二章・東奔西走編 -上司と部下の休日出勤-

二章・東奔西走編

上司と部下の休日出勤



休日にも関わらず、何故か執務室の面子が殆ど変わらないってのは

ある意味おかしいという、ツッコミを入れても間違いじゃないだろう。


がボス達と俺に、それぞれの好みに合わせたコーヒーを手渡す。

自分の分はココアか…デスクの引き出しから携帯食の箱を取り出して

一口食べてはココアで流し込んでる。



、何やってるの?ってまさかそれが朝ごはん?!」



「そーですよ?だって今日は売店も一般車両の駅に行かないと

やってないじゃないですか。そこまで行くのは面倒臭いです。」



「貴女と言う人は…つかぬ事をお聞きしますが、昼食は?

まさか同じ様なもので済ますつもりではないでしょうね?」



白ボスが驚いているが、俺にしたらこいつがどんなモンであれ

朝食として食ってる方が珍しいんだがな。

いつもは朝飯抜きもザラじゃ無いんだと言おうとしたが、

黒ボスが例によって絶対零度の眼差しで睨んでるんで止めた。

図星だったと見えて、は黙っちまった。



「…沈黙は肯定とみなします。本当にもっと自分を大切にして下さいまし!

恐らくはそうではないかと思って、弁当をご用意いたしました。

勿論の分もございますので、宜しければ一緒にいかがですか?」



の分も作ってあるけど、今日はこないの?」



「昼飯は適当に食うつもりだったんで、助かります。

えぇ、あいつは経理がメインですからね。

忙しい時は手伝いに引っ張り出しますが、今日はそこまでじゃないんで。

でも、俺たちの分まで用意してくれるなんて…大変でしたでしょう?」



黒ボスはの性格を結構把握してるな。

二人の料理は、その辺のおかしなレストランよりも美味いから楽しみだ。

白ボスが、沢山作ったから余るかもなんて心配しているが、不要だ。

俺があいつの分もしっかり食わせてもらうぞ。


その後少し話をしてから、俺達は自分の仕事場へ向かう。

食堂の厨房に向かい、既に汚れないように養生された場所に行ってから

使い捨ての防護服とシューズカバーをツナギの上から着込む。

はダクト内の洗浄を担当するんで、更にマスクと手袋も着用する。

昨日のうちに、硬い油汚れはスクレイパーを使って取ってあるから

今日はダクト用の洗浄液を使って、更に汚れを落としていく。


俺は、外側のダクトの保温版を外して廃材用の袋に入れてたんだが、

保温の厚みが足りないだけじゃなく、手抜きされたダクトを見ていたら

無性に腹が立ってきても仕方がないだろう。

本来はあるはずのない隙間からの油汚れもあって、外側も汚れている。

新しく保温板を取り付ける時に問題になるから、汚れを落とす。

その後でもう一度表面についた洗浄剤を綺麗に拭き取る。



…あ、いたいた!そろそろお昼になるけど、どうする?」



「お疲れ様でございます。おや、はいらっしゃらないのですか?」



外側の作業が終わった頃に、両ボス達が厨房に入ってきた。

こういう現場を見た事が無いんだろう、物珍しそうにあちこちを見ている。



「俺の方は大体終わりましたが、内側は時間がかかりますね。

どっちみち一度休憩を挟もうと思ってたので、丁度良かったです。

おーい!、飯の時間になるから一旦出て来い。」



中間位の場所で了解と声が聞こえたから、今日中には終わらせられそうだ。

本来なら、業者にきちんと頼めばもっと早いんだろうがな。

だがそれをやると、厨房の休みの間に全作業を終わらせる事が不可能になる

苦肉の策を取ったわけだが、思ったよりも骨が折れるな。



「いやー、油の匂いと洗剤の匂いでクラクラする。

あ、ボス達も来てたんですか?ちょうど良かったかもしんない。

今後の定期的なダクト洗浄を提案します。

汚れが酷いとダクト火災の原因になりますからね。」



換気扇の部分から足が見えて、ゆっくりと降りてきた。

ちょっと待て、これからも業者に依頼しないで自分でやるつもりか?



、私達の部署は何?施設設備保全管理課でしょ?

だったらこの作業も仕事の範囲内なんだからね。文句は受け付けません。

大体毎年1回やれば良いと思うから、そんなに負担にはならないよ。

ボス達は後で書類作って提出しますんで、承認よろしくお願いします。」



「うん、書類をくれれば承認するからオッケー。

でも、すごい大変そうだよね、ホントに休みの間に終わるの?」



俺が言い出す前に釘を刺されちまうし…まぁ、正論だから仕方が無い。



「終わるじゃなくて、終わらせるんですよ。

どっちみち、ダクト保温は明日じゃないと出来ないんで

今日は洗浄だけで作業は終了ですね。本番は明日からって感じです。」



「貴女の仕事に対する情熱はスーパーブラボーでございます!

ですが友人として言わせてもらいます、お身体だけは御自愛下さいまし。」



色々と話をしながら執務室に戻れば、すでに飯の用意が出来ていた。

これはじゃないが、嫁なんて必要ないんじゃないか?

口に出して黒ボスの小言を聞くのは勘弁なんで、黙っておく。



「うわーい、どれも凄く美味しそうです!ホントボス達家事力高すぎ!

もうアレですね、二人でいれば嫁なんて必要ないですね。」



あー、お前はどうしてそうやって言わないと気が済まないんだ?

