二章・東奔西走編
仕事に上下男女の隔て無し。
結論から言えば、役職会議で俺の出した案件は満場一致で承認された。
当たり前だ、通すために文句のつけいる隙間の無い様にしたんだからな。
事務所に戻ってきてみれば、インゴ達との話は終わったみたいで
が、書類作成をしている顔を上げてこっちを見たんで
Vサインを出せば、満足そうに頷いた。
出来上がった分の書類を受け取り、不在の間の話の流れを聞いて驚いた。
一週間後の一日しか休みがないとか冗談だろう?
両ボスも俺と同じ様に驚いているが、当然の反応だろう。
「明日現地で見積もりを?!いくらなんでも急過ぎではございませんか?」
「とが明日下見に行くの?じゃなくて良いの?」
白ボスの言葉の後に、の雰囲気が一変した。
この件については何度も説明してるはずなんだがな。
が溜息をついて書類のプリントアウトを始める。
何度も同じ事を言われればそうなるのも仕方がないんだろうが、
俺はこの件をそのまま有耶無耶にするつもりは無いからな。
「…白ボス、いや両ボスに言っておきます。
俺はここでは課長なんて言って、を使ってますが、
本来だったら、こいつは個人事業主で俺と同等の立場です。
むしろ保温に関しては前から言ってる様に、俺の方が資格的にも
経験的にも下なんです。だから保温関係を一任してるんです。
今後、その件でこいつを蔑ろにする発言をするのでしたら
俺も黙ってはいませんよ?」
こいつは自分の仕事に自信も誇りを持っている、勿論腕も確かだ。
いつでも真摯に向き合う姿勢は俺達以上のものがあるんだ。
白ボスがしまった!って顔してるから、言いたい事はわかったみたいだが
仕事の腕をくだらない事で認めない発言は、職人として許すことは出来ない。
「はーい、はちょっと落ち着こうか。私は委託業者だからね。
こういう事は今に始まった事じゃないでしょ?いつもだよ、うん。
そもそも私が女だって事も、結構アレなんだし仕方ないよ。」
正直俺だって、若い時には実力を正当評価してもらえなくて
かなり葛藤みたいなモンがあった。
だがそれは仕事を見てもらう事や、ある程度の年齢になった時点で
なくなったんだが、こいつは違う。
いくら頑張っても、必ずこういう事が出てくるんだ。
本人にしたらどれだけ悔しい事か、そして俺も悔しくて仕方がない。
重苦しい雰囲気が部屋を満たしている所に溜息をついて
プリントアウトした書類を手にして、が席を立つ。
「これが明日と一週間後の出張予定表です。
後は、あちらと話した内容はこの書類に全部書いてあります。
出張予定表の所に行く人の名前は書いてないから任せます。
それで申し訳ありませんが、昼休憩が殆どありませんでしたので
これから15分程頂いてもよろしいでしょうか?」
やっぱり相当ムカついているんだろう、雰囲気だけでなく口調も変わった。
そして、恐らくは頭を冷やしたいってことなんだろうな。
「30分休憩時間をやるから、ゆっくりしてこい。
後、出張に行くのはお前とだ。これは変える気は俺にはないからな。」
もらった書類で軽く頭を叩いてやれば、俺の考えがわかったみたいだな。
なんともやるせない様な顔で苦笑いをしている。
「私も修行がたりないわー。うん、ありがとね。
休憩取った後でそのまま、修繕要請のあった場所の下見に行くんで
この件を総務部長さんにお話しておいてもらえますか?
私が説明するよりも課長が言った方が筋が通るでしょうから。
それでは、30分程休憩に行ってきます。」
そのまま、は誰と視線を合わせる事もしないで部屋を出た。
白ボスの言葉だけでこれ程あいつが怒るとは思えないんだが…
そういえば、総務でもボス達は似たような事を言ってたからそのせいか?
白ボスも反省はしてるんだろう、とうとう机に突っ伏しちまった。
「クダリ…」
「自分の仕事を正当に評価されない悔しさは、ボクだってわかってるのに。
ボクのバカー!口から出た言葉は戻す事ができないのに!
すっごく怒ってる。作業場で怒った時よりずっと。」
「試しに白ボスのやった事を、ここの職人達に言ってみてはどうですか?
烈火の如く怒って、罵詈雑言が返ってくると思いますよ?
下手すると、問答無用で殴られますね。その位の事をしたんですから。」
今回は悪ぃがフォローするつもりは俺にも無い。
むしろ徹底してやり込めてやろうかとすら思ってるからな。
「ただ今戻りました。…やっぱりてめぇは追い打ちかましてたか。
とすれ違って頼まれたから、ストッパーになってやるよ。」
バトル接待を終わらせたらしいが戻ってくるなり呆れ顔で俺を見る。
そのまま、コーヒーを4人分作ってそれぞれに手渡した。
「白ボスはタイミングが悪かったんですよ。向こうと話してる時にも
エメットから、『話を進めたい、は?』って言われたしね。」
からコーヒーを受け取って、白ボスはそのまま俯く。
「ボク、の仕事を認めてない訳じゃ無い。凄いって思ってる。
ただ、大抵何かを決める時には、その部署のトップと話しているから。
そんな流れで、は?って言っただけ。でも言い訳にしかならない。」
「貴方がきちんと自分を評価している事は、もわかってるはず。
本当にタイミングが悪かったのでしょう。
それでも、やはり怒りは簡単には消えないでしょうからね。
だから休憩を申し出て、頭を冷やしたかったのでは?
戻ってきた時に誠心誠意謝りましょう。彼女なら許して下さいますよ。」
あぁ、確かにこいつらの役職を考えれば話の内容は上同士でするもんだ
その延長線上って事だったなら、今回は大目にみてやるか。
「えぇ、あいつならきっと笑って終わると思いますよ?
それにしても俺も昼飯食ってないから腹が減ったな…。
ボス達も昼飯まだでしょう?どうするんですか?」
「私達は弁当をもってきておりますので、ここで食べさせてもらいます。」
「俺は弁当持ちじゃないんで、ちょっと食堂に行ってきます。
何かあったらインカムで呼び出してください。」
そう言ってから部屋を出る。
後はを見つけて、話だけでも聞いてやるとするか。
いつも使っている喫煙所に、探し人はいた。
なんだか小難しい顔をして、煙草に火も点けてない所をみると
相当キテルんだろう。ドアを開けて中に入れば驚いている。
「も休憩?そう言えばご飯も食べてないんじゃないの?」
思い出したように煙草に火を点けてから俺に聞いてきた。
その顔は怒りと言うよりも、やるせなさの方が大きいみたいだな。
「今食堂に行く途中だから、お前もつきあえ。アイス位は奢ってやるぞ?」
「フフッ、それじゃあお言葉に甘えちゃおうかな?
ごめんね、白ボスに悪気が無いのはわかってたのにあんな態度とって。」
「別に。よく殴らなかったと褒めてやるよ。俺なら殴ってるぞ?」
おどけて言えば、それは障害事件になるからやめようよと笑われた。
この分だったらもう大丈夫だな。
一服を終えて食堂に行けば、昨日仕込みに出てきていた職員が俺達を見る。
ちょうど休憩中なのか?席についてのんびりとコーヒーを飲んでいた。
「おー、昨日はお疲れ!、呼び出しくらって完食できなかったって?
整備班の連中がサービス良すぎだろうとか言って、残りを食ってたぞ?」
「そーなんだよ!せっかく作ってもらったのにゴメンナサイ。」
そう言えば、お礼に昼食奢ってくれるっていってたな。
つー事は俺にもご馳走してくれるんだろうか?
「課長の分はちゃんとキープしてあるからちょっと待っててくれよ。
後、デザートもちゃんとあるから食っていけ。
なんだか小難しい顔してるが、そういう時は甘いモン食うのが一番だぜ!」
そう言って、の頭をポンと叩いてから厨房に消えていく。
その頭を撫でながら、どこかくすぐったそうにこいつは笑い出した。
「ホント、ここの人達は優しいよね。ちゃんと私を見てくれる。
それは両ボス達が、そうやって個人個人を認めてるからなんでしょうね。」
「だろうな。なんせ部下をポケモンに例えられて喜ぶんだぞ?
あいつらのポケモンへの愛情は相当なモンだしな。
それと同じ位、部下たちの事を考えてるって事になるんだろう。」
そうやって笑い合ってたら、さっきの職員が料理をもって戻ってきた。
ちょーっと待て!この量とかありえないだろう?
それにそのパフェのデカさはなんだ?これがデザートとか嘘だろう?
「課長もかなり食うって聴いてるからな。増し増し増しにしたぞ。
後、これはのデザートな。ヒウンアイスを使ってるから美味いぞ!」
「うわーい!ヒウンアイス美味しいですよね。
いやー、さっきまでちょっと落ち込んでたんだけど、これ見たら吹っ飛んだ!
有難うございます。全速前進で食べさせてもらいまっす!」
「いくらなんでもこの量はやりすぎでしょう?いや、完食はできますよ。
正直余りの豪華さに驚いたのもあるけど、美味そうなのにも驚いたよ。」
俺等の言葉に満足そうに笑う職員は、その後厨房に呼ばれて戻っていった。
「おー、このローストビーフはマジで美味い!
ギアステの食堂、レベル高すぎだろう。サーモンのフライも良いな!」
「でしょでしょー?もうね、私お弁当作るのやめた!
もう、色んな視線を気にする事もないしさ、ここで食べる事にする。
うわーい、バニラの舌触りといい濃厚さといいなにコレ!
ヒウンアイス恐るべし!だけど、ベリーのソースもうまーい!!」
お互いの物を食べ合いながら、あっという間に完食すれば
厨房にいた全員がすげー驚いていた。
いや、俺的にはこれ位余裕なんだけどな。も同じくで。
「、私一度事務室戻ってから仕事に行くね。
白ボスにあんな態度とった事謝らなくちゃ。ホント恥ずかしいわー。」
「いや、俺もお前が怒って当然だろって思ったんだがな、
あいつらの立場を考えたら仕方ないかもしれないぞ?
ホラ、いつも話をするときは必ずトップ同士でするだろう?
そんな事を白ボスも言ってたぞ?流れで言っただけなんだって。
お前の仕事については凄いって認めてるってな。」
食うもの食って少しは落ち着いたのか?単純と言われるかもしれないが
いつまでもグダグダ言い続けるよりはずっとマシだろう。
俺の言葉を聞いて、そうかって感じで納得したみたいだな。
「そう言えばそうだよねー。うわー、私って馬鹿だわ。修行が足りない。」
「まぁ、それについては俺もだな。良く良く考えれば
ここにはそんな事を言った奴はいないだろう?それが答えだろうな。」
「うん、上下とか男女とか全然関係なくキチンと評価してくれる。
それって今までの職場じゃ考えられないからね。その通りだよ。」
職場の雰囲気ってのは、そのトップによってずいぶん変わるんだ。
ここの職場がすげー良いって事はボス達がちゃんとしてるからなんだよな。
あー、俺もまだまだ修行が足りないな!