽しんでいないか?
出発の時間が迫ってきても、黒ボスの話は終わる気配すらない。
最初は驚きながらも聞いていたも、うんざりしだした様だな。
「何をそんなに心配してるのか、よくわかんないんですけど。
取り敢えず、明後日からはこっちでの仕事もてんこ盛りなんで
さっさと戻ってきますってば。」
「その様にお願いいたします。
あぁ、もしあちらの二人が送ると言っても断ってくださいましね?
戻ってきた時には、あの連中ではなく私達と食事に行ってくださいまし。」
「えっと、もうそれで良いです。
それでは時間なので、行ってきます。、準備オッケー?」
黒ボスの相手をするのが、面倒くさくなったんだろう。
投げやりな返事をした後で、ネイティを抱えて俺を振り返る。
俺の傍にはエルレイドが既にスタンバイして、指示を待ってる。
「おう、さっさと出発進行しないと向こうの荷物移動に間に合わないぞ。
そんな事は俺等の主義に反するだろう?
黒ボス、俺もいるんですから後は任せて下さい。
、何か問題が起きたら連絡をくれ。それでは、行ってきます。」
「ネイティ、ニンバサシティのギアステにテレポート。
んで、向こうについたら直ぐにうちらにテレキネシスお願いね。
では、行ってきまっす!」
ネイティを中心に俺等の身体が光に包まれる。
同時に重力を無視する様な浮遊感が俺等に襲いかかる。
便利だが、何度やってもこの感覚は慣れない。
視界が一瞬にして変化する。
ネイティが咄嗟にテレキネシスで俺等を浮かせて正解だった。
おかしな体勢で床に着地しそうなの身体を引き寄せて
抱き上げてから、着地に成功する。
「大丈夫か?発作は…起こしていないようだな。」
「うん、ありがとね。ネイティもテレキネシスありがと!」
抱き上げられた体制のまま、ネイティに頬擦りしているんだが
先に降りるって選択はなかったのか?
「二人共待ってたヨ!突貫作業させちゃうケド、よろしくネ。」
「…、もうを降ろしてもよろしいのデハ?
も、になら恥ずかしがらないのデスネ。」
インゴはマジでを気に入ってるみたいだな。
その視線、他の奴らだったら防御が下がるかもしれないが
俺には効果はないからな。
「、インゴが面倒くさい事になりそうだから降りろ。
インゴ、何か勘違いしているみたいだから言っておくが
は幼馴染だ。妹分に欲情する程、俺は女に飢えてないぞ?」
を降ろしながらインゴを見て苦笑いするが
相手は眉間に皺を寄せたままだった。
「…別にがどう思ってイテモ、関係の無い事でゴザイマス。
ワタクシはワタクシのしたい様にするまでデス。」
「AHー、はこれから厨房の片付け手伝うんだったヨネ?
粗方はこっちで終わってるカラ、確認してくれないカナ?」
インゴの雰囲気が悪いのを気にして、エメットがなんだか
気を使ってるんだが…俺は別に気にもしてないんだがな。
ネイティをボールに戻したが、インゴを見て
なんだか考え込んでいる様だが、何かあるのか?
「…エメットさん、んじゃ厨房に案内してもらって良いですか?
はダクト洗浄の書類をインゴさんに見せてもらって。
昨日話した箇所の洗浄部分の写真があるはずだから、確認してくれる?
インゴさん、この間言ってた件をに確認してもらってください。
私は先に厨房の養生と材料の確認をさせてもらいます。」
「了解いたしマシタ。では、こちらの書類がそうデス。
写真がこちらでゴザイマス。
それとゲンナイから手紙を預かっておりますノデ、渡しマス。」
エメットとが執務室を出た後で、
インゴから書類と、それとは別に茶封筒に入った手紙を受け取る。
まずは書類とそれに付けられてる写真を見る。
「、この部分の洗浄についてはゲンナイも書類に書いてありマスガ
コレが限界だそうでゴザイマス。腐食部分もこの状態でアレバ
まだ対応出来る範囲だと言う事で、処理済みデス。」
「そうですね、が言ってた通りになったんで
こっちについては安心しました。
…成程ね、あいつもキチンとこういう事が出来る様になったか。」
書類を見て、思わず笑みが溢れる。
元々ゲンナイは仕事の腕は良いんだが、書類関係が壊滅的だった。
それを俺とが二人がかりで、徹底的に扱いたんだよなぁ。
「この書式はと通じるものがゴザイマスガ、彼女が?」
「えぇ、あいつがゲンナイの頭を引っ叩きながら
徹底的に叩き込んでましたね。腕は確かだったし、いずれ独立したい
そう言って頑張ってた奴なんで、俺も手加減はしなかったんだが…
今思えば、良く付いてきたと思いますよ?」
「成程、仕事のやり方はに、書類の書き方がに似てました。
弟子という事を差し引いテモ、彼は良い仕事をしていたと思いマスヨ?」
「依頼主にそう言ってもらえると、教えた甲斐もあります。
あいつは身寄りがなかったですからね、まっとうに生きていくには
どうしたって手に職をつけた方が有利だからと、仕込んだんですよ。」
「そう言えば、オマエも身寄りが無いと聞きましたが…」
「えぇ、両親をガキの頃に事故で両方いっぺんに亡くしました。
その後親戚の家に厄介になったんですが、最悪でしたよ。
両親の残した保険金やら遺産やらを使い込まれたんで、
ブチ切れて半殺しにしてやりましたよ。
おかげで暫くは身辺に警察の目が煩かったですけどね。」
金を使われた事にじゃなく、両親が残した物が消えてしまったのが
どうしようもなく許せなかったんだ。
今思えば、俺もかなり青かったんだとつくづく思う事だ。
「その後の両親が後継人になった時は、ほとんど金も残ってなくて
なんて言うのかな、気持ち的に肩身が狭かったんですよ。
向こうはそんな事全く気にしてませんでしたけど…やっぱりね。」
「…の両親は、オマエ達を区別していたのデスカ?」
「いえ、それはなかったですね。むしろすげぇ好意的でしたよ。
ですが、その時には既に俺は人間不信の固まりでしたからね。
どんなに好意的になられても、受け付けないものってあるでしょう?