黒ボスの笑顔がすげー怖いだろう!



「とても返答に困りますが、嫁は欲しいので黙りやがれでございます!」



「ボクだって結婚したい!そんな事言うにはご飯あげないよ?」



「ぎゃー!ゴメンナサイゴメンナサイ。こんなご馳走お預けとか放置プレイ?

それは無理無理、絶対に我慢できないんで勘弁して下さい。」



全員でそれぞれ取り皿に好きな物を取り、昼飯を食べ始める。

それにしても、これだけの品数と量をよく作ったな。



「あ、このサーモンは照り焼きですね。タレの焦げてる所うまー!

スパニッシュオムレツとかレベル高すぎでしょう。」



「照り焼きは、のレシピを私が少々自分の好みに変えてみました。

スパニッシュオムレツは、クダリの得意料理でございます。」



「うん、ボク卵料理が好き!だから自分で作るのも多くなる。

でも、がよく食べるのは知ってたけど、も結構食べるんだね。」



そっか、こいつらは食えない状態のしか知らないんだったな。

普通の同年齢の同性に比べれば元々こいつはかなり食うんだ。



「お二人の料理が美味しすぎて手が止まりません!

ポテトのベーコン巻きも美味しい!お豆のサラダもドレッシングが凄い!」



「そんなに慌てなくても沢山ありますのでゆっくり食べて下さいまし。

ホラ、ドレッシングがついておりますよ。」



黒ボスがティッシュでの頬を拭いてやるとか…

知らない人が見たら、バカップルにも見えそうだが、どっちかって言うと

母親が小さい子供の面倒をみてる光景の方が正しいだろうな。


両ボスの心配もどこへやら、用意された弁当は綺麗さっぱり無くなった。

がいなくて良かったと苦笑いしてるボス達を部屋に残して

俺達は作業を再開していく。


が再びダクトに潜り込んで洗浄している間に、俺はダクトの補強…

いや、手抜きされた部分の手直しをする。

ダクトクリップを取り付けてから、コーナーピースを順次取り付けて

それが全部終わった後、ダクトの表面にダクトピンを貼り付ける。

全部の作業が終わった時に、中の洗浄も終わった様でが出てきた。



、ダクトピン付けまで終わったんだ。

いやー、どうしようね。ホントなら午前中にここまで終わる予定だったのに

これだと、明日まで何もできないよね。」



ダクトピンをしっかり固定させるのには一晩置かないとならないから

これ以上、今できる仕事が無くなっちまった。

スケジュール的にはキツくなるが、半端な仕事をするよりはマシだろう。



「予定変更してもいい?明日の朝一でダクトの保温に取り掛かる。

量的にはそれ程じゃないから、午前中には終わらせられると思う。

その後で天井と壁のボードの貼り付けなんだけど、夕方までに終わる?」



「仕込みに厨房スタッフが来る迄には、ギリギリだが大丈夫だ。

どっちみち、これ以上ここにいても出来る事も無いし帰るぞ。」



「ラジャー、んじゃゴミ投げて(捨てて)来るから

は先に着替えて待ってて。どーせ、うちに泊まるでしょ?」



そう言うとは厨房を出て行ったんで、俺も出る。

ロッカーで着替えてから、事務室に戻ればボス達がまだ残っていた。



「あれ、着替えてどーしたの?晩御飯食べに出るの?」



「いえ、予定がちょっと変更になって今日はもう出来ないんで帰ります。

ボス達はまだ仕事をしてるんですか?」



「大体の書類の把握は終わりましたので、私達もそろそろ帰ります。」



ボス達のデスクを見れば未処理の書類に色分けされた付箋がついている。

恐らく休み明けにトップを呼んで話す為の目印なんだろう。

正直二人共バトル以外のこういう企業運営もするんだから大変だよな。

だが、トップにたってる以上は両立させてもらわないと困る。

才能は十分にあるんだから、後は経験と視野を広げる事が課題だな。



「ボス達、今更聞くのもなんですけど

この未処理の書類に関して上層部と掛け合うつもりでいるんですよね?」



「えぇ、私達が把握しておかねば、話が進みませんでしょう?」



「うん、お願いするんだからこの位しないと駄目。」



「…ですが、元々この書類はその各部署が提出したものでしょう?

それであれば、部門長が把握してないわけないんだから

仕事の分担をお願いすれば、これらの事は彼等の口から出てきませんか?」



俺の言った言葉にボス達は目を見開いたと同時に机に突っ伏した。

そりゃそうだ、休出をしてまでする必要が無いってわかったんだからな。

着替えてきたがこの状況に驚いてたが、説明したら納得したらしい。

人が悪いって言うけど、自分で気がつかなきゃ意味が無いだろう。



「ノボリ…ボクのHPは完全に真っ赤になったかもしんない。」



「クダリ…私も瀕死状態で戦闘不能にございます。」



「ボス達…うん、お疲れ様?もう今日は帰った方が良いですよ。

そだ、お弁当のお礼に晩御飯をご馳走しますよ。元気出して下さい。

明日はお休みでしょ?が隠してる大吟醸もつけますよ?」



瀕死状態のボス達にかける言葉は優しいが、顔がニヤけてるぞ?

俺が気がつく前に、お前だって気がついてたと思うんだがな。

黙ってるよりは、今の状況であっても教える俺の方が優しいだろう。


まぁ、良い仕事つーか、勉強にはなったんじゃないか?

自棄酒するって言うんだったら、俺もとことん付き合ってやるよ。