二章・東奔西走編 -おいてきぼりな上司達-

二章・東奔西走編

おいてきぼりな上司達



出張した面子が戻るまでの間、オムツ換えスペースを増設予定の場所の

図面を起こしていたんだが、就業時間が過ぎても戻って来る気配が無い。


ボス達もバトルトレインの最終運行を終えて、現在は執務室で

書類の整理をしているんだが、どことなく上の空だな。



「クダリ、手が止まっておりますよ。集中してくださいまし。」



注意している黒ボスも、さっきから同じ書類ばかり見ているぞ?

白ボスは溜息をついてから、書類整理の手を止めて立ち上がると

3人分のコーヒーを持ってきてそれぞれに手渡す。



「ちょっと休憩させて。達遅いね、トラブルがあったのかな?」



「ありがとうございます。万が一トラブルがあったとしても

あいつらなら、どうにかしてクリアするでしょう。

特に緊急の連絡も入ってないから、大丈夫だと思いますよ?」



受け取ったコーヒーを飲みながら、部屋の中の空調と衛生と電気の

それぞれの設計を同時進行させる。

基本図面は確認済みだし、水回りや空調回りも問題なさそうだ。

電気のほうは、既にあるコンセントで十分対応できるだろう。


ちなみに、今使ってるドラフターは技術開発部からの借物だ。

こういう備品一つにしても、実際に使う人間の事を考えて用意されてる。

必要最低限、いや、それ以上の機能の付いたそれは、すげー使い易い。



「でも、だけじゃなくても一緒で安心した。

これが一人の出張なら、悪いけどボクは了承してない。」



「は?」



それは職人として認めてないって事か?と思えば理由は別にあった。



「私もでございます。インゴはともかく、エメットは女性にだらしないので

の身の安全を保証する事はできませんからね。

ですが、こうも帰りが遅いと、やはり心配でございますね。」



「その心配は不要だと思いますよ。仕事中のあいつの邪魔をするのなら

徹底抗戦しますね、手を出すつもりなら、急所潰される覚悟が必要です。」



「別に潰されても良いと思う。むしろ潰されろって感じ。」



いや、それは男として断固阻止しなきゃならないだろう。

使い物にならなくなったら人生の半分は楽しみが消えると思うぞ?



「ぎゃー!」

「Oh…」

「またかっ!」

「Wow!」



奇妙な声と一緒に応接スペースに噂の人影が現れた。

テレポートで向こうから来たのはいいが、この状況はどうなんだ?

応接用のソファーに大の大人が4人重なるようになっていて

一番上のエメットが床に転がり落ち、が素早く立ち上がる。

ネイティを持ったままうつ伏せのを下で、インゴが抱きしめていた。



「ネイティ大丈夫?うん、テレポートお疲れ様!流石うちの子!

って、インゴさん?ゴメンナサイ今どけま…ぎゃー!」



慌てて身体を離そうとするを自分の身体に引き寄せた所で

色気の欠片も無い悲鳴があがったが、それすら完全に無視して

インゴは諸共ゆっくりと上体を起こした。



「耳元で騒ぐのはやめなサイ。今度は大丈夫デスカ?」



私服姿って事は仕事が終わってから送ってきたらしい

インゴはそのままの手を取って立ち上がらせた。



「うー?大丈夫みたいです。行きと違って衝撃も殆どなかったですし

インゴさんが、咄嗟に下になってくれたので助かりました。」



「次に来る時ハ、ワタクシが迎えに参りマス。

その時は、ネイティにテレポート後にテレキネシスを指示シテ

衝撃に対処するべきデショウ。」



「うちの子、優秀なんで両方出来るから大丈夫ですよ。

そう何度も、トップの方に迎えに来てもらうわけにはいきませんって。」



「ノボリとクダリ、ボーッとシテ大丈夫?

遅くなったケド、二人を連れてきたからネ。報告は明日聞いてヨ。」



4人の光景に唖然としてた両ボスが、エメットに声を掛けられて我に返る。

そのまま、黒ボスはインゴ達の方へ行き、を引き剥がす。

その反動でネイティが落ちたが、地面に着く前に飛んだんでセーフだった。



「お疲れ様でした、あちらでは大変だったのではございませんか?