そんな感じだったんです。若気の至りって奴ですね。」
俺の言葉を聞いて目を見開いてインゴは驚いていた。
まぁ、今の俺しか知らない奴は想像も出来ないって言うから
そう言う反応をされても仕方がないだろう。
「丁度その頃はも家庭の問題があって、似たように荒れまくってて
向こうの両親には申し訳ない事をしたと今でも思ってますよ。
そんな俺等を、文字通りブン殴って体当たりかまして
真っ当な道に戻したのが、なんですけどね。
だから、俺もも正直言ってあいつには頭が上がらないんですよ。」
想像できると言ってインゴは笑った。
確かに、お互いに無傷ではいられない位にはやりあったからな。
結局俺等は、自分の甘さ加減をあいつに突きつけられて目が覚めたんだ。
「まぁ、自分の境遇がそんな感じですからね。
似たような奴を見ると、色々世話を焼いちまうんですよ。」
書類を見終わったんで、ゲンナイからもらった手紙を見てみる。
そこには、俺に世話になった礼と結婚した事と二人の写真が入っていた。
そして人を使ってやっているが、俺があいつにした様に身寄りの無い様な
連中を拾って、一人前になるまで育てるように頑張ってると書いてある。
やばいな…なんだか妙に嬉しいような、擽ったい気分になってきた。
「?」
インゴが不思議そうに俺を覗き込んできたんで、内容をざっと説明すれば
同じ様に目元を柔らかくする。
今までは自己満足だと思っていた事が、こうやって誰かを助ける事になり
そして、その誰かが俺と同じ事をやってくれている。
その事がなんだか無性に嬉しかった。
「オマエの意志はそうやって受け継がれているのデスネ。
それは普通に出来る事ではアリマセン。もっと誇るべきデショウ。」
「誇るつもりはないですね。
俺は自分が関わった奴らが良ければそれで構わないんです。
他人の事なんて知った事じゃ無いですよ。自分勝手でしょう?
さて、そろそろ俺も現場に入らせてもらいます。
場所は?あぁ、教えてくれれば自分で行けますから大丈夫です。
俺は誰かと違って方向音痴じゃありませんから。」
おどけた様に言えば、笑いながら道順の説明が返ってきた。
それではと一礼して部屋を出る時に、思った事があったから
インゴに取りあえずは言っておくとするか。
「俺等はお前等がどう思おうとも、世話を焼くつもりでいるからな。
それをどう受け止めるのかは知らないが、なにか問題があるなら言えよ。」
「…ノボリとクダリが話したのデスカ?」
インゴの態度が一気に硬化するが知った事じゃない。
俺は元々自分の好きな様にしか動かないからな。
「あいつ等は何も言ってないぞ、これは俺の感だ。
そして俺の感は今まで外れた事がないのが自慢なんでな。
詳しく…というか、別に聞くつもりはないから安心してくれ。
過去なんてどうしようもできないってのは、俺が一番知ってる。
だが、これからの事はどうにか出来るってのも知ってるんでな。
…それでは、いい加減行かないと怒鳴られるんで失礼します。」
何か言いたそうにしていたインゴをそのままにして、俺は部屋を出た。
恐らく根っこの部分は両ボスと同じなんだろうこの二人を
俺は黙って見ているなんて事は無理だ。
が俺とにした様に…とまではいかないが、似た様な事は
ガンガンやらせてもらうつもりでいる。
自分の関わった奴等には、笑っていて欲しいってのは誰でも思う事だろう?