二章・東奔西走編
歯車とポケモン
「「失礼します、お早うございます。」」
書類片手に、とバトルトレーナー統括部の部屋に入れば、
既に全員が出社していて、今日の運行予定表と乗務トレーナー表を見ていた。
「お早うございます!お二人揃ってどうしたんですか?」
カズマサが全員にコーヒーを配りながら不思議そうな顔をして俺等を見る。
それに続いてキャメロンもトトメスもコーヒーカップを片手に挨拶する。
「今日は午前中は特に仕事の予定を入れてないんでね。
どうせなら、接待に回ろうかと思ったんだけど空きはあるかい?」
「オハヨウゴザイマス。ソレデハオ願イシタイ事ガアルノデスガ…」
統括部長のシンゲンさんが俺達を手招きしたんで、そばによれば
朝一のノーマルとスーパーの其々シングルとダブルの運行表を見せる。
「ボス達カラ連絡ガアッテ、朝礼ノ後ニ会議ヲシタイトカ…
ソレゾレノ トレインデハ、既ニ受付ヲ済マセテイルノデ。」
成程、ボス達は早速行動を開始するつもりなんだろう。
そう言う事だったら喜んで協力させてもらおうじゃないか。
隣のも、同じ事を思ったらしく満足そうな顔で頷いている。
「要は最終車両に行かせなければいいんですよね?問題ありません。
良いですよ、どこに俺等を配置するのかはシンゲン部長にお任せします。」
「そうですね、時間を引き伸ばして欲しい等の要望があるのならば
インカムを使って連絡を頂ければ何とでも出来ます。
お客様に楽しんでもらいつつ、下車していただくとしましょうか。」
俺達の悪タイプも真っ青な笑いを見て
主任のラムセスさんとクラウドが引きつった顔をしてるし。
「最近ダブルのチャレンジャー達の間で噂になってるのさ
ドクターのが出てきたら、サブウェイマスターには会えないって。」
「シングルもやで。さぎょういんのが登場したらそこで終いやて。
猛者の常連チャレンジャーあたりは、えらく喜んどるがな!」
へぇ、そんな噂があるなんて知らなかったな。
それにしても、チャレンジャーには俺等がストッパーなのがバレてるのか。
流石にそれはマズイだろう。手加減てのは好きじゃないが仕方ない。
「スーパーはともかく、ノーマルでは負けましょうか?
勝てないトレーナーが乗ってるなんて、集客率に影響がでるでしょう?」
「イエ、貴方達ハ ソノママ連勝路線ヲ 突キ進ンデ下サイ。
ソコデ諦メテシマウナラ、ソノ程度ノ気持チシカナイノデス。
ボス達ニ、ソンナ チャレンジャーノ相手ヲ シテ欲シクアリマセン。」
「相変わらず、シンゲン部長は手厳しいな。
でも好きか嫌いかで言うなら、ぼくはそういう考えは好きだな。」
「オレモ!ボス達ニハ良いバトルヲ 沢山シテ欲シイヨー。
ボス達ガ ハッピーナラ、オレ達モ ハッピーダヨ!」
「シンゲン部長さんの電車への愛情と、ボス達への尊敬は凄いです!
ボクももっと頑張って、地下鉄とボス達のお役に立てるようにしなきゃ!」
「よう言うた!だがなカズマサ、お前はまずは方向音痴をどうにかせい!
リトルコートやら、とんでもないホームにいるとかどないなんや。
迎えをやる人数すら今は惜しいっちゅうねん!気ぃつけや!」
クラウドのツッコミは流石だよなぁと、思わず感心しちまった。
そして、電車愛もさる事ながらバトルトレーナーのてつどういんの面々は
全員ボス達を凄く尊敬しているってのも流石だと思う。
部下に慕われるってのはそれだけでも、貴重な財産になるからな。
それを二十代の若さで出来るってのは大したもんだよ、マジで。
「サテ、ソロソロ朝礼ノ時間デスネ。ソレデハ 行キマショウカ、。」
「そうですね、それじゃはこれからの接待頼むな。
俺は役職会議の準備をしなきゃならないんで、少し乗車が遅れる。
なんだったら、シングルにも乗車しても良いと思うぞ?」
「その辺は状況を見て臨機応変にさせてもらうよ。
ボス達がどんな答えを出したのか…わかってはいるが、事後報告頼む。」
片手をあげて了解して、俺とシンゲン部長は朝礼に向かった。
ミーティングルームに入れば、総務部長が俺を手招きしているんで
シンゲン部長に手を挙げて別れて、そっちへ向かう。
「お早うございます、総務部長。何か御用ですか?」
「あぁ、おはよう。ボス達が朝礼後に臨時会議をするのは知ってるだろう?
それは恐らく業務の効率化についてで間違いないと思うんだが。
それよりも問題はこっちなんだが、見てくれるかね。」
そう言って総務部長がファイルから書類をいくつか取り出した。
見てみればそれはが書式の統一の為に作ってた草案だ。
「これらの書式全てに箇条書きにされたものを見たんだがね。
この説明を課長は会議でする事は可能かな?」
ちょーっと待ってくれ、ある程度の書式の統一だとかは俺でもわかる。
だが、ここに書かれているような全部署に対応できるような説明なんざ
俺にできるわけないだろう。こういうのはあいつの得意分野で俺じゃない。
「残念ですが、俺では役不足ですね。
恐らく俺が説明するのも、部長が説明するのも同じだと思います。」
つーか、よく短時間でここまで作り上げたもんだ。
これは各部署の意見を取り込んだとしても、統一可能な物になるだろう。
ただし、これはが表に出てやるような仕事じゃない。
部長はあいつを会議に呼んで説明させたいらしいが、駄目に決まってる。
「部長は、何故がここまででやめたかを理解してますか?