報告は明日で構いませんので、今日は休んでくださいまし。」



「ただ今戻りました。仕事自体は普通に終わったんですが

書類に手間取っちゃって…言語の違いってめんどくさいですよねー。」



インゴがノボリを睨んでるが、完全にスルーしてる。

それを見て、が不思議そうにしてるが、わかってない様だな。



、あっちの言葉使えるの?」



ネイティを頭にのせた白ボスが驚いて聞いているが当然だろうな。

今までそんな話が出たことすらないが、二人共言語については俺より上だ。

特には各国の日常会話位なら、ネイティブ相手でも問題無いだろう。



「日常会話位ならなんとか…書類は翻訳機能使ってから色々と修正しました。

最終的には青っちとエメットさんに頼りましたけどね。」



の発音は綺麗ダヨ。書類だって手間取ったって言うケド

能力的ニモ、部下達と変わらない位ダカラ十分ダト思うヨ?」



へぇ、ユノーヴァは徹底して効率重視、ノルマ重視と聞いていたが

ずいぶん高評価をもらってるみたいだな。



「俺も文章はそれ程自信がないからな。

両ボス、俺達はこのまま上がらせてもらっても構わないかな?」



「えぇ、構いません。お疲れでしょうからゆっくり休んでくださいまし。」



「報告書とかは明日で構わない。

インゴとエメットはもう用事は済んだんだから、さっさと帰ろうか。」



白ボスはマジで容赦無いな!

いつもだったら、抗議するはずのエメットだが今日は違った。



「フフーン、残念デシタ!ボク達これからDinnerの予定。」



が奢ってくれると言うノデ、楽しみデスネ。」



どういう事だ?と隣に立っているに聞けば、

向こうで起きた事を説明してくれた。成程、やっちまったのか。

それじゃ、飯を奢るくらいしないと筋が通らないだろう。

それに、両ボスが凄い形相でインゴ達を睨んでるから

さっさとこの場を離れるべきだと思うしな。



「そう言う事だったら、遅くなる前に行け。

お前もだが、インゴ達だって明日も仕事だろう?」



「りょーかい。んじゃインゴさんとエメットさん、着替えてきますんで

ちょっと待っててくださいねー。」



「ボク達先に外で待ってるヨ。

それじゃノボリ達は仕事頑張ってネ。Fight!」



「煙草を吸っておきたいノデ、外で待ってマス。」



「成程、わかりました。それじゃ外で待ち合わせましょう。

ではボス達、お先に失礼します。あまり無理しないで下さいね。

後、!ダクト洗浄を業者に頼んだんだけどの弟子だったよ!」



「は?弟子ってユノーヴァの奴を弟子にした覚えはないぞ?」



「違う違う、んとこれが会社の名前と連絡先と代表者の名前。

この名前みてよ。覚えてない?」



そう言って、胸ポケットからメモ用紙を取り出して俺に渡す。

確かに、シンオウで面倒見た奴だ。まさかユノーヴァにいるとはな。



「相変わらずっぽかったよー。後ね、聞いて驚け。

なんと結婚したんだってさー!うちら弟子に先を越されたよ!」



「マジでか!? あいつ女が苦手だったはずなのにすげーな!

っと、その話は明日ゆっくり聞かせもらうから、もう行け。」



「ほいほい、んじゃまた明日です。お疲れ様でしたー。」



そう言って、今度こそは部屋を出て行った。

もつきあうらしいので、頼むと言って送り出す。

インゴとエメットもその後について部屋を出た。

後に残った俺等の間に、一気に重い空気が流れ込んできた。



「うわーん!ボクも一緒にご飯行きたかった!!」



「クダリ、自業自得でございます。今更感が拭えませんが

さっさと仕事を終わらせてしまいましょう。」



「二人共、そんなに飯を食いに行きたかったんですか?

俺もまだ仕事があるから、終わったらで良いなら付き合いますよ?

なので、さくっと終わらせちまいましょう。」



デスクに突っ伏して叫んでいた白ボスが急に顔を上げて

不敵な顔をして笑い始めた。いや、それは怖いからやめて欲しいぞ。



「フフフ…こーなったらとことんやってやる!

ボク、もう金輪際書類を溜めない!今からすっごい書類整理はじめる!!」



「ブラボー!よく言いました!!

えぇ、今後また同じ様な事が無いとは言えませんからね。

その時には断固として私達も同行させてもらいましょうとも!

それではクダリ、いきますよ?」



「「出発進行!!」」



どこから突っ込もうか迷っている俺をよそに、両ボスが仕事を再開する。

その形相もさる事ながら、スピードも半端ないぞ。

そんなにあいつらと飯を食いたかったんだろうか?


まぁ、仕事を溜め込まないってのは良い事だからな。

さっさとキリの良いところまでやっちまうとするか。

ドラフターの前に座って、今日はどの店で飯を食おうか考えながら

俺も手を動かし始める事にした。