二章・東奔西走編 -業務と信頼関係-

二章・東奔西走編

業務と信頼関係



台風の様な様の来訪に振り回された感が半端なかったのですが

なんとか本日の業務を終えて、執務室にて日報を書いている時に

パソコンの画面から、ライブチャットの要請が届きました。

誰かと思えばインゴからで、嫌な予感がしつつも回線をオンにします。



『案の定、マダ仕事中だったのデスネ。

と少々話があるのデスガ、彼女はおりマスカ?いれば代わりナサイ。』



「その命令口調は相変わらずでございますね。

私、貴方の部下ではございませんので改めていただきとうございます。

今、代わりますので少々お待ちくださいまし。

──、インゴが貴女に話があるそうなので来ていただけませんか?」



ドラフターで製図作業をしていると話をしていたに向かって

その様に声をかければ、こちらにきて、私の後ろに立ち

パソコンの画面に視線を向けました。

私が席を譲ろうとすると、そのままでと止められましたので

日報の続きを書かせていただく事にいたします。



「インゴさん、先日は大変ご迷惑をおかけしてすみませんでした。

今日、ダクト洗浄の見積が来たんですよね?どうでした?」



『私とエメットが対応致しマシタ。

の弟子と言うだけはアリマスネ、色々と説明もアリ

その内容も明瞭で非常に好感が持てマシタ。

金額デモ、イッシュで見たが出した見積と

それ程差がありませんでしたノデ、任せる事にシマシタ。』



インゴが第三者を褒めるとは珍しいですね。

ですが、仕事に関して相手がの弟子であれば

彼が気に入るのも頷けるかもしれません。



「それは良かったです。

金額は、うちらは材料費をかなり安く仕入れているんで

その違いもあると思いますよ?

それで、いつ作業に入るって…え?今入ってるんですか?!

うわー、相変わらずフットワークが軽いわー。」



『壁の変色を見てカラ、急いだ方が良いと言いマシテ。

この状況を把握している様ナノデ、説明の手間が省けマシタ。』



それを聞くと、の表情が険しくなりました。

どうやら、あちらの状況は一刻を争うものなのでしょう。



「熱伝導の範囲、繁忙時の換気扇使用した時の壁の温度、使用頻度

そして、使用時間…それらを全て、確認させていただきましたが

ダクト洗浄で中を綺麗にした状態であれば、日程通りでも可能です。

ただそちらが、やはり心配だからと言うのであれば行けますよ?

利益幅の大きい場所をその間ストップさせちゃうから

そちらの収益状況に影響がでる事ですので、判断はお任せします。」



『Hmm…彼の言っている事も理解できますが

は状況を全て把握して出した日程でゴザイマシタネ。

了解シマシタ、日程は貴女の提出した通りでお願いシマス。』



「了解しました。ふふっ…信用してくださって有難うございます。

それに応えるように精一杯良い仕事をさせていただきますね。」



仕事の時の顔とは違う、普段の柔らかな笑みで答える

画面の向こうでインゴも目を細めて頷いております。

昨日の出張以来思っておりましたが、インゴ達の達に対する

態度は、あちらの部下に対するものとはかなり違うのではないでしょうか?



「では、そのままの日程と言う事でお願いします。

お迎えは必要ありませんからね?テレポート時の衝撃を逃がす方法を

友人から教えてもらったので、もう大丈夫ですから。」



『別にワタクシの腕の中にテレポートしても構いまセン。

ならイツデモ大歓迎デスヨ?』



「そうやって揶揄うのは勘弁して下さいよー。

イケメンに抱きしめられるとか、そんなの私の心臓がもちません!」



『何事も慣れる事は必要デスヨ?デハ、お待ちしてオリマス。』



「そんな事で慣れたくありませーん。はい、ではまた。」



楽しげにやり取りをした後で、は画面に一礼してから

自分のデスクへ戻って行きました。

インゴがワタクシを見て、なにやら面白そうな表情に変わります。



『何か言いたそうデスガ、聞く耳ハ持ちませんノデ。

オマエ達が彼女を正当に評価出来ないナラ、ワタクシは直ぐにデモ

ユノーヴァに招待シマス。そのつもりでイナサイ。』



一方的にそう告げると、インゴはチャットの回線を落としました。

はっきり言いましょう、私は非常に不愉快でございます。

私達はを、の仕事を評価しております。

それでも不十分だというのでしょうか?

本当に、あの従兄弟達はどれだけ私達を振り回せば気が済むのでしょう!



「ノボリ…」



向かいのデスクでクダリが私を呼び、パソコンを指さしました。

画面を見れば、普通のチャットの招待が来ております。

そのまま繋げば、クダリとエメットがおりました。



▽「いらっしゃーい!って、インゴもそうとう挑発してきたよね。
  エメットとも言ってたんだけど、インゴ相当の事を  
  気に入ってるみたいだって。」

↓「うん、昨日夕食を一緒にした時もかなり仲良かったよー。( ̄▽ ̄)」

▲「エメット、はそちらで何かやらかしたのでございますか?」

↓「彼女、眩暈の持病があるんだってさ。
  こっちに来た時にその発作起こして、が治したんだけど
  結構大変そうだったよ?」



こちらに来た時の様な状況だったのでしょうか?

それであれば、あの鉄面皮でも大変驚いた事でしょうね。



↓「でも、仕事はキッチリやっちゃう所が凄いよね!  
  ダクト洗浄もきちんと状況報告書作ってあってさ。
  の弟子…ゲンナイって言うんだけど、
  彼に、どういう風にして欲しいとか、ここに気をつけて欲しいとかって
  箇条書きのメモまでしてたんだよね。」

▽「それでインゴがを気に入っちゃったんだ?」

↓「んー、元々彼女の仕事ぶりを見て評価はしてたしね。
  それ以上に結構色んな気配りとか配慮とか出来るからさ
  インゴの中では、の評価は上がる一方なんだと思う。
  もちろん、ボクもだけどね!」

▲「それで、への対応が違うのですね?  
  しかしその様な事をすれば、そちらの部下達から不満がでませんか?」

↓「アハハ!インゴに言える人なんていないでしょ?
  尤も、その位言えるような部下だったら良いんだけどね。
  その点、逹はボク逹に仕事でもはっきり意見を言うからね。
  ソコも気に入ってるんじゃないのかな?」

▽「は特に仕事に誇りをもってるからね。  
  ボク、一昨日その事でをすっごく怒らせた。(;∀;)」

↓「(;゚Д゚)!クダリなにやったのさ?」



クダリが一昨日あった出来事をエメットに説明しております。

そうすると、エメットもクダリを怒り始めました。



↓「それは怒られて当たり前でしょ!(#゚Д゚)
  キミ達は彼女を過小評価しすぎだよ?仕事に関しては
  恐らくはあの3人の中で一番実力も行動力も指導力もあると思う。
  だけど、そんな事は表には出さないで裏方に徹するタイプだけど。」

▽「にもそんな感じの事言われて怒られたよ!(;∀;)」
↓「当然!(#゚Д゚)
  ボク逹そっちで彼等の仕事の視察をしたけどさ、
  その時にから指示もらってたりしてたからね。
  だからボク逹は、実質上ではの方が上なのかなって思ったよ。」



そう言えば、私達はの仕事をしている姿を彼等のようには

見ておりませんでした。

だからインゴは私にあの様な事を言ったのでしょうか?



↓「ノボリ、さっきインゴが言った事はジョークじゃないよ。
  本当に彼女の評価がそっちで低すぎるなら、こっちにもらう。
  正直、二人に彼女を使いきれるとは思わないしね。勿体無い。」

▲「その様な言い方はおやめくださいまし。彼女はモノではございません。
  それに、私達は彼女を評価してないわけでもございません。」

↓「ふーん…まぁ、今はそれでも良いけどね。
  正直に言えば、彼女との仕事での関係に限定してしまえば
  ボク逹の方が信頼関係は出来てると思うよ。
  それじゃ、バトルの呼び出しが来たから落ちるけど
  ボク逹が達を欲しいのは事実だから、覚えておいて。Bye!」



言いたい事を好き勝手に言い散らかして、エメットは落ちました。

向かいでクダリも頷いておりますので、私達も落ちます。


それにしても、仕事での信頼関係とは?

現時点において、施設設備の保全をお任せしているのは違うのでしょうか?

私達は彼等の仕事に口を挟む事もしておりません。

インゴ達と私達とで、なぜその様に違いがでるのでしょうか?

業務日報を書き終えて、私は腕を組んで考え込んでしまいました。



「うし、今日のお仕事終わりー!

んじゃ、お先に失礼します。お疲れ様でしたー!」



が作業報告書をに渡して、私達に挨拶をして出て行きました。

は書類をファイルに入れてから、私を見て苦笑いしております。



「黒ボス、色々と悩んでるみたいですが聞くだけならしますよ?」



やはりにはバレておりましたか。

少々恥ずかしいと思いながらも、思い切って聞いてみました。



「私達とインゴ達では信頼関係に違いはあるのでしょうか?

事実、は仕事に関して話をする時にはあの様には笑いません。

私達は過小評価もしておりませんし、仕事に口を挟む事もいたしません。」



「…口を挟む事をしないんじゃなくて、出来ないでしょう?」



の目がスっと細まりました。

彼の雰囲気が一変して非常に冷たいものへと変化しています。



「ボスは俺達の仕事についてどれだけ理解している?

現に、二人はわからないからと言って俺等に全権を任せている。

それはそれでこちらとしてもやりやすいから、構いませんよ。

インゴ達…特にインゴはわからない事があるのが許せないんだろう

視察をした時もかなり突っ込んで色々と聞いてきていましたね。

仕事の内容もそうですが、流れややり方についてもね。」



「インゴ達は達の仕事を見て、信頼したって事だけど

ボク逹だって達のやった事が凄いってちゃんと認めて信頼してる。」



えぇ、彼の口ぶりは私達はなにもわからないから

彼等に仕事を任せているだけに過ぎないと言っているのでしょう。

ですが、クダリの言う通り彼等の仕事振りは認めて信頼しております。



「それは結果を見ての判断でしょう?

勿論、それで構わないと思います。だから俺等は何も言っていません。

普通はそうやってお互いに信頼関係を築いていくモンですからね。

ボス達が俺等を評価して、認めてくれてるのもわかってますよ?

ですが、インゴ達はその結果を見ずに、視察の時の俺等の仕事ぶりを見て

そして、任せられると判断して依頼してきたんです。

それは職人としては嬉しい事ですよ。仕事を始める前から

俺等の腕を見込んでくれてるんですからね。

そこまで信頼されているなら、それに応えるのが筋でしょう。」



あぁ、そう言う事なのですね。

私達は彼等の仕事の結果を見て任せられると判断しておりました。

ですが、インゴ達は彼等の仕事ぶりを見ての判断なのです

その点の違いの差が今回のの表情なのでしょうね。

インゴの言った事も、頷けます。私は彼女の仕事ぶりを知りませんから。



「黒ボス、それほど深刻になる必要はありません。

あいつはボス達が俺等を信頼してくれているのをキチンと理解してます。

むしろインゴの様に過剰評価される方が苦手なんですよ。

だから、そのままでいてください。」



「ノボリはに仕事の時でも笑いかけて欲しいって思ってるだけ。

ボク逹はの上司だからライン引きをしてるだけだと思う。」



「なんだ、そんな事だったのか?

俺はてっきりあいつが向こうに引き抜かれるかもって焦っているんだと…。

アレか、ヤキモチを焼いてるだけだったのか…ふーん…」



がニヤニヤしながら私を見ておりますが

図星をさされてしまって、なにか言い返したくても言えませんでした。



「黒ボス、安心していいぞ?

あいつが嫁に来て欲しいって言った男は、後にも先にもボスだけだから。」



「…それで安心出来ると思うが理解できません。

第一、その様に言われても嬉しいわけはございませんでしょう!」



私の言葉にだけでなく、もクダリまでもがニヤニヤしております。

えぇ、ぶっちゃけましょう!

どんな内容でも自分が特別だと言われて嬉しゅうございましたとも!!


冷え切ったコーヒーを飲み干し、紙コップをに投げつければ

笑って受け止められてしまいました。

彼には何を言っても、何をやっても勝てそうな気がいたしません!