これは本来あいつがするべき仕事じゃない。
トップが集まるなら、これらを検討して意見を出し合えばすむ事でしょう。」
「…つくづく君といい、彼女といい、委託業者にしておくのは勿体無いね。
は私達の力で、この書類を完成させたいのだろう?
企業として使用する物を、委託業者が作成するなど筋が通らないからね。
それでも、ここまで煮詰めたんだから感謝するしかないだろう。」
理解するのが早くて助かるってもんだ。
尤も、この書式をみればがやった事なんてバレバレだ。
あいつの書類を、各部署のトップが賛辞するのをよく耳にするからな。
「表立って動く事はしないでしょう。ですが、個人的に…
そうですね、例えばまとめ上げた書式について部長が個人的に聞くのなら
あいつは喜んで意見を言うと思いますよ?」
「ふふっ、そう言う逃げ道も用意してくれているのだからね。
これは早急に決めなくては意味がないものだ。うん、わかったよ。」
部長との話が終わった所でボス達が入ってきて朝礼が始まった。
朝礼自体は特に問題なく終わり、各部署のトップとの会議に入る。
俺は委託業者な事もあるし、総務部長が出席してるから部屋を出る。
インカムでクラウドに接待の無い事を確認してから事務所に戻る。
「、朝礼お疲れー。はダブルの接待中だよ。
後、これが昨日の作業報告書の清書分なんで確認してサインしてね。」
から渡された書類にざっと目を通してからサインをして
黒ボスのデスクの未承認のボックスに書類を入れる。
ホワイトボードで今日の作業予定に追加がないかを確認しながら
コーヒーを一口飲む。
「そだ、ちょっといいかな?今日の会議用の書類なんだけど
ユノーヴァでは先に男子トイレに、オムツ換えスペースを作ったってさ。
そんで、使用状況と利用者の感想とかを纏めた書類があるらしいんだ。」
総合役職会議は午後一でやる事になってる。
今の資料でも十分だとは思うが、実際の声があるのならなによりだろう。
「その書類って借りる事が出来るのか?もしできるなら是否欲しいな。」
「ならそう言うと思ったから、データーベースにアクセスして
すでに書類のコピーを印刷してあるよ。」
「…ちょっと待て、データーベースへのアクセスなんて許可がいるだろう?
その許可だってそう簡単に出来るモンでもないはずじゃないのか?」
受け取った書類に目を通せば、グラフや色分けがされていて見やすい。
ベースに当たる書類も見たが、格段に見やすさが上がっている。
「インゴさんが許可してくれたみたいだよ?
んで、そのかわりに原本の書類を使って、私がそれをどう変えたのかと
どんな風にが使ったのかを教えろって、試されてるよねー。」
「ふん、あいつらなら当然やるだろうさ。
つーか、そう言うのが当たり前でここが別格なんだろうよ。」
確かに徹底した効率重視は企業としては当然だ。
だがそこで働く奴は大抵が歯車になりきっちまうだろう。つまらないよな。
その点ここは良い意味でも悪い意味でもある程度の自由があるからな。
良い意味では、その分企業の為に自分の貢献できる範囲がある。
悪い意味では、自分の力なんて関係なくサボリ放題になるだろう。
「ただ今戻りました。私達の不在中に何か変わった事は?」
新しい資料を使う順に入れ替えていたら黒ボスが戻ってきた。
白ボスはそのままトレインに乗車したらしいな。
「おかえりです、厨房の業務報告書を未処理ボックスに入れてます。
後は、これがダクト洗浄部分をピックアップした書類です。
毎年1回のダクト洗浄を計画して盛り込んでありますので、お願いします。
黒ボス、なんだかとっても機嫌がよさそうですねー。良い事ありました?」
パッと見普段と変わらない様な気がするんだが、目元が笑ってるな。
口下手とか仏頂面とか言ってるが、わかりやすいと思うんだがな。
「えぇ、人手の少ないこの状況なのでみなさんで分担、協力しあって
運営をスムーズにしたいと提案させていただきました。
その結果各部署から、矢継ぎ早に提案や申し出がありました。」
が手渡したコーヒーを一口飲んで、柔らかく笑う。
恐らくは会議の様子を思い出してるんだろう。
「各部署にそれぞれの仕事を任せてみたい部下がいらっしゃるそうです。
最終的な責任は自分がとるから、任せて欲しいと言われました。
誰かが成長する様を見るのは、心躍るものがございますね。」
「ポケモンだけじゃなく、部下の育成もお手の物って感じですか?
厳選されて入社して、各部署に配置されて努力値振り分けをしちゃう。」
「それだけじゃないだろう、愛情持って育てられるんだから
ギアステ愛っていう懐き度だって、すぐに最大になるんじゃないのか?」
俺等の言葉を聞いて、黒ボスがバトルの時と同じ様に目を輝かせる。
「それはスーパーブラボーな発想でございます!
十分に育成された方々が仕事という名のバトルに果敢に挑まれる!
そして、私とクダリは企業トップという名のトレーナーでしょうか。
あぁ、そう考えれば苦手な経営も、もっと頑張れそうでございます!」
お、なんだか意外な所でボス達が経営の意味を理解したみたいだな。
だが、そう例えたほうがこのバトル廃人な上司には理解しやすいんだろう。
言い出したも、驚いて黒ボスを見ていたが
やがて俺と同じ考えが思い浮かんだんだろう、苦笑いをしている。
俺自身、あちこちの地方で仕事をしてきて、沢山の職場を見てきたが
自分達をトレーナーとポケモンに例ええる会社なんざ前代未聞だ。
まぁ、ここは廃人施設と言われているんだからピッタリだと思うぞ